「和幸」のニュー・アルバムのタイトルが『ひっぴいえんど』と聞いて、腹を抱えて大笑い!
そればかりか、収録曲のタイトルを教えられて、最初は「ン!?」。
まさか!あれもこれも「はっぴいえんど」の名曲をもじったタイトルじゃないか!
そのユーモアとウィット、付け加えれば“ナンセンス”、その“ばかばかしさ”に、椅子からずるっと転げ落ちそうになりました。
「パロディ?」
「いや、これはパロディなんかじゃない!「はっぴいえんど」の曲をやってるわけじゃないし、同じ曲なんかないから。ただ、マインドは受け継いでやってる。ということでは(「はっぴいえんど」への)リスペクト、ある種の逆トリビュート!」だと加藤和彦はキッパリ!
傍で坂崎幸之助はニヤニヤと笑うばかりです。むろん、その微笑みは先達への敬意と愛情にあふれています。
言われて見ればなる程、ここに収録されたオリジナル曲のタイトルは「はっぴいえんど」、そのルーツのひとつであるC・S・N&Y(クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング)の代表曲にちなんだもの。けれど、タイトルをもじった曲のまんま、ってワケじゃない。ワケじゃないですが「はっぴいえんど」、C・S・N&Yばかりか、C・S&N、ニール・ヤングのあんな曲、こんな曲の“イントロ”、“メロディ”、“コード展開”、“らしき歌詞”がそこかしこ。
おまけにスティーヴン・スティルス、ニール・ヤングのギターの“リフ”、“フレーズ”、“手クセ”までもがそのまんま。ギターの“響き”までオリジナルをほうふつさせる。さらに“倍音”の響きがそこかしこ、という緻密でぶ厚い“コーラス”の“ハーモニー”、“アンサンブル”の妙は、本家のそれを上回ることもしばしばですから。
作風といい、歌、コーラス、演奏、サウンドといい、それは「新古今和歌集」さながらに“本歌取り”の技巧を凝らし、その真髄、醍醐味を随所に散りばめた極上のアルバムであります。
“本歌”、つまり“ネタ”となったのは、70年代初頭、日本のロックの原点のひとつとして金字塔を打ち建てた「はっぴいえんど」の初期2作。「はっぴいえんど」が敬愛し、よりどころにした60年代半ばから末期にかけてのアメリカのウエスト・コースト、LAのローレル・キャニオンに本拠を構えていたC・S&N、C・S・N&Y。さらには、その前身、ザ・バーズ、バッファロー・スプリングフィールド、ホリーズの昔にまで遡る。
あの頃、手に入れた噂のアルバムの数々。それらを手に入れられただけでも一日が、一週間がシアワセだったアナログのブラック・ディスクを、“裏面”が聞こえてきそうなぐらい何回も何回も耳にした覚えのある“OYAJI”にとっちゃ、“ワオ! これ、あれじゃん。ムフフ!”とほくそまずにはいられない、はず!
そうです、「はっぴいえんど」やCS&N、CSN&Yをはじめ、60年代末から70年代はじめ、日本のフォーク、ロックの黎明期、アメリカのウエスト・コーストから届いたアルバムの数々のあれこれが、ここにはそこかしこ。“トリビアごっこ”にはうってつけ。“オタク度”を試されるアルバムででもあります。
ネタがあります。だからこその“本歌取り”。ですが、“本歌”、ネタもとを知らなくっても、ざらっとした“生”な音は、そのへんの、ほら、携帯でダウンロードした今ドキの“音”とは違うでしょ?きっちり、しっかり、凝ってますから。それぐらいは、誰にだって、わかるはず。それに、カバー曲の選曲、アレンジ、演奏、コーラスが巧みで面白い。
ちなみに、加藤和彦のセルフ・カバー作品は、フォークル(フォーク・クルセダーズ)オタク、加藤和彦ソロ作オタクの坂崎幸之助の選曲によるものです。
そればかりか、かつて日本のフォークの神様とまで語られ、やがては「はっぴいえんど」を従えて変身をとげた岡林信康、生ギターの弾き語りで先鋭的なロック・ワールドを体現してみせた遠藤賢司の代表曲や、あの頃、とっくにお洒落でエスプリの利いたポップ・センスを発揮していたかまやつひろしの作品などをカバーしています。
ざらっとした“生”な音、演奏、サウンドもさることながら、歌、“緻密”で“濃密”なコーラスが素晴らしくって、素敵です。“マジ、やばい!”。
それより、加藤“和”彦と坂崎“幸”之助の“歌声”は“一卵性双生児”みたいに同じです。どっちが歌ってんだか、わけわかんないなんてこともしばしばです。おまけに二人の声が重なれば、まるで目くらまし、いや、耳くらまし。
声がそっくり、“似てる!”ってだけじゃなくて、コーラスのアンサンブルに“工夫”を凝らしての物種。“技”がなけりゃ、そんなこと到底できません。というあたりが、凄いです。『ひっぴいえんど』の最大の聞き所のひとつです。
ギンギンギラギラ、ロンドンのグラム・ロックが“ウリ”のはずの加藤和彦が、実は60年代半ばから終わりにかけてのアメリカの“ウエスト・コースト・ロック”を熟知した“ロック・オタク”だった!
“日本のフォーク・オタク”が“ウリ”のはずの坂崎幸之助も、実は60年代末から70年代にかけて“日本のロック”、アメリカの“ウエスト・コースト・ロック”を熟知した“ロック・オタク”だった!
