ザ・コレクターズ

Information インフォメーション

  • 『東京虫BUGS』コレクターズ・加藤ひさしインタビュー 

    ●3年ぶりなんて枕詞をぶっ飛ばすすんごいアルバムが届きました。『東京虫BUGS』、まず手応えからお願いします。
    「んー、自分の中で旬感を出すのって、環境的にも、気持ち的にも、昔の方が全然ラクだったりするじゃない?そう思えばさ、今回作った曲がダントツに突き抜けててスゲェーっていう気にはなかなかならないよね。"未来のカタチ"の方がいい歌詞じゃないの?とか思ったりするもん、本当に」

    ●あらっ。今日は自慢話を聞きに来たくらいの気持ちだったんですけど。
    「自信ないよ。全っ然自信ない」

    ●いや、あの、最近ライブで新曲を披露されてますけど。例えば前作が出た頃というのは、やっぱり当時の新曲である「未来のカタチ」に1番グッと来て、逆に「世界を止めて」を聴くとちょっと古く感じたりもしたんです。
    「そうだよね。並べて一緒に聴くとね」

    ●もちろん今ライブで新曲「たよれる男」を聴いても、この曲が1番響くって思うんだけれども、「世界を止めて」もやっぱいい曲だなぁと感じられる。今作を作って、いろんなことに対してフラットになれたんじゃないかと思って。
    「やっぱりそれはね、フレッシュさを求められる以上、毎回1stアルバムを作ってますみたいな気持ちでインタビューを受けるしかないじゃない? 大ヒットアルバムの次ならばその続きだと言えるだろうけども、まぁコレクターズにそんな作品は1枚もないし。ただメジャー・デビュー20年で、DVD-BOXでアーカイブ作業も終了してるわけで。だからまぁなんでもアリとは言わないけれども、もうイギリス武装したコレクターズ・加藤ひさしじゃない。なんかこう、面白いヤツだと思われるような、そういういち個人になりたいとはすごく思った。畑違いではあるけど、みうらじゅんとか、リリー・フランキーとか、矢沢永吉とか、アイコン化してる連中っているじゃない? だったら加藤ひさしアイコンができるくらいにさ。音楽も、文化も、もちろんコレクターズも含めて、そういうところまで行きたいっていう気持ちは強くあるんだよ。それが「たよれる男」の歌詞の"甲本ヒロト"にも繋がって来るんだけど」

    ●おそらく、今までの加藤さんならば出て来なかったですよね。
    「うん。だから大絶賛してくれる人がいれば、スタイリッシュな加藤さんにそんなこと歌って欲しくないって意見もあってさ。けどそのリアリティこそが俺が1番面白がられる部分だから、今回はそういうのを迷うことなく出来たんだ」

    ●迷いがない。それ、まさに今回のキーワードだと思うなぁ。
    「そうかもしんない。だってここでヒロトを出しても、俺の中のモッズだったり、スタイリッシュに対する意識は全然変わってないんだもん。ポール・マッカートニー&ウイングスの「ロック・ショウ」って曲にジミー・ペイジが出てくんのよ。ポールにとって同世代のリアルなロックヒーローなわけ。なのに、君のギターはまるでジミーペイジの……みたいに歌うそのフレーズが聴こえて来た時に、すっごい粋だと思ったの。それはポールがプレスリー最高、ロックンロールキングだって歌ってるのとは全然違う。憧れなら誰だって歌えるけど、横並びで仕事してる相手を"お前はスゲェ"って言えるって、なかなかないじゃない? 甲本ヒロトもマーシーも同じライブハウスから飛び出した連中で、一緒に少ない客の前でやって来てさ。けど俺より全然先行っちゃってるし、彼らがいなかったら、どっかで諦めてたかもしんない。しかも未だに負けてらんねぇって気持ちを奮い立たせてくれる大切な存在だからさ」

