LOSALIOS
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Discography > ゆうれい船長がハナシてくれたこと | The end of the beauty | Aurora Madturn
NEW ALBUM ゆうれい船長がハナシてくれたこと2005.5.25 ON SALE
   
COCP-50850 \2,940 [tax in]
 

 新作を聴いて、大きく変貌したLOSALIOSに驚いてしまった。1年8ヶ月ぶりの4作目になる『ゆうれい船長がハナシてくれたこと』は、LOSALIOSの基盤であるロックのダイナミズムを生かしながら、洗練されカラフルになったサウンドが、曲を無駄なくスケールアップしている。LOSALIOSに何が起こったのだろう。
 単純に考えれば、このところは中村達也(Ds)、カトウタカシ(G)、TOKIE(B)の3人でタイトな演奏をしてきたLOSALIOSに、會田茂一(G)が加わり4人編成となったことが、この変化を起こしたかと思われる。もちろん、それも大きな要因だが、それ以上にバンドの中心である中村達也の、自身のドラム・プレイに対する姿勢や楽曲の捉えかたが変わったことが大きいのではないかと想像する。中村が、ホームページで面白いことを書いていた。
「日々の演奏をしながら燃え尽きようとしていたのだが(中略)、燃え尽きてたとこからはぐくむ方向に差し掛かった。バンド始めて26年目にしてようやくはぐくみはじめた」
 思い起こせば1年8ヶ月前の前作『The end of the beauty』発表時、中村はこんなことを言ったものだ。「設計図のある音楽をやってみたいというふうに、変わってきた」。
 ブランキー・ジェット・シティ時代のソロ・ワークとして始めた"LOVE SHOP LOSALIOS"から、彼は荒馬の如く奔放で豪快なドラミングで、このユニットを牽引してきた。それは瞬間を生きる彼そのもののようであり、結果より過程が重要と言わんばかりの突っ走り方だった。それこそ、設計図などなしにフリーハンドで描き出し、タッチのダイナミズムを楽しませるような演奏をもっぱらとしてきたのだが、そこに変化の兆しが見えたのが前作である。多彩なゲストを迎えることで荒ぶる魂を抑えるような、それでいて抑えたものを解き放つ瞬間を待ちかねているような、スリリングな作品だった。
 更に、ここに至るまでを遡れば、1作目『世界地図は血の跡』の頃は流動的だったメンバーが、2作目『Colorado shit dog』前後から、カトウとTOKIEとのトリオに準メンバーの武田真治が加わり、ステージに立つ機会が増えたことも影響していると思われる。中村のドラムと鬩ぎ合うカトウのギターとTOKIEのベースが、えも言われぬ熱気を放つところを醍醐味とし、デッサンを繰り返すようなライヴで、LOSALIOSのスタイルを作り上げてきた。その熱気と緊張感は保ちながら、さらに細かい設計図を描き、それを実現してみよう、というのが今回の作品なのではなかろうか。
 その姿を、既にライヴで垣間見せている。今年に入って2度のワンマンを見たが、暴走することなく程好いテンションを保ち、ジャム・バンドに負けない柔軟な即興性を発揮して、観客を熱狂させていた。単に會田のギターが1本増えたと言うに留まらない音の広がりを作り出す中で、何よりも中村の安定したドラミングに、このバンドの新しい顔を見た思いがしたものだ。そもそもは、東京スカパラダイスオーケストラのレコーディングで忙しいカトウの助っ人として、會田がレコーディングに参加したと聞いているが、ライヴでも既に欠かせぬ存在となっているようだ。
 前振りが長くなったが、新生LOSALIOSがどのようなものか、新作の幕開けを飾る「HAE」を聴けば瞬時にわかるだろう。カトウと會田が、ディック・デイルばりに歪んだエレキ・ギター、ロバート・ランドルフあたりを意識したようなペダル・スティール、それにざくざくしたアコースティック・ギターを巧みに重ね、どっしりした中村のドラムとTOKIEのベースが、ぐいぐいテンションを上げながら曲を推進していく。前述のライヴでは、ひときわ緊張感のある演奏で観客を沸かせていたものだ。
 また、起伏に富んだ「エメラルドの砲撃」は、直線的だったLOSALIOSの曲に加わった新たな一面を伺わせるし、緊張感が持続する「SICK」やサーフ・ロック風のギターで遊び心も見える「MOTOR SCHOOL」、ダンサブルな「FELLOWS」はLOSALIOSのワイルドな魅力が一段と増幅されている。ギターとリズム隊が対照的な音像を描き出す「若い大尉は死ななければならない」や、中村のトランペットを交えながら揺れる音像が幻惑的な「日記」、楽器の音が徐々に変化していく「CRAZY DAVIS」はインスト・バンドならではの面白さを醸し出している。こうした音や曲想の広がりに、曲作りやプロデュースの経験が豊富な會田が、少なからず貢献しているのは想像に難くない。それを、スマートかつダイナミックなサウンドに仕上げているのは、バンドもので定評のあるエンジニア南石聡巳。
  ROVOやDate Course Pentagon Royal Gardenを始め、個性的な越境インスト・バンドが多数注目を集める昨今、これ以上ない顔ぶれで完成した本作は、ロック・インストというものの魅力を存分に伝えつつ、そのイメージを一新するものと言っていいだろう。

音楽評論家 今井智子