そんな真実が、このアルバム『ひっぴいえんど』で明らかされます。
60年代末から70年代はじめ、揺れに揺れたあの時代、あの出来事の数々。心をかきむしられ、心のよりどころとなった、名曲、名盤、演奏、サウンドの数々。あの息遣い、あのほとばしり、熱い思いを甦らせ、懐かしがってるんじゃなく、あの時、あの頃のスピリットをきっちりと描きだし、“今”の時代にメッセージを投げかけ、語りかけるアルバム。それが“和幸”の『ひっぴいえんど』なので〜す。
『ひっぴいえんど』宣言
- ――
- デビュー・アルバムの『GOLDEN HITS』は架空のグループ、ジョン&ポールの和幸コンビが60年風の架空のポップソング、カバーをやってというアルバムでしたが。なんか「不真面目だ!」と、怒った人もいたそうで(笑)。
- 加藤
- 今度はもっと不真面目(笑)。そもそも1枚目に「モノリス」って、ちょっとロックな感じで、60年代後半から70年のヒッピーの感じを引きずった。バックの連中もえらい気に入って。僕らも気持ちよかったのね。そこで、出て来たのがCS&Nという…
- 坂崎
- キーワード!(笑)。
- 加藤
- 2人とも、大好きだから。それがくすぶってた。で、「CS&N、やりたいね!」っていうのと、冗談で「ひっぴいえんど」って言ってたのね。なら「はっぴいえんど」を下敷きにあの時代のロックが出来るんじゃないかな、っていう大ざっぱなコンセプトを作った端から……
- 坂崎
- 「タイからパクチ」、「ナスなんです」とか、まずタイトルだけ出来て……
- 加藤
- すると、すぐ次の日にメールかなんかで……
- 坂崎
- 加藤さんが歌詞を送って来るんですよ。「こんなのどう?」みたいな。
- ――
- そういうやり取りっていうのは?
- 加藤
- 以心伝心だから。どっちが何をやるってことじゃなくて、なんかテキトーに送ると、「いや、サビはこうやった方がいいよ!」とか。もう、ホントの共作ですね。
- ――
- ジグソーパズルやパッチワークを作っていく、みたいなものですね。
- 加藤
- で、窓口が広いじゃない。2人合わせるとほとんど全方位外交になりますから(笑)。
- 坂崎
- あと、スタジオに入って作業をやりながら、コーラスはこうしようとか、ギターはこうしようとか。
- ――
- その凝りようは尋常じゃないですね。
『はっぴいえんど』へのリスペクト、逆トリビュート!
- ――
- 昔、『モンティ・パイソン』っていうのがあって、ビートルズのパロディの「ラットルズ」ってありましたが、それ以来の快挙ですね。
- 加藤
- 快挙(笑)? でも、これはパロディじゃない!ちゃんと真面目にやって――だから、「はっぴいえんど」と同じ曲なんかない。ただ、マインドは受け継いでやってるから、リスペクトだよね。ある種の逆トリビュート!それに、CS&Nがからんでいくんだよね。
- ――
- でも、相当、ひねくれてるお2人ですね。
- 加藤
- ひねくれてる。だって、はっぴいえんど自体がバッファロー(・スプリングフィールド)をやりたかったわけじゃない?だから、それと同じルーツを辿ってやったっていう。
- ――
- そうすると「はっぴいえんど」が大きなテーマになっている?
- 加藤
- 「はっぴいえんど」がやった功績って大きい。けれども、巷間言われてるのは、初めてロックに日本語の詞を乗せた、って言うんだけど、あの叙情性って、日本語で歌っているけど完全に英語メロディーだよね、明らかに。そういうのを僕はやりたかった。
- ――
- ところで、覚えてますか加藤さん? 実は、はっぴいえんどのファースト・アルバムが出来上がった日の夜、URCの事務所に訪れて来たのが加藤和彦っていう人で、出来上がったばかりのテープを最初に聞いたのが彼だった、という。
- 加藤
- 僕、ぜんぜん覚えてないんだけど(笑)。
- 坂崎
- 覚えてない、本人は(笑)。あ、そうなんだ!
- ――
- そしたら、すごく気に入ってくれて。もうそれが嬉しくってね。しかもそれは、後にカット・アウトされた「風をあつめて」のオリジナル・バージョンが入った貴重なテープですよ(笑)。
- 加藤
- 貴重な!う〜ん、エージから聞かせてもらったのは、今、思い出した。「エージ、こんなのやってんの?」って。
- ――
- いろんなな人に聞かせたくてしょうがなかった。だから、最初に聞かせた加藤和彦が、すごく喜んで評価してくれたのが嬉しかった。でも、その後はなんだか反応が芳しくなくてね。まず、(当時他に類がなくて)初めて聞くような音楽だったから、聞き苦しいとか、音が重いとか。
- 加藤
- まあ、確かに。暗い、とか!(笑)。
帰れ!帰れ!はっぴいえんど!
- ――
- で、坂崎さんにとっての「はっぴいえんど」っていうのは?
- 坂崎
- 一番最初は、やっぱり、岡林さんのバック・バンドっていう認識でしたよね〜。
- 加藤
- あ、そっちから入ってんだ。
- 坂崎
- だから、最初は“うるさい!”(笑)。「うるさいよ〜。歌、聞けないよ〜!」みたいな(笑)。
- 加藤
- それ、「帰れ! 帰れ!」に近いじゃない(笑)。
- 坂崎
- そう(笑)。いわゆる、保守的な岡林ファン、みたいな。だから、“ギター1本でやってくれ!”っていう。
- 加藤
- “なんで、こんなのついてるんだよ!?”みたいな(笑)。
- 坂崎
- そうそう。例えばディランにザ・バンドがついた時に“ギター1本でやってくれ”みたいなね。はっぴいえんど自体よりも、岡林さんにバックがついたことがヤだったんですよ。うるさかった!生音がデカすぎた!ちょっと拒否反応があったんです。
『ゆでめん』は兄貴が買ってたんで、家にあったんですけど、ほとんど聞いてなかった。それが『風街ろまん』が出て「なんか“違うぞ”!」っていう感じが自分の中で出て来て……好きになったんです。叙情的な部分とコーラスとか、それまで日本にはあまりなかった。洋楽――作りは洋楽なんだけど、言葉はモロ日本っぽい。それまでのロックっていうと、完全に英語でやるか、ブルースか、みたいなね? で、日本のものっていうと、フォーク調になるっていう。そのミックスみたいな。
- ――
- で、今回の『ひっぴいえんど』にも関係があるんですが、加藤和彦っていうとフォークル(フォーク・クルセダーズ)時代の話はよく出ます。ところが、その次、いきなりサディスティック・ミカ・バンドの話に飛んじゃう。実は、その間にものすごく大きな功績を残したソロ・アルバムがある。
- 加藤
- それは、坂崎くんが詳しいです(笑)。
- ――
- 坂崎さんは、フォークルに関してはどうだったんですか?
