レイチェル・ママについて

“サイニングタイム!”の奇跡……
レイチェル・ママとコールマン一家の物語

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1996年12月、レイチェル・コールマンとその夫アーロンは、最初の子どもであるリアを授かりました。当時、レイチェルは曲を書き、自らのフォーク・ロック・バントと演奏活動をしていました。幼いリアはバンドの演奏やコンサートにもよく連れてゆかれましたが、両親はリアが、大音量で音楽が鳴り響いているなかで眠っていられることを不思議に思っていました。リアが14か月になったとき、その理由がわかりました。リアは重度の聴覚障害をもっていたのです。

コールマン一家の世界は一転し、人生における優先度も変わりました。レイチェルはギターを置き、リアのために手話を習い始めることにしました。レイチェルと夫は、習ったそばからリアに手話を教えてゆきましたが、そのうち目を見張るような事が起きたのです。生後18か月になるころに、リアは健聴者の子どもが話し言葉を覚えるよりも、はるかに多いヴォキャブラリーの手話を習得していたのです。リアの友達たちが、ほしいものを指さして泣いているばかりである一方で、リアは手話を使って、「ミルクじゃなくて、ジュース」「チーズとクラッカー、ちょうだい」などと、完全な文章を表現することができたのです。

ほかの親たちも、リアの変化に注目するようになりました。レイチェルの姉エミリーもその一人。リアとコミュニケーションをとることができるようにと、赤ん坊アレックスに手話を教え始めたエミリー。するとある朝、まだ10か月になったばかりのアレックスに変化が現れました。アレックスはわめき立てるかわりに母親を見上げ、「ミルク」のサインをしたのです。


その数年後、レイチェルとアーロンに次女のルーシーが生まれました。リアと過ごしてきた経験があれば、2番目の子どもは手がかからないだろうと感じていましたが、ルーシーは予定よりも8週間早く誕生し、脊椎破裂と脳性まひをかかえて生まれてきたのです。医者は、ルーシーはおそらく話すことはできない、そして彼女の硬直した指では聴覚障害の姉、リアとサインを交わすこともできないだろうと危惧しました。

そんな状況のさなか、レイチェルと姉のエミリーは、エンタテインメント性のある魅力的な方法で、健聴者の子どもたちに手話を教えようと協力を始めました。彼女たちは、短いビデオを作成して友人やその家族たちに配り、第2言語としてASL(American Sign Language:アメリカ手話)を習得し、リアとコミュニケーションをとってもらおうと考えたのです。

  • レイチェルと娘のリア
  • アレックスと家族

2002年の5月、レイチェルと3歳のアレックス、4歳のリアが一緒に出演する“サイニングタイム!”の第1巻が発売されました。その反響は圧倒的なもので、母親から母親へ、家族から家族へと口コミで伝わってゆき、間もなく、リアとサインを交わすために手話を学んでいた小さなコミュニティーが、親や教育者、医療専門家たちを巻き込んだ広がりのあるネットワークへと成長していきました。そして“サイニングタイム!”を用いて、さまざまな場面で子どもたちに手話を教えることの利点を紹介してゆきました。


第1巻の発売後、コールマン一家は奇跡を体験することになります。当時2歳だったルーシーは、まだ言葉も発せず、サインも使えず、まったく何のコミュニケーションもできないでいました。ところがある日、“サイニングタイム!”を見ていたルーシーが、何かのジェスチャーをしようとしているのをレイチェルが目にしたのです。それはレイチェルが初めて見る仕草でしたが、「もっと」のサインであるようにも見えました。レイチェルが「ルーシー、もっとほしいの?」と言うと、ルーシーはまるで「ママ、その通りよ」というかのように目を大きく見開いたのです。

その日を境に、身体的なハンディキャップと悲観的な見通しにもかかわらず、ルーシーの手話のヴォキャブラリーは、ゆっくりですが着実に増えていきました。それからすぐ後、ルーシーは言葉を話し始めたのです。そして5歳になったルーシーは、通常の幼稚園に通うようになりました。レイチェルは、それまでそんなことが可能だとは思ってもみませんでした。今でもルーシーは通常学校に通い、勉強もよくできます。


今日ではTwo Little Hands Productionsは、“サイニングタイム!”と“ベビー・サイニングタイム!”のDVDとCD、フラッシュ・カード、教材の全商品を提供しています。世界中の親や教育者、小児科医、言語療法士、公立学校、自宅学習プログラム、保育園、図書館が、あらゆる能力をもった、さまざまな年齢の子どもとコミュニケーションをとるために“サイニングタイム!”を用いています。アメリカでは、Nick Jr.(ケーブルテレビ)と全国の公共テレビ放送局が、“サイニングタイム!”の番組とミュージック・ビデオを放送しており、もっと多くの子どもたちが手話の教育的・社会的な利点を体験できるようになりました。

“サイニングタイム!”による大きな効果もあって、ASLは誰もが使える包括的なコミュニケーション・ツールとしての認知を高めています。言語を習得する前の子ども、障害のために言葉のしゃべれない子ども、あるいは単にASLを第2言語として習得したいと思う家庭で使用されることで、手話はますますアメリカの文化の重要な部分を占めるようになったのです。

レイチェルの影響力は世界的なものとなりましたが、彼女は極めて個人的な目標に注力しています。

「私は、多くの人がいくつかのスペイン語を知っているように、すべての人に少しでもサインを知ってほしいの。
あなたの子どもが公園で私の子どもを見かけたとき、気まずい思いをすることなく、コミュニケーションの障害を感じることなく、
ただ3つのサインを投げかけてくれること『ハイ…フレンド…遊ぼう』、
それだけで、彼女の世界を変えることができるのです。」

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レイチェルとリアとアレックス