9mm Parabellum Bullet

LIVE REPORTS

2023.8.9 新代田FEVER

5月9日の東京キネマ倶楽部以来、久々に東京に戻ってきた「19th Anniversary Tour」。8月9日の舞台となったのは9mmにとっては初めてワンマンを行うライブハウス、新代田FEVER。お客さんを入れてのワンマンは初めてだが、彼らにとってこのハコはコロナ禍で思うようにライブができないなか、無観客配信ライブを行った思い出深い場所でもある。そんなFEVERのステージ、最高の音と最高のオーディエンスにまみれながら、9mmは外の気温以上に熱いパフォーマンスを繰り広げてみせた。

「9mm Parabellum Bulletです、こんばんは!」。そんな菅原卓郎の名乗りとともにいきなり轟音をぶっ放す4人+サポートメンバーの爲川裕也(folca)。滝 善充はステージ前方の天井のパイプを掴んでフロアに身を乗り出している。そして始まった1曲目は「Cold Edge」。いきなり切先鋭いサウンドが場内の空気をビリビリと震わせていく。中村和彦のシャウトが地鳴りのように響き渡ると、オーディエンスも拳を突き上げ声を上げ、手を打ち鳴らす。ライブハウスならではの一体感が早くも興奮を高めていった。そのまま「Discommunication」へ。お客さんのジャンプでFEVERが揺れる。バンドのアンサンブルがいつもよりも若干前のめりに感じるのは、この距離感の近さゆえだろうか。

そんな前のめりのライブはまだまだ全速力でスタートダッシュを続ける。かみじょうちひろのドラムが叩き出す2拍子のリズムがオーディエンスを問答無用で踊らせる「ハートに火をつけて」。中村はフロアを睨みつけるような形相でベースを弾き倒している。「灰にならないか、FEVER!」と菅原が叫べば、フロアからは文字通り燃え尽きてもいいというような大声が飛ぶ。さらにギターのイントロが鳴り響いた瞬間悲鳴にも似た歓声が鳴り渡ったのがインディーズ時代の楽曲「Vortex」。たぶんライブでやるのは数年ぶりじゃないかと思うが、そんなレア曲(しかも膝の折れそうな複雑な変拍子の曲だ)にも即座に反応して乗りこなしていく9mmのオーディエンスは、さすが鍛えられ方が違う。

そんな怒涛の序盤を終えて菅原がフロアに語りかける。「待ちに待った夏ですね、みなさん! FEVERは熱くなるぞ。でもみなさん、覚悟している人ですよね!」という言葉で大歓声を浴びると「歌ってもらうぞ!」とサマーアンセム「All We Need Is Summer Day」に突入していく。1コーラス歌い終えて「イェー!」と叫び声を上げる菅原。その表情はどこまでも嬉しそうで、こうやってライブハウスに戻ってくることを彼自身がとても楽しみにしていたことが伝わってくる。そこから隙間なく繋いで「Living Dying Message」、さらに「反逆のマーチ」を畳み掛ける。鳴り止まない手拍子がバンドをさらに加速させ、バンドの演奏がオーディエンスのテンションをどこまでもぶち上げていく、最高のサイクルがとんでもないエネルギーを生み出していった。

そこから一拍置いて、菅原と滝が呼吸を合わせてギターの音を重ねていく。メランコリックなイントロにかみじょうのビートがギアを入れ、そこから目の前のものすべてを蹴散らしていくようにぐいぐいと進んでいく――あれ、知らない曲だ。それもそのはず、滝のコーラスも効果的にちりばめられたこの曲は未発表の新曲である。この日リリースとなったニューシングル「Brand New Day」がシングル曲として選ばれる前段階で候補になった曲がいくつかあった、という話は聞いていたが、これがそのうちのひとつだったようだ。演奏を終えた後に「うっかり新曲をやってしまいました」と菅原が明かしたところによれば、この曲の歌詞は珍しく「外のソースを使おう」と思って書いたそうで、9mmの「ハートに火をつけて」が『呪術廻戦』の主人公・虎杖悠二のイメージソングとなっていることに対する恩返しとして、虎杖の物語を歌にしたのだという。タイアップなどではなく「9mmが『呪術廻戦』が好きだから勝手に書いた」というのが彼ららしい。「しかし、かっこよかったですね」と自画自賛するくらいに気に入っているようで、もしかしたら今後のライブでも聴くことができるかもしれない。

