アメリカのクラシック系インディペンデント・レーベルの名門ヴァンガード・クラシックスは、シーモアとメイナードのソロモン兄弟によって、戦後1950年に創設されました。
　第二次世界大戦直後から高価なドルをたずさえて、戦禍で疲弊したヨーロッパに才能あるアーティストを求め、アメリカのレコード会社は次々に進出してゆきます。ウェストミンスターと、作曲家メンデルスゾーンの子孫が経営するVOXはその代表格。ヴァンガードもそれに続き、数々の歴史的名盤を世に送り出してきました。
　そのため、これら3レーベルに共通している点は、アメリカのレコード会社であるにもかかわらず、レコーディングされたアーティストは、音楽の都ウィーンを中心に活躍した人々が、かなりの割合を占めているということ。ヴァンガードのオーケストラ録音が、ユタ交響楽団とともに、ウィーン国立歌劇場管弦楽団と、ザグレブ室内合奏団によって行なわれている理由は、そういうレーベルの歴史があるためです。

　ライヴ録音されたピエール・モントゥーのような巨匠の他にも、実力派の指揮者やソリストが数多くの録音を残しました。そのカタログは、新しいロゴマークの中に記されているように、まさにRecordings for the Connoisseur(＝通、玄人)に彩られています。

指揮者	レオポルド・ストコフスキー、エイドリアン・ボールト、チャールズ・マッケラス、モーリス・アブラヴァネル、モーエンス・ヴェルディケ(ハイドンのスペシャリスト)、ヨハネス・ソマリー(合唱指揮の名人)
ピアノ	アルフレート・ブレンデル、リリー・クラウス、ジャンヌ＝マリー・ダルレ、アール・ワイルド、ユージン・リスト、ミエチスラフ・ホルショフスキー、パーシー・グレインジャー、ピーター・ゼルキン
弦	ヨゼフ・シゲティ、ミッシャ・エルマン、アレクサンダー・シュナイダー、アントニオ・ヤニグロ
管・声楽、他	グスタフ・レオンハルト(チェンバロ)、ジュリアス・ベイカー(フルート)、ヘルムート・ヴォービッシュ(ウィーン・フィルのトランペット奏者)、ネタニア・ダヴラツ(ソプラノ)、エーリヒ・クンツ(バス・バリトン)、アルフレッド・デラー(カウンター・テナー)

　創設者の死去の後、ヴァンガード・レーベルの原盤権が、オメガ・グループからアルテミス・レコードに移りました。アメリカでも新たなロゴを冠し、新生ヴァンガード・クラシックとして2003年よりリリースが始まっていますが、作曲家毎にまとめた２枚組のコンピレーションが多く、ジャケット・デザインも文字のみと、廉価ではあるものの、往事を知る日本のファンにとってはややさびしい体裁となっています。

　当社では今回国内盤をリリースするにあたり、基本的に旧オメガ時代のオリジナルのカップリング、体裁に戻しています。また、解説も1点を除き、シドニー・フィンケルスタイン等が執筆したオリジナル・テキストからの翻訳を使用。貴重なプロデューサー・ノートやテクニカル・インフォメーションも省略せずに掲載しました。また、声楽作品である「オーヴェルニュの歌」は歌詞・対訳付き。録音年代の新旧にかかわらず定評のあった良心的な音作りももちろんそのままパッケージされています。