堀込泰行 オフィシャルインタビュー

堀込泰行はかく語りき(その1)──ファースト・アルバム『One』に至るまで

──ようやく……といった感じですが。
なんかね、カヴァー・アルバム(2016年4月リリースの『“Choice” by 堀込泰行』)を出したりはしてるんですけど、“やってない感”が漂ってたっていうか、「元気なんですかあ」みたいなことを訊かれたり(苦笑)。やっぱりオリジナル・アルバムのリリースがないとあれなのかなあと。
──カヴァー・アルバムの時はプロモーション活動もほとんどしてませんでしたし、泰行さんの発言が外に出ることもなかったですからね。
Twitterとかもまったくやってないですからね。
──SNSは性分的に合わない?
合わないんじゃないですか。嫌なこと書かれたりするのが嫌だから(笑)。そのへんわりと敏感で、友達にInstagramを勧められたんだけど、余所のを見たら、ただ闇雲に誉めてるコメントばかりで、そういうのをもらってもべつにうれしくないし、嫌なコメントが来たら来たで気になるし……結局、向いてないんですかね。うまく立ち回れる人を尊敬しますよ。
──で、実際のところここ2年ぐらい、キリンジで活動していた時よりは時間の流れが緩やかだったかとは思いますが。
そうですね。カヴァー・アルバムの制作に入る前までは、ユルかったですね。イヴェントに出たり、楽曲提供をちょこちょこやったりっていうことはしてましたけど、いわゆるすごく締切に追われてみたいな感じはなかったですね。
──隙間ができた時間は主に?
曲書きをしつつも、基本、呑んでた感じですかね(笑)。呑んでたとは言いますけど、新しいミュージシャンとどんどん知り合いになろうという目論見もありましたから。とにかくSNSやってないから、そういうところでどんどん知り合いを作っていこうと。あとはスタッフとの打ち合わせですね。これからどういうふうにやっていきたいのか、みたいな、わりとそんな話し合いが多かったかな。ソロとしてどういうスタンスで活動していくのかとか、そういう話し合いをしつつ、配信シングルをリリースしたり、ライブをしたりでしたが、結果的になかなかまとまらずに。
──やはり、悩みどころではあった。
そうですね。“シンガー”っていう感じでいくのか、馬の骨の延長みたいな感じでいくのかとか。
──シンガーというのは、他者から曲をもらって歌だけに徹するとか?
僕自身、その方向は考えてはいなかったけど、例えば曲によって作詞を誰かに委ねてみるとか、アレンジやプロデュースを誰かに委ねてみるとか、そういうのについてはどうなんだ?っていう提案を受けたり。でもまあ、そういう話し合いをしつつ、意見の擦り合わせができない状態が長かったですね。
──いろいろな提案やアイデアをもらっても、泰行さんの腰が上がらなかったと。
まあ、そうでしたね。僕はこう、好きなことをやっていければいいやっていうところもあるので、あとはなんていうのかな、もちろん提案を受けて新しい感じを見せるっていうのは大事だと思うんですけど、とはいえ、そこにエネルギーを注ぎすぎて本末転倒になるのは嫌というか、僕は自分で曲を書いて歌詞を書いて自分で歌って、サウンドのこともあれこれやってっていう、それら一連をやりながらワクワクしている様子がアルバムとか楽曲に閉じ込められればいいなと思っていて。こっちがワクワクしてないと聴いてる人もワクワクしないと思うんで。あとはその、とにかく自分が楽しめることをやり続けることが長くミュージシャンを続けていくために欠かせないことのような気がしてて。そこを取り上げられてしまうと、ちょっと違うなっていう考えがあってなかなか話し合いも進まなかったですね。でも、作品を出す以上は音楽的な新鮮味とかっていうのは感じさせたいんですけどね、うん。
──やはりそこは神経を使う作業。キリンジからの脱却ということで言えば、KIRINJIとして名前を継承した兄の高樹さんも苦心したところではあったでしょうけど、泰行さんは泰行さんでキリンジのメイン・ヴォーカリストであり、要は“歌の顔”だったことでの苦心がありますよね。
長いこと意見の擦り合わせがなかなかできなかったのも、僕はその部分に関してすごく無頓着な状態で、スタッフは意識的だったっていうことですよね。でも、ちょこちょこ曲提供や客演の話とかCM音楽の仕事とか来てたから、まあ、そういうのはやってはいたんですけど、そんな感じだったから「あいつは何やってるんだ?」ってことになっただろうし、ファンもイライラしてるんだろうなっていうのも伝わってきましたけどね。
──とはいえ、新しい曲はちょこちょこ書いていた。
そうですね。ちょこちょこ。曲によってはわりとしっかり作ってたものもあって、1年以上前ぐらいには、アルバムになるぐらい頭数は揃ってはいたんですよね。
──でも、すぐにはアルバムを作らなかった。
さっきの話のように長いこと擦り合わせがうまくいかなかったんですけど、レコード会社にまた相談したら、「もういい加減出しましょう」って言ってもらって(笑)。そこでようやく腰を上げた感じですね(笑)。でまあ、寝かしてあった曲をレコーディングするだけだと、やっぱりこう、それだけじゃワクワクしないから、自分のなかでも鮮度の高い、自分にとっての新曲っていうのも欲しいなと思って、何曲か書き足して。わりと軽い気持ちで作った曲もあるんだけど、まあ、良いのが出来たなあと思ってます。
──実際、アルバム制作でスタジオに入ったのはいつ頃?
