2023.10.7 帯広MEGA STONE
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9月19日の日本武道館公演で19周年を自ら祝う最高のライブを繰り広げた9mm Parabellum Bulletだが、そんな記念碑的な1日を経ても、もちろん彼らは止まらない。「19th Anniversary Tour」がついに北海道に上陸である。10月7日、「9」のつく日ではないものの、「Extra」と題されたライブが帯広MEGA STONEで開催された。今や9mmのサウンドに欠かせない存在となったサポートギターにして会員制モバイルサイト「9mm MOBILE」の「名誉会長」でもある武田将幸(HERE)が北海道出身ということでセットリストを作成したそのスペシャルなライブの模様をレポートする。
ATARI TEENAGE RIOTが流れ、MEGA STONEのステージにメンバーが登場する。そして菅原卓郎の「9mm Parabellum Bulletです、こんばんは! 帯広ー!」という挨拶とともにライブはスタートした。1曲目は「荒地」。いきなりアグレッシブなサウンドとスケールの大きなメロディの展開でフロアに興奮を連れてくる。「Survive」を経て「よっしゃ、みんな歌ってくれよ!」と菅原がオーディエンスに呼びかけて「新しい光」に突入すると、もちろん熱いシンガロングが巻き起こる。いきなり惜しみなく増していく勢いに、武道館を経て「次」に向かうバンドの今が刻まれている。
かみじょうちひろのタイトなドラムと滝 善充のドラマティックなリフが問答無用で高揚感を煽る「Living Dying Message」では中村和彦のシャウトも炸裂。音が鳴り止んだ瞬間に、歓声が会場にこだました。そんな、『Movement』からの楽曲を立て続けに披露する序盤を経て、「お久しぶりです!」と菅原。帯広でライブをするのはなんと9年ぶり。「お待たせしました」という声に拍手と笑い声が飛ぶ。「アレとかアレが聴けますからね」とこの日のセットリストへの期待を高めると、披露したのは『DEEP BLUE』のリード曲「Beautiful Dreamer」。激情と繊細な静寂を間断なく上下動するようなエモーショナルなナンバーに、フロアからは次々と手が突き上げられる。『DEEP BLUE』のツアーのときはノリ方が難しいのか盛り上がらなかった」と自虐的に語っていた菅原だが、そのフロアを見て満足そうだ。そのまま滝のギターを呼び水に「DEEP BLUE」へと突き進む流れも憎い。そして3本のギター、ベース、ドラムがひとつになってハンマーのような重いリズムを打ち下ろす「Sleepwalk」をぶちかますと(アウトロでの菅原と滝のツインギターも熱かった!)、一転して叙情的なイントロから「黒い森の旅人」へ。いやがおうでも盛り上がる曲の構成が、会場を包む熱量に拍車をかけていった。
「9mmにはインストの曲もたくさんあるんですけど、この9年の間にまた何曲か増えまして……」と帯広では初披露の「Spirit Explosion」へ。滝の雄弁なギターに合わせて拳を掲げるオーディエンスが「オイ!オイ!」と声を上げる。いつも思うが、この曲のやたら物語を感じさせるサウンドと展開は9mmというバンドのおもしろさを象徴している。もちろんメロディと歌も彼らの強力な武器だが、それがないからといって楽曲と演奏の強度が落ちるわけではまったくない。このインストナンバーでライブ会場がぶち上がる瞬間は、とても9mmらしい光景だ。かと思えば続いて投下されたのは「One More Time」。キャッチーなメロディと一度聴いたら忘れられない〈One more, one more time もう一回〉というフレーズを大声で歌うフロア。10月の北海道らしからぬ熱い空気がこの場所には満ちている。その後もひたすら激しく駆け上っていくような「Psychopolis」、ダークで妖しげなムードをまとった「悪いクスリ」とバンドのさまざまな表情を見せつけるような楽曲を次々と繰り出し、ライブはますます熱狂の度合いを高めていった。
先日の武道館公演に触れ「俺たちは同じ。武道館でやるときもここでやるときも俺たちは変わらない。逆にみんなが近くて嬉しいくらい」とライブバンドとしてのスタンスを口にする菅原。その言葉に帯広のファンから熱い拍手が起きる。「せっかく帯広まで来たんだから、武道館でやっていない曲を聴きたいよね」とここで披露されたのは「泡沫」。エモーショナルで切ないメロディが美しい景色を描く。じっくりと楽器と向き合いながらプレイする滝や中村の姿がこの抑制されたサウンドに込められた感情を炙り出すようだ。さらにその感情の内圧を高めるようにして「淡雪」へ。さっきまで暴れ回っていたフロアもその音にじっくりと耳を傾けている。そして武道館でも披露されていた、『呪術廻戦』に影響を受けて作ったという新曲だ。演奏を終えた菅原の言葉によれば、この曲の歌詞は短歌や俳句のように余白から風景が立ち上がるようなものになっている、とのこと。いつどんな形で世の中に出るかはわからないが、歌詞をじっくりと見るのがますます楽しみになった。
そうして終盤に突入していくライブ。菅原は「次は9年は空けないようにしますが、みんな元気で待っていてくださいね」と再会を誓い、来年がバンドにとって20周年の節目であることに触れて「みなさん、これからもよろしくお願いします。これからも9mmと一緒にいけますか?」とフロアに問いかける。もちろんオーディエンスはみんなそのつもり。続けて繰り出された「いけるかー!」の声に怒号のような歓声が弾ける。「Brand New Day」でいったん落ち着いたテンションを一気にトップギアに入れると、「ハートに火をつけて」へ。9mmらしい歌謡メロディと滝のギターソロが炸裂し、パフォーマンスはここに来てどんどん前のめりに。すさまじいラストスパートだ。
さらに超攻撃的に鳴らす「Cold Edge」ではメンバー全員が体を激しく動かしながらプレイ。狂騒状態のオーディエンスを前に菅原は不敵な笑顔を見せる。そして「Discommunication」。イントロが鳴り響いた瞬間に沸騰したフロアを滝のヘビーなリフがさらに加速させていく。ラストは「Punishment」。雷鳴のようなビートが最後の最後に会場を激しく震わせ、菅原と滝のハーモニーが感情の最後の一滴までをも吐き出させる。一糸乱れぬ手拍子がバンドの出す音に負けじと鳴り響き、美しい一体感を生み出して、9mmの9年ぶりの帯広公演は幕を下ろしたのだった。
(TEXT:小川智宏)
(PHOTO:西槇太一)