9mm Parabellum Bullet

LIVE REPORTS

2023.7.19 荘銀タクト鶴岡 (鶴岡市文化会館) 大ホール

結成19周年を祝うアニバーサリーツアー「19th Anniversary Tour」。まだ寒い2月から始まったツアーは、いよいよ暑い暑い夏に突入である。7月19日の舞台は山形・荘銀タクト鶴岡 ⼤ホール。そう。ボーカル&ギター菅原卓郎の地元である。これまでもかみじょうちひろ(Dr)の地元・長野、滝 善充(Gt)の地元・茨城と各地で展開されてきたメンバーの地元での凱旋公演、通称「ふるさと納税シリーズ」、3本目だ。しかもこの日はちょうど菅原の40歳の誕生日とあって、スペシャル尽くしの1日となった。

その幕を切って落としたのは荘厳な「Hourglass」の響きだった。重厚なギターオーケストレーション、そして堰を切ったように溢れ出す轟音のカオス。始まった瞬間から一気に場内のボルテージは高まっていく。そのまま「Black Market Blues」を畳み掛ける。歌詞の中に会場の名前を織り込むと、客席からは大きな歓声が巻き起こった。時折ステージの前方に進み出て誇示するようにプレイする中村和彦(Ba)、いつもどおり水を得た魚のようにステージを跳ね回りながらソロを弾く滝。言葉にし難い高揚感が、ステージ上のバンド、そしてもちろんオーディエンスをどこまでもエモーショナルにしていく。いよいよこの曲が似合う季節になってきた「All We Need Is Summer Day」、そしてイントロのリフが鳴り響いた瞬間にオーディエンスが我を忘れて拳を突き上げた「Discommunication」――9mmの歴史を彩る新旧のライブアンセムを惜しげもなく繰り出しながら、ライブは息つく間もなく突き進んでいった。

そんな怒涛の序盤を終えると、「9mm Parabellum Bulletです!」と菅原が挨拶。「ただいま!」と叫ぶと大歓声が巻き起こる。「こういう感じか」とこれまでかみじょうと滝が味わってきた感覚を噛み締めると、「荘銀タクト鶴岡、音よくないですか?」とお国自慢。このホールは2017年にオープンしたばかりのピカピカで、確かにすばらしい音響。大音量の中でも迫力と同時に演奏のディテールがはっきりと伝わってくる、いいホールである。そんな少し和んだ空気を、すぐさま鋭いビートとギターリフが切り裂いていく。「Story of Glory」だ。そのまま力強いリズムがホールを震わせる「Wildpitch」へ。複雑なリズムの展開を乗りこなしながら、菅原のボーカルにもさらに熱がこもっていく。そうやってぎゅーっと高めていった密度を青い光に照らされるなか届けられる「泡沫」が空気を一変させていく。さらに続けて披露されたのは「淡雪」。10年に一度といわれる酷暑に見舞われている日本列島だが、9mmの演奏がこのホールの中に冷たくて切ない風を運んでくる。他のメンバー出身地と同じようにこの日のセットリストは菅原が作ったもの。この振れ幅、ダイナミズムの大きさは、9mmがたどってきた道のりそのもののようでもある。

「ふるさとだから、いつもよりのんびり喋ってもいいですよね?」と菅原。この会場の居心地が良すぎて、ライブが始まるまで夏なのを忘れていたといい、「暑い!」と笑顔を見せる。この日雨になってしまったことを詫びたり、グッズの紹介をしたり、この日のサポートギター爲川裕也(folca)と自分が似ているというエピソードを話したり、「喋りすぎ?」と言いながらリラックスしたトークが止まらない。これぞ地元、いつもどおりの部分もしっかり見せながら、いつもとは違う表情ももった、スペシャルなライブである。「こういうのでいいでしょうか? いいですよね!」と言いつつここから再びライブに戻っていくのだが、そこで演奏されたのはなんと「今夜だけ俺を」! 菅原のソロ名義でリリースされた楽曲だ。9mmの曲が持っている緊張感や緊迫感とは一味違うメロディとアレンジ。さすがというべきか、菅原の作るセットリストには見どころが盛り沢山だ。

そんな「今夜だけ俺を」が終わると、待望のあのリフがけたたましく鳴り渡る。「ハートに火をつけて」だ。当然客席は瞬間沸騰。拳を上げ、体を揺らし、荘銀タクト鶴岡が巨大な一体感に包まれる。最後のキメではとてつもない音量の拍手が会場を覆った。さらに「ガラスの街のアリス」ではハンズクラップを誘い、ズシンズシンと腹に響くようなリズムと中村の奏でる重低音と世界の果ての祭囃子のようなリズムがオーディエンスを踊らせる「Bone To Love You」へ。一気に加速して時空が歪むようなラストの展開は9mmの真骨頂だ。曲を終えたステージに客席から「卓郎!」と名前を呼ぶ声が飛ぶ。それぐらいみんな興奮状態なのだ。

「今日はあいにくの雨ですけど、まだまだ夏はこれから」とここでライブは「夏の名曲シリーズ」を連打するパートへ。まず披露されたのは涼しげなギターのサウンドが印象的な「夏が続くから」だ。軽快にひた走るドラム、滑らかにそれを追いかけるベースに、そして吹き抜ける風に乗るようにして気持ちよく広がるメロディ。菅原がアコースティックギターをかき鳴らしながら伸びやかに歌う姿を真夏の太陽のような眩しいライトが照らす。爽快さも切なさも合わせもつ、まさに「夏の名曲」だ。さらにかみじょうのハイハットによるカウントから「Ice Cream」へ。タイトなリズムにのせて、ドロドロに溶けるアイスクリームに感情を重ね合わせるこの曲も確かに夏の歌、なのかもしれない。そしてシリーズ3曲目は「カモメ」。心を急かせるようなテンポでひたすら飛び続けるこの曲を、滝のエモーショナルなギターソロがさらに盛り上げていく。さっきまで暴れ回っていたオーディエンスがじっと聴き入っている姿が印象的だ。

「もう1回、ここでやりたいですよね」と菅原がいうと、お客さんからは歓迎の拍手が巻き起こる。「また必ず来たいなと思います」と約束をすると、ライブは終盤に突入していく。菅原の「いけるか!」の声から「One More Time」を繰り出し名残惜しそうなオーディエンスの雰囲気を一気にトップギアまで持っていくと、「名もなきヒーロー」、そして「The Revolutionary」と必殺曲を畳み掛ける。ここにきてバンドの演奏はさらにテンションを高め、まるで暴れ馬のようにステージから客席に飛び込んでくる。「The Revolutionary」では間奏部でのトリプルギターの競演も鮮やかに決まった。そして「Talking Machine」。イントロでご当地ソングを演奏するのがお決まりになっているが、この日は山形の民謡「花笠音頭」。菅原も音頭を口ずさんで踊っている。そのまま楽曲に流れ込めば、ホール内はお祭り騒ぎだ。その余韻の中演奏された最後の曲は「煙の街」。しっとりと楽曲の世界に引き込むようなパフォーマンスで、ライブは終わりを迎えたのだった。

(TEXT:小川智宏)
(PHOTO:西槇太一)

9mm Parabellum Bullet 19th Anniversary