2023.5.9 東京キネマ倶楽部
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いつものセッティングに加えてキーボードが置かれている時点でいつになく特別なムードが漂う。5月9日、「19th Anniversary Tour」の舞台は9mmにとって初出演となる鶯谷・東京キネマ倶楽部。しかもこの日は多数のゲストを迎えてセッションを繰り広げることがアナウンスされており、いつも以上に濃厚で新鮮な9mm Parabellum Bulletを目撃することができた。
ステージに姿を現した菅原卓郎、滝 善充、中村和彦、かみじょうちひろ、そしてサポートギタリストの武田将幸(HERE)。全員が襟付きの衣装を着用、菅原は白いシャツの上にジャケットを羽織り、かみじょうは黒いシャツにネクタイまで締めている。そんな5人が1曲目に鳴らしたのは「Cold Edge」。そこから続けて「One More Time」に突入すると、フロアは一気に沸騰した。キネマ倶楽部はステージが低く、フロアとの距離も近い。バルコニー席もせり出していて、上から観ていてもものすごい迫力だ。中村がかがみ込むようにして轟かせるシャウトに滝の華麗なギターソロ、そして菅原の繊細で表情豊かなヴォーカル。すべてが目の前で展開していく。さらにかみじょうのフィルも冴えわたる「白夜の日々」を畳み掛けると、菅原は「ちょっとワクワクすぎるラインナップになっており、それが約束されていますので、心ゆくまで楽しんでください!」ともとから高い期待値をさらに上げまくる。そして鳴り響いたのは「ちょっと久しぶりの曲」と紹介された「シベリアンバード~涙の渡り鳥~」だ。イントロで滝のギターが二拍子のリズムを刻んだ瞬間、フロアからは歓声が起きる。雄大にして切ない歌謡メロディを歌う菅原はうっすらと笑みを浮かべている。
その「シベリアンバード」から一気にテンポアップしてこちらもレアな「Scarlet Shoes」を繰り出し、雷鳴のようなシンバルが炸裂して「泡沫」へ。怒涛のような展開でググッとスケールを押し広げる。「キネマ倶楽部に合っていると思って選曲した」という3曲を終えると、ここで最初のゲストが登場。キネマ倶楽部のステージの特徴である階段から現れたのはチャラン・ポ・ランタンのももと小春だ。彼女たちと9mmがステージ上でコラボするのは2020年9月9日に無観客配信ライブとして行われた「白夜の百年」以来。そのときはトリビュートアルバムでチャランポがカヴァーした「ハートに火をつけて」を披露しファンから大好評だったのだが、この日まず披露したのは言われてみればまさにうってつけの「どうにもとまらない」だった。9mmのカオスな轟音の中で小春のアコーディオンがまるで滝のギターとチェイスするように唸りを上げ、ふたりのヴォーカルが楽曲のエモーションをこれでもかと強調する。ものすごい化学反応が今まさにステージ上で起きている。さらにもう1曲、メロディアスなイントロから突入していったのは「名もなきヒーロー」! ここでもアコーディオンがいいスパイスとなり、楽曲をさらにドラマティックなものに仕立てていく。
たった2曲、しかしその佇まいも含めて強烈な印象を残してチャランポのふたりがステージを去ると、「ほら、すぐ終わっちゃったじゃん!」と菅原。いかにも名残惜しそうだが、それを振り切るように次のゲストを呼び込む。こちらも2020年の配信ライブで共演歴のあるfox capture planのピアニスト、メルテンこと岸本亮だ。その配信ライブでは中村とかみじょうとのトリオ編成で披露した「ガラスの街のアリス」を、今回はフルバンドバージョンでパフォーマンス。リズムもタイトだしメロディも詰まった楽曲なのだが、その間隙を突くように奏でられるメルテンのピアノがなんともいえない情緒を醸し出す。そしてそのピアノによる鮮やかなソロで繋いで「生命のワルツ」へ。まさに9mmらしいハードチューンだが、ここでもピアノが滑らかに音と音を結びつけ、ひとつの流れを作っていく。さっきのチャランポのときもそうだったが、9mmの音像は一分の隙もないほどガッチリ構築されているように見えるのに、そこに違う音が入ってくるだけで柔軟に表情を変えていく。もちろんそこでは絶妙なアレンジの引き算も行われているのだが、9mmのサウンドがこんなにも懐の深いものだったとは。つくづく、貴重なものを目撃させてもらっている。
そしてその柔軟さや懐の深さをさらに見せつけたのが、続くもう1組のゲストとのセッションだった。一瞬の間を切り裂くように鳴り響いたトランペットとサックス。階段の上に目をやると、そこにいるのはド派手な格好をしたふたりの男。タブゾンビ(SOIL & “PIMP” SESSIONS)と栗原健である。ふたりが奏でたのは「黒い森の旅人」のメロディ。ホーンによってふくよかになったサウンドが、この曲の切迫した風景に一味違ったセンチメントを付け加えていく。1曲終えて菅原が「ここ、喋らないことにしてたんだけど、ひとつだけいいですか?」と口を開き、「フォーマルな感じで」と服装を指定していたにもかかわらず柄オン柄にアクセジャラづけのいつもの格好で登場したふたりにツッコミを入れる。そしてこの日のセッションが念願だったことを明かす。というのも、遡れば2019年、「RISING SUN ROCK FESTIVAL」で予定されていた9mmの15 周年記念ステージで両者はコラボするはずだったのだ。しかしその機会は台風のためにキャンセルとなり、4年越しでの実現となったのだ。その溜まりに溜まった熱意は確かにステージで鳴る音からも伝わってきた。そのコラボ、2曲目として演奏されたのは「反逆のマーチ」。歌とデッドヒートをするように轟くトランペットとサックス。滝も半ばギターそっちのけで踊り狂っていて楽しそうだ。
そんなめくるめくゲストとのセッションもここで終了。ふたりを送り出したあと5人で「スタンドバイミー」を披露すると、ここでインターバル。菅原は「ゲストと一緒に演奏するたびに『俺たちに足りなかったのはこれなんだ』って毎回思ってました」と豪華なコラボレーションの手応えを語る。ずっとあの編成で演奏したい、と名残惜しそうに話しつつも「いけるかー!」とオーディエンスを煽って怒涛の終盤戦へと突入していった。滝のギタープレイがギアを一段飛ばしで上げて「ロング・グッドバイ」を繰り出すと、ここで投下されたのが「新しい光」。サビではシンガロングも巻き起こり、お客さんも最後の大騒ぎとばかりにヴォルテージを上げていく。さらにツインギターのあのイントロから「Supernova」、さらにオーディエンスの掛け声も完璧だった「Talking Machine」を経て本編ラストは「煙の街」。さっきまでの狂騒がまるで幻かのような深い余韻を残して、ライブはひとまず幕を下ろした。
その後行われたアンコールでは再びゲストを全員呼び込んでの「完全体」を披露。それに先んじてはちょうどこの日40歳の誕生日を迎えた滝を祝福して菅原から滝にケーキの形に束ねられた40本のうまい棒が手渡される一幕もあった。そうして演奏されたのは「Black Market Blues」と「ハートに火をつけて」。「完全体」の名にふさわしい濃密で重厚なセッションがゲストによるソロ回しも挟みながら最後まで熱く展開した。いつもとは違う色と温度をもった特別な9mm。返す返すも最高だった。お客さんにとっても、そして何よりメンバー自身にとっても貴重な体験となった一夜を経て、ツアーはこの先各メンバーの地元シリーズ、そして9月19日の日本武道館へと続いていく。
(TEXT:小川智宏)
(PHOTO:西槇太一)