INTERVIEW インタビュー

-『NIGHT OF THE BEAT GENERATION』は2枚組というヴォリュームですが、最後までいっきに聴けますね。その理由のひとつは多彩なバンド・サウンドだと思いました。

鈴木「アルバム(『EXITENTIALIST A XIE XIE』)は二人で作った感が強いでしょ。密室的な音なんだけど、それがライヴだと空気の流れが出来る。ライヴではバンドの皆さんに好きに弾いてもらってますから」

高橋「例えばドラムのケンちゃん(白根賢一)とかは原曲を聴きまくってて完コピできるわけ。そのうえで〈ケンちゃん、ここ遊んでいいから〉っていうと急に音数が増えたりする」

鈴木「コピーする場合も、どの時代の音をコピーするのか人によって違うんだよ。〈No Way Out〉とか、永井(聖一)君はいつの時代のを弾くかと思ったら、高野(寛)君の頃だったね。2000年くらいの〈No Way Out〉」

高橋「それぞれが、自分の好きな時代の音をコピーしてくるからね」

-そこはお二人からの指示はない?

鈴木「まったく指示はしない。〈こうして欲しい〉っていうのは言わないね」

高橋「〈このフレーズだけは弾いて〉って最低限のことを言うくらいです」

-永井さんは今回のライヴで初参加ですが、どういった経緯で声をかけられたのでしょうか。

高橋「慶一くんと〈若い血が欲しいな〉って話になって、それで声をかけたんです。前にえっちゃん(相対性理論のやくしまるえつこ)のソロの曲をプロデュースしたことはあるんだけど、永井君は初めてです。リハーサルの後にみんなで飲みに行ったら永井君も来て、彼は僕のアナログをいろいろ持ってきていて〈サインしてください!〉って。〈聴いてたんだ〉って言ったら〈めちゃくちゃ聴いてました〉って言うから、そこでいろいろ話をしました」

鈴木「私は相対性理論のリミックスをやった時に彼のギターを何度も聴いてたんで、その力量はわかってた。コードのカッティングひとつとってもフレーズが多くて、キーボードみたいなギターなんだよ」

鈴木慶一

高橋「いろんなギターが弾けるよね。〈メンフィスっぽいギターとか大丈夫かな?〉と思ってたけど、ちゃんと自分の解釈を入れながら弾いてたね」

鈴木「驚いたのは〈Go and Go〉でクラレンス・ホワイトみたいなギターを弾いてるんだよ。ストリングベンダーっぽい奏法で。〈お、カントリーもいけるじゃん〉って思ったね」

-そうやって、参加したミュージシャンが、いろんなアイデアや音を持ち込むわけですね。

高橋「そういえば〈River In The Ocean〉で〈ヒュウウウウ~ン〉っていう音を出しているのって誰?」

鈴木「私もわからない。あの音、良いよね」

高橋「たぶん、まりん(砂原良徳)かな。毎回違うから」

鈴木「誰がどんな音を出しているか、よくわからない(笑)」

-バンドの皆さん腕利き揃いで、いろんなワザを持ってますもんね。ライヴは初期の曲も散りばめながら幅広く選曲されていますが、前半のハイライトは「Left Bank」だと思いました。「Now and Then」「COMMON MAN」「Left Bank」と、どんどん深みを増していく。

鈴木「よく並べたなって感じだよね(笑)。〈ここは暗く行こう〉って言ってた気がする」

高橋「80年代の後半にあったディープな感じが出てるね」

-しかも、この3曲は初期の曲なので、バンド・サウンドになったことでサウンドに奥行きが増しています。

鈴木「1枚目(『EXITENTIALISM ~出口主義』)の曲をやると、曲が上書きされるんだよ。〈Now And Then〉とか原曲に入ってない音がいっぱい聴こえてくる。基本は1981年のアレンジメントなんだけど、上に乗るのが今の音なんで、いつの時代かわからないような浮遊感があって、やってて楽しいんだよね」

-「Left Bank」では幸宏さんの熱唱が胸に迫ります。ライヴではマイク一本でヴォーカルに専念されていましたね。

高橋「難しい曲だから一生懸命なんです(笑)」

鈴木「私は〈BEAT印のDOUBLE BUBBLE〉を歌うのが心配だった」

高橋「ちょっと難しいよね、あれ、早口で」

鈴木「そうなんだよ。歌に関しては、ところどころ大変なところが私にはあるね。〈TOTAL RECALL〉みたいに、上をハモったかと思ったら下をハモったりとかね」

-後半のヤマ場は、幸宏さんがドラムにまわって白根さんとツイン・ドラムで演奏する3曲「Ark Diamant」「Dohro Niwa」「シェー・シェー・シェー・DA・DA・DA・Yeah・Yeah・Yeah・Ya・ Ya・Ya」です。当日も盛り上がりましたね。

高橋「実はこの日のライヴは、左目がほとんど見えてなかったんです」

-あ、そういえば、目の手術をされたばかりでしたね。

鈴木「あの頃、幸宏にとっては苦しい日々だったね」

高橋幸宏

高橋「精神的には前向きなんだけど、肉体的にはちょっと。実は医者から〈叩いちゃダメ!〉って言われてたんです」

-でも、めちゃめちゃ叩いてますよ。

高橋「医者には〈頭は動かしませんから〉って言ったんです。そしたら、〈本当ですね?〉って一応、許しが出て。ライヴには担当医のひとりが観に来てたんですよ、念のために」

-命懸けのドラムだった?