- 坂崎
- もう、自分にとっちゃ、多分、原点に近い。一番最初にフォーク・ギターを買ったのが、中1なんですよ。それまでビートルズとかベンチャーズ聞いてたんです、小学校の時は。中1でフォーク・ギター、YAMAHAのFG−110を買って。ちょうどその年の暮れに「帰って来たヨッパライ」がガーンと来たんで、フォーク・ギターとフォーク・クルセダーズっていうのが、自分の中で“ブーム”になったんですよ。で、『紀元弐阡年』を聞いて、ライヴの『ハレンチ・リサイタル』を聞いて(笑)、もう、フォークル一本槍でした、当時は。それにフォークルやめてからの加藤さんの2枚、ミカ・バンドまでのアルバムは、やっぱ凄かったですね。
- ――
- そういうエッセンスが、今回、継続してあるみたいですね。
あの頃の音楽が好き!
- 加藤
- 今回のアルバムの場合、ジャンル分けするならば、やっぱりアメリカン・ロックですよね。不思議なことに、72〜73年から、せいぜい74〜75年までにかけての時代は、イギリスもアメリカもいろんなグループがあって、名盤とされるものが山とあるじゃない。
- ――
- 厳密には60年代後半から70年代初期ということで。
- 加藤
- うん、分母はそんな感じだけどもね。
- ――
- 今回の『ひっぴいえんど』を聞くと、50代、40代なら「あ、これはあれだ!」なんて楽しみがあっておもしろがられると思いますが、若い世代にとってっは
- 加藤
- 元(の音楽)を聞いてないから、どう映るんだろうな? 逆に聞いてみたいよね。それに、今、こういうロックやってる人っていうのは、いないもんねぇ。
- 坂崎
- うん、いないと思うなぁ〜。
- ――
- 敢えてそれをやったっていうのは?
- 加藤
- やっぱり、単純に、僕らあの頃の音楽が好き。それに、今まで出来る機会がなかったし、一人で出来るもんでもない。CS&Nなんてコーラスでしょ。それが、坂崎くんとだと出来る。それに、ガロももういないから!(笑)。
- 坂崎
- ガロもいないし!(笑)。
- 加藤
- 今回は、ギターもオリジナルのCS&Nが使ったギターや、マイクから何から何まで全部、まんま(当時と)同じ楽器、使ってるんですよ。ほとんど入手しにくいオリジナルのスゴいものを、ね。それに、いろんなところで、その“テクニック”をすべて出してますよね。2人合わせたら、多分、知らないはコトないと思うから(笑)。
- 坂崎
- その辺は、ホント、聞きまくりましたからね。例えば「なんか間違えてる音じゃない?」とか、ミス・トーンに近いものがあるんですよ、ニール・ヤングにしても、スティルスにしても(笑)。それがおもしろくて、コピーとかしてたじゃないですか。
- 加藤
- (今回は)わざとやってるからね、確信犯で(笑)。ミス・トーンっていうのを。
- 坂崎
- そういうのも「らしい!」から入れちゃおう!、とかね。
音楽に力があった、1枚のアルバムに胸がときめいた!
- ――
- ということでは、このアルバムって、いろんなものを聞いて「俺はこれ知ってるぞ。知ってる?」っていう“トリビアごっこ”するおもしろさ、楽しさがある。それからあの頃、いろいろ外国の音楽に影響を受けつつも、楽しみながらやってたと思うんですけど、あの頃の音楽の聞き方、楽しみ方。それに、今回の『ひっぴいえんど』でもう一つ重要なのは、あのころの時代がどうだったという雰囲気、時代の空気を、キッチリ言葉に表して、歌詞で表してるところが面白くて興味深い!
- 加藤
- う〜ん、あの頃――70年代初期の音楽っていうのは、聞く人に対して力があったじゃない。それはミュージシャンの力だったり、曲の力だったり。時代性、ってこともあったんだけど、音楽にもっと力があった。僕らにとっては必要なもので、ヘタしたら人生まで変わっちゃうみたいな、ね。それぐらい音楽って非常に重要なモノだった。
映画だって、本だって、テレビだって、いろいろあったんだけど、やっぱり音楽を聞く、レコードを聞くっていうことが、もうすごく大事なコト、大切だった。作ってる人たちも、なんか聞く人たちの人生も背負ってまで作ってる、みたいなさ(笑)。そういうとこ、あったじゃない。そういうものがいつしかなくなっちゃって、エンターテインメント一辺倒になっちゃって、ロックも様変わりしちゃった。なんか欠けてるモノがあるなあ、っていう風に僕はずっと感じててね。だから、そういう手法で、なんか出来ないものかな、と――気持ちもね。だから、単に音が昔風だけです、とかっていうことじゃなく、すべてのことを、ね。そういうことでやってみたんだけど。
- ――
- (当時は)レコード聞いて、音楽聞いて、いろんなこと学んで、自分自身に当てはめて考えて、っていうことですよね。
- 加藤
- だって、誰かのアルバムが出て、その1枚を買いに行ってさ。今みたいにアマゾンなんてないから(笑)。いち早く輸入盤を買ったら、その日、一日がすごいシアワセじゃない!みたいな、ね。ま、そんなようなことも……
- ――
- すごくおもしろいのは、はっぴいえんどのレコードなんか聞いてもそうですが、あの頃のレコードって、今、その時の現実は見えても、若いのにもかかわらず、将来が見えない、明日が見えないっていう、なんか先行き、将来が不安、そんな心情、みたいのがすごく映し出されていたり……。
- 加藤
- うん、うん。あと、なんか若年寄だよね(笑)、あの頃ってのはみんな。なんかさ、今になって聞いてみると「え? 作った時って、こんな若かったの!?」っていう感じじゃない(笑)。なのに、やってることは、相当、老けっぽい。
- 坂崎
- 当時の人たち、老けてますよね(笑)。メッチャクチャ老けてますよ。
- 加藤
- オトナぶってるってわけじゃないんだけどね。
- 坂崎
- 茂さんが10代だった、っていうのもそうですけどね。
―18歳、でしたね。
- 坂崎
- すっごいですよね(笑)。18歳のフレーズじゃないですよね(笑)。
- 加藤
- だから、なんだろ、昔の人の方が早熟なのかな。
- 坂崎
- 早熟は、ありえますよね。
“歌”に力があった。オトナになって、それがわかった
- ――
- 坂崎さんとしては、あの時代をどう受け止め、フォーク、フォーク・ロック、はっぴいえんどから得たものは何だったのか。
- 坂崎
- ちょうど僕らって、70年が高校入学の年なんです。中学までは、結局、岡林さんとか(高田)渡さんのURCのアルバム聞いたりなんかしてて。もちろんフォークルも聞いてて。やっぱり「何かが動いていくぞ」っていう、オトナ――大学生とか、ちょっと上のお兄さんたちが、もっと上のオトナたちが作ったものを壊して、何かが新しくなっていくんだ、っていう期待みたいのがあったんですね、ガキながら。その仕組みとかは中学生でしたからよくわかんないんですけど。社会の仕組みとか。何に怒ってんだか。何でゲバ棒持ってたりとか、火炎瓶投げたりしたのか、わかんないんだけど。でも、音楽とすごくリンクしてて。フォーク・ソングもそうでしたし、ロックもそうでしたけど、何かが動いて行くじゃないかなと思ってたんですよね。それで、よけいに惹かれてったと思うんですよね、フォーク・ギターに。
だけど、高校に入って、70年になったら学生運動やろうと思ったんですけど、なんか意外とフェイド・アウトしちゃった、みたいな感じがあった。そういう歌も、なんかあっという間に過去のものになっていくのかな、と思ったんです、その時は。だけど今になって、多少オトナになって思うと、その時に歌ってた歌は、ただの学生運動だとか、一瞬流行ったものじゃなく、歌としてすごい力があったんだな、っていうのを改めて再確認、っていいますか。
- ――
- つまりフォークって、音楽というだけじゃなく、それが教科書だったり、心を動かされるものだったり、自分にとって刺激的でね、自分が行動しなきゃいけないっていうものだった、っていうことですね。
- 坂崎
- だから、歌の力ってことですね。ただの流行りじゃなく、“学生運動と一緒に流行っちゃったフォーク・ソング”じゃなくて、ちゃんと歌として残ってるものがいっぱいある。すごいパワーを持ってると思うんです。
音楽の楽しさ、演奏する楽しさを、作り手も聞き手もこだわった!
