2023.10.9 函館Club COCOA
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10月9日、「19th Anniversary Tour」は一昨日の帯広での「Extra」に続く北海道シリーズ。この日の会場は函館Club COCOAだ。中1日で移動してのライブでなかなかタイトなスケジュールだが、ステージに立ったバンドは元気いっぱい。巨大なエネルギーを放出する熱いショーを見せてくれた。この日の1曲目に選ばれたのは最新シングルの「Brand New Day」。もっともフレッシュでもっとも「今」の思いの乗ったこの曲で、いきなりClub COCOAのフロアは力強く盛り上がる。さらに畳み掛けられたのは「Mr.Suicide」。メンバー4人に北海道出身のサポートギター・武田将幸(HERE)を加えた5人による緩急を巧みに操るアンサンブルが、オーディエンスの心をさらに忙しなく掻き立てていくようだ。
そこからつないで披露されたのは「Lost!!」。最近のライブではあまり演奏されていなかった楽曲だが、重厚なリフとどこかダークなお伽話のような歌詞の世界があっという間に会場を別世界へと連れていく。さらに続けて「Vampiregirl」へ。フロアからも歌声が起き、手拍子が鳴り止まない。中村和彦が体を大きく折り曲げながらゴリゴリとベースを弾き、その上で滝 善充が軽快なリフを鳴らす。要所要所で楽曲を引き締めるかみじょうちひろのドラムも気持ちいい。
と、ここまで4曲を怒涛のように演奏してきたわけだが、ここでこの日最初のMCタイム。「楽しいね!」という菅原卓郎の声に「楽しい!」と声がかかる。なんと9mmが函館に帰ってきたのは12年ぶり。2011年にマキシマム ザ ホルモンとの対バンツアー「Movement Moment Tour 2011 番外編」で来て以来だ。「大変長らくお待たせしました。12年をグッと凝縮してボーンとやろうと思います。この屋根をぶっ飛ばす勢いで!」。気合いの入った菅原の言葉にフロアからの歓声も一段と大きくなる。
そうして投下された「One More Time」。思わず体が動き出すようなリズムにフロアの人山がグラグラと揺れ、そしてもちろんこの曲でもシンガロングが巻き起こる。まるで12年のブランクなんて関係ないとばかりに、オーディエンスの迎撃体制もバッチリだ。滝もギターを振り回し、飛び跳ねて力のこもったプレイを繰り広げている。その盛り上がりになおさらブーストをかけるのが続く「All We Need Is Summer Day」。目一杯腕を振り上げ、手を叩き、少し遅れてきたこのサマーチューンを受け止めるオーディエンス。「ありがとう、函館!」とその光景を目の当たりにした菅原からも思わず声が上がった。
広大な風景を鮮やかに描き出すような「泡沫」、そして新曲……ライブは進むごとに9mm Parabellum Bulletというバンドの引き出しの多さを暴き出していく。函館とご無沙汰していたあいだにアルバムを5枚も出してしまった、という話の流れから、その中でリリースされた『BABEL』の収録曲である「Everyone is fighting on this stage of lonely」、「Story of Glory」、「ガラスの街のアリス」を立て続けに演奏。そして武道館で聴きたい曲のリクエストを受けたときに人気があった曲のひとつだという「いつまでも」へ。重厚なギターの音が広がり、繊細なメロディを菅原が歌い出す。リズムに体を揺らしながらじっと耳を傾けるオーディエンスの姿が印象的だ。
「ありがとう」。「いつまでも」を終えて菅原がステージから語りかける。この曲をレコーディングしていたときに「友達の結婚式で歌えるようにしよう」と言っていたが全然呼ばれない、という話をして笑いを取ると、「次の曲も風景の浮かぶような美しい曲。みんなの心の中の北海道の景色にハマるといいんだけど」と「Scenes」へ。焦燥感を煽るようなリフと切なげなメロディが相まってなんともいえない感情を呼び起こす。そしてそのまま、神秘的なイントロから「黒い森の旅人」へ。疾走感のあるリズムに乗せて曲が進むにつれてぐんぐんとエモーショナルに広がっていく音像が圧倒的だ。オーディエンスも気圧されたような感覚になったのだろう、曲が終わると一拍置いて、ざわざわと拍手が広がっていったのが印象的だった。
クリーンなサウンドが爽やかな印象をもたらす「スタンドバイミー」を終え、菅原が再び口を開いた。「12年前には『黒い森の旅人』も『スタンドバイミー』もなかった。『ハートに火をつけて』もなかった。函館に火をつけて帰ろうと思います」という言葉に続いて「いけるかー!」とフロアを煽り、その言葉以上に扇情的なイントロが鳴り響く。スカのリズムがオーディエンスに拳を振らせ、滝のギターソロに合わせてみんなでジャンプ。ここまでももちろん盛り上がり続けてきたライブだが、会場内のボルテージはさらに一段高まっていった。そこに投下されたのが「名もなきヒーロー」。切れ味鋭いギターサウンドと畳み掛けるような菅原の歌がぐいぐいと観客を引き込んでいく。そしてその興奮をさらに加速していったのが続く「We are Innocent」! 『VAMPIRE』に収録され、今やライブではほとんど披露されていないハードコアチューンに、フロアが一気に湧き上がる。滝が体を激しく振りながらギターを弾き、菅原が手拍子を煽る。かみじょうと中村も阿吽の呼吸で一気にアクセルを踏み込む。もうライブも最終盤のはずだが、ここにきてこの怒涛の展開である。
さらに立て続けに「The Revolutionary」を重ねると、滝が腕を突き上げる。まるで勝利宣言のようなその姿がなんとも頼もしい。カオティックに爆発するアウトロを経て、「ありがとう、みんな!」という菅原の声から最後の曲「Discommunication」へ。前回函館でライブを行った12年前の時点でも押しも押されもせぬ代表曲だったこの曲。時間を経てもやはり9mmのライブといえばこの曲がなくては始まらない。「函館!」という菅原の叫びに応じてClub COCOAにシンガロングが巻き起こる。すべてのエネルギーを放出するように楽曲をフィニッシュすると、菅原は腕を突き上げ、中村もベースを高々と掲げてみせた。凄まじいラストスパートを見せた函館の9mm。音が鳴り止んだ後も、場内にはビリビリと体を震わせるような余韻が漂っているようだった。
(TEXT:小川智宏)
(PHOTO:西槇太一)