DISC REVIEW
『カーテンコール』
インディーズでリリースした『my』『take』『soon』という3枚のミニアルバムで、reGretGirlは「失恋を歌うバンド」としてのキャラクターを確立させた。キャラクターというか、そもそも平部雅洋がこのバンドを結成した動機が「バンドで有名になって自分を振った彼女を後悔させてやる」というものだったのだから、失恋の痛みや切なさを歌い続けることこそが彼らの本質でもあったわけだ。自ら「三部作」と呼ぶ3つの作品はその本質を世に知らしめる重要なピースだったのである。そしてその本質はじわじわと音楽ファンに広がり、その結果として、彼らはついにメジャーの舞台に立った。
メジャーからの初リリースであり、彼らにとって最初のフルアルバムとなる今作『カーテンコール』とはどんなアルバムか。それは一言でいうなら「reGretGirlの新しい始まり」である。もちろん失恋の歌はある。別れの予感が色濃く漂う曲や、過去の痛みを思い返すような曲もある。だがそれらと並んで、これまで見せてこなかった自分自身の思いや日常、そして幸せな愛の姿を歌う曲もある。つまり、新しいフィールドでの第一歩であるこのメジャー・デビュー作で、reGretGirlは自分たちで決めた枠を全力で蹴破り、新しいバンドの姿を見せつけているのだ。
平部の地元を通る国道の名前をタイトルにしたオープニング・ナンバー「ルート26」の疾走するギターサウンドからこのアルバムは始まる。《大人にはまだなりたくないよ》と言いながら同時に《全て戻らないことくらいはわかっている》とも歌うこの曲には、恋愛だけではない、もっと根本的な平部の姿勢や信条が書き連ねられている。今まで彼らの音楽に親しんできた人であればあるほど、これを聴いた瞬間に驚きを感じることだろう。これまで見てきたバンドの姿は、さまざまなものが入り組んでできあがっている人間の、ある一面でしかなかったということに気付かされるからだ。
そしてその驚きは、4曲目のタイトルトラック「カーテンコール」で確信に変わることだろう。ストリングスが鳴り渡るバラード「カーテンコール」の美しいメロディとサウンド、そして《愛しい僕の最後の人よ/「最後でよかった」って言えますように》という言葉で締めくくられる歌詞。ここにはどこまでもビッグ・スケールで普遍的な音に乗せて、力強い愛を歌うreGretGirlがいる。一部楽曲で外部のアレンジャーを迎え入れて音楽性をアップデートしているのが今作の大きなポイントだが、この「カーテンコール」はそのうちの1曲。シンガーソングライターであり、作曲家/編曲家としても活躍する磯貝サイモンとの共同作業が、バンドの音楽性に思い切り新しい風を吹かせている。磯貝はアレンジだけでなく歌詞の部分でもさまざまなアドバイスをバンドに与えたそうで、その結果「カーテンコール」はまさに新しいreGretGirlの姿を象徴する1曲となった。
アレンジャーとタッグを組んで生まれた曲は「カーテンコール」のほか「グッドバイ」と「Longdays」の2曲。それぞれ柿澤秀吉と坂本夏樹という、パーソナリティもバックグラウンドにある音楽性も違うクリエイターがアレンジャーとして参加し、reGretGirlのスリーピースのアンサンブルに新鮮な色を付け加えている。前田将司のドラムが叩き出すソウルフルに跳ねるリズムが印象的な「グッドバイ」では平部の書くメロディが持っているポップネスが花開き、90年代のブリットポップを彷彿とさせる分厚いギターとどっしりと構えた十九川宗裕のベースラインによって構築されたウォール・オブ・サウンドとその上を躍るピアノの音色が、孤独(平部によればこれはコロナウィルスの影響による外出自粛期間中の心情を投影したものだという)を歌うこの曲全体を後押しするように鳴り響いている。