- 坂崎
- 今回、やってみて思ったのは、一番楽しいジャンルだってことです。やり甲斐のあるジャンル。例えばコーラスにしても、ギターのこだわりにしても――スタジオ・ワークとか、そういう意味で。
- 加藤
- それはよくわかるな、やってて楽しいよね。ちゃんと書かれたことを、ピッチリやって仕上げるっていうのは、ずっとやってきたじゃない。ここ最近は、そんな音楽ばっかりじゃない。じゃなくって、演奏して、生に近い、生そのものだったりするから、やってて楽しい――まあ、アタリマエなんだけど、そういうのが、なくなっちゃってたからね。
- ――
- 音楽作りそのものが楽しい、ってことですよね。
- 坂崎
- ギターとか、コーラスとか、どういう音を入れようとか。音楽の楽しさ、演奏する楽しさ、こだわるおもしろさとか。人がどうでもいい所を、こだわってるとか(笑)。コーラスの楽しさも意外と忘れられ気味だと思うんですよ、今の音楽では。カラオケで歌いやすい歌を選んでたり、とか。そうじゃなくて、やってる、演奏してる人たちが楽しんでる、なんか、こう…こだわって作ってんだ、とか。
当時は、僕ら、そうやってレコードを聞いてたんですよ。例えばチューニングを変えたりする。「なんでこれ、6弦が1音下がってんだろう!?」、とか、作り手側のこだわりを、僕ら聞き手が歩み寄って行く。探ってたわけですよね。
- 加藤
- 僕もそうだね。「なんでこういう音するんだろう!?」と思ったもんね。
- 坂崎
- ね、ね! ギターの音色も!あと、デヴィッド・クロスビーのヘンなチューニング。「ゼッタイ、普通のコードじゃないよ、これ!」とか言って。ギター好きな連中と「いやいや、あそこの1弦、ゼッタイこれじゃないか?」とか、そういう聞き方をしてたんですよ。そういう音楽って、今、ないじゃないですか。だから、加藤さんと作った――2人がこだわって作った、っていうことを面と向かって言わなくても、聞いてる方が、たとえばギター好きな人だったら……。
- 加藤
- 見つけてくれる(笑)。
- 坂崎
- そういうキャッチボールできる音楽っていうのが、今ないですよね。それをやりたかったってことがわかりました。
“あなたのロック度、音楽度を検定します!”
- ――
- 今回は、若い人たちにも音楽を作る楽しみを分かち合いたいっていうのが、一番のメイン。
- 坂崎
- そうそう、それはあります、僕なんかは。作ってる時のこだわりというか、プラモデルを作るみたいに楽しくて。今みたいにコンピュータ使って、というのとは違う楽しみ方あると思うんですよ。
- 加藤
- ほんとにギターを弾いて、鳴らして、ちゃんと歌って、成り立つっていう。
- ――
- 前作のアルバムは、雰囲気として面白がっていたのを、今回は、もっとより深く、緻密に…時代性も反映して
- 加藤
- 今度はもっと、近視眼的に。
- ――
- 点眼鏡で見ないとわかんないっていう(笑)。
- 坂崎
- あ、そうですね(笑)。それに、1人、音楽好きがいたりするとおもしろいでしょうね。聞いてて「これは、あれだ!」とか。
- 加藤
- “アナタの音楽度が試される!”(笑)。
- 坂崎
- そうそう「ロック検定」に使っていただく。「ここには何曲隠されているでしょうか?」って(笑)。
- 加藤
- このアルバムは大変だよ、AAAぐらいいかないと、ダメだよね(笑)。
- ――
- 加藤和彦さんは、小原礼、土屋昌巳、屋敷豪太らとのVITAMIN-Qもはじめて、最近、グッとバンド活動、ライヴ活動が続いてますが?
- 加藤
- やっぱおもしろいよ。結局、“楽しい”っていうのが、第一義。演奏して楽しいし。昔、ライヴは嫌いだったんだけど、最近、なんかおもしろい。いい仲間といい音楽が出来るっていうのは楽しい。スタジオ入ってやるのに飽きた、っていうのあるよね、そういう意味では。でも、今は、スタジオ入ってもライヴのような感じだったからね。
実は坂崎、フォーク・オタクってことだけじゃないんです!
- ――
- 坂崎さんとしては、今回のアルバムについては?
- 坂崎
- まったくサラで聞いたらどうなのかな。なんの音楽的知識もなく、洋楽も一回も聞いたことないような人が聞いたらどう思うかな、っていうのをちょっと聞いてみたいですね。
- ――
- 坂崎さんは“フォーク・オタク”として知られてるわけですが、実はロック系もものすごく詳しい!