高橋「命までは懸けてないけど(笑)」

鈴木「片目懸け(笑)」

-無事で何よりでした。ラスト3曲のなかで特に印象的なのが「Dohro Niwa」です。このヘヴィさもバンド・サウンドの醍醐味ですね。

高橋「あれはワンコードの曲だし、インプロやりやすいんだよね。慶一君が指示して、矢口(博康)君が吹いたサックスのフレーズで次に行く」

鈴木「テンポ的にもいちばんヘヴィにやれる」

高橋「途中から僕だけ倍テンに(テンポが倍速に)なったりして」

鈴木「ダラス・テイラーみたいにね」

-そこから「シェー・シェー・シェー・DA・DA・DA・Yeah・Yeah・Yeah・Ya・ Ya・Ya」という切り替えがスゴいですよね。

鈴木「あれ、やってて吹きそうになるんだよ。その変わりぶりに。途中で〈はい、皆さん!〉とか言って歌のフリをつけなきゃいけないじゃない? そこで吹きそうになるんだけど、演者はみだりに吹いたり、泣いたりしてはいけないからね(笑)」

-プロ意識が試されるわけですね(笑)。そして、アンコールは2曲。最後のシメはおなじみ「TOTAL RECALL」です。

高橋「慶一君がマージービートっぽく弾いてるのが似合う曲だね」

鈴木「私はガニ股で弾けるのが嬉しい(笑)」

高橋「ジョン・レノンっぽくね(笑)。これは青春の曲なんです。〈dirty mac〉っていう言葉が出て来るけど、この曲を書いた頃、マックといえばコンピュータじゃなくてコートだった。イギリスのマッキントッシュのコート。〈青春時代、みんなマックを着てた〉っていう内容の歌詞なんだけど、昔、マッキントシュは今みたいにハイモードなブランドじゃなくて、イギリスでは普通に若者がマックのステンカラーのコートを着てたんです」

鈴木「あと、〈dirty mac〉ってポール・マッカートニーのことでもあるんだよ。『ロックンロール・サーカス』でジョン・レノンとローリング・ストーンズのメンバーが結成したバンドの名前なんだけど。あと、オーディオのメーカーの名前だったり、〈dirty mac〉っていう言葉を聴く度に、そういったことをいろいろ思い出す」

-青春のキーワード、〈dirty mac〉。聞き逃さないようにします。今回のアルバムは2枚組というヴォリュームになりましたが、通して聴かれてみていかがでした?

鈴木「新しいアルバムの曲だけじゃなく過去の曲もやったし、このライヴでバンドの歴史を網羅して、ひとつの節目になった気がするね。アルバムを出して、ライヴをやって、いったん脳内にあるものを全部出し切った」

高橋「アルバムを作っている時からずっと、お互いプライベートでも激動の時期だったしね」

高橋幸宏X鈴木慶一

鈴木「そう。だから、このライヴを聴くと、いったん全部出し切って、〈さて次は何をしようか?〉って思ってたことを思い出すんだ」

高橋「THE BEATNIKSの作品が終わる度にそう思うよね。しばらくは何もやる気が起こらなくて、〈次に何かやることがあるかな〉って考える。でも、〈前みたいに時間は開けられないね。お互い歳だから〉って二人で言ってるんだけど」

-これからもTHE BEATNIKSは続いていきそうですね。

高橋「あとひとつか二つくらいはできる気はしますね。ちょっと考えているのが、僕がドラム、慶一君はギターに専念して、それだけでやるとか」

鈴木「いいね。ギターとドラムだけでホワイト・ストライプスみたいなの、やってみますか(笑)」

 

おわり

THE BEATNIKSザ・ビートニクス

ザ・ビートニクス

1981年結成。当時「YMO」のメンバーで、現在「METAFIVE」で活動する高橋幸宏と「ムーンライダーズ」のヴォーカルであり音楽プロデューサーや、北野作品「アウトレイジ」シリーズなどの映画音楽家としても活躍する鈴木慶一によるユニット。
1stアルバム『EXITENTIALISM~出口主義』は、国内のみならず欧米でも発売。主にヨーロッパのアーティストにも大きな影響を与えた。自分たちをとりまく社会や そのあり方などに怒りを感じたとき、それがモチベーションとなって制作をはじめると言われる。これまでに発売されているオリジナル・アルバム4枚。
その他、世界的ファッション・デザイナー山本耀司のパリ・コレクション用として制作された音楽集なども発表している。
http://thebeatniks.jp/

jacket

NIGHT OF THE BEAT GENERATION

[LIVE ALBUM] 2019/5/22発売 CD2枚組:COCB-54284-5 ¥4,000+税

『EXISTENTIALIST A XIE XIE』のリリースを記念して2018/5/11(金)に開催された「THE BEATNIKS Live 2018 “ビートニクスがやってくる! シェ! シェ! シェ!”」のライブ音源を全曲収録したライブ・アルバム。
ゴンドウトモヒコ(Euph, Tp, Glo)、砂原良徳(Key)、矢口博康(Sax, Cl)、白根賢一(Dr)、高桑圭(B, G)、堀江博久(Key)、永井聖一(G)
2018/5/11(金) EX THEATER ROPPONGI