"Home Demo覚え書き" つまり、家でのひとり録音作業をHome Demoと呼ぶわけだ。全楽器をシュミレイトしながら演奏するようになったのは前作『天国と地獄』時の作業から。それ以前はTR-808をバックにシンセやギターの軽いダビングですますことが多かった。この『Edo River』期の宅録状況を書くと、TASCAM488という8chカセットMTRでの録音が主で、シンセ音源はRolandのS-50。当時はアンプ・シュミレーターなどもなくギターのほとんどが直のLine。マイクはシュアーだった。作り込みが激しくなってきていて、ほぼアレンジのラインや全体像のイメージは完成されている。大まかであるがゆえに、ここから実演に向かう時には想像以上の手間がかかるわけだ。 ちなみに「Edo River」という曲はじつはもう一曲あって、それは93年にメトロトロンから発売された『International Avant-garde Conference Vol. 3』というアルバムに直枝政太郎名義で収録されている。良く言えばマイルス・デイヴィスの『ビッチェズ・ブリュー』とサン・ラをかけあわせたような、じつに奇妙なインスト曲で、そのタイトルが「Edo River」だった。ここに収められた「Edo River」(Home Demo)はそのイメージとタイトルだけを引き継いで作った別物であって、つまりカーネーション版「Edo River」の原型にあたる。そのカセットには「Edo River#2」というクレジットがついていた。なんともよれよれのラップと「父さん、父さん〜」なる歌詞が笑えるではないか。そういえば当時は近所迷惑にならぬよう、布団をかぶって歌を録音。ここで聴けるボソボソした歌い方の裏にはそういう環境の事情もあったわけ。一方、矢部くんのHome DemoはYAMAHAのQY-10。話によると相当に不便な打ち込み機械だったようだが、細やかなテクニックでなんとも夢のようにしなやかな旋律が生まれた。ムーディーな「さよならプー」(Home Demo)は今回はその音質を優先しインストで収めた。「今日も朝から夜だった」はじつはフランク・ザッパ「A Little Green Rosetta」(『Joe's Garage』)風を狙った変調のブルースだが、ここではいかにも手作りのキッチュなHome Demoならでは味わいを楽しんでいただきたい。ちなみにバックの手拍子はMickey Finnの疑似パーティLP『MICKIE FINNS AMERICAS NO.1 SPEAKEASY』から拝借している。