- 坂崎
- はい、実は!(笑)。“フォークの坂崎”って言われがちですけど、プログレも好きだし、アメリカン・ロックは、もうホント好きだし、イギリスものも。ビートルズも、まあ、8割方、弾けちゃったりとかするし。やっぱり“一フォーク・ファン”ってことだけじゃないんです。それを引き出してくれたのが、加藤さんだったりするわけで。
- ――
- 眠ってたものが、覚めちゃったみたいなところもある?
- 坂崎
- そうなんですよね。まあ、本体の方のバンドでも、そういうことやってるんですけど。やっぱり、フォーク・ギターをいつも持ってるんで「ロック部門は全部高見沢、フォーク部門は坂崎だろ」みたいに思われがちですけど。意外と、あっちの本体の方でも、うまくコラボしてるんですよね。
- ――
- だから今回は、隠してたワケじゃないんだけど、ふつふつと、昔、聞いてたものが、出て来たと。
- 坂崎
- そうですね、出し切ってなかった部分みたいなものを、うまく出せたと。
- ――
- それが、はっぴいえんどだった、っていうのが、おもしろいですよね。
- 坂崎
- そうですね。だからまあ、はっぴいえんどっていうバンドを間にはさんで、自分の持っていた知識だとか、テクニックって言ってもヘンですけども、そういったものがうまく表現できたかなって気はしますね。
曲目解説
1、「ひっぴいえんど」
- 加藤
- これは全体の“ひっぴいえんど宣言”です。「そんな時代だったんだよ!」という風なことで。「なんで“ひっぴいえんど”なのだろう」っていう説明をしておかないと、単なるパロディものになっちゃうから作ったんですけど。だから――「宣言」です。まあ、『いちご白書』、みたいなもんです。でもユーミン(松任谷由実)の曲じゃなくって、映画の方(笑)。
*生ギターの弾き語りに始まるこの作品は、60年代後半の“アングラ・フォーク”、70年代に入ってフォーク・ブームを生んだシンガー=ソング・ライターのスタイルを踏襲、再現。その担い手だった岡林信康、吉田拓郎、泉谷しげる、井上陽水の代表作のタイトルが織り込まれている。また「サウンド・オブ・サイレンス」が誕生したエピソードにちなんで、あたかもバックを後から加えたフォーク・ロック・スタイルになっているのが、この作品のミソ、聞き所である。日本のフォーク歌手に多大な影響を及ぼしたボブ・ディランのスタイルを踏襲。当時、ディランのバックを務めたブルース・ラングホーンをほうふつさせるギター演奏なども再現している。
2、「タイからパクチ」
- 加藤
- タイトルは幸ちゃんだね。いきなり。
- 坂崎
- 語呂合わせは得意なんですけど、それを発展させるのが加藤さんで「こんなのどう?」って、すぐに完成させちゃう!。早いんですよ(笑)。
- 加藤
- はっぴいえんどの持ってる叙情性って、日常をポッと切り取って来た松本(隆)くんの詞のよさってあったじゃない。それをちょっとやりたかった。これは単に普通にケンカしたカップルがいて、そこにタイ・カレーあるっていうだけの話なんだけど(笑)。
- 坂崎
- これ、録音してる時に、メンバーがタイ・カレー頼んでましたからね(笑)。
- 加藤
- そう、毎日食ってたよね、タイ・カレー(笑)。
- 坂崎
- 毎日食ってましたよね(笑)。だから、これを聞くと食いたくなる。
*タイトルは「はっぴいえんど」の「はいからはくち」にちなんだもの。曲調は「はっぴいえんど」の「かくれんぼ」を下敷きに、独自に展開。「かくれんぼ」のイントロのリフ、曲調の下敷きになったクロスビー・スティルズ&ナッシュの「ウッドン・シップ」での演奏展開や、スティーヴン・スティルズ・スタイルの生ギター、エレキのスタイル、ニール・ヤング特有のフレーズなども織り込まれている。
3、「ナスなんです」
- 加藤
- このタイトルも幸ちゃん。で、即、歌詞をつけたのが、僕。歌詞と共にメロもできちゃった。で、これは「「ザ・バンド」でいこう!」って。こういうカントリー・ロックは、なかなか今どき、ね(笑)。すたれた“トキ”のような(笑)。
- 坂崎
- “トキ!”、天然記念物のような(笑)。
- 加藤
- “ナス”は擬人法で。まあ、少数民族の悲哀というか――そこまでは言ってないけど、そうとも取れるじゃない?(笑)。“おたんこナス”っていうのは、色街言葉なんだって。こういうことは、即、調べるんです、坂崎くんは。
- 坂崎
- “おたん”っていうのは、“短い”。
- 加藤
- “短い”で“お短”。“小茄子”だから“おたんこ・なす”じゃなくて“お短・小茄子”。色街で遊女がイヤな客のことを男のモノに例えて「アイツ、小せえヤツ」ってことで“お短さん、お短さん”とかって言って。それに“小茄子”がついて、“お短・小茄子”ってことからイヤな客のことを“おたんこなす”!
- 坂崎
- 勉強しながらやるんですよ(笑)。
*タイトルは「はっぴいえんど」の松本隆作詞、細野晴臣作曲による「夏なんです」にちなんだもの。曲調、演奏は、ザ・バンドの「ザ・ウエイト」が下敷きのようだ。マンドリンは坂崎幸之助によるもの。裏声によるヴォーカル、コーラス、リード・ギター、ピアノ、アコーディオンの演奏などもザ・バンドのそれに倣っている。
4、「あたし元気になれ」
- 加藤
- ほとんど幸ちゃんが作って、詞は僕がちょこちょこっといじくった。「あたし元気になれ」って、ちょっと自閉症的な女の子の……。
- 坂崎
- 自分を励ます、みたいな。
- 加藤
- 抜けらんないという。で、この転調攻めが、ちゃんと“はっぴい様式”!
