


ひとりのアーティストが楽器と曲と対峙するピアノ、さまざまな楽器が壮大な音の世界をつくりあげるオーケストラ、、、とも違って、三人、四人、五人・・・と少人数のアーティストが比較的小規模なホールでアンサンブルを奏でる室内楽の世界は、どちらかというと“玄人の嗜み”と感じていましたが、「ぜんぜんそんなことない!」と今回、カルミナ四重奏団(カルテット)の演奏を聴いて改めて実感!
室内楽こそ、クラシックの醍醐味を肌で感じる絶好の場。
それはまさに、“考えずにとにかく聴いて〜〜”と音楽が呼びかけてくれているかのようです。
そして来日中のカルミナ・カルテットの皆さまに、そんな疑問を率直にぶつけてみました。
四重奏の世界をリードするカルミナ・カルテットは、スイスを拠点として、かれこれもう25年以上もカルテットとして活躍されています。
6月5日に田部京子さんと共演した『ブラームス:ピアノ五重奏曲へ短調/ピアノ四重奏曲第3番ハ短調』のCDをリリースされています。
この演奏が、なんとも表情豊かな、ふくよかな感情に溢れているのです。
音の一つひとつが心に直接語りかけてくるような、胸の弾むような体験を与えてくれたのでした。
それは、今まで聴いたことのあるブラームスの演奏と全然ちがうのです。
Q. どのように、このブラームスの曲に取り組んだのでしょう。
ウェンディ(ヴィオラ):「とても有名な曲よね。ほかの演奏と全然ちがうと感じたのが、どこから来るのかわからないけど、私たちにとっては、ブラームスはもっとも自然に感じられる音楽なの。」
カルミナは、リハーサルに入る前に、かなりの時間を議論に費やすのだそうですが(それこそ喧々諤々よ、とのこと)、このブラームスの曲に入る前には、話し合いもほとんどなくて済んだのだそう。
ウェンディ:「技術的には、ベートーヴェンを弾き込んでいることも、ブラームスをより“自然”と感じられる理由なのかもしれない。ベートーヴェンの曲の中には、もっと短いフレーズの中で、もっといろいろなこと起こる。それに比べると、ブラームスは物理的にもやさしいと言えます。」
なるほど、室内楽においてもベートーヴェンは土台。基礎があってこその、この境地というわけですね。
マティアス(ヴァイオリン):「ブラームスは、とかく真面目に考えられがちだけど(笑)」。
でも、カルミナにとっては、“自然にロマンチック”な曲だと感じられるそうで、ブラームスは、彼の生き様がそのまま曲に表れているような気がする、のだそう!
ウェンディ:「わたしたちの中でいちばん真面目な私でも、ナチュラルに感じるわよ。」
シュテファン(チェロ):「フォークソングみたいなところもあるしね。」
そうやって、彼らが自然に感じて発せられた音が、歌うように演奏の中に表れているんですね!
「歌う」といえば、カルミナ・カルテットの「カルミナ」こそ、その「うた」を体現した名前。
Carminaはラテン語で「うた」のこと。「ポエム」であり「うた」なのです。
まさに「語るように、話すように音楽を奏でていく」カルミナ四重奏団。いつも四人が音楽の中で会話しているようです。
第1ヴァイオリンのシュテファンは、オペラも大好きなんですって。
マティアス:「ピアノの曲をソロで弾くようなとき、みんな全体を見すぎているような気がするんだよ。
ピアノ曲を弾いているときでも、この部分はスーザンみたい、ここはシュテファンだな、とか考えたりする。」
Q. ずばり室内楽の醍醐味ってなんでしょう?ほかのジャンルの音楽では味わえない楽しみがある?
ウェンディ:「個々人のインプットがものすごく大きいことでしょうか。」
なるほど、オーケストラの中で演奏するときや、ソリストがオーケストラと協奏曲を演奏するようなときにも、きっともっと大きな流れのなかで音を刻んでいくのでしょうが、四重奏では、それぞれの演奏者がもっと細かいところにまで神経を集中させなければいけないのですね。
本当にそれは、会話のよう。ひとりが何か話すと、それに誰かが答えて…というような。
マティアス:「リーダーの名前を冠したカルテットが主流だった時代もありますが、僕たちはみんなが対等。だからカルテットは、それぞれのメンバーが違う意見をもった個々の演奏家でもあり、でもグループでもある。
違うことは良いこと、でしょ!みんなが同じ意見だったらつまらない。」
Q. スイスに帰ったら何をする?休暇の過ごし方を教えてください。
シュテファン:「何もしない。」
・・・ええ!そんな。いやいや、バケーションの間は、「フェスティバルに出たり・・・家族と過ごしたり。お気に入りの場所はアスコナ。イタリア語圏の、いわばフランスの中のニースのような、イタリアっぽい雰囲気のある街」なんですって。
マティアス&ウェンディ(ちなみにお二人はご夫婦でいらっしゃいます):「私たちはよくハイキングに行きます。それかアメリカの家族を訪ねるか。」
ウェンディは、アメリカのご出身。「でもそれは心の休まる休暇の過ごし方ではないかも」と一言。
世界中を旅してらっしゃる皆さんですが、なかでも日本はいちばんのお気に入りなんだそうです。
よくオーガナイズされていると仰っていましたが、これは日本に来る外国の演奏家がよく指摘されることですね。
「はじめは、さまざまなことがカチッと決まりすぎていて戸惑うんだけど、だんだん、必ずしもそのように自分を合わせなくてもよいんだって気づくと、とても気楽にふるまえる」のだとも話してくれました。
今回は、第2ヴァイオリンのスーザンは、スケジュール上インタビューには加われず残念でしたが、お三方の和気あいあいとした会話から、カルテットの秘密をちょっとかいま見られた気がします。

カルミナ四重奏団 Carmina Quartet
スイス・チューリッヒを拠点とする、ヨーロッパ最高峰の弦楽四重奏団!
●マティ-アス・エンデルレ(ヴァイオリン)
Matthias Enderle (violin)
●ウェンディ・チャンプニー(ヴィオラ)
Wendy Champney (viola)
●スザンヌ・フランク(ヴァイオリン)
Susanne Frank (violin)
●シュテファン・ゲルナー(チェロ)
Stephan Goerner (cello)
http://www.carminaquartet.com/Carmina_Quartett/HomeEn.html

私がふるふると感動した、田部京子&カルミナ・カルテットのブラームスCDはこちらです❤