バンドにとって外部アレンジャーを召喚するというのはときに諸刃の剣だが、今作においてはいずれもreGretGirlがもともと持っていたものを引き出すためのブースターのような役割を果たしている。おそらく曲作りやレコーディングの現場ではバンドとアレンジャーのあいだで濃密なコミュニケーションが繰り広げられていたのだろう。単に新しいオプションとしてではなく、バンド自身の未来を懸けてこうしたトライアルが行われていたのだということを、完成した楽曲自身が物語っているのだ。
未来、ということでいえば、平部が書く歌詞にもそれは顔をのぞかせている。上に書いた「カーテンコール」はもちろん、たとえ失恋をモチーフにした曲でも、主人公は決してそこに留まってはいない。過去を振り返りながらもその一歩先を歌う「スプリング」や「胸の内を聞かせてほしいだけ」には、少しだけ大人になった視点から過去の失恋を捉え直すような感覚がある。新しい場所に行きたい、新しい自分たちを見せたい、そんな強い意思が、意識的にしろ無意識的にしろ、今作を貫いている。
そんなバンドのモードと、今作の制作を通して手に入れた新しい武器が合わさって感動的なレベルにまで高められているのが、アルバムの最後を飾る「約束」だろう。平部が初めてピアノで書いたというこの曲のシンプルでありながら味わい深いサウンドには、今だからこそ鳴らせるreGretGirlが詰まっていると思う。スリーピースバンドとしてのこだわりとプライドも胸に活動をしてきた彼らだが、ピアノと抑制の効いたバンド・サウンド、そして美しいコーラスワークが、もうそんなこだわりやプライドすらはるかに超えた場所で彼らが音楽を奏でていることを雄弁に物語る。そしてこの曲のアウトロの先には、バンドとしての引き出しをますます増やしながら広がっていくであろうreGretGirlの未来が待っている。
もはやreGretGirlは失恋というわかりやすい代名詞だけで語られるべきバンドではない。彼らが目指しているのは、もっと大きな自分たち自身だ。この『カーテンコール』はその第一歩として、あまりにも眩しい輝きを放っている。
『カーテンコール』
インディーズでリリースした『my』『take』『soon』という3枚のミニアルバムで、reGretGirlは「失恋を歌うバンド」としてのキャラクターを確立させた。キャラクターというか、そもそも平部雅洋がこのバンドを結成した動機が「バンドで有名になって自分を振った彼女を後悔させてやる」というものだったのだから、失恋の痛みや切なさを歌い続けることこそが彼らの本質でもあったわけだ。自ら「三部作」と呼ぶ3つの作品はその本質を世に知らしめる重要なピースだったのである。そしてその本質はじわじわと音楽ファンに広がり、その結果として、彼らはついにメジャーの舞台に立った。
メジャーからの初リリースであり、彼らにとって最初のフルアルバムとなる今作『カーテンコール』とはどんなアルバムか。それは一言でいうなら「reGretGirlの新しい始まり」である。もちろん失恋の歌はある。別れの予感が色濃く漂う曲や、過去の痛みを思い返すような曲もある。だがそれらと並んで、これまで見せてこなかった自分自身の思いや日常、そして幸せな愛の姿を歌う曲もある。つまり、新しいフィールドでの第一歩であるこのメジャー・デビュー作で、reGretGirlは自分たちで決めた枠を全力で蹴破り、新しいバンドの姿を見せつけているのだ。
平部の地元を通る国道の名前をタイトルにしたオープニング・ナンバー「ルート26」の疾走するギターサウンドからこのアルバムは始まる。《大人にはまだなりたくないよ》と言いながら同時に《全て戻らないことくらいはわかっている》とも歌うこの曲には、恋愛だけではない、もっと根本的な平部の姿勢や信条が書き連ねられている。今まで彼らの音楽に親しんできた人であればあるほど、これを聴いた瞬間に驚きを感じることだろう。これまで見てきたバンドの姿は、さまざまなものが入り組んでできあがっている人間の、ある一面でしかなかったということに気付かされるからだ。