- 坂崎
- 途中でちゃんと大瀧さんが出て来るし。詞が先に出来て、曲はなかなかできなかったんです、最後まで。なかなか曲調が浮かばなくて。サビだけのコード進行があって……
- 加藤
- そっから前へたどっていったっていう。で、転調の嵐になっちゃった(笑)。
- 坂崎
- 頭に細野さんが出て、サビで大瀧さんが来たら「どういう曲になるかな〜?」みたいな(笑)。そういうコラボは(「はっぴいえんど」には)なかなかなかったですもんね。で、曲を作り出したら、意外と出来上がるのは速かったですね。
- 加藤
- エレキ・ギターは茂です。「もう、これは茂しかないだろう!」って頼んで(笑)。(『風街ろまん』)そのまま、ファイアーバードとデラックス・リバーブを使って。一日がかりで録音していました!(笑)
*タイトルは「はっぴいえんど」の松本隆の作詞、細野晴臣による「あしたてんきになあれ」にちなんだもの。曲調は同コンビによる「風をあつめて」をベースに、独自の展開を見せながら、大瀧詠一風のメロディも織り込まれている。「風をあつめて」は、当初、はっぴいえんどの『はっぴいえんど』収録されていたが発表前にカットされ、その後、改作した別バージョンが「風街ろまん」に収録された。
5、「池にゃ鯉」
- 加藤
- タイトルは「春よ来い」からなんだけど、ぜんぜん曲は似てないんだ。
- 坂崎
- ですが、2番に「ハルよ来い」って歌詞があるよ!(笑)。
- 加藤
- はっぴいえんどって妙に都会的なんだけどさ、田舎なところもあるじゃない。風景的に。「お正月と言えば〜」って、東京の正月よりもさ、青森の正月の感じがするじゃない、やっぱり(笑)。だから、そういうちょっと田舎の感じも出したいかな、っていう。松本くんの叙情性、田舎感です。最後オチがついて、やっぱり都会には住めねえな、みたいな……。曲はニール・ヤングの「サザーン・マン」みたいなんですけど。どうしてもニール・ヤングやりたくなって。
坂崎、頭は「ハート・オブ・ゴールド」で、後半は「サザーン・マン」。
- 加藤
- それを混ぜ合わせるところが――「ワザ!」です。僕らクリックなんか使ってないし、途中で編集ってのがイヤだから、完全に最後まで、ホントにライヴでやりました。でも、大変だった(笑)!ちゃんと緊張感も作らなきゃなんないしさぁ。で、どうしても10分やりたかったのね(笑)。それがねえ、8分で終わっちゃった…。
- 坂崎
- オリジナルでは一回静まるところがあるじゃないですか。ドラムとベースだけになって。で、そこもちゃんと入れて!
- 加藤
- どうでもいいようなくだらないソロを延々やってるんだったら出来るんだけど、それじゃイヤだからさ。で、これはちゃんとホントの「ホワイト・ファルコン」、(スティーヴン・)スティルスが使ってるのを使ってます。グレッチのちゃんと古いやつ。オリジナルですよ(笑)。
- 坂崎
- それが真ん中に「ドーン!」といますから。
*タイトルははっぴいえんど「はっぴいえんど」の松本隆作詞、大瀧詠一作曲による「春よ来い」にちなんだもの。曲調、演奏展開は、ニール・ヤングの「心の旅路/ハート・オブ・ゴールド」を下敷きとした展開に始まり、「サザーン・マン」の演奏部分に倣ってギター・バトルが繰り広げられる。主題部における左トラックから聞こえるエレキ・ギターのフレイジングははっぴいえんどの『はっぴいえんど』における鈴木茂のスタイル、エッセンスを踏襲。ギター・バトル時における中央のリード・ギターはスティーヴン・スティルスのそれに倣ったもの。
6、「もしも、もしも、もしも」
- 加藤
- これやろうって言ったのは、坂崎くんで。で、なんとなく「これ、「ジュディ・ブルー・アイズ(「組曲・青い瞳のジュディ」)」になるよな!」とかって言って。そういうアイデアは同時に出るんだよね。
- 坂崎
- で、やるなら、どうせやるなら…
- 加藤
- とかって、それが、いきなりギター(のチューニング)を下げ始めて(笑)。
- 坂崎
- 「Dじゃ低いから、全部上げちゃいましょう」って言って、Eにして。
- 加藤
- 「スティルス・チューニング」なんだけど、全音上げでやってみたら、出来た!
- 坂崎
- 「ああ!ばっちり、ばっちり!」って言って。
- 加藤
- すぐ出来ちゃった。
- 坂崎
- どうせやるんだったら「お作法」は全部入れよう、と。レスリーを通したエレキとか。途中でドラムが入って来るんですよ、左だけ。あの辺も全部。
- 加藤
- ギター叩きもあったし。最後に「♪ヨボセヨー アニョンハセヨ〜♪」ってやってるんだけど!ほら、向こう、スティルスはスペイン語でやってるじゃない?アメリカ人にとってのスペイン語っていうのは、僕らにとってハングルじゃないか、って(笑)。
- 坂崎
- そこは、結構――なかなか気づいてもらえないかもしれない、ですけどね(笑)。
- 加藤
- ハーモニーは、やっぱり幸ちゃん、天才的ですからね。
- 坂崎
- いやいやいや!。
- 加藤
- すご〜い大変なのね。でも幸ちゃん、うまいからね。4声ぐらいを2回重ねるとか、それぐらいのもんで。あんまり厚くしすぎても、ダメなんですよ。いろいろ難しい。それに、ずらすっていうか、まあね、いろいろあの……別にヒミツはないんだけど(笑)。
*加藤和彦の2枚目のソロ作『スーパー・ガス』(71年5月発表)の収録曲で、松山猛作詞、加藤和彦作曲によるカバー作品。それをクロスビー・スティルズ&ナッシュの「ジュディ・ブルー・アイズ/「組曲・青い瞳のジュディ」に倣い、生ギターによる演奏をバックにし、マルチ・ダビングによるコーラスがフィーチャーされている。
7、「カレーライス」
- 坂崎
- 見事な「カレーライス」!(笑)。
- 加藤
- ある日突然、僕の所にメール来て「こんなんでどうでしょう?」って、もう出来上がってた(笑)。
- 坂崎
- オープンDチューニングで、なにかカバーを1曲やろうと思ってたんですよ。フォークのカバーっていっぱいあるじゃないですか、コンピレーションものでも。でも、意外と「カレーライス」をやってない!(笑)。
