9mm Parabellum Bullet

LIVE REPORTS

2023.12.19 東京 LIQUIDROOM

2023年2月9日の福岡・DRUM LOGOS公演を皮切りに続いてきた9mm Parabellum Bullet「19th Anniversary Tour」もいよいよファイナル。「Extra」含め16本目、終着点は東京・LIQUIDROOMだ。パンパンのフロアには開演前から熱気が満ちていて、ライブハウスならではの雰囲気に気分が上がる。そして始まったライブ、1曲目は最新の9mmを刻んだ「Brand New Day」だった。楽曲そのものがもつ疾走感に加え、ツアーファイナルだからこその解放感のようなものがステージから爆音とともに放たれ、フロアは瞬間沸騰。菅原卓郎のボーカルと滝 善充のギターが競い合うように走り、重厚なリズム隊がそれを後押し。曲中に菅原が叫んだ「いけるか!」の声にフロアからも大歓声が上がった。

続けて「One More Time」。拳を突き上げ、声を上げるオーディエンスを前に中村和彦の顔にも笑みが浮かぶ。さらに畳み掛けられたのは「All We Need Is Summer Day」。手拍子を乱打し、シンガロングするフロア。「真夏日だぜ、今日は!」。菅原の声に、そのボルテージは上がる一方だ。オープニングから出し惜しみなしのキラーチューン連打でスタートダッシュを決めると、一転して「泡沫」のどっしりとした轟音がLIQUIDROOMを震わせる。演奏の安定感は言わずもがなだが、サポートギターの爲川裕也(folca)を含めたひとつひとつの音も、菅原のボーカルも、心なしかいつも以上に丁寧で穏やかな印象を受ける。もしかしたらそれは観ているこちら側の「これでツアーも終わりかあ……」という感傷によるものなのかもしれないが、いずれにしても武道館とはまた違う意味合いで、19年やり続けてきた9mmの地盤の確かさと、ここに来てますますバンドを楽しめているメンバーの心情が、そこには表れているような気がした。

ここで菅原が「今日は全会場分のエネルギーをリキッドが受け止めてくれると聞いたんで」とさらにフロアの熱狂を煽ると、「事前にアナウンスしたとおり、『Termination』の再現をします」とこの日のメニューを予告。そうなのだ、この日のライブは単にツアーのラストというだけではない。9mm初のフルアルバムである『Termination』の楽曲を曲順通りに演奏する、スペシャルな一夜。しかし菅原は「『Termination』の熱量ってすごくて。“暴動”って感じなんで、もうちょっと準備運動をしてからでいいですか?」とオーディエンスを焦らし、「かなり時代を遡ることになるんで、ちょっとずつ戻って辿り着きたいと思います」という言葉とともに「白夜の日々」を始めていく。コロナ禍真っ只中の2020年9月9日にリリースされたこの曲の〈すべて忘れても君に会いに行くよ〉というフレーズが、まるで今日のためにあった約束のように響き渡る。そこから「名もなきヒーロー」、「ガラスの街のアリス」と文字通り時間を遡るように楽曲を披露すると、菅原のアコースティックギターが繊細な風景を描き出す「カモメ」へ。こうして振り返っていくと、9mmの楽曲、とくに菅原の歌詞がそのときそのときの時代の空気やバンドの置かれた状況をとてもシビアに反映していたことがわかる。

そしていよいよメインディッシュ、『Termination』の再現パートが始まっていく。「16年前の俺たちは頭がおかしかった。よくこんなアルバム作ったなと思う」という感想とともに鳴り響く轟音。テンポも速けりゃ音の密度も大きい、塊のような音像で「Psychopolis」が始まっていく――と、ここでトラブルが起きて演奏がストップする。あまりの熱狂ぶりに、フロア最前方の柵が壊れたのだ。絶好のタイミングでこんなことになれば普通は場の温度も下がるわけだが、そこは百戦錬磨の9mmである。すかさず5人で息を合わせてセッションを始め、オーディエンスの手拍子を誘う。それでもなかなか解決しないと見るや、菅原が「1曲増やそうか」と提案。みんなが落ち着いて聴けるように、アコースティックアレンジの「The Revolutionary」が演奏され、軽快なカントリー調のリズムがオーディエンスの心を和ませた。

