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この曲のピアノアレンジは10年以上前に初台Doorsの自主企画ライブで弾き語りしたものを今でも続けています。
当時はアレンジの全部を音符で書いていました。このレコーディングは、タカギクラヴィアでピアノを録り、その後スケジュールの関係で福井の大学時代のギターの先生が経営していらっしゃるスタジオで歌を録音することになりました。
担当横田さん、ソニー時代のディレクターさん、エンジニアの井澤さんに東京から来てもらったのですが、声の調子が悪く、又、録音してあるピアノのテンポが弾き語りにしては早すぎて、最初からやり直すことになりました。でも福井では、このアルバム全体の方向性(特に歌)を決めることができました。ちなみに猛暑で、中一日休みの時に横田さんとエンジニアさんが越前海岸に行きました。
レコーディングのほぼ全日が雨だったのですが、福井レコーディングだけは晴れていました。
実を言うとストレス気味だったので元ソニーディレクターと私も海に行きました。
やきそばパン
練習ももう最後で、左手小指が関節炎気味になってきました。
フィッシュとやきそばパンの林さんのアレンジを確実にやりたいと思っていましたが時間が差し迫っており、林さんと相談してグルーヴを重視するため細かい部分を少し間引いて自分の弾きやすいようにしました。
テンポキープに関しても相談してテンポフリーでやることに決めました。
全曲中テンポフリーはやきそばパンだけです。
セブンスのコードが多く、ロックな曲なのでテンポを気にせずやるのがかっこよくなるのではと思いました。このレコーディングで最大に可笑しかったのが、やきそばパンの歌入れ時に、元ディレクターさんに喋るかんじでやってと言われ、ニュアンスがわからないので歌ってみてよと言ったら
「ボブディランの感じで」と返され、
「じゃあボブディランでやってみてよ」と言ったら、キレてスタジオから出て行く喧嘩になったことです。
横田さんはおろおろしていました。
うちらって20年ずっと変わってないね…と苦笑しながら帰りました。
2週間後、ボブディランがノーベル賞を受賞しました。
ドーナッツのリング
ピアノのアレンジを1番最初に林さんに頼んだ曲。担当横田さんとどうなるのかしら?と、まだ全然見えてない時期で、林さんがいちど弾いてみますねと言って聴いた時、私たち2人は「ゴスペルだ!」と感動したことを思い出します。思い返せば2015年の冬ごろからこの企画の話を始め、横田さんと私は奇跡的な流れで1つのアルバムを作りあげました。
途中でこの企画がなくなってもおかしくないくらいに連絡が途絶えてたこともありました。アイディアが浮かんだら提案してみることが4月までちょいちょいあり、その関係性はだんだん温まって少しずつ出来上がっていきました。そこには待っていてくれる人がいる、という底知れぬパワーが動かしてくれているような気がしていました。
この曲も原曲と弾き語りの違いのようなところで試行錯誤したのですが、タイムマシーンと同様で途中で新たな歌い方を発掘できました。
佐内正史さんと撮影で両国門天ホールと茨城の海岸に行きました。
車で喋りまくっていたら、高速の出口を間違って、夕日が暮れてしまいました。
暮れた後の静かな空と海が混ざり合って
ずっとそこにいたいような気持ちになりました。
門天ホールも暖かい木の作りで、
外からの日差しがはいってきて、
このアルバムの当初のアイディア、海外の森で弾くようなアルバムにしたいという企画に帰った気がしました。
衣装はkanataの服。この頃は外は寒くなっていました。
gradation
この曲は原曲がダンスチューンなので、ピアノでアレンジができるのかなとかなり冒険でした。
ずっとお仕事が一緒にできたらと思っていた林正樹さんに連絡をして、2016年の4月ごろから都立大学のピアノスタジオに入り、アレンジをして頂きました。
ゴロニャンずのアルバム発売があり、他曲のレコーディング、ライブイベントなどが次々とあったので実際は8月ごろからこの曲の練習を始めました。アレンジはすんなり決まり、ソウルで軽快で原曲のイメージがさらに表現されているものになりました。この曲がやりたくて毎日嬉しい気分でした。レコーディングは思いの外すんなりできました。ただ指がどんどん痛くなってきていました。
といっても1日も休まずやっていたわけではなくて、次の録音までの10日間のうち3日間くらいはぼんやりしたり、友人と会ったりしました。月3回ほどの地方と東京の往復移動は途中でかなりしんどくなって、特に体調が悪い時は焦ってイライラして人に当たったりしてました。
レコーディングが終わると夕方7時位なのですが、渋谷の中華店や目黒のTo The Herbsに行って少しお酒を嗜みつつご飯を食べて帰りました。
OCTOPUS THEATER
松濤のタカギクラヴィアは渋谷東急本店から近く、スタジオから坂を下るとH&Mがあり賑やかでした。いつも昼過ぎにスタジオに行くと、横田さんがお菓子を用意していてくれて、疲れて休憩の時には隣のタカギクラヴィアの喫茶店から熱いフルーツティーを出してくれました。