- 加藤
- それに、やってカッコいい曲って、なかなかないよね。これはもう、ホントなんか洋楽のようになっちまった(笑)。
- 坂崎
- 洋楽のような、オリジナルのような。
- 加藤
- まあ、気配はCS&Nだけど。でも、ホントにギター1本。「(マーティン)D45」じゃないと、あのガーンって音、出ないんですよ。で、CS&Nのすごいとこってギター、生ギターを多用してるんだけど、すごいロックじゃない。それをやりたかった。
- 坂崎
- フォーク・ソングじゃないですよね、ぜんぜん。それは、僕の加藤さんが一番一致してるとこで、フォーク・ギターで表現するんだけども、実はロック。
- 加藤
- 「生ギ!」とあなどってはいけない(笑)。
*オリジナルの「カレーライス」は遠藤賢司の作詞、作曲による作品で『満足出来るかな』の収録曲であり、シングルとしてもヒット。イントロはCSN&Yの「ファインド・ザ・コースト・オブ・フリーダム」を思わせる他、CS&Nの「ヘルプレス・ホーピング」、CSN&Yの「4+20」など、スティーヴン・スティルスの作詞、作曲による作品でのコーラス、ギターのエッセンスを要約し、独自の展開を見せる。最後に『デジャ・ヴ』の「キャリー・オン」におけるコーラスも踏襲。
8、「OHAYOU」
- 加藤
- これは、単に「オハイオ」のこじつけだけで(笑)。
- 坂崎
- ニール・ヤング風ですよね。
- 加藤
- 「デジャ・ヴ」とも言える(笑)。
- 坂崎
- 後半に「デジャ・ヴ」が出て来ます。
- 加藤
- ちゃんと6弦バンジョーでやってますからね。で、はっぴいえんども超えちゃって、ニール・ヤング・トリビュート。歌詞は朝餉の風景。暗〜い朝餉の風景(笑)。爽やかじゃないよ、朝なのに。
- 坂崎
- 洋風メロディに、和風な歌詞が載っかるという。
- 加藤
- 和風な歌詞!。
- 坂崎
- 「お作法」、「お作法」ですよね。
- 加藤
- うん、やっぱ、だからそういうひとつの「様式美」。「はっぴねんど」の。
*オハイオ州デイトンのケント大学での学園紛争の際、4人の学生が国防軍によって射殺された事件をもとにニール・ヤングが作詞、作曲。シングルとして急遽発売されてヒット。08年12月、GRAMMY HALL OF FAMEに選出された。曲調はニール・ヤングの「オールド・マン」はじめ、ニールのフォーク調の弾き語り作品が下敷きになったようで、はっぴいえんどの「朝」、「はっぴいえんど」を思わせるところも。途中からはデヴィッド・クロスビーの作詞、作曲による「デジャ・ヴ」を思わせる展開になる。
9、「花街ロマン」
- 坂崎
- このテーマがまたおもしろいんですよね。(主人公の)オヤジが、何をやってるかわかんないわけで(笑)。
- 加藤
- これ、湯河原ですから、湯河原。
- 坂崎
- 湯河原?(笑)。向島じゃないんですか?
- 加藤
- 湯けむりが立ち昇る風景が見えるでしょ? 最初、“色街”とかってあったんだけど、やっぱ“花街”ってきれいだしね。まあ、京都の「上七軒」とも言えるんだけど、湯河原のが近いんじゃないか、って。あとはもう、完全に細野さんへのトリビュートです。
坂崎、風景がホントにおもしろい。このお父さん、なんで仕事やめちゃったのか、って。
- 加藤
- そんなの知りませんよ(笑)!そういうなんか“ナゾ”な歌詞がいっぱいあるよ、松本くんの詞も。「はっぴいえんど」のおもしろさって、つげ義春の漫画みたいに、裏にドサーーッと何かがある感じ、“ナゾ”がいっぱいあるんですよ。それに「最近、こういうの作ってないよね、細野さん」というメッセージを入れて(笑)。
- 坂崎
- これはギター、ギブソンなんです2人とも。やっぱりジェームス・テイラー、ってことで。
- 加藤
- だって、細野さんのあの歌い方の元はジェームス・テイラーでしょ?どっちかっていうと。だから、その元を辿った、という。
*タイトルははっぴいえんどの2枚目のアルバム『風街ろまん』にちなんだもの。曲調は『風街ろまん』以来の細野作品を下敷きに、そのメロディ、歌詞のエッセンスを要約し、展開したもの。典型的な細野メロディーが登場するほか、“洗い物じゃぶじゃぶ”、“いつもぶつぶつ”など、細野作品の歌詞の特徴のひとつであるオノマトペ表現なども。
10、「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」
- 加藤
- これ、幸ちゃんが突然「やろうよ」って。うちで、ちょっとしたプリプロやってて、幸ちゃんが「これ、やりたいな!」って言って。「歌詞あるかな?」って検索したら、出て来て、もう、即、僕がオケを作ったよね(笑)。で、すぐ出来ちゃって。
- 坂崎
- 僕、かまやつさんのバック、やってたことあって。その時に一緒にやらせてもらってたんですよ。
- 加藤
- 似てんの!。
- 坂崎
- そうですね。やっぱりず〜っと(かまやつさんのを)隣で聞いてましたから(笑)。
- 加藤
- ハハハハハハ。でも、かまやつさんのは、もっとイイカゲン(笑)。
- 坂崎
- それで味があるんです、逆にね。サビで2声でハモるっていうのは、かまやつさんも、結構、喜んでましたよね。
- 加藤
- これはもう、至難の業!(笑)。
- 坂崎
- これが一番大変だった(笑)。
- 加藤
- 「勝手に歌っといていいよ」って幸ちゃんに言ったのはいいけど、ハモるのが大変だった(笑)。
- 坂崎
- 結局、ラップじゃないですけども、言葉のノリが…
- 加藤
- 字余りの極地だもんね、これ、歌自体が。で、最後、「どうせならムッシュ呼ぼうよ」って、電話かけたら「いいよー!」って来てくれて。♪シャバッダバ〜ッ♪ってやってくれた。
- 坂崎
- 意外と本家の方は、タワー・オブ・パワーが入ってて、なんかもっと…
- 加藤
- わけわかんないよね、ボボボボ・ボボボボ言っててね(笑)。
- 坂崎
- そうなんです(笑)。だから、これの方がなんかフランスっぽい感じがするんですね。
“トレビアン!”、“アザブ・ジュバ〜ン”な感じが!(笑)。
