9mm Parabellum Bullet

LIVE REPORTS

2023.11.19 多賀城市文化センター 大ホール

気がつけば今年も11月。あっという間に走り抜けてきた9mm Parabellum Bullet「19th Anniversary Tour」、11月19日の公演の舞台は宮城県多賀城市・多賀城市文化センターだ。ここ多賀城はベース・中村和彦の出身地。当然この日のセットリストも彼がセレクトしたもので、ファンにとってはとても印象深いものになった。何しろバンドが登場するときのSEからして違う。暗転した場内に鳴り響いたのはチャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」。中村の大好きな映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でマイケル・J・フォックスがチェリーレッドのギブソンES-345TDをかき鳴らして歌っていたロックンロール・クラシックだ。リズムに乗りながら登場した菅原卓郎はじめ、リラックスした雰囲気でそれぞれの持ち場につくメンバーだが、ひとたび轟音を鳴らせば、一気に9mmワールドが広がっていく。1曲目は「Beautiful Target」。途端に客席では拳が突き上げられ、「オイ!」と声が上がる。めちゃくちゃ貪欲なオーディエンスとの相乗効果で、バンドの演奏もぐんぐん熱量を上げていく。

その後ライブは「One More Time」、「Black Market Blues」、「The Revolutionary」と一気呵成に展開。序盤から惜しげもなく鉄板曲を繰り出していくケレン味のなさがとても気持ちいい。体を激しく動かしながらステージを動き回る滝 善充、ずっしりと重いビートを力いっぱい打ち出すかみじょうちひろ、じっくりベースと向き合って音を奏でながら時折客席に向けて鋭い視線を投げる中村。そこにサポートギターの爲川裕也(folca)を加えた面々がステージから鳴り響かせる爆音は1回表から全力投球の高校球児のような清々しさで、多賀城市文化センターのボルテージは天井しらずでぶち上がっていった。それにしても宮城のオーディエンスは熱い。1曲ごとに割れんばかりの歓声を上げ、手を叩き、体を大きく弾ませる。アットホームなのにガチンコ勝負のような、最高の空間が生まれていく。

5曲目「Wanderland」を終え、滝が鳴らすサウンドにのせて菅原が挨拶。「意外なセットリストに、そして驚きのSEに……今日はそんなことの連続ですから覚悟してください」と期待を煽ると、武道館に向けたリクエスト企画で2位にランクインした「Grasshopper」に入っていく。かみじょうのドラムからギターのフィードバックノイズが鳴り響き、鋭い疾走感とともに鳴らされていくこの曲で一気にギアを上げると、菅原のかき鳴らすコードから「ロンリーボーイ」、さらに「Monday」へ……いうまでもなく、これらはすべて中村が作曲した楽曲。どっしりとしているのに切れ味鋭く展開していく曲の構成には、ベーシストとしてはもちろん、ソングライターとしても独特の感性をもった彼の個性が思う存分発揮されている。この「和彦曲セクション」を締めくくるのは「ダークホース」。スケールの大きなサウンドで駆け抜けると、客席からは大きな拍手が巻き起こった。

その「ダークホース」が終わり、菅原が「俺もびっくりしてるんですけど、歌っている間に(声が)ガサガサになってきちゃって……」と口を開く。確かにこの日の会場の環境もあったのだろうか、声が掠れている。だが、そんなことを正直に話すのもオーディエンスを信頼しているからだろう。「なので、今日はみんなの力をいつもより多く借りてもいいですか?」と菅原。もちろんお客さんはどんと来いという感じで拍手を送る。そうして始まったのは「誰も知らない」。大胆なリアレンジが施された2023年バージョンだ。原曲よりも音の密度が高まり、より激しく感情を揺さぶる楽曲に生まれ変わった「誰も知らない」に、オーディエンスはじっと耳を傾ける。さらに「泡沫」、「眠り姫」とドラマティックな楽曲を立て続けに披露すると、滝の弾く印象的なギターのイントロから怒涛の勢いで畳み掛けていく「サクリファイス」へ。ずっしりと重厚なロックサウンドがビリビリと会場を震わせる。先ほど菅原は「みんなの力を借りたい」と言っていたが、その「みんな」にはきっとバンドメンバーも含まれる。力強い演奏はまるで真ん中に立つボーカリストを支え、その背中を押すようだ。「黒い森の旅人」では客席で突き上げられる拳と湧き起こる歌声がバンドのパフォーマンスと一体になって熱い一体感を生み出していく。そこから突入したのはまたしても中村作曲の「Caution!!」。滝のぶん回すヘヴィなリフが会場を歓喜させるなか、菅原の「ベース、中村和彦!」というコールとともにベースソロへ。故郷に錦を飾る中村のプレイにひときわ大きな歓声と熱視線が注がれた。

そんな「Caution!!」の熱狂も冷めやらぬなか、菅原が「みんなが歌ってくれるおかげで、声が出てきました」と観客に感謝。「19周年のふるさと納税、完了しました。19年目もみんなに助けられちゃいました。20年目もよろしくお願いします」という言葉には大きな拍手が巻き起こる。その20年目に向けて、ここからライブはクライマックス。菅原の「いけるか!」の声を合図に、「ハートに火をつけて」に突入していく。タイトなリズムと華やかなギターサウンド、まさに9mmの真骨頂といえるサウンドの上で菅原が力を振り絞って歌う。そしてそれをサポートするのがオーディエンスだ。サビではシンガロングが起き、会場が再びひとつに。この光景は何度観ても最高だ。そしてイントロで仙台の老舗デパート「藤崎百貨店」のテーマソング「好きさ、この街が…」を織り込んで「Talking Machine」を届けると、「名もなきヒーロー」から中村曲「Cold Edge」へ。そして大喝采のなか本編ラスト「生命のワルツ」。滝も中村もすべてを出し尽くすようなアクションを繰り出し、重厚な音を生み出していった。

その後のアンコールでは声の出にくくなった菅原の代わりに滝がメインボーカルを取る一幕も。もちろんオーディエンスも加勢しての「総力戦」で9mmはこの多賀城公演を走り切った。長くバンドをやってくればこうしたアクシデントはつきもの。そうしたときにこそバンドの底力が見える。その意味でこの日のライブは9mmというバンドのタフさを改めて証明するものになったのではないかと思う。

(TEXT:小川智宏)
(PHOTO:西槇太一)

9mm Parabellum Bullet 19th Anniversary