2023.4.9 F.A.D YOKOHAMA
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19周年を記念して続いている「19th Anniversary Tour」。アコースティックを含めると4本目となる4月9日のライブの舞台はF.A.D.YOKOHAMA――ファンであれば当然知っての通り、9mm Parabellum Bulletがその名前で初めてライブをやったライブハウスであり、彼らにとっては原点ともいえる場所だ。そのゆかりの深いステージで、9mmはどんなライブを見せたのか。レア曲あり、そうでなくてもぎゅうぎゅうのライブハウスならではの雰囲気あり、まさにここでしか見られない9mmが思いっきり表現された、とてもピュアで熱い一夜だった。
「9mm Parabellum Bulletです、こんばんは!」。すし詰めのオーディエンスを前に菅原卓郎が挨拶をし、ライブが始まっていく。1曲目は「少年の声」。意外なオープニングにフロアからはどよめきにも似た歓声が起きる。さらにそこに重ねて披露されたのは「interceptor」。いきなりの初期曲連打に盛り上がるオーディエンス。ライブハウス特有のギュッと密度の高い轟音が、会場の空気丸ごと熱く震わせていく。
F.A.D.というハコが醸し出す雰囲気も大いに影響しているだろうが、バンドのパフォーマンスがとてもフレッシュでますます情熱的なのだ。それがいきなり炸裂したのが3曲目に演奏された“One More Time”。イントロからオーディエンスの声が楽曲を盛り上げ、サビではガッチリシンガロング。お客さんの歌声に背中を押されるように、バンドの演奏にもどんどん熱が入っていく。その勢いのまま“Black Market Blues”に突入すれば、全員でタイミングを合わせての手拍子もぴったり。序盤から最高の一体感がF.A.D.に生まれていく。
「9mmが9mmとして初めてライブした場所がF.A.D.で。昔、『少年の声』が1曲目だったの。その気まずさをみんなにも味わってもらおうと思ったんだけど」。菅原がこの日の選曲の秘密を明かし始める。そういうことだったのか。今日はF.A.D.のスタッフからリクエストを募って、その楽曲もセットリストに織り込んでいるという。そのリクエストパートに行く前に「もうひと盛り上がりしようか」と彼らが鳴らし始めたのは「Answer And Answer」!。滝 善充のギターリフと中村和彦のベースリフに声で応えるF.A.D.のフロア。サビに入った瞬間、眩い光がステージとフロアを照らし出す。さらに「Termination」を投下してシンガロングと手拍子の嵐を生み出すと、かみじょうちひろの怒涛のドラミングがハコのサイズなんてお構いなしのビッグスケールを描き出す「Tear」からアルバム『TIGHTROPE』のとおり「タイトロープ」へとつなげる流れ。先ほどの菅原の言葉どおり、この緩急自在の楽曲群が観客のヴォルテージをさらに高めていった。
そうして始まったのがF.A.D.スタッフによるリクエストパートへ。「果たしてどんな曲をリクエストするのか?」と煽りながら鳴らした1曲目は……空気を切り裂くようなギターのリフから始まる「荒地」だ。イントロが鳴った瞬間にフロアから突き上げられる手、手、手。最近はあまりライブで演奏されていない楽曲だと思うが、脊髄反射のように即座に反応できる9mmファンはさすがである。そしてその「荒地」から立て続けに披露されたのは「Vampiregirl」。待ってましたとばかりサビの《You’re Vampiregirl》のフレーズで声を張り上げるオーディエンス。さらに「Sleepwalk」へと、さすがリクエストといえる振れ幅をもったセットリストが続いていく。
「Sleepwalk」のアウトロを走り抜け、小休止を挟んでまだまだリクエストコーナーは続く。一息ついたお客さんをいきなり出し抜くように鳴らされたのは「R.I.N.O」。「ハートに火をつけて」に収録されていた楽曲で、この選曲はかなり渋いといっていいのではないだろうか。さらに「marvelous」でディープな9mmワールドを覗かせる4人。オーディエンスの手拍子から突入したカオスパートでは滝の自由奔放なギタープレイがさらにお客さんを熱くさせていく。その熱を冷めさせまいとかみじょうが祭囃子ビートを叩き出す。「Beautiful Target」だ。リヴァーブの聴いた菅原の歌声が力強いドラムの上で踊る。フロア前方もいつの間にか組んず解れつの大騒ぎ。滝はお立ち台にのぼって手を振り上げ、菅原も両手を広げてオーディエンスに「もっとこいよ」とメッセージを送る。曲が終わった瞬間立ち上がった悲鳴とも歓声ともつかない声が、この一連の流れの熱狂ぶりを物語っているようだった。
「ありがとう!」。菅原が楽しそうに声を上げる。「通好みの選曲でしたね」。そしてフロアからはステージが狭過ぎてあまり見えないが実はいつも通り頭から一緒に演奏をしていたサポートギター・爲川裕也(folca)を紹介する。スピーカーの影からひょっこりと顔を出す爲川。あれ、今日は4人なのかなと思っていたのだが、そういうことだったのだ。F.A.D.のステージは小さく、5人では収まり切らないのだろう。そして菅原は「実はもう1曲だけリクエスト曲が残っていて」と話を続ける。F.A.D.のスタッフや長年一緒にやっているPAスタッフからのリクエスト曲を演奏していて、「F.A.D.で演奏していた頃のことを思い出した。次の曲をここでやるのも昔の9mmって感じがする。F.A.D.に立ってるんだなって気分になるんですよ」と菅原。「みんなもタイムスリップしてもらえますか? いけるか、横浜!」。そんな煽りとともに轟音が掻き鳴らされる。雷鳴のようなドラムとリフの重なり。滝のギターが唸りをあげ、菅原が叫ぶ。「sector」だ。菅原と滝の掛け合いヴォーカルがエモーショナルに響き渡り、ガツンガツンと塊のように投げ込まれてくるベースが鼓膜を揺るがす。確かにとてもプリミティブな衝動を感じさせるようなパフォーマンスだったと思う。
そんな「sector」の余韻に会場中が浸っているところに「新しい光」を投下して、一気にライブはフィナーレに向かっていく。「All We Need Is Summer Day」でまたしてもオーディエンスを巻き込んでの大合唱を生み出すと、本編ラストに演奏されたのは「Talking Machine」。滝のギターに合わせて菅原がマラカスを振る。その手の動きに合わせて「オイ!」と声を上げるフロア。「F.A.D.!」と叫ぶ菅原は、まだまだ足りないとばかりにみんなを煽り立てている。「踊れー!」。その合図でF.A.D.のフロアはカオスなダンスパーティの現場へと変貌していったのだった。
(TEXT:小川智宏)
(PHOTO:西槇太一)