|
第10回:LP座談会(第1回・前編)−60年代和ジャズの魅力を熱く語る−
今回のコラムは第5回目のシリーズ(2008年4月23日発売)でリリースされる1960年代の和ジャズの3作品、「北村英治のすべて」、「小野満とオールスター・ジャムセッション/ファンキー・ジャム・セッション」、「秋吉敏子/トシコの子守歌」に、美空ひばりの傑作「ひばりとシャープ」を題材に座談会を行いました。メンバーに岩浪氏(ジャズ評論家の大御所で元スイングジャーナル編集長)、塙氏(新宿ユニオンジャズ館店長にして和ジャズブームのしかけ人!?)、三谷氏(コロムビアLPファクトリー・チーフスタッフ)、菰口氏(コロムビアジャズ部門チーフディレクター)を招集。余りにも濃い座談会となったため、前編と後編に分けてお送りいたします。まずは前編、当時の時代背景やジャズへのパッションを少しでも感じていただければ幸いです。

☆和ジャズ・ブームと「トシコの子守歌」
K(菰口):実はこの「トシコの子守歌」、昨年CD化したんですが、それが25年ぶりの再発だったんですよ。
その間LPも出していませんでした。
H(塙):オリジナル盤はかなり貴重で、通常でも6〜8万くらいの値がつくんですが、年末に帯つきでかなりきれいな状態のものが入りまして、それは12万6千円で出してその日に売れましたね。
一同:その日に!
I(岩浪):今、日本のジャズって、注目度が高いですよね。
ジャズとかポップスとかちょっとジャズっぽいものを歌った流行歌手とかが見直されてきている。
M(三谷):何がきっかけなんでしょうかね?
私なんかはもしかしたら塙さんが仕かけていらっしゃるんじゃないかと勘ぐってるんですが・・・
H:いや、そんな大それた事ではないんですが、私はレコードを売るのが仕事なので、ちょうどそういうものを聴く機会が多かったんですね。聴いてみたら内容がいいものが結構あって、それが全然流通していない。
これは一般ユーザーの方は聴く機会が無いなと、聴けるようにしていきたいなと。そういうシンプルな感じから始めましたね。
メーカー各社に問い合わせたら皆さん協力的で、2005年くらいから40〜50タイトル程手がけさせてもらっています。
I:今、1950年代の後半から60年代が注目されてるよね。それより新しいと逆に新鮮さにかける。
で、僕らみたいな世代ではなく今の若い人が買っているからブームになっているんだよね。
M:またその時代っていうのが日本ジャズに活気があったというか、これからやるぞっていう時期でもあったようにも思いますね。
I:そうですね。1950年代の中ごろから後半くらいに、コンサートブームというのがありました。でっかい国際劇場とかで。
で、ドラム合戦があったりして、まずドラマーがスターになった時代だよね。ジョージ川口とか、白木秀雄、フランキー堺、ジミー竹内・・・
この時代の魅力ってミュージシャンが芸術家っていうよりは芸能人だったんだよね。テレビや映画なんかでも映画俳優と同じくらい頻繁に出ていたんです。
石原裕次郎の「嵐を呼ぶ男」なんて、白木秀雄とジョージ川口がお手伝いして彼が叩いたんだよね。
だから、当時のミュージシャンはファッションでも何でもかっこいいんですよ。若者たちのアイドルにもなっていたしね。
今のミュージシャンは音楽的にはアメリカに肩並べてすごい人もいるけど、芸能人としての側面がないから、華やかさが無い。芸能人的な人は渡辺貞夫、北村英治、日野皓正くらいで。
今、若い人が関心を示しているのは、そういう昔のジャズメンたちのかっこよさもあると思うんだよね。
H:ちょうどファンキーブームがあって日本人もハードバップのような演奏をしているというのがいいですよね。
その辺が今の若い人、例えばDJとかが注目し始めて海外からも「白木秀雄はないのか」なんていう状況になっている。
M:同じように海外で評価の高い秋吉さんですが、デビューはいつ頃ですかね?
I:確か1953年にJAPP(オスカー・ピーターソン、ノーマン・グランツ)が来日した時だったかな。
その年の9月に日本で初めてのジャズ・ライブハウス“テネシー”が銀座に出来て、秋吉さんはそこで昼間演奏していたんですよ。
たまたま来ていたピーターソンが彼女をいたく気に入って、ノーマン・グランツに推薦した。
グランツは「お前が推薦するんだったら俺は聴かなくてもいい。レコーディングしよう」ということになり、TBSのスタジオでVerveの10インチ盤録って、あれが秋吉さんのデビューですね。
