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[作品が内包するドラマを浮き彫りに、音楽で世界を旅する感覚を抱かせる想像力を喚起するピアニズム]
樋口あゆ子はこれまでさまざまな社会活動に積極的に参加し、音楽を通して自身ができる限りのことを行ってきた開かれた目を持つピアニストです。
そんな彼女が数年前から演奏にかけ、磨き上げてきたラフマニノフとガーシュウィンでひとつのアルバムを作り上げました。これは通して聴くと一夜のリサイタルのようで、起承転結の趣を備えています。全体が大きな流れを持ち、全体を俯瞰すると世界を旅するような感覚も抱かせます。
まず、ロシアの地から旅は始まりロシア・ピアニズムをたっぷりと堪能、そしてラフマニノフとともにアメリカへと出向きます。展開部はガーシュウィンとなり、ニューヨークの都会のジャジーな音楽に浸り、最後はアジアの地に降り立ちます。ベトナムの音楽は結びの意味合いを持ち、メインプログラムを終えたアンコールのようなかろやかな味わいも見せますが、これを編曲したのは日本を代表する作曲家のひとり安良岡章夫氏。まさに世界各地の空気を樋口あゆ子のピアノが運んでくる感じを受けます。
しかし、この音楽の旅は決してかろやかで楽しいだけのものではなく、各々の土地の歴史、伝統、文化、人々の気質までをも映し出す洞察力に富むものとなっています。それは深々とした打鍵、細部まで神経を張り巡らした解釈、作曲家の魂にひたすら寄り添うことを願う強い気持ちが、演奏を思慮深いものにしているからにほかなりません。作品の時代背景、作曲家の思いを映し出す演奏は、聴き手の想像力を喚起し、知的好奇心を刺激します。樋口あゆ子のピアノは、作品の内奥へと自然な形で聴き手をいざなうからです。
ここにはひとりのピアニストの足跡が凝縮し、さらに未来に向けて新たな道が広がっているようです。これまで愛奏してきた作品と世界初録音のベトナム民謡。この選曲が奏者の個性を表し、音楽で人々を救おうとする思いにつながり、前向きな精神を宿しています。
音楽評論家・伊熊よし子 |
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