−山沢大洋とはナニモノか?−特別編−【Part1】
音楽評論家・能地祐子氏によるロング・インタビュー
――これだけプロデューサーとしてヒット作を手がけてこられたのに、ほとんど表に出ていらっしゃらなかったでしょう? てっきりコワモテの黒幕みたいな方なのかな、と。
「いえいえ(笑)。なんか、自転車操業で生きているタイプというか。
あんまり器用に動けるタイプじゃなかったもので、結局、裏方でずっと……。
ブログとか、そういうのをやればよかったのかもしれないですけど。
そもそも人前に出るのが得意な方ではないし。自分の仕事は関わったCDの中で説明できることだけで充分だっていう、どこか昔気質なところもあって。でも、今回はすごくいい機会なので、僕自身のこともいろいろ知っていただけたらな、と。はい」
――このアルバム、いわゆる《プロデューサーズ・アルバム》という風に位置づけられるのでしょうか。
「どうなんでしょうね。型にはめちゃうのは、今の時代らしくないし。
そういう時代だから、こういうアルバムも生まれるんじゃないかな」
――最初は、どんなイメージで作ろうと?
「たとえば、自分が見つけた新人の女のコを連れてきて、歌わせて、僕がバックでうまくもないピアノを弾いて……なんてアルバムを作ってもねぇ。僕、もう40過ぎてますし、そういうことやる世代でもないなっていうのもあって。それで、ま、何か人の役に立てることはないかな、と。このアルバムを作ったんですけど」
――人の役に立つ?
「今、自分の子供でもおかしくない年代がCDの購買層になっていますよね。
彼らの世代は、ちょうどバブル経済がはじけた頃に親が離婚したり、リストラされちゃったり。いろんな面で苦労しているコも多くて。それを、僕はまざまざと見てきているんです。で、そういう、フツウに制約が前提となっている時代を生きてきたコたちが、ようやく自分たちで音楽を選んで買える年代になってきて……。ところが、音楽って“今、これが流行ってるから”とか“今はこれがオシャレだから”とか、そういう風にしか提示されていないんですよね」
――選ぶ側が意識しないうちに、すでに制約されちゃってる、と。
「そう。僕はずっと音楽の世界で生きてきたわけですけど、常々そういう提示の仕方って違うんじゃないかなって思っていたんです。だから、若い世代にも“音楽はもっともっと自由なんだよ”ってことを自分なりに提示したいな、と。これまで“制約があって当たり前”と感じることがあったかもしれないけど、音楽に制約はないんだよ、と。いろんなジャンルがあって、いろんな角度のリスペクトがあって、いろんな才能があって、いろんな楽しみ方がある。そういうことを教えてあげられたらな、僕が聞いてきたいろいろな音楽を紹介することができたらなと思って」
――昔は身内とか近所のお兄さん、お姉さんが教えてくれるものでしたよね。
「ね。洋楽の最新情報を知るためにラジオで全米トップ40の番組を聞いて、そこでいろんなジャンルを知ったり。あと、小林克也さんのようなDJが、同じ曲を紹介するのでもすごくわかりやすく楽しく説明してくれたり」
――今は情報が多いぶん、ジャンルとか世代ごとに音楽が整理されていて。
番組もぐっとカタログ方式というか。
「テレビを見ていると、情報は多いんだけど、その音楽の背景が見えないまま、どんどん次へ次へと流れていくような気がする。好きな曲を探していくうちに、その背景にある音楽に興味を持ったり、あるいは全然違うジャンルに出会ったりという聞き方は、僕らの世代には普通のことでしたよね」
――でも、このアルバムはそういう楽しみ方も教えてくれる?
「たとえば、木村カエラさんが好きな若い人がアルバムを聞いて、近藤房之助さんという稀代のボーカリストの存在を初めて知って、日本の音楽シーンにこんなスゴい人がいるんだって思ってくれたらうれしいし。あるいは、“オトナの音楽”を求めて聞いてくれた上の世代の人も、カエラさん世代の若者たちのエネルギーに触れて、新鮮な気持ちになることがあるかもしれない。そういう、世代を超えた相互理解のきっかけになる一枚になればいいな、という気持ちは最初からありました」
■ジャンル、そして世代をも超える音楽愛溢れるアルバムが完成!!
山沢大洋 presents 「music tree」(COCP-34572
¥3,150(税込))
2008.01.23発売決定!!
詳細はディスコグラフィーにて>>> |