監修:小西康陽 / 解説:濱田高志 / オリジナル復刻紙ジャケット仕様 / 各2,100円(税込)

■国産ポピュラー音楽の世界へようこそ。

或る日突然、東京から電報は届いた。
『コロムビア*レディメイドのコロムビア100年。』
冒頭に付されたシリーズの通しタイトルは希望の風を伴って脳裡を駆け抜けた。

レディメイドで旧音源の復刻といえば、
『GOOD NIGHT TOKYO』『MIDNIGHT TOKYO』だった。
これまでは。
あの空山基のイラスト・ジャケットに酔い、
精選された秘宝の如き音楽群に心を射抜かれた若者たちは、
無事、大人になることが出来たのだろうか。

此度、オリジナル仕様のまま精巧に復刻された9枚の見開きジャケットは、
あたかも「あの時」より新鮮で深遠、
優雅で奔放で猥雑なる国産ポピュラー音楽の世界へと通じるドア。
そのドアを開けて、もう一度逃げ出してみませんか。
大人なら。

前園直樹 MAEZONO naoki (LOVE SHOP)


■「コロムビア*レディメイドのコロムビア100年。」 ラインナップあれこれ

2010年に創立100周年を迎えるコロムビアミュージックエンタテインメントの膨大なカタログのなかから、小西康陽による独自の審美眼によってセレクトされたのが本シリーズ『コロムビア*レディメイドのコロムビア100年。』だ。そして、その第一弾のラインナップが、ここに紹介する9タイトル。大半が初CD化となり、ジャズ・ロックの範疇に位置する作品が揃う。いずれも好事家の注目を集める作品で、なかにはある時期を境に極端に入手が困難になったタイトルも含まれている。10年前では到底実現し得なかった再発だが、これも全て近年の和モノ レア・グルーヴといった動きに呼応したものだろう。作品によって出来不出来はあるものの、時代の空気を捉えた歴史的記録として、また、紙ジャケット仕様でのストレート・リイシューという点からも、貴重で意義深い再発企画といえる。本稿では、それら9タイトルについて、順に簡単な作品概要を書き留めておきたい。

『ソウル・アンド・ロック』(69年)は、石川晶(ds)が辣腕ミュージシャンを集めて結成したカウント・バッファロー(ズ)の最初の録音で、プロデュースはデノン・レーベルの創設スタッフ谷川恰。ちなみに、後述する『七色のしあわせ』、『ニュー・ヤング・コーラス』も彼の手によるもの。本作では、寺川正興(b)、鈴木宏昌(p)、杉本喜代志(elg)、村岡健(sax)といった鉄壁の布陣に加えて、佐藤允彦が作・編曲で参加している点も見逃せない。続く『決定盤! これぞジャズ・ロック』(68年)も『ソウル・アンド・ロック』同様、実力派がこぞって参加した作品。前田憲男=稲垣次郎オール・スターズの演奏は、タイトル通り、ジャズ・ロックの決定盤だ。日本を代表する名アレンジャー前田のアレンジが冴えた一枚である。そして、作曲家の村井邦彦が、自身のセッションで積極的に起用したピアニスト飯吉馨が率いるザ・ウィップの『ソウル・トリッパー』(68年)は、彼の数少ないリーダー作で、プレイヤーとしてだけでなく、作編曲家としての資質が横溢した意欲作。赤い鳥やガロの諸作で奏でられた瑞々しいピアノ・タッチは、同作収録の「花はどこへいった」の演奏に顕著に表れており、アルバム全編を通して初期アルファ・サウンドを彩ったあの繊細な音色が楽しめる。

『ヒット・アンド・ヒット・イン・ボサノバ』(68年)は沢田駿吾=村岡健オールスターズによる歌謡ヒットのカヴァー集。今も演奏会における「聖者の行進」などで得意のマレットさばきを見せる前田憲男のヴァイヴ、東京キューバンボーイズを経て、シャープス・アンド・フラッツやニューハードで活躍したベテラン鈴木弘のトロンボーンが華を添える。一方、『サウンド・ポエジー・サチオ』(69年)は、作編曲家にしてピアニストの三保敬太郎が、不慮の事故で急逝したレーサー兼ファッションモデルの畏友、福澤幸雄への手向けに録音した作品。生前の福澤の肉声を含め、まさに時代の空気が封じこめられた企画盤で、これが二度目のCD化となる。

そして、本シリーズ中、異色なのが、ソウル・シンガー、サンドラ・アレキサンドラが、川口真や浜口庫之助、筒美京平、中村八大ら当時の歌謡界を代表するヒットメーカー12人の楽曲をハスキー・ヴォイスで歌った日本独自企画盤『サンドラと12人の侍たち』(70年)。これは彼女にとって『Warm & Wild』(68年)、『The Intimate Side of Sandra Alexandra』(69年)に続くおそらく三枚目のアルバムだ。同様にヒット歌謡のカヴァー集として制作されたのが、日本ではフォーリーブスの4枚目のシングル「シャボンの匂いの女の子/朝日がのぼると」の作者としても知られるビリー・ボーン楽団のピアニスト、ミルト・ロジャースが手掛けた『七色のしあわせ』(69年)。洒脱なアレンジと軽快な演奏に和むこと請け合いである。

さて、職業作曲家の仕事に目を転じると、セルフ・プロデュースの才に長けたいずみたくの作品集が抜群の仕上がり。終生に渡って日本のスタンダードソングの必要性とこだわりを標榜、自らそれを実践した彼は、自作をギターやピアノ、混声合唱、オーケストラといった様々な手法で度々再編、その都度、レコード会社各社から自身の名を冠した作品集として発売しており、『70のニュー・サウンド〜いずみたく作品集〜』(70年)もそのひとつに数えられる。これは翌年に全曲を書き下ろした由紀さおりのアルバム『23歳/由紀さおり・愛のうた』(71年)と並び、彼の洋楽志向が色濃く反映された作品である。

そして、最後に紹介するのが、日本のシャンソン歌手の草分け、深緑夏代の門下生によって結成された7人組のコーラス・グループ、ジュヌ・エトワールが、吉村英世クインテットとシャルル・オンブル楽団の伴奏を得て録音した『ニュー・ヤング・コーラス』(68年)。スウィングル・シンガーズを意識したスキャット・コーラスを響かせる貴重なグループで、アルバム全編を通じて、良くも悪くもほのかに和の香りが漂うのが特徴だ。この微妙な匙加減が好みの分かれるところだろう。

以上、駆け足での紹介となったが、いずれも今の耳で聴くことで新たな発見のある作品ばかり。本シリーズ、続く第二弾、第三弾のラインアップも大いに期待したい。

濱田高志 HAMADA takayuki