堀込泰行 オフィシャルインタビュー

堀込泰行はかく語りき(その2)──『One』収録曲について

01. New Day
スティーヴィー・ワンダーとドナルド・フェイゲンと90年代以降のR&Bが混ざったような曲調にしようと思って。自分のなかにもこういうAORっぽいテイストっていうのもあるんだけど、たまにしか出してないっていうのと、そこはそんなに認知されてないっていう気持ちもあって(笑)。(西寺)郷太なんかが僕のこういう部分というか、ちょっと“シティー”なところにもフォーカスしたらおもしろいんじゃないかなあって言ってくれてたんで、僕もこういう曲ができてうれしいですね。アルバムの曲はとくに捻ろうとか考えず、無理にメロディーを作ろうとしないで、煮詰まったらすぐやめて、できるだけ自然であるということを心掛けて、っていう感じで、そこは前と変わらないですね。うん、強引にメロディーを作らないようにっていうところはいちばん拘りましたかね
02. Shiny
結構前に書いてた曲かな。イヴェントやライヴでもちょこちょこやってて、最初はギターをメインにしたアレンジだったんですけど、アルバムではピアノ中心に変えて。友達の矢野博康くんが、ピアノ中心にしたらおもしろいんじゃない?ってふうに言ってくれたんです。で、そのアイデアを活かしてみたら新鮮でおもしろいものになりましたね。いままでの自分だったら、イントロのリフは間違いなくギターで弾いてたと思うんですけど、ピアノ中心のアレンジにして、そこにギターが乗っかっていくっていう。いつもだったらギターで弾くところをピアノに置き換えたり、管楽器を加えたり、弦楽器を模したシンセの音を入れたりっていうところでちょっと変化を付けてるというか、味付けのちょっとした新鮮さみたいなものは考えましたね。
03. Waltz
三拍子の曲だから単純に「Waltz」って付けちゃったけど、英語で書くとかっこいいなあって。エリオット・スミスの曲に「Waltz #2」っていうのがあって、その時にも英語で“Waltz”って書くとかっこいいなあって。スワンプっぽい曲だから最初は「Swamp」っていう仮タイトルだったんだけど、ただまあ、ジャンル名を付けてもなあっていろいろ考えたあげく、「Waltz」かなあって。「ワルツに抱かれて」とかっていうタイトルも考えたんだけど、なんかちょっと歌謡感が出ちゃうというか(笑)。この曲も結構ライヴでやってて、ファンのあいだでは人気がある曲みたいなんですよ。こういう土臭い曲っていうのは人気ないんじゃないかなあって思ってたけど、そうでもないのかなあって
04. Wah Wah Wah
最初、チープ・トリックみたいなパワーポップ感というか、ギターがギャーン!みたいな感じで作ってたんだけど、アトラクションズみたいな感じに寄せられないかなっていうことでオルガンを足して、ギターよりもオルガンがちょっと目立つようなアレンジで作業を進めていきましたね。結果、チープ・トリックとアトラクションの中間ぐらいのところに落ち着いて。アトラクションズはですね、制作前によく聴いてたっていうわけでもなくて、エルヴィス・コステロみたいに、シンガー・ソングライターだけどバンドマンみたいな佇まいが良いなあって前から思ってて。ソロを進めていくにあたって、スタッフからはシンガーのほうに寄せていきたいっていう意見もあったんですけど、僕はバンド・サウンドが好きだし、バンドマンでありたいっていう気持ちが強いから、お互いの意見を着地させるところはどこかなあって考えていたときに、マイナーなパブ・ロックのアーティストを挙げるよりコステロとアトラクションズって言ったほうがわかりやすかなって、名前をよく出してましたね
05. ブランニュー・ソング
アルバムの曲は、ドラムの音なんかもいつもより硬質になっているというか、それはエンジニアの関口(正樹)くんが心掛けてたみたいなんですけど、この曲は前に録音してるのでちょっと音がやわらかいんですよ。でも、アルバムでは浮いてない。むしろ安心感があるというか、シングルのときよりもアルバムの中で聴いたほうが良いなあって思いましたね
06. Jubilee
2年か3年か前にリハビリみたいな感じで作った曲で、とりあえず作り始めて、メロディーはたいしたことないなあって思いながら(笑)。たいしたことないんだけどずっと頭の中で回っていて、耳から離れないから、じゃあちゃんと作ってみる価値のあるメロディーなのかなって思って。で、HARCOくんがやってるフェス(2014年4月21日「HARCOの春フェス 2014 in TOKYO」)に出させてもらったときに初めてやってみて、そのあともちょこちょこやってましたね。ライヴでやってた時は、イナタすぎるなあって感じでやってて……なんだろうな、歌詞はシンプルな言葉の繰り返しだけですごく気に入ってるんだけど、サウンド面とかメロディーとかのイナタさはどうにもならないものかなと。それが、レコーディングでアレンジを固めていったら、結構おもしろいところに落ち着きましたね。サウンドの風景の移り変わりが一曲のなかに収められたなあって