そしてその驚きは、4曲目のタイトルトラック「カーテンコール」で確信に変わることだろう。ストリングスが鳴り渡るバラード「カーテンコール」の美しいメロディとサウンド、そして《愛しい僕の最後の人よ/「最後でよかった」って言えますように》という言葉で締めくくられる歌詞。ここにはどこまでもビッグ・スケールで普遍的な音に乗せて、力強い愛を歌うreGretGirlがいる。一部楽曲で外部のアレンジャーを迎え入れて音楽性をアップデートしているのが今作の大きなポイントだが、この「カーテンコール」はそのうちの1曲。シンガーソングライターであり、作曲家/編曲家としても活躍する磯貝サイモンとの共同作業が、バンドの音楽性に思い切り新しい風を吹かせている。磯貝はアレンジだけでなく歌詞の部分でもさまざまなアドバイスをバンドに与えたそうで、その結果「カーテンコール」はまさに新しいreGretGirlの姿を象徴する1曲となった。
アレンジャーとタッグを組んで生まれた曲は「カーテンコール」のほか「グッドバイ」と「Longdays」の2曲。それぞれ柿澤秀吉と坂本夏樹という、パーソナリティもバックグラウンドにある音楽性も違うクリエイターがアレンジャーとして参加し、reGretGirlのスリーピースのアンサンブルに新鮮な色を付け加えている。前田将司のドラムが叩き出すソウルフルに跳ねるリズムが印象的な「グッドバイ」では平部の書くメロディが持っているポップネスが花開き、90年代のブリットポップを彷彿とさせる分厚いギターとどっしりと構えた十九川宗裕のベースラインによって構築されたウォール・オブ・サウンドとその上を躍るピアノの音色が、孤独(平部によればこれはコロナウィルスの影響による外出自粛期間中の心情を投影したものだという)を歌うこの曲全体を後押しするように鳴り響いている。
バンドにとって外部アレンジャーを召喚するというのはときに諸刃の剣だが、今作においてはいずれもreGretGirlがもともと持っていたものを引き出すためのブースターのような役割を果たしている。おそらく曲作りやレコーディングの現場ではバンドとアレンジャーのあいだで濃密なコミュニケーションが繰り広げられていたのだろう。単に新しいオプションとしてではなく、バンド自身の未来を懸けてこうしたトライアルが行われていたのだということを、完成した楽曲自身が物語っているのだ。
未来、ということでいえば、平部が書く歌詞にもそれは顔をのぞかせている。上に書いた「カーテンコール」はもちろん、たとえ失恋をモチーフにした曲でも、主人公は決してそこに留まってはいない。過去を振り返りながらもその一歩先を歌う「スプリング」や「胸の内を聞かせてほしいだけ」には、少しだけ大人になった視点から過去の失恋を捉え直すような感覚がある。新しい場所に行きたい、新しい自分たちを見せたい、そんな強い意思が、意識的にしろ無意識的にしろ、今作を貫いている。
そんなバンドのモードと、今作の制作を通して手に入れた新しい武器が合わさって感動的なレベルにまで高められているのが、アルバムの最後を飾る「約束」だろう。平部が初めてピアノで書いたというこの曲のシンプルでありながら味わい深いサウンドには、今だからこそ鳴らせるreGretGirlが詰まっていると思う。スリーピースバンドとしてのこだわりとプライドも胸に活動をしてきた彼らだが、ピアノと抑制の効いたバンド・サウンド、そして美しいコーラスワークが、もうそんなこだわりやプライドすらはるかに超えた場所で彼らが音楽を奏でていることを雄弁に物語る。そしてこの曲のアウトロの先には、バンドとしての引き出しをますます増やしながら広がっていくであろうreGretGirlの未来が待っている。
もはやreGretGirlは失恋というわかりやすい代名詞だけで語られるべきバンドではない。彼らが目指しているのは、もっと大きな自分たち自身だ。この『カーテンコール』はその第一歩として、あまりにも眩しい輝きを放っている。
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