『イーハトーヴ交響曲とは』
2021年に没後5年を迎える世界的シンセサイザーアーティスト・作曲家、冨田勲の畢生の大作にして、初音ミクをソリストに迎えたことでも話題になった2012年初演の「イーハトーヴ交響曲」。
第二次世界大戦中、小学校五年生だった富田が出会った、日本の代表的な詩人・作家、宮沢賢治の作品たち。モノクロームの現実世界のただなかで出会った、その色彩感あふれる作品世界に少年冨田はたちまち魅了されたといいます。その後も賢治への憧憬は続き、そのファンタジックな世界を、いつか自身の作品で表現したい、という積年の思いが結実したのが、この「イーハトーヴ交響曲」です。
日本人にとって忘れることのできない、2011年3月11日の東日本大震災で大きな被害を受けた東北の地。宮沢賢治を育んだ岩手の地も最大の被害を受けた地のひとつです。
冨田がこの「イーハトーヴ交響曲」への創作意欲をかきたてられたのは、この震災とも無縁ではありません。
総勢約300人におよぶ大オーケストラと合唱団が描き出す、賢治の異次元な作品世界と、それを育んだ東北の力強い大地への思い。ヒロイックで豪放なメロディと、色彩あふれる音の重なりが交錯するカオスな空間に、突如として現れるのが、ヴァーチャル・シンガー初音ミク。日本の電子音楽の始祖である冨田が長年夢見てきた、「機械が歌う」。世界中で人気を博すミクが、冨田が託した夢を具現化し、オーケストラサウンドの上に唯一無二の歌声を降臨させます。
初音ミクをソリストに迎えた意味。冨田は生前、初音ミクのはかない、現実と非現実の狭間にいるような存在感が、宮沢賢治最愛の妹で早逝したトシとオーバーラップすると語っていました。この作品がいまもミクファンはじめ多くの人々に絶賛されているのも、ミクの存在が単なる人気バーチャルシンガーの起用で世間の耳目を引こうとしたわけではなく、ミクという存在と賢治の世界が冨田という媒介を通じて昇華されているからにほかなりません。
クラシックの新作交響曲としては異例の再演を繰り返し、初演をおさめたライヴ盤CDは16000枚を超えるスマッシュヒットとなった本作。
没後5年、さらに初演から8年を迎えたこのタイミングで、改めてこのミクと世界的アーティストTOMITAのコラボシンフォニーが、装い新たに生まれ変わります。