これがきっかけでバークリーにいったんだよね。なのでこのLP「トシコの子守歌」は確か2度目の帰国の際に手がけたものですよ。
H:40年以上たっていますけど全然色あせないですよね。ものすごく洗練されている。
特に6曲目の「ロシアの子供の行進」は素晴しいですね。編曲のうまさというか・・・
I:秋吉さんはバークリーでアレンジの才能を身に付けたので、この曲などはうまくそれが出てますよね。
普通ジャズでは取り上げないような曲でね。選曲もさすがだし、アレンジも含めたジャズ化が素晴しいですよ。
メンバーの原田寛治は秋吉さんが日本にいるころからずっと一緒にやってたドラマーで、荒川康男はこの時代では新しく出てきたベーシストでウェストライナーズとかと一緒にやってた人ですね。
このジャケットがまたよくてこの二人は秋吉さんと娘さんのマンディ満ちるさんですよ。
ジャズ・フォトグラファーの草分けといわれる阿部克自が撮ったんです。阿部さんのこういう構図の作品って結構多いんですよ。
秋吉さんはその頃マンディを目に入れても痛くないくらいかわいがっていて、このアルバムは、マンディに聴かせる子守歌という意味もある。
「鞠と殿様」なんて今でも秋吉さんのレパートリーになっているしね。
そしてこのアルバムを吹き込むように提案したのが野口久光さんですよ。
★
☆ジャズの時代を象徴した、横浜のジャズ喫茶「ちぐさ」
M:私、この「トシコの子守歌」を一番最初に見たのが横浜のジャズ喫茶「ちぐさ」さんだったんですよ。
I:ああ、そうなんですか。
昔、ジャズメンは横浜だと「ちぐさ」によってから仕事にいったんですよ。
当時、LPが3,000円とか3,200円したからね。ミュージシャンでもなかなか買えないわけですよ。
M:秋吉さんがそこでいつもバド・パウエルのピアノを聴いていたっていう話ですよ。
I:ジャズ喫茶は当時タバコの煙で店内中もうもうとしてて、ジャケットを店内に飾るととベトベトになっちゃってた。
M:そう、「ちぐさ」の親父さんはもう大事に扱っているからジャケットは別の所にしまってあって、手袋して出して見せてくれていたんです。
H:あと、ジャケットがあるところでもビニールに入れてたりとか、ありましたね。
★
☆世界で評価される秋吉敏子
I:アメリカのジャズマスターズで日本人が殿堂入りしているのは、いまのところ秋吉さんだけで、アメリカ人以外ってほとんどいないんですよ。
デュークエリントンが亡くなって何周年かの時、モントレージャズ祭で彼のトリビュート・コンサートがあったとき、エリントンの作品を委嘱されたのは秋吉さんですよ。アメリカ人を差し置いてね。
M:すごいですねそれは、もっと評価されないとね。
H:おそらく日本より海外のほうが評価高いですよ。
I:ちなみに秋吉さんへのファンレター第1号は僕なんですよ(笑)
渡辺貞夫が19歳でトシコのコンボに入ったとき秋吉さんから紹介されたのを今でもよく憶えています。「こんどあたらしい人が入ったのよ。まだ19歳よ」って。
このアルバムはトシコのピアノトリオだから人気があるんだよね。
これがビッグバンドだと賞とかとって評論家の評価はいいんだけれどプレミアはそれほどつかないんじゃないかな。
ピアノトリオの魅力にジャズファンは惹かれるからね。
H:新譜録音ばっかり追っかけている人でもピアノトリオが多いですよ
K:日本は海外に比べてピアノトリオ人気が特に強いですからね。
I:そういったいい時代の録音でピアノトリオということでこの盤は価値高いですよ。再発はうれしいですね。
★
☆ファンキージャムセッション
I:1960年代ってものすごくジャムセッションが流行った時代なんですよ。
レコードはもちろんなんですけど、実際にライブでもね。
例えば、ビデオホールって言うのがあって、ジミー荒木などもよくジャムセッションをやっていたんですよ。
M:コロムビアの資料で確認すると「ファンキージャムセッション」は、「北村英治のすべて」と同じ日(1960年7月5日、産経ホール)のコンサートだったみたいなんですよ。
小野満(b)、世良譲(p)、白木秀雄(ds)の3人が全曲出演、渡辺貞夫(as)、松本英彦(ts)、福原彰(tp)が「ドキシー」「リズマニング」「ナウズ・ザ・タイム」「チュニジアの夜」に参加、北村英治(cl)が「チュニジアの夜」に参加しています。
K:今年の1月に亡くなった小野さんはこの頃スイングジャーナルのファン投票でもベースのダントツのトップですよね。