オクトバスシアターは、最初の頃のレコーディングでクリックを使わずに練習していたので、いざ録音となった時にぴっぴっぴっ…のクリックに全然合わせられませんでした。言うならば手帳の点線の間に文字が収まらないタイプ。1時間位合わせる練習を録音しながらやって、ようやくできてきました。
曲のアレンジは葛岡みっちゃんで、彼女とはライブやレコーディングを何度も一緒にやったことがあったので、暗黙の了解でアレンジが出来上がってきました。森の朝のような静寂さと、女の子らしい歌詞を魅力的にしています。
アイラブユー
レコーディングの一番初めに演奏した。
今までライブでよくやってきたのでスムースに録音できた。思い返してみると、コンスタントに弾き語りをやってきたことが今回のレコーディングで役に立っていて、自然にできていた。タカギクラヴィアがどんなところか知らなかったので、前日は緊張していたのだけど、行ってみたら落ち着いてできる空間で、スタインウェイは初めて触れるピアノなのにしっとりと寄り添ってくれている感じがした。こんなきれいな音が出せるって幸せだなと惚れ惚れしていた。ピアノだけのアレンジでいく予定がストリングスを入れてみたらということになっていった。アレンジが知り合いの沢田穣治さんだと聞いて、なんだか面白い気持ちになった。予想していたものよりとても気持ちの良いものに仕上がっていった。海外の宮殿の部屋から木立が見えるような。
fish
林さんのピアノアレンジを聴いて、この曲弾けるんだ!と嬉しくなった。
8月からレコーディングが始まって、1曲録って、次の曲を練習して10日後に次のレコーディング、と言うのが3ヶ月続いた。だんだんレコーディングの要領も良くなり、靴を脱ぐことや指輪を取ること、高音の出し方や、フォルテは思ってるより大胆に音を出したほうが聴いた時に気持ちよいことなど解ってきた。レコーディング自体はスムースになってきたが、指が練習で痛くなってきた。
小指と親指にテーピング。
フィッシュのピアノアレンジはアドリブが多く、難しくてどれだけ頑張っても同じに弾くことが無理だった。
それでもどうしても林さんの弾いたものをやりたくて毎日苦戦したのだけれど、時間的にも無理だと判断して先生に相談。
ダイナミックなリズムを繰り返すフレーズに変えて頂いた。ストリングスのアレンジも入り、より地球を感じられるようなグルーブのものになった。
タイムマシーン
ピアノはタカギクラヴィア。雨。
しっとりとした雰囲気の中でレコーディングをした。
ボーカルは福井でのレコーディングの予定だったが、歌ってみたら弾き語りにするにはキーが1番良いポジションでなく、やり直し。テンポも早すぎた。ハキハキした発音をやめ、主人公の気持ちと情景が伝わることに集中。このピアノアレンジは10年前あたりからあり、ただ、あまり演奏した事はなかった。当時のソニーのディレクターさんと今回のディレクターさんの2人が今回のアルバムに参加していることで的確な指示を受けた。もっと高音部分をソフトにと何度か言われ、最初はどうしてよいか分からなかったが、ある時ラジオで、ある女性ボーカリストの歌を聞いて何かつかめて、それから歌はスムースに録れるようになった。ピアノの録り直しと他曲の録音の関係で、歌は何回か試せるチャンスがあり、よかった。
愛の才能
葛岡みっちゃんからのアレンジは最初、全体がアップテンポなものであった。横田さんのアイディアで前半をガラッと違ったものにしたら良いのでは、と言うことで今のアレンジが出来上がった。1曲が長いので弾き語りとして大丈夫か?と当初は検討していた。
やってみると曲の力(歌詞の力)が最後まで引っ張っていくので案ずる事はなかった。
この曲は横田さんから絶対に入れてほしいと言われており、普段はギターで演奏することが多かったのでピアノでやってみるのが新たな挑戦で楽しかった。初期にピアノをレコーディングした。かなり練習した。
歌録りは一ヶ月後で、1/2の歌録りをする時、声がガラガラで今日はやめようとなったのだが、愛の才能ならロックな感じが出て合うかもと思いやってみた。
デビュー当時のレコーディングの時もガラガラ声でやった覚えがある。当時、声が枯れているのが私の中で粋だった。
今回も奇遇に枯れていたので、この曲の主人公の奔放さが出てよかったと思う。
ふとしたことです
レコーディングも終盤になり、
気分もやるぞ!と爽快。
いつものピアノスタジオの予定が空いてなく、エンジニアさんに紹介して頂いた場所でやることになった。
この曲は3分ちょっとの曲で、弾き語りは何度かライブでやっていたので、ルンルン気分でスタジオに行った。現地に到着すると大きなスタジオ。フルオーケストラが入るスペースにスタインウェイが一台置いてある。テンションが上がって声の調子も良く、ピアノだけの予定だったが歌も録れた。
3回ほどのテイクで、良いですね!と言って頂き、スピード感のある上品なレコーディングだった。
ジャケット撮影の話も出てきて、川島小鳥さんに頼むことになった。
衣装のことでディスカッションがあったりしたけど、当日は(また雨)とても良い雰囲気で撮影が行われた。
ふとしたことです、をタイトルにしようと決めたのもこの頃。秋風を感じられる季節。
雨の中、スリッパで傘を走って持ってきてくれた横田さん。
またふとしたことでお会いしましょう。
レビュー 川本真琴