仕切り直して、今度は本日リリースの正真正銘の新曲「Brand New Day」。みずみずしく疾走するバンドサウンドと9mm自身の歩みも投影されたような前向きな歌詞が爽やかに吹き抜ける。このスピードと勢いの楽曲をさも簡単にぶちかましてしまう、19周年を迎えた9mmの強靭さを改めて思い知らされるような曲だ。中村と爲川が向かい合って音で会話する光景も繰り広げられた「光の雨が降る夜に」、そして拳を突き上げるオーディエンスが続出した「Answer And Answer」。9mm一流のドラマティックなギターリフとメロディがライブ中盤をゴリゴリと盛り上げていく。さらにかみじょうが刻むハイハットとバスドラに歓声が上がった「Sundome」へ。曲が進むにつれてエモーショナルに爆発していく構成が、否が応でも再び場内の温度を上げていった。

その「Sundome」が終わると、滝のギターをきっかけにインプロビゼーションに突入していく。かみじょうのドラムも中村のベースも徐々に迫力を増していく。いつもライブの合間にこうやって音を合わせている彼らだが、いつもならスッと終わるところがなかなか終わらない。一瞬「また新曲か?」と思ったほどだった。「ただのセッションでした」と言いつつ、かみじょうに「もっとバカスカ叩いていいよ」とリクエストする菅原。もしかしたらスタジオで、こんなふうに9mmのサウンドは生まれていたりするのかもしれない。なんかいいものを見た感じがするインターバルを終えると、熱くなったフロアをクールダウンするように放たれたのは「淡雪」。だがこの春の名曲で落ち着いたのも束の間、続け様に繰り出されるのが「Trigger」なのだから油断ならない。真っ赤なライトに照らされるなか、渦を巻くようなグルーヴがFEVERにいるすべての人を巻き込んでいった。さらにそこに重ねられたのが初期曲「atmosphere」。静と動のコントラストも鮮やかなこの曲はさしずめ9mmの「原点」のような曲だが、そのメカニズム、そしてそこから生まれるドラマの豊かさは、少しずつ変化しながらも19年を経た今もなお彼らの真ん中にある。

さて、ここからライブは一気にクライマックスに向かう。「いけるか!」の号令で再度会場をひとつにすると、オーディエンスの掛け声とともに「One More Time」で急加速、滝も踊ったり暴れたりしながらさらにアッパーにプレイしてみせる。そして間髪入れず「Black Market Blues」へ突入すると、ギタープレイとアンサンブルの切れ味を堪能できる「Spirit Explosion」を経て「Talking Machine」を投下。菅原は満面の笑顔で叫び声を上げている。もちろんオーディエンスはそれ以上の興奮ぶりで、最後の最後にFEVERは絶頂を刻んでみせた。そしてラストは「インフェルノ」。手持ちの武器すべてをぶっ放すような圧巻のフィナーレが強烈な余韻を残すなか、この日のライブは終わりを告げた。

「9mmは20周年もライブをします。今までの曲と新しい曲を組み合わせるとまた新しい聴こえかたがする。みんなが腰を抜かした後すぐに立ち上がってワーッてなる、そんなライブを目指してがんばります」。ライブ中、菅原はそう宣言していた。9月19日には9年ぶりの武道館というメモリアルなライブも待ち構えているが、彼らはその先をすでに見据えて走り出している。その始まりとなる武道館での勇姿を、ぜひその目に焼き付けてほしい。

(TEXT:小川智宏)
(PHOTO:西槇太一)

9mm Parabellum Bullet 19th Anniversary