収録内容
- DISC-1
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- 桑名船 [19:19]
(1995年3月11日「談志五夜・第一夜」より) - 二人旅 [24:43]
(1995年3月12日「談志五夜・第二夜」より) - よかちょろ [30:39]
(1995年3月13日「談志五夜・第三夜」より)
- 桑名船 [19:19]
- DISC-2
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- 女殺油地獄/二代目 春野百合子 [26:20]
(浪曲:1995年3月14日「談志五夜・第四夜」より) - 欣弥め [15:48]
<中村勘九郎・高田文夫飛び入りシーン含む>(1995年3月14日「談志五夜・第四夜」より) - 黄金餅 [29:39]
(1995年3月15日「談志五夜・第五夜」より)
- 女殺油地獄/二代目 春野百合子 [26:20]
- DISC-3[ボーナストラック]
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- 木乃伊取り * [41:31]
(1990年12月23日「年忘れ特選会」より) - 権兵衛狸 * [30:52]
(1992年11月28日「国立名人会」より)
- 木乃伊取り * [41:31]
- DISC-4[特典ディスク]
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- 夕立勘五郎 * [26:55]
(1990年8月25日「国立名人会」より) - 笑い茸 * [27:49]
(1990年1月27日「国立名人会」より) - 世相巷談 * [22:43]
(1989年1月27日「笑夏演芸特選会」より)
- 夕立勘五郎 * [26:55]
*モノラル録音
飛び入り出演(五十音順):桂三枝(六代 文枝)、高田文夫、毒蝮三太夫、中村勘九郎(十八世 勘三郎)
撮影:ムトー清次
発売元:一般社団法人ふらすこ
販売元:日本コロムビア株式会社
談志演目聞きどころ
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「桑名船」
東海道のうち、尾張の熱田と伊勢の桑名を結ぶ海上七里の渡し船で起きた事件を滑稽噺に仕立てた一席。船が鮫に見込まれたため、生贄を出さなくてはならないという緊迫した状況と、命拾いしたとたんに無責任になる同乗者や鮫の視点による滑稽を談志は軽々と語り分ける。眼目は船中で講談師の語る五目講釈。「赤穂義士伝」「伊達評定」「鈴ヶ森」それに落語などがごちゃまぜにされた講談には、談志自身の芸好きな側面がよく出ている。
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「二人旅」
腹をすかせた江戸っ子二人によるわびしい旅路をスケッチした滑稽噺。談志の師匠である五代目柳家小さんも得意にしていた。旅人は田舎の飯屋に入るが、そこに出てくる婆さんが強烈。人を食った応対を繰り返す婆さんの造形は、コメディアン佐山俊二や堺駿二の女方芸を取り込んだもの。旅人が空腹をまぎらわすため都々逸を披露する。古風な文句がすらすら出てくるところに、この演者の古風な芸の蓄積が見える。
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「よかちょろ」
「黒門町」と呼ばれた八代目桂文楽が磨き込んだ十八番を談志流に受け継いだ演目である。家の金を使い込み、吉原の花魁につぎ込んだ若旦那のふわふわとした言葉、振る舞い。このキャラクター、了見こそが<落語のエッセンス>であると談志は言っていた。怒り狂った真面目親父が若旦那を勘当するという展開になるが、しかし言葉のはしばしに息子を可愛がっているフシが見える。談志の親子論とも言うべき一席。
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「欣弥め」
三日目の終演後、打ち上げでハイボールをしこたま飲み、宿酔なのでとても高座がつとまらないと弁明する談志が、会場を消灯させ、聴かせたのがこの噺。めったに寄席の高座に掛かる噺ではなく、お座敷用の艶笑小咄であったらしい。大名家のお姫様の心理表現が声音によって表現される。前半、ムリを言って呼び出した中村勘九郎(十八世勘三郎)と高田文夫が飛び入り出演。それも含めてレアものの一席。
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「黄金餅」
金を貯め込んだ願人坊主がいまわのきわ、有り金を餅に包んで呑み込んだ。それを知った隣人は、なんとかそれを我が物にできないかと考えてーーという突飛な着想の滑稽噺。昭和の名人、古今亭志ん生の十八番を、談志が見事に自分のものにした一席。どん底暮らしの写実、そこをなんとか抜けだそうとするバイタリティの凄さ。下谷山崎町から麻布釜無村まで早桶を運ぶ道中付けも充実。「談志五夜」千穐楽にふさわしい快演。
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「木乃伊取り」
廓噺の大ネタである。店の金をもって吉原に登楼、何日も帰らない若旦那を無骨な飯炊きが迎えに行くが、ついにミイラ取りがミイラになってしまう、という一席。戦後の落語界では三遊亭圓生の得意ネタ。談志の口演は、花魁をほとんど現代の娘にしてしまうなど、工夫を凝らしている。お座敷の場面で三味線の下座入り、飯炊きの田舎弁とコントラストをなすなど、演出も楽しい。
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「権兵衛狸」
談志小品を代表する一席。民話にあるような題材を、落語らしくひねった趣向が楽しい滑稽噺。いつともどことも特定されない背景なのだが、談志はそこに現代の風俗や事象を取り込んで笑わせる。このテイクでも、アドリブでの地の語りが楽しい。狸は言葉を発しないが、描写される姿形がかわいい。このネタは談志による動物論とも言えよう。
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「夕立勘五郎」
戦前、若き日の古今亭志ん生がSPレコード吹き込みのため、即席でつくったネタという説がある。大正時代から戦前にかけて、大人気だった浪花節が材料になっている。談志の語りは、最少の言葉で、場末の寄席のすがれた雰囲気が出ているところに巧さがある。ひどい訛りの浪曲師がかけるのが「夕立勘五郎」。訛りの奥に、ちゃんと浪曲の芸をふまえているところもこの演者らしい。夏の高座なので夕立や雷の小咄を披露している。
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「笑い茸」
これは珍品である。戦前の二代目三遊亭金馬が得意にしたと言われ、その後はほとんどやり手のなかった噺を談志が再生した。いつも仏頂面の亭主が、笑い出すキノコの効力でだんだんとハイになって笑い出すプロセス、とくに女房の「きみ子」という名前を聴いて笑いが止まらなくなる描写に人間のリアルがある。マクラがたっぷりで、談志の男女論、落語論も楽しめる。
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「世相巷談」
1989年、当時53歳の談志が世の中をにぎわせた事象、トピックを材料に語った高座。寄席時代の談志は、落語ネタに入らず、こうした巷談だけで高座を降りることがしばしばあったという。いまの感覚では若い年齢だが、このころすでに「老い」や「死」について語っている。といっても湿ったものではなく、どうやって死のうかと知恵を凝らすさまは、まさに「落語」。これも談志落語のひとつのかたちなのだ。
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「女殺油地獄」
談志が敬愛した浪曲師・二代目春野百合子の高座から「女殺油地獄」の一席。『談志五夜』第四夜の録音。近松門左衛門の世話物浄瑠璃を浪花節に脚色したもので、原作の後半、金の無心をする与兵衛が殺人に及んでしまう油屋の場面に焦点を絞っている。百合子の高座は高音が魅力的で、明瞭なフシに乗せた地の描写で悲劇の顛末を聴かせる。緊密な至芸である。