2023.3.9 長野:辰野町民会館
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2月9日の福岡からスタートした「19th Anniversary Tour」。2月19日のYouTube Live 「カオスの百年」 vol.20を挟んで開催された2本目のライブ、舞台は長野県上伊那郡、辰野町民会館だ。辰野といえばかみじょうちひろの出身地。9mmがこの会場でライブをするのは初めて、バンドもオーディエンスも感慨を噛み締める中、熱い一夜が繰り広げられた。
SEに乗って登場すると、サポートギターの爲川裕也(folca)を含めた5人がステージに登場。菅原卓郎が「辰野!」と叫び、ライブは「The Lightning」から始まった。隙あらばオーディエンスを煽り立てる菅原のテンションが高い。滝 善充のギターも、もちろんかみじょうのスネアワークも躍動している。最後のサビでは客席から熱い手拍子が起き、初っ端からものすごいエネルギーが生み出されていった。続けてタイトなビートと切れ味鋭いギターリフが空気を切り裂く「Vampiregirl」へ。滝も中村和彦も回転したりうずくまったりと激しくアクションしながら轟音をぶっ放す。
そして菅原が拳を突き上げさらなる熱狂を誘う中「All We Need Is Summer Day」を投下。眩しく明滅するライトが場内の温度を一気に真夏のように上げていく。手を挙げ、体を揺らしながら全身で音を受け止めるオーディエンス。そのまま「Living Dying Message」へとつなげると、〈あなたは二度と孤独になれない〉というメッセージとともにその狂騒はさらに盛り上がりを増していった。
滝が弾くフレーズに合わせて手拍子が起きる中、「どうも辰野のみなさん、9mm Parabellum Bulletです!」と菅原が挨拶。「久しぶりに長野にやってきましたよ! ここでこんな大音量で音楽イベントが行われるのはコロナ以前ののど自慢以来だそうで。町長さんに聞きました」と菅原。「今日はかみじょうちひろプレゼンツで、かみじょうくんが選んだセットリストで辰野のみなさんに9mmをお届けしようと思います」とこの日演奏する楽曲をかみじょうがセレクトしたことを明かすと、いっそう大きな拍手が巻き起こった。
「かみじょうくんの生まれ故郷でやれることを俺たちもすごく嬉しく思っているので、最後まで楽しんでください」というメッセージとともに「いけるか!」と一気にスイッチを入れると、繰り出されたのは「ガラスの街のアリス」。歌詞に辰野の地名を入れ込みながらドラマティックなメロディを歌う菅原を、鋭利なサウンドが追い越していく。かみじょうからはこの日のライブの登場SEをF1中継でおなじみのT-SQUARE「TRUTH」にしようというアイディアも出たそうだが(結果、無事却下されたようだ)、F1のようなフルスピードのデッドヒートが、9mmのステージ上では常に生まれているのだ。
さらにアクセルを踏み込んで「interceptor」を披露すると、かみじょうのドラムがガラリと空気を変えて「オマツリサワギニ」へ突入する。あやしげなギターのフレーズに暴れ太鼓のようなリズムが相まって、なんだかいきなり別世界に連れてこられたような気分になる。さっきまで手を振り上げてノっていたオーディエンスもリズムに身を委ねて楽しんでいる。そしてここで演奏されたのが「光の雨が降る夜に」。『Revolutionary』からの楽曲だが、最近はあまりライブで演奏されていないんじゃないかと思う。エモーショナルなメロディとギターサウンドもすばらしいが、何よりこの曲の聴きどころはほとんど休みなく刻み続ける高速ビート。この曲をチョイスするあたりに、もしかしたらかみじょうらしさが出ているのかもしれない。
叩き切ったかみじょうにエールが送られる中、菅原が初めて長野でライブをした際に辰野のかみじょう実家に泊めてもらったときのことを回想する。「たらふくご馳走になりまして、地獄のもてなしを受けました」と笑いを誘いつつ、そのとき寒さを感じながら見上げた辰野の星空がとてもきれいだったと語る。そんな言葉から導かれたのは「淡雪」。情感たっぷりのサウンドが広がり、ノスタルジックでセンチメンタルな空気が会場を包み込む。そこから雪つながりでまたしてもレアな「銀世界」へ。畳み掛けるようなギターとベースの音が吹雪のように吹き荒れる。そしてその情景をさらに広げるように「ホワイトアウト」。この3曲の詩的なつながりはとても美しかった。冬になれば雪に覆われる町。かみじょうの中にある原風景なのかもしれない。
後半戦では「Starlight」を皮切りにかみじょうのスネアロールでつないで「Butterfly Effect」に。ダークなグルーヴで会場を覆うと、一転して繊細なギターフレーズが鳴り響く「キャンドルの灯を」を繰り出す。中村のアップライトベースの音色をかみじょうのタムやシンバルが彩り、その上で菅原の伸びやかな歌声がドラマティックに展開する。そして菅原が鳴らすアコースティックギターが印象的な「カモメ」へ。1曲ごとに色を変え、景色を変えていく構成は9mm Parabellum Bulletというバンドの深みや凄みを見せつけるようでもある。
「楽しんでくれてますか? かみじょうくんを育んだ辰野。本当に不思議なことですよ。かみじょうくんがここで暮らしていた頃は俺たちとバンドを組むなんて思ってもいなかったし、そこに裕也がサポートに入ってくれるなんて。コロナがあったからというのももちろんあるんですけど、ライブするのに『ここまで連れてきてもらっている』感覚がすごくあって。今日もロックンロールしてもいいのか、なんて幸せなんだって思いながら来ているんです。みなさんもロックンロールしてください」。そんな菅原の言葉に拍手が起きる。そしてこの日限定の「かみじょうtee」が売り切れたことを報告すると、おもむろにマイクを掴んだかみじょうが「パーカーも売ってますので」とお知らせ。普段ライブで喋らないので、こういうノリも地元ならではだ。
そして「太陽が欲しいだけ」でライブを再開すると、そこからはノンストップで最後まで駆け抜けていく。ダンサブルなビートでオーディエンスを踊らせ、カオスな展開で燃え上がらせると、ここで満を持してプレイされたのがかみじょう作詞作曲の「Mad Pierrot」だ。嵐のようなタム連打に客席から声が上がる。そして季節にぴったりの卒業ソング「君は桜」を経て「Talking Machine」へ……と思いきや先ほどMCでこの日のSE候補だったと明かされた「TRUTH」を披露するというお遊び。まるまる1コーラス演奏すると、その盛り上がりを燃料に楽曲に入っていく。ラストは「Punishment」。キメまくり、弾きまくりの怒涛の展開が、この日最後の、そしていちばんのカオスを生み出していく。「ありがとう!」。菅原の言葉に大きな拍手が送られ、記念すべき辰野でのワンマンライブは終わりを告げた。
(TEXT:小川智宏)