5月ぐらいからプリプロ始めて、スタジオは6月頭に入りました。たしか。
──大変でしたか?
そうですね。締切が8月下旬だから、ちょっとスケジュールがキツイなとは思いましたけど(笑)。
──それまでがユルかっただけに。
それまで自堕落な生活を送っていた人間からすると、急展開したなあっていうかね(笑)。曲数はあったけど、5月までプリプロとかを進めてたわけじゃなかったので、曲の全体像が見えてる状態でもなくて。それが見えてからレコーディングに入れたらなお良かったけど、曲によっては時間的に無理だったので、とりあえず尺だけ決めて、おおまかなアレンジだけして、バンドでベーシックを録って、そっからどうしてきましょうか?って伊藤さん(伊藤隆博。今作でキーボード、トロンボーン、プログラミングを担当)と一緒に考えていって、ストリングスとか管楽器は伊藤さんに任せて、自分でできるところは自分でやって……そういう感じで一曲一曲完成させていきましたね。伊藤さんにはアレンジの面でもかなり助けてもらって、伊藤さんナシではちょっとできなかったアルバムだなあっていう気はしてます。
──今回のレコーディングでメインになってるバンド・メンバーは、伊藤さんの他に、沖山優司さん(ベース)、北山ゆう子さん(ドラムス)といった顔ぶれですけど、「ブランニュー・ソング」や最初のソロ・ツアー(2014年夏)の時とは変わってますよね。
北山さんは、この2年ぐらいのあいだに知り合った人で、Soggy Cheeriosのオープニング・アクトに出させてもらったときに初めてお会いして、それですごくイイなあって思って。そう、この2年は、新しいバンドのメンバーを探してくっていう時期ではありましたね。やっぱり、キリンジの頃からずっと慣れ親しんでた人たちに頼むわけにはいかないじゃないですか。楠(均)さんは特別参加してもらいましたけど、みんな今はKIRINJIだから。
──やはり、パーマネントなメンバーで固めたいっていうのはあった。
できればそれがいちばんですけど、そういうことに拘らず、こういう曲調だったらこの人に頼もうっていうのとかもアリだなあとは思っていて。最終的には完全に固定したメンバーでエルヴィス・コステロとアトラクションズみたいなことができればいいなあって思うけど、まだそこまでいくには時間がかかるというか、まだいろんな人とやってみたいし。去年の秋にイヴェントで坂田学さんと一緒にやったらすごく良かったし、そういう感じでいろんなミュージシャンとやってみて、こんな良いプレイヤーがいたのか!っていう発見をしながら、少しずつ固まっていったらいいなあって思ってます。
──レコーディング期間に入る前とか、ここ最近よく聴いてた音楽とかあります? そういったものが今回の音に現れてるのかな?と。
すごく聴いてたのはね、ビル・エヴァンスですね。なかでも、エレピとアコピを使い分けて弾いてる『From Left To Right』が暗くて良くて。あとはラー・バンドとか(ドクター・バザーズ・オリジナル・)サヴァンナ・バンドとかもよく聴いてたなあ。軽やかだし、おしゃれだし、こういう感じのものをやったら作っていて新鮮味を感じるだろうし、聴く人も新鮮なんじゃないかなとかって考えながらぼんやりと聴いて楽しんでましたね。実際には新しい曲にそういう音が直接的に出てはきませんでしたけど、ちょっと管楽器が多くなったところとかは意識したところかも知れないですね。キリンジでも冨田(恵一)さんが離れてから管はあまり入ってなかったし、管がが入るっていうことで、馬の骨とも違う雰囲気になかったかなと思います。
──管楽器が多くなったといえば、1曲目の「New Day」だったり、たしかに冨田さんがプロデュースしていた頃のキリンジっぽい雰囲気もあるアルバムかなと思いました。
それは思います。自分で聴いてても思いました。『ペイパードライヴァーズミュージック』とかの頃のキリンジみたいな明るさっていうか、カラフルさに通じてるところはあると思いますね、まあ、僕一人でやってるから、もちろんあの時と違うものにはなるんだけど。
──結果的に、新しさが伝わりやすいアルバムになったんじゃないでしょうか。
そうですね。まあ、古いファンの人にも喜んでもらえたらいいし、新しい人にも伝わるといいなあって思います。ようやく重い車輪が動き始めたので、こっからは慣性の法則を利用して、もうちょっとテンポよく、車輪が止まらない感じで出していきたいですね。
インタビュー・文/久保田泰平
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