*かまやつひろし作品のカバー曲。ソウル・ジャズ風の演奏だが、アコーディオンが参加するなどフレンチ的な趣のサウンドを展開。トゥーツ・シールマンス風のハーモニカが洒落た大人の味わいを醸し出しているのも一興。かまやつひろしのスキャットも洒脱で、作品を味わい深いものにしている。
11、「自由への長い旅」
- 坂崎
- これは加藤さんがやろうって。
- 加藤
- 僕がやりたい、って言ってね。
- 坂崎
- 逆な感じでしょう?。
- 加藤
- やりたいと思ってね。ただ、フツーにやっちゃうと、岡林のが良いのに決まってるじゃない? そこでひねくり出したのがバーズ(笑)。比べようがないようにしとけば、優劣がつかないだろう、っていう(笑)。それに、これ、いい曲だと思うし、とっても洋楽的な曲ですよね。で、詞も深い。そういう点では、非の打ち所がない――まあ、岡林の作品にはいっぱい良い曲あるけど、僕らがやって、出来る曲っていうのは、ホント、少ないと思うね。で、これ、好きだったし、いつかやりたいと思ってて。これぞ、いい機会という……すごくシンプルだけど、深いからね。
- 坂崎
- そうですよね。あと、1曲目の「ひっぴいえんど」からの「締め」、「花」をアンコールとして見ると本編の締めくくり。それに岡林の「自由への長い旅」のバックは「はっぴいえんど」だったから『ひっぴいえんど』では「はっぴいえんど」ぽくないアレンジでいこう、って(笑)。逆に、屈折して(笑)。
- 加藤
- ひねくれて!同じにやったんじゃ、意味ないしさ。
- 坂崎
- ぜんぜん「はっぴいえんど」とは違うサウンドに……。最後のコーラスも、「じゃあ!」って、「もう、思いっ切り厚くしちゃいましょう」って(笑)。
- 加藤
- 思いっ切り「バーズだ!」って(笑)。
- 坂崎
- これ、コーラスが一番(沢山)入ってますよね。
- 加藤
- 6声ぐらいを2回分ぐらい重ねて入ってるから、12声ぐらい入ってる(笑)。
*岡林信康作品のカバー曲で『見る前に跳べ』に収録されている。素朴なハーモニカ演奏が当時のフォーク系作品の面影を伝えるが、オリジナルのプリミティヴなフォーク・ロックのエッセンス、シンプルなスタイルを取り入れながら、リズム、グルーヴに重点を置いたタイトでストレート、パワフルな演奏、サウンドを展開。マルチ・ダビングによるコーラスのアンサンブルの妙が聞き所だ。
12、「花」
- 加藤
- 「花」は幸ちゃんが見つけて来て、やりたいって言って。
- 坂崎
- ジェームス・テイラーのアルバムに「オー、スザンナ」が入ってるんですよ。スタンダード・ナンバーを、メジャー7thコードで歌ってる。「そういう感じで、なんかできないかな〜」と思って。「日本のスタンダード・ナンバーを、メジャー7コードで!
- 加藤
- 無理矢理ジェームス・テイラーみたいに歌ってんの(笑)。
- 坂崎
- 3番で「じゃあ、もっとコード展開すごくしよう」って言って…
- 加藤
- ドハモになっちゃって。
- 坂崎
- (笑)そこだけ、世界、変わっちゃいましたけどね。
- 加藤
- 意外と、なんかこういうの歌が好きだよね、僕らって。
- 坂崎
- これはでもホントに情景が浮かぶし、名曲ですよね。
- 加藤
- 滝廉太郎はすごい。
- 坂崎
- あと、「花街ロマン」につながりますよね。あのオッサンが、ふらふらと川の土手を歩いてる感じが(笑)。
*「花」は滝廉太郎の作曲による歌曲集『四季』の1曲で、歌詞は武島羽衣による。彼等自身が語っているようにジェイムス・テイラーが取り上げたスティーヴン・フォスターの「オー・スザンナ」をヒントにアレンジ。ギター演奏にそれが反映され、さらに、2部合唱曲である原曲の持ち味を生かし、コーラスに工夫がなされている。
ボーナス・トラック
13、「アーサー博士の人力飛行機」
- 加藤
- これはライヴでやってたやつなんで。アイデアを持って来たのは幸ちゃんで。僕から「やろう」とは言わないもんね、ゼッタイ(笑)。曲自体は好きだったですけど、やるにあたってちょっとアレンジをしてやった方がいいな、っつうことで。
- 坂崎
- で(CS&Nの)「ウッドン・シップ」をいただいたりなんかして(笑)。で、ライヴの時んは「池にゃ鯉」の時のように「サザン・マン」のパートをケツにガーッとくっつけてギター・バトルをやってました。あと、こういう曲はやっぱり残った方がいいと思ったから。もっと聞いてもらいたいっていう。曲の一ファンとして。やっぱり、フシギな世界持った曲だし、メロディの展開もおもしろいし。当時としてはすごい斬新な曲だったから。今、アレンジし直してやったら、おもしろいなと思いました。
*加藤和彦の『スーパー・ガス』の収録曲から。作曲は加藤和彦、作詞は松山猛。ニール・ヤングの「サザーン・マン」などを下敷きにした演奏、サウンド展開で、右トラックのエレキ・ギターはニールのスタイルを踏襲。コーラスではCS&N的なスタイルを取り入れ、クロース・ハーモニーを披露。
14、「ふしぎな日」
- 坂崎
- これも去年のライヴで……。
- 加藤
- 「フォルクローレでやったらおもしろいな」とかっていう(笑)、単なる思いつきでやってみたら、ヒジョーに良い。それっぽいアレンジで(笑)。『ゴールデン・ヒッツ』の「鎮静剤」を引き継いでる。だから、ボーナス・トラック、っていう形で。こういう世界は、誰もやってないだろう!という(笑)。(フォルクローレ物は)ポール・サイモンが好きだから、2人とも。そういう窓口もあるんで。
- 坂崎
- この2曲は、歌も2人で替わりばんこで歌ってますけど、意外と、わかんない。
- 加藤
- どっちが誰だか。わからない(笑)。
- 坂崎
- よく聞かないと、わからない(笑)。
*前作同様、加藤和彦の2作目のソロ・アルバム『スーパー・ガス』の収録曲からで、作曲は加藤和彦、作詞は松山猛。サンバ風のリズミカルな展開だが、チャランゴがフィーチャーされ、フォルクローレ風や中南米のラテン的な要素が取り入れられている。それに対してメロディ、歌は甘く、せつない趣があり、叙情的な味わいがミックスされた作品になっている。