07. さよならテディベア
これはレコーディングが決まってからすべり込ませた曲。僕がダラダラしてる時期に、いろんな人に説教されて……みんな良かれと思って助言してくれて感謝してるんですけど、まとめて助言されると鬱陶しくなることがあって、それを思い出しながら歌詞を書いたんですよ(笑)。あれから時間が経って気持ちも落ち着いてるから、フィクションとして楽しめる歌になったんじゃないかなと思ってますね。酔っぱらってYouTubeを見てる時、決まって最後のほうになると38スペシャルとか中学生の頃にヒットしていたようなすごくダサいものを見はじめちゃんですけど、曲調にはそのへんの影響が出てますね。よく出来てるっちゃ出来てるし、単純にカタルシスを与えてくれる痛快なアメリカン。ロック──ジャーニーなんかもそうですけど、あまり情報が入ってない時期に聴いてたものっていうのは、かなり刷り込まれてますね
08. Buffalo
デモがイイ感じだったんで、デモに合わせて楠さんにドラムを入れてもらって、沖山さんにベース入れてもらって、っていう感じですね。デモはとりあえずで作ったものだから演奏はユルいんですけど雰囲気は良くって。同じことを本番のレコーディングでやろうとしてもできないだろうなと思ったから、デモで録ったギターの音をそのまま活かして。これはエレアコで弾いてるんですよね。デモだからなんでもいいやと思って、エレアコにエフェクター通して、エレキみたいな音にして、それで録ってるんですよ。インストを作ろうと思って作ったものはないんですよね。かといって歌詞を乗せるつもりで書いてるわけじゃなくて、メインで鳴ってるギターのフレーズというよりも、うしろで鳴ってるアルペジオのフレーズを先に思いついて、それを録音するところから始まった感じですね。タイトルはすごく頭の悪そうな発想ですけど(笑)、なにも考えず、音で浮かぶ風景そのままで。
09. 最後の週末
メロディーが歌謡的にしっかりしてる──呑んでばっかいた時も、こういう曲ちょこちょこを作ってたんですよ(笑)。これはYANO FES.(2014年9月13日、14日)に合わせて作った曲なんですが、心遣いとして、フェスとかイヴェントに出る際は新曲をおみやげとして持っていこうというのがあって。この曲は最初、シー&ヒムみたいな、パブ・ロックというかユルい8ビートの曲だったんですけど、最初のアルバムを出すにあたって、ユルい8ビート・サウンドは新鮮味がないだろうと思って。で、ちょっと発想を変えたんですね。「ジャージー・ボーイズ」を観て、なんかああいう感じ、フォー・シーズンズみたいな感じでできないかなと思って、そこを目指しつつ……そうはならなかったんですけど、ああいう広がりのあるというか、イントロがバーンときて、サビでパーッと盛り上がってっていう、作家がシングルヒットのためにアレンジしたような、そういうところをちょっと目指してアレンジを進めて。結果、こういうこぢんまりしてないアレンジの曲ができたのは良かったなあって思いますね。
10. 僕らのかたち
なんとなくアルバムの終わりはこの曲かなっていうのが、僕もスタッフも意見が共通してましたね。歌詞の背景は“海辺の恋”っていう、ちょっと80年代っぽかったりして、わりとストレートに、状況としては他愛もないことを歌ってるんですけど、曲を作り終えた時に、馬の骨の時はどこかでキリンジというグループの言葉選びのマナーに沿ってたところが無意識にあったのかなあって思ったんですね。これだけ他愛もない歌詞とかボキャブラリーって、すごく普通のポップスの言葉遣いだと思うんで、同じソロでも馬の骨の時とはちょっと意識が変わったのかなって思って。キリンジのマナーから解放されたというか、それがなくなったのかなっていう気がしました。より普通に、普通でも良ければイイじゃんっていう気持ちもあるし、僕自身が普通の人間ではあるし、普通の人間が思う感情を書くっていうことに対して抵抗がなくなったというか、作っていてそんなことを思いましたね。
インタビュー・文/久保田泰平
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