「ちら雪」
2月の新曲「ちら雪」は、ちらちらと降ってくる細かーい雪がモチーフ になっています。
実は場面設定もあるし登場人物もいたりします。それは言葉で表すとこんな物語になります。
『北の国の船着き場に、大きな客船がゆっくり入ってくる。
のどかさと厳しさの混じり合った、日常感あふれる漁村に囲まれると、
あらんかぎりの贅をつくして飾り立てた豪華な客船がすこし滑稽に見えてくる。
見慣れぬ僻地での一時停泊にわきたち、未知の土地に上陸するために
色めきだって身支度をする乗客たち。
周りなど意に介さずそのままキャビンで読書を続ける老人たち。
ひときわ目をひくのは、 陸へと渡されるギャングウェイ*
には目もくれず、
デッキに佇んで宙をみつめている一人の女性。
流行のつばの広い帽子と黒いベールをかぶった彼女は、
20代後半と思われる東欧出身の顔立ちに長い髪。
目の前には、白いしぶきをあげる冷たい海。
しかし、身じろぎひとつしない彼女、何も目に入っていないようだ。
そこへふと、小さくて軽い雪がちらちら降ってきた。
まるで発泡スチロールの粉のように軽くて、見落としそうなほど繊細な雪。
デッキの彼女ははっと目をあげて、
手袋をした両手を前へ差しのべて
黒いショールを持ち上げて雪を受け止めてみせた。
軽くて可愛らしい"ちら雪"を見つめる目が、少しだけ微笑んでいるよ
うに見えた。』
アキコ・グレース
*gangway. 船と陸をつなぐタラップのこと
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