    ●例えば「たよれる男」。タイトルだけ聞くとパワフルだけど、実はそういう男になりたいって歌で、自分はそうじゃないってことでもあって。ステージでは無敵な加藤さんが、ステージを降りていち個人になった時の表情が垣間みれるんですよね。自分を否定するところから出た強さっていうのをすごく感じる。
    「そう。あの歌詞の中では、ベッドでうっとりビックリさせてやるっていうのがさ、"どーだ、抱かれてよかっただろう"って言いたいのが、男としての加藤弥なわけだよ。で、ライブでバッチリキメるぜっていうのはコレクターズの加藤ひさしで。公私ともに目指してるのはこういうたよれる男なんだよっていう、加藤ひさし宣言みたいなものかなぁ。今まではそこまで書けてなかったもんね。いろんなメッセージソングやラブソングを描いて来たけれども、ここまで腹括って歌い切れてて、それでいてみんなのうたで流れてもいいくらいに耳馴染みのいい面白い歌は書いたことなかったから。そう、だから「たよれる男」を書いた時に、ようやく「世界を止めて」の呪縛から、あとは「TOO MUCH ROMANTIC!」を始めとする初期の呪縛からも逃れられた気がしたのね。「たよれる男」が先にできたから逆に、「ミッドナイトボートピープル」みたいな重たい歌もカラッと歌えたし」

    ●"犬が服着て歩く街で人が凍え震えてる"という下りは辛辣に響きました。
    「けど説教臭くなかったでしょ?」

    ●全然。むしろ恐いくらいリアルな曲を、こんなに可愛いメロディで、こんなにポップに響かせられるバンドって他にいないなぁと再認識させられましたよ。
    「リアルな歌を歌う時ってなんか、"深刻に歌わせていただきます"みたいになっちゃうじゃない?でも世の中って、何かが起きるのはいつも突然だから、心の準備する余地なんて一切ないからね。だからポップソングにそういうものを織り込むっていうのは、俺の中ですごく自然なことなんですよ。でもまぁ周りの人は上手にできないっていうか、構えちゃう人が多いよね。人生演出してもなかなかうまくいかないのに」

    ●ナルホド。「ミッドナイトボートピープル」がネットカフェ難民の現実を切実に描きながら、他の11曲もそれぞれにテーマを持ちながら、それでも"どんなふうに聴いてもらってもいいよ"って聴き手に委ねているスタンスなのも、そういうことなんですね。
    「そうそうそう。単純に俺の目には、昔、国を追われてベトナムとかからボートに乗って来たホントに行き場のない連中(=ボートピープル)と、今、日本中に増殖するネットカフェ難民がリンクするし、同じくらい悲しさを感じるんだよね。でもネットカフェ難民じゃなくたって似た思いでいる人はいるわけだよ。食うには足らなすぎる金だったり、しかも自分だけのせいじゃなく、這い上がれない人がすごいたくさんいる。それこそがこの国のシンボルと歌ったのはそういうところだよね。今や勝ち組・負け組って言葉さえ古くなってきちゃってるけど、負け組にスポットを当てるのは絶対必要でね。やっぱりそこを歌っていくことがロックの強さだと思うから」

    ●しかし加藤さんのそのシニカルな視線って一体どこから来てるんでしょう?
    「自分はまぁパンクス世代の1番上なんだけど。The Clashとか、The Jamとか、ああいうイギリスの1番不況な時に出て来たバンドがさ、すっごいハッピーなサウンドなのに訳詞見たらゾッとするような、ええー!みたいな歌を歌ってたじゃない?あのへんの影響もやっぱデカイよね」

    ●ほほぉ。歌詞についてもうひとつ、ずっと感じてたことがあって。コータローさん他、人に書く歌詞には、「青春ノークレーム ノーリターン」の"問答無用 貼り紙禁止"的な、わけわかんないけど伝わる。しかも最高に面白いっていう加藤節が炸裂していて。だけど加藤さん自身が歌う歌詞になると、独特の視線は色濃く出しながらも、ぶっ飛んだ加藤節は出て来てなかったなって。
    「それはね、自分のイメージみたいなものをハッキリさせた方が良いかなぁと思ってたから、靴や服を買ったりするのと一緒で、なんだかんだ言ってもフレッドペリーの呪縛から逃れられない。絶対それはあるんだよ。しょうがないんだよね。イギリス大好きで育って来ちゃったわけだから。バーバリーのコートだって、それがアメリカ生産だったら絶対買わないわけ。ところがイギリスだって言われた瞬間に、素材が悪くてもいっときますか!みたいな」