当時の小野満 |
I:そうですね。このメンバー見ると当時のリーダー格が勢ぞろいですよ。
小野満、松本英彦、白木秀雄、渡辺貞夫・・・。世良譲は当時の白木秀雄クインテッドのピアニストで、晩年はスウィングのイメージが強いけれど、当時は両手を広げてホレス・シルバーそっくりの弾き方でモダンだったな。
ここに入っていても全然おかしくないメンバーですね。
H:白木秀雄さんと渡辺貞夫さんはレコードではあまり共演していないんですよ。
だからマニア的視点でいうとかなりの聴きどころですね。
プレミア的な話で言うと、このオリジナルは本当に珍しくてほとんど出回りません。
恐らく結構キレイ目な盤が入ったら最低でも20万は値が付くと思いますね。
一同:20万!はっはー、すごいですね。(笑)
H:渡辺貞夫さんって熱狂的なファンが多くて、かなりのコレクターの方もいらっしゃるんですが、これだけはもっていないっていう人が多いんですよ。CD化もされていないですしね。
(後編に続く)
★
後編は、若き日の渡辺貞夫の話から始まり、「北村英治のすべて」「ひばりとシャープ」の裏話など、ますます貴重な話が展開していきます。次回、4月更新予定です。ご期待ください!

座談会出席者
 |
岩浪 洋三(いわなみ ようぞう)
1933年松山市生まれ
ジャズ評論家
元スイングジャーナル編集長
東京芸術大学や桐朋学園大学でジャズの講師を歴任
|
 |
塙 耕記(はなわ こうき)
1972年水戸市生まれ。
(株)ディスクユニオン勤務 THINK! RECORDSディレクター
ディスクユニオン新宿ジャズ館の店長、THINK! RECORDSのディレクターという二足の草鞋をはく。自身が監修する「昭和ジャズ復刻シリーズ」はすでに50タイトルを超える大型シリーズとなり、ジャズ業界に一石を投じた。
|
三谷 順一
コロムビアME LPファクトリー・チーフスタッフ |
菰口 賢一
コロムビアME ジャズ部門ディレクター |

 |
2008.04/23発売
小野満とオールスター・ジャムセッション
ファンキー・ジャム・セッション
COJY-9256 ¥3,990(税込) 
伝説のベース奏者、小野満の1960年のリサイタルを祝った貴重なオールスターメンバーによるジャムセッション。
伝説の白木秀雄や松本英彦も参加。オリジナル・ジャケット・デザイン、激レア盤。
★収録曲目、パーソネル・データはこちら> |

 |
2008.04/23発売
秋吉敏子(トシコ・マリアーノ&ハー・トリオ)
トシコの子守歌
COJY-9257 ¥3,990(税込) 
アメリカで日本人初の殿堂入りを果たした若き日の秋吉敏子の超名盤。
有名な「毬と殿様」も収録されている。オリジナル・ジャケット・デザインにて復刻。
★収録曲目、パーソネル・データはこちら> |
|