2017年3月1日に初の日本武道館公演を開催するザ・コレクターズ。頑固一徹でここまで歩み続けてきたイメージがあるかもしれないが、力作『東京虫BUGS』(2007年)をターニングポイントにして、毎作のように試行錯誤し、間口を広げる努力を地道に続けてきた。その総仕上げが、武道館公演とも言えるだろう。
30年の歴史を振り返ると、今は最も「開かれた」時期。それとは対照的にデビュー当時の彼らは、閉じた姿勢のままメジャーへと乗り込み、突破できない壁に戸惑いながら活動していたように思う。
東京モッズ・シーンを中心に活動していたザ・バイクを母体として1986年に結成されたザ・コレクターズが、初めて大きな脚光を浴びたきっかけは、1987年にブームの頂点に達していた「ネオGS」。60年代のグループサウンズを欧米のガレージ・リバイバル的解釈で再評価するという、音楽業界内のマニアによって演出されたムーヴメントだった。コレクターズのルーツはブリティッシュ・ビートとネオ・モッズであり、そもそもGSとは縁遠かったが、このシーンに巻き込まれたことが功を奏して瞬く間にメジャー・デビューを決める。ネオGS勢の中ではロック色が目立って濃く、ステージではワイルドな面も見せていた彼らは、同時に飛び切りキャッチーな楽曲と、時にSF小説からの影響も覗かせる独創的な歌詞で異彩を放っていた。インディーズ時代から佐野元春やちわきまゆみが自身のラジオ番組でコレクターズの曲をオンエア、応援していたのもうなずける。
メジャー・デビュー直前にインディのMINT SOUNDから発売されたアルバム『ようこそお花畑とマッシュルーム王国へ』を聴けばわかる通り、この時点で彼らは初期のビート・バンド然とした楽曲から脱皮し、「2065」のようなサイケ・ポップ然とした楽曲にも取り組んでいた。そうした2面性を、ファースト・アルバム(ビート・サイド)とセカンド・アルバム(サイケ・ポップ・サイド)に振り分けて出すという作戦は、早い段階で決まっていたそうだ。ここまでは順風満帆だった。
そして着手したメジャー・デビュー・アルバム『僕はコレクター』だったが…ここで制作陣とメンバーの間に深刻な溝が生まれる。彼らが望むラフなバンド・サウンドを、当時のスタッフはよしとしなかったのだ。まだ歌謡曲~ニュー・ミュージックの伝統の中で生まれた常識や決まりごとが守られていた、昭和のスタジオ。音量がレッド・ゾーンに達するような録音など「論外」で、初めての経験にメンバーは戸惑った。納得がいかない加藤ひさしは、録り直しを訴えたという。『僕はコレクター』がネオGS時代よりもややおとなしい仕上がりになった背景には、そうした苦い経験があったのだ。
「僕はコレクター」「TOO MUCH ROMANTIC!」「夢みる君と僕」と、超ポップな名曲ばかりが揃っていたこのデビュー作がリリースされたのは、1987年11月のこと。今もファンに愛される作品だが、シングル・カットなどの援護射撃がなかったこともあり、アルバムは大ヒットに至らなかった。
1988年6月発売の2作目『虹色サーカス団』は前作以上にメンバーの意志を反映、アレンジにもこだわった。「カーニバルがやって来る」で幕を明け、「虹色サーカス団」で〈すくわれないはみだしもの/出来そこない〉たちへのシンパシーを表明するオープニングからして象徴的。コンセプト・アルバムではないものの、絶望や疎外感、厭世感に向き合った「10月のたそがれた海」「扉をたたいて」「青と黄色のピエロ」などを収め、トータル性も高い作品だ。紙ジャケ再発時の帯に寄せたコメントで、スピッツの草野マサムネが「一曲ごとに映画一本観たくらいの充実感を味わえる、凄いアルバム」と激賞していたが、その言葉通りの傑出した1枚だと思う。
まだビート・パンク的なバンドが主流だったこの時期に、コレクターズは異なるベクトルで作品の深化に磨きをかけていた。しかしこれほど充実していた時期に、彼らの真価に気付き、大きく特集する音楽誌は皆無。「作品22番」の〈評論家なんて蹴とばしちゃえ〉という一節に、彼らの憤りが滲んでいる。
結果、メディアどうこうではなく、彼らを支持するファンとの間に極めて密な信頼関係が生まれ、その絆を強めていくことで、現在まで続く根強い人気のベースができた。ここで『虹色サーカス団』がなければ、武道館へと続く長い長い道も開けなかったはずだ。彼らはいつもそうやって、作品のパワーを最大の武器にしてきた。
9月に発売する予定の30周年記念ボックス・セットに収めるべく、加藤ひさしはロンドンで『僕はコレクター』『虹色サーカス団』のリミックスに取り組んでいる。エンジニアには『Free』(1995年)と『MIGHTY BLOW』(1996年)を手掛けた朋友、ケニー・ジョーンズを久々に起用。当時は実現できなかった理想のサウンドに近付けるべく作業にあたっているようだ。初期コレクターズを象徴する重要な2枚がどんな姿に生まれ変わるのか、大いに注目したい。
荒野政寿(CROSSBEAT)