    ●ククク。だけど今作の「ザ モールズ オン ザ ヒルズ」で"セレブはゴージャスで とってもアーバン リッチでクリスタル"って歌われた時に、キタキタキター!って。確実に抜てる爽快感がありました。
    「そう!俺が生きてきた間にはアホな連中がいっぱい出て来たわけ。クリスタル族だったり、時には三井アーバンホテルっていうくらいアーバンって言葉がゴージャスに映ったり、そんな言葉に酔ってる時代が必ずあってさ。でも誰も使わなくなっちゃうじゃん。だったらそれを羅列したら面白いんじゃないかと思ったの。小里くんには"アーバンも、クリスタルも、死語じゃないっすか"って言われたんだけど、いやいや、死語だからいいんだよって」

    ●ホントに。だから見えて来るものがある。
    「うんうん。全部羅列したらヒルズも死語になる、その瞬間にね。だからバーンと並べたかったの。なのでまぁ自分では狙ってるんだけど、最後の部分はわかんないね。1番最初にも言ったけど、そうやって背中叩いてもらわないと、良かったのかわかんないんだわ」

    ●じゃあ私も初っぱなに言いましたけど、今回はメッチャいいです。とびきりです。それに聴き手にとっては毎回、コレクターズにしか作れないよなぁっていう面白いアルバムが着実に積み上がってますよ。
    「ああ、最近ホントに思ったのがさ、ロックバンドって今たくさんあるじゃない? で、その年に売れた4人編成、5人編成のエレキギターを持ったバンドのアルバムを聴くんだけど、なんか同じ匂いがするんだよね。みんな似てんの。そう思った時に、あっ、これが売れるってことなんだって痛感したの」

    ●わかりますけど……コレクターズにはその匂い、まったくないですね(苦笑)。
    「ハハハハ。そうなのよ。だから孤立するし、売りにくいんだろうなぁって」

    ●でもだから必要なんです、代わりは絶対にいないから。
    「それはね、今作に限らず毎回痛感する部分なんだ。プロデューサーの(吉田)仁さんも、いくらかでも今売れてるロックフィールドに近づけようと機材を屈指して作業してくれるんだけど、決して近づかなくってさ(苦笑)」

    ●ククク。決して隠せないアクが。
    「ホントにどうしても取り除けないアクがもう脈々とあって。今はそれが誇りだけどね。プライドだね」

    ●あとはこう、『東京虫BUGS』というタイトルを筆頭にすべての焦点を東京に当てつつも、実は日本、世界、地球、とにかく今が鮮明に伝わってきます。
    「そうそうそうそう。それこそ東京でも、台湾でも、ホーチミンでも、ニューヨークでも、ロンドンでも、まったく似たような現象が起こってるし。こんなにもネットで繋がった同時性があるわけだから、共通言語として機能する歌になってるよね。ホントにどこでもたよれる男は少ないし、どこでも街に向かってみんなが集まって来て飛ぼうとするし、どこでもバブルの上にふんぞり返りたいって思うヤツはいて、どこでも新聞紙掛けて寝てるヤツが現れて来る」

    ●そうやって不自由で不愉快な世界を11曲で描いといて、ラストの「ツイスター」で"吹き飛ばす 風になろう"で終わるって、ズルいなぁと思う。
    「ズルいんですよねぇ(ニンマリ)。けどそこがいいじゃない?卒業生に贈る言葉みたいなもんでさ、何百人もいる卒業生ひとりひとりにメッセージなんて考えてらんないから。明日は明日の風が吹きます。明日の風になってください。卒業オメデトー!みたいな。校長先生の挨拶だよ、いわゆる」

    ●寄って集っての"風が吹くさ"ってコーラスがまた最高!
    「ハハハハハ。そういういい加減具合も大切だよ」

    ●そのいい加減具合があるから、デビュー20周年、15枚目のアルバムで"ロックンロールバンド人生 終わりのないファンタジー"って歌えるんですね。
    「いや、あの曲で俺が言いたかったことはね、サビの3行目なの。"つらい事は忘れたぜ"って強がってるあそこだけ」

