2023.9.9 渋谷La.mama
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2023年9月9日、19周年の「9mmの日」。9年ぶりの日本武道館公演を目前に控えたこの日、「19th Anniversary Tour」の会場になったのは9mm Parabellum Bulletにとってとてもゆかりの深い、東京におけるホームともいえるライブハウス、渋谷La.mamaだ。これまでも定期的にこの場所でライブをやってきている彼らだが、120人も入ればパンパンになってしまうこのハコで観る9mmは、ホールや大きなライブハウスで観るそれとは当然ながらまったく違う。この日もそうだった。即ソールドアウトのフロアを前に9mmが見せたのはとんでもなくレアで熱いライブだったのだ。
いつものアタリ・ティーンエイジ・ライオットではない新SEをバックに登場した菅原卓郎(Vo/Gt)、滝 善充(Gt)、中村和彦(Ba)、かみじょうちひろ(Dr)、そしてサポートメンバーの爲川裕也(folca)。真っ赤なライトに照らされてまず彼らが鳴らし始めたのは、なんと「Mr.Brainbuster」というインスト曲だった。シングル「Answer And Answer」のカップリング曲である。続けて青く転換した照明の中突入したのは「EQ」。小気味のいいスカのリズムにフィドルのような滝のギターサウンドが映える。これは「生命のワルツ」のカップリングであり、それ以前に9年前の武道館2日目、あの大雪の日に新曲として初披露された楽曲だ。一糸乱れぬタイトな演奏が、9年越しに再びあの場所に向かう今のバンドのコンディションのよさを物語っている。
「カルマの花環」を終えた菅原が「La.mama! 9mmの日です!」と挨拶。「今日は先立って匂わせてはありましたが『B』の日です。『act B』とでも呼びましょうか」とこの日のライブのコンセプトを明かす。「B」というのはB面、つまりシングルのカップリング曲をずらっと並べた、激レアな、ある意味で超マニアックなライブがここから展開していくということだ。もちろんフロアに集ったコアな9mmファンからすれば「待ってました」という気持ちだろう。普段滅多にライブで聴けないような曲がじゃんじゃん披露されるのだから。そして切り出されたのはインスト曲「Burning Blood」。「Blazing Souls」と「表題曲・カップリング曲のどちらもインスト」という異例の形でリリースされた配信シングルの楽曲だ。「プロレスつながり」でいえば最初の「Mr.Brainbuster」もそうだが、9mmのインスト曲はときに歌もの以上に表情豊かで雄弁でエモーショナルだ。かみじょうのシンバルワークに、滝と菅原のリフに、中村のベースラインが、オーディエンスの想像力を刺激して怒涛のドラマを生み出していく。
大きなビートと不穏なグルーヴが妖しい盆踊りのように観客を踊らせた「Bone To Love You」から「オマツリサワギニ」(これも「EQ」同様、前回の武道館で初披露された楽曲だ)へ。タイトルとは裏腹に沸々と感情を迸らせるような菅原のボーカルとどこか物悲しいメロディラインがじっくりとフロアの熱を高めていく。「『Act B』でもまだまだみんなをぶち上げられるぜ」と自信をのぞかせる菅原。「いろんな曲があるなあと俺たちも楽しみながらやっている」という言葉どおり、メンバー全員がとてもいい表情を浮かべている。このMCのあいだに中村のベースにトラブルが起きていたのだが、そんな不測の事態すらも話のタネにしつつ、ブルージーなギターを弾く菅原に滝とかみじょうと爲川が加わり、インプロヴィゼーションが始まっていく。彼ら自身がリラックスして勝手知ったるこのステージを楽しんでいるのが伝わってくる。
そんなインターバルを経て披露されたのは「Scream For The Future」。ドラマティックなギターリフと歌謡的なメロディ、重層的に積み上げられていくアンサンブルはまさに9mmの王道といった佇まいだ。そこから菅原の「カモン!」という声にフロアからも声が上がった「R.I.N.O.」、さらにヘヴィに疾走するバンドサウンドがエモーショナルな「ラストラウンド」と、シングル『ハートに火をつけて』に収録された楽曲を立て続けに繰り出していく。これに「ハートに火をつけて」を加えた4曲がひとつの作品としてパッケージされていたわけだが、あれは今振り返っても本当に濃いシングルだったと思う。当然オーディエンスもこの流れには大喜び。「ラストラウンド」の最後のキメをバチっと収めると、大きな拍手と歓声が湧き起こった。
そんな熱い展開を終えて、菅原はLa.mamaとの思い出を語り始める。「東京でライブしようぜ」と意気込んで出てきたものの、他のライブハウスでは出番をもらえず、La.mamaだけがおもしろがってくれたと当時を回想し、「だからここは特別な場所なんですよ」と話す菅原。「かっ飛ばしてきたので、ちょっとだけゆったりとした曲を」と入っていったのは、La.mamaで初めてライブをやったときの1曲目だったという初期曲「farther」。どっしりとしたリズム隊のサウンドの上で菅原の歌うメロディが滑らかに広がっていく。さらにかき鳴らされるギターが大きなスケールの風景を描き出す「午後の鳥籠」。「サクリファイス」のカップリングだったこの曲、これまでライブではほとんど演奏されていないはずだ。シューゲイザー的な音像からスリリングに展開していくサウンドとボーカルのハーモニーが9mmのディスコグラフィの中でも異彩を放つ1曲。テンポもゆっくりでどちらかといえばシンプルな構造ゆえにバンドの力が如実に出るタイプの曲だと思うし、ステージで演奏していないならばなおさらだが、それすらも難なくパスしていく9mm。相当仕上がっていることがよくわかる。
そして「Snow Plants」「ロードムービー」と、激しさや鋭さを強調することの多い表題曲に対してメロディアスな側面を際立たせる「9mmのカップリング」ならではの名曲を立て続けに披露すると、ポストロック的な構造美を感じさせるインストナンバー「Calm Down」へ。終盤にかけて徐々に熱を高めていくドラマティックな構成が、ミドルチューンやバラードを重ねて落ち着いたフロアのテンションを一気に昂ぶらせていく。菅原も滝も頭を振りながら一心不乱にギターを弾き、一気にギアチェンジ。菅原の「いけるか!」の合図とともに、そのままライブは終盤戦に突入していく。「Heat-Island」では中村のシャウトが炸裂し、「エレヴェーターに乗って」では引き締まった筋肉質のビートがボルテージを天井なしに上げていく。
そして投下された「どうにもとまらない」! La.mamaの名前を歌詞に織り込みながら叫ぶ菅原。クライマックスに向けてぐんぐん出力を上げていく9mmのパフォーマンスは、まさにもう「どうにもとまらない」。そんなバンドのテンションを真正面から受け止めるオーディエンスも拳を上げ、飛び跳ね、思い残すことのないようにすべてを注ぎ込んでいく。そしてラストは「Wildpitch」。観ているこっちの目と耳をグイグイと引き込んでいくような引力をもったパフォーマンス。滝も中村もステージの一番前まで出てきて弾き倒している。そして何かが弾けるようにしてライブはフィニッシュ。B面曲だけでこれだけのバリエーションと深みを見せつけられるバンドはそうそういないし、何より普段あまりライブでやらない曲のオンパレードとなったこの日のライブをバンド自身もオーディエンスも楽しみ尽くしている感じが、19年かけて築き上げてきた信頼関係を物語っていた。この勢いのままバンドは武道館に乗り込んでいく。この日とはまったく違うセットリストで、今度は彼らがどんな顔を見せるのか。今から楽しみでならない。
(TEXT:小川智宏)
(PHOTO:西槇太一)