そのあともトークやヒップホップ調のコール&レスポンスで場を繋ぎ(9mmのライブというとどちらかといえばシリアスな緊張感が真骨頂なので、このある種のユルい空気はかなり貴重だった)、そうこうしているうちに柵の応急手当ても済む。さあ、いよいよライブ再開である。再び「Psychopolis」の爆音が鳴り渡る。腕をブンブン振り回しているようなサウンドはさすがファーストアルバムといった感じだが、そんな音を菅原も滝もいたって楽しげにプレイしているところに16年の時間経過を感じる。そして鉄板の「Discommunication」を経て「Heat-Island」へ。繊細なギターのフレージングと、突如入り込んでくるノイジーな爆音。そしてサビで一気に加速していくメロディ。中村のシャウトも全開で、とにかく1曲の中の情報量が半端ではない。そしてここでもやはり実感するのは、その若気の至りのような楽曲たちを、まるで愛でるように演奏する今の9mmのタフさである。こうしたアルバム再現というのは単純に昔を懐かしむだけではなく、それを「今」のバンドがどう表現するかというところに妙味があると思うが、その意味でこの『Termination』再現は間違いなく今の彼らでなければできないものになっていた。

「Sleepwalk」を終えて、「ここにこの曲入れておいてよかったな」という「砂の惑星」へ。菅原はこの曲のギターリフをレコーディングのときに猛練習したというが、そんな難しいフレーズすらも痛快に響かせてみせる。滝のギターは踊るように音を刻み、かみじょうちひろのドラムも中村のベースも軽やかだ。そしてこの曲を境に、『Termination』はディープでカオティックなゾーンに突入していく。かみじょうのドラムをきっかけに突入した「Heart-Shaped Gear」では精密な幾何学模様のように配置された音をピュアでエモーショナルなメロディがぐいぐいと牽引し、「Sundome」ではオルタナティヴの極致のような轟音ギターが景色をズタズタに切り裂く。真っ赤なライトに照らされる中フロアから手拍子が巻き起こった「Battle March」ではかみじょうの緩急の効いたドラムが楽曲の情緒をグラグラと揺らす。『Termination』を初めて聴いたときの得体の知れないまま心を揺さぶられる感じが甦ってくる。

そして『Termination』再現もいよいよ終盤。「この曲はここ数年で一番演奏されているかもしれない(かみじょうくんのお気に入りだから)」という菅原の言葉から「Butterfly Effect」をタイトに披露すると、「思う存分歌ってくれよ!」とタイトルトラック「Termination」へ。それまでの圧から解放され鮮やかな光が噴き出すような感覚は、こうして曲順通りに演奏されたからこそ感じられるものだ。もちろんフロアでは大合唱が起き、LIQUIDROOMの一体感も最高潮。アルバムのクライマックスがツアーの大団円というタイミングに重なり、とても気持ちいい高揚感を生み出していく。そして「The World」の疾走するリズムとその上を滑らかに走るメロディがその高揚感をさらにブーストさせると、ラスト「Punishment」へ。怒涛の轟音、言葉の切れ端を投げつけてくるような歌詞。滝のギターソロも鋭く決まり、まるで少し前までの大団円感を混ぜっ返すようにしてライブは終わった。とても9mmらしいフィナーレ。ファーストアルバムの再現という枠組みを超えて、そのカオスなラストは9mmの現在の充実ぶりを如実に物語っていた。

(TEXT:小川智宏)
(PHOTO:西槇太一)

9mm Parabellum Bullet 19th Anniversary