    ●クククク。やめられないんじゃないんだ。
    「それは楽しくてじゃないから。やめたら飯食えません、次ありませんっていうことだから」

    ●こんなに爽快なロックンロールが、そんな切実な曲だったとは?!
    「そこだよ、重要なのは。実際そういう人生の方が多いんだから。仕入れの値段ひとつで明日食えるかどうかっていう八百屋がいれば、会社の先行きが不安なサラリーマンだっている。それもロックンロールみたいなもんじゃない?そういうことが歌いたかったの。それでも人の暮らしは続くし、続けなきゃいけないっていうね」

    ●うんうんうん。今回のアルバムはジャケットも含めて決して流せない。必ず引っ掛かる。今の時代にピッタリ来てる気がします。
    「歌ってることも、リリー・フランキーが描いてくれたジャケットも、重いんだけどなんか軽薄な感じでね、今までで1番いいんじゃないかなって思うよ」

    ●ちなみに、リリーさんにお願いする際に何か注文をされたんでしょうか?
    「もう投げっぱなし。っていうのは、リリーさんと電話で話した時にね、俺が歌詞の内容と一緒に機関車トーマスが虫になった感じって伝えたら、"あっ、浮かんだ"って言われたんだよ。"アメコミな感じがいいよね"とか、どんどん具体案が出て来て、向こうがそこでピッシリきちゃったから。これはもうリリーさんの中の東京虫が出てくれば、きっと同じロック感に違いないと思って。そしたら想像以上にいいのができて」

    ●それは『東京虫BUGS』。このタイトルが呼んだものでもありますよね、きっと。
    「うん。俺自身もこのタイトルが出た瞬間、一気に開けたからね。それも無責任にポッと出て来たから。最初は『BUGS』に決めてて。普通にカッコイイけどなんかもの足りないなって、"新宿鮫"みたいなのがいいなぁって。なんとなくそっちの方が映画っぽいじゃん?かと言って『東京虫』じゃあピンと来ない。あっ、『東京虫BUGS』!くらいの勢い(笑)。それに意味的に重複しても、読んだ時の口の動きの気持ち良さって、『東京虫BUGS』は抜群だから。そこも大事だなぁって。うん。隅々まで抜かりないっす」

    ●そう考えると、今作のターゲットは全人類!っすか?
    「ホントにそうだね。聴いてもらわないとなんも始まんないし。ただバンドがメジャーと契約して20年休まずに来たっていうのは、ホントに奇跡なのね。その奇跡を確かにコレクターズは起こしてるわけで、その奇跡が起こった理由は必ずあるわけだよ。今バンド始めた君も、5年目に入った君も、それを確かめるためだけでもいいから聴いてくれと。このアルバムの中には発見がきっとあるから」

    ●しかしなんなんでしょう、今作の、というか、今の加藤さんの潔さは。
    「そーなんだよ。ほら、戦隊もの(獣拳戦体ゲキレンジャー)のエンディングテーマをお願いされた時もさ、悪い言い方すると、とにかくいい加減なんだよ。レッドはトマトでリコピンだ!なんて、どんどんどんどん止めどなく出て来ちゃうんだよ。ハハハハ。最近知り合いが若い女と付き合うようになって。夢中で"逢いたい"とかいうメールを打つと、"フヘー"って題名で返って来るんだって。"ちょっと疲れたぁ、フホー"とかって。その話を聞いた瞬間、頭の中に"解読不能意味不メール"ってタイトルが浮かんで来て(爆笑)。ああ、これ、25歳年下の男が歌う恋の歌にしたら相当面白れえなって。そんなバカ回路ができあがりつつあって、というか、そっちの方が輝き始めてんの」

    ●いや、いいと思う。加藤さんの新しい扉がパカッと開いたんだと思う。
    「あまりにコツコツやり過ぎて違う扉開いちゃったみたい。カカカ」

    ●ただそのエスカレート具体を考えると、次のコレクターズのアルバムがちょっと……
    「俺もスゲェ心配で。そんなのしか浮かばなくなったらどーしよう(喜)」


    インタビュー&テキスト 山本祥子
  • メジャーデビュー20周年記念。約3年振りの全曲オリジナル・アルバム完成!

    ALBUM
    2007/12/19 Release
    東京虫BUGS
    COCP-51057 / ¥3,150(税込)
    全楽曲試聴はこちら>>>

     

ページの先頭へ