"Home Demo覚え書き" ちょうどビートルズの『ホワイト・アルバム』再認識中だった。それも「ワイルド・ハニー・パイ」あたりのやばさのみに焦点をあわせたかのような「60W」。こういう宅録感覚をそのままレコード化しようとするユーモアは『Girl Friend Army』までのかちっとした構築とは真逆の発想にて、ロウ・ファイが魅力だったあの世紀末のインディーズ・ブームを小声で予言していた曲と言えなくもない。Home Demoがやけに出来過ぎなのはいつものことだったが、スタジオでは学生以来使ったことがなかったアープ・オデッセイをレンタル、その新鮮な手触りもあって遊び気分のまま新たな音を積み上げることができた。 メンバー全員がそれぞれの機材を駆使して作り込んだHome Demo時代でもあった。自分の曲は自分で最後までコントロールしてゆくというのがバンド内の基本ルール。特に『booby』期は内省とバンドのダイナミズムがそれぞれの曲で絶妙に噛み合わさっていた。個人的にはカセット8trのTASCAM488で仕上げた「ダイアモンド・ベイ」のHome Demoが史上最高の出来だと思っている。疲れ切ったプロモーションの中でぼくが救われた音楽はビル・エヴァンスとジム・ホールの共演盤『アンダーカレント』だった。雪の日、秋田のタワレコでそのCDを買ってすぐに列車で聴き始め、そのままボーっと何度も聴き返したことを思い出す。この曲は珍しくもそんなジャズの思い出を手探りで彷徨った実験作だけど、不器用な片手弾きのピアノがここまで気分よくハマるとは…。それも偶然とはいえ、このHome Demoを聴くと「よくできたなぁ」と自分でも珍しく感心してしまうし、バンド・ヴァージョンに比べると「ちゃんとやろう」という力みがない分、脳裏に浮かぶ夜空はリアルに映る。 このDisc-2に収められたHome Demoはすべてカセット・マスターを使用。09年11月、TASCAM488にあえて当時使っていた古いエフェクターを接続しリミックス、ProTools経由で新たなデジタル・マスターを起こした。