ついにYOSHIKIのニュー・プロジェクトVIOLET UKが動き出す。この魅力的なプロジェクト名は時折、何度かささやかれていたものの、その実態が人々の目や耳に触れることはなかった。噂のレベルでつたわっていた、幻の存在だったのである。
「幻じゃありませんよ(笑)。X JAPANのアルバム『Jealousy』の頃から始めていた。だからもう10年以上になる。バンドという枠を取り払ったら、自分はどんな音楽を作るんだろうと考えて」
 バンドに徹することでX JAPANをロック・シーンの頂点に押し上げたYOSHIKIが、その力のすべてをソロに注ぎ込む、このスリリングな命題がVIOLET UKのスタートだった。
「あらゆることをやりましたよ。ハードになったりソフトになったり、トランスにも行ったし、その後、パンクもやってみた。ぐるぐる回って一周して、ここに来たわけです」
 10年以上に渡る音楽的トライアルの末に生まれたVIOLET UKの全貌が、今年明らかになる。
「いちばんこだわったのはノイズのクオリティです」
「ノイズのクオリティ」というのは実に不思議な言葉だ。直訳すれば「雑音の品質」。雑音に品質なんてあるのか?と疑問に思う方も多いだろう。ところが、あるのである。シンセサイザーの登場以降、特に音楽制作者の間で注目・追求されてきた素材が"ノイズ"なのである。わかりやすく言えば、ノイズは聴く者の想像力を強く掻き立てる。それは美しいメロディをさらに際立たせ、経験したことのない世界へ連れていってくれる。
「ノイズのクオリティを含めて、世界の最先端に近づこう10年間やってきて、ついに抜いたので、出すなら今だ、と」
 実際、ひとつの曲を構成するのに数ヶ月をかけて18000テイクを超える音を集めた。
「これ以上やると音に埋もれて死んでしまうので、出すことにした」
 想像を絶する集中力だ。そして集中力が極まり作品として形になった時、YOSHIKIの表現力は一気に外へ向かって噴き出す。
「VIOLETは、新しい人種を想定した言葉。地球の上にはイエロー、ブラック、ホワイト、レッドなど、たくさんの人種がいますけど、そのどれにも当てはまらない存在。UKはアンダーグラウンド・キングダムの略で、新しい波を作ろうという意志」
 アルバムに収録予定の音を聴く限り、その新しさと尖鋭的なセンスは爆発寸前だ。VIOLET UKは、必要なメンバーを曲ごとに入れ替えるアメーバのようなプロジェクトになるという。
 YOSHIKIの表現スタイルの一方の極にはETERNAL MELODYをはじめとするクラッシックがある。彼はそこでオーソドックスなメロディを展開する。ピアノのYOSHIKIと言ってもいい。
 対してVIOLET UKが表すのは伝統とは正反対の「今」だ。ノイズとリズム、シンセサイザーとドラムのYOSHIKIなのだ。この極端な二面性が彼の本質だとするなら『Jealousy』から10年の歳月を経てソロのYOSHIKIのパーフェクトな姿が今年、出現する。
 数年間、読み漁ったという聖書を元に書き下ろされた英語詞は、それこそ『ダ・ヴィンチ・コード』のように謎が満載されているという。当然、全曲がきっかり構成されたトータル・コンセプト・アルバムになる。
「アルバムのテーマは"創造なき破壊"。早ければ夏のロック・フェスに出たいと思っている。ずっとクラッシックの場が多かったので、早くロックの場で自分を見せたい。破壊しまくりますよ(笑)」
 そのパワフルな発言は、CD売り上げの低迷に沈滞しがちな日本の音楽シーンの痛快な破壊宣言とも受け取れる。

音楽評論家 平山雄一