NakamuraEmi × 藤原さくら
「The Moon × 星なんて言わず」
オフィシャルインタビュー
「音楽」は時に、人知を超える魔法のようなパワーを生み出す。『UMEDA CLUB QUATTRO 10th Anniversary“QUATTRO EXPRESS” × “QUATTRO MIRAGE” NakamuraEmi × 藤原さくら』(4月8日広島、4月10日大阪、6月13日東京)にて披露した、藤原さくらの“The Moon”とNakamuraEmiの“星なんて言わず”をマッシュアップした楽曲“The Moon × 星なんて言わず”にも、まさにそういった音楽の力が渦巻いている。まるでこの2曲がくっつくことが運命であったかのように導かれて完成した“The Moon × 星なんて言わず”について、NakamuraEmiと藤原さくらに語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT:矢島由佳子(音楽編集者・ライター)
―“The Moon × 星なんて言わず”をライブで披露することになった経緯から聞かせてください。アンコールで「1曲一緒にカバーしましょう」とかはよくあると思うんですけど……。
藤原さくら そうですよね。だからそんな感じにするのかなと思っていたんですけど、Emiさんが「さくらちゃんの曲と私の曲でコラボできたらいいよね」と言ってくださって、どんなふうになるのか全然わからないまま「え、そんなことができるならぜひやりたいです」って言ったら……あんなにかっこいいデモが返ってきて。
―Emiさんの「2曲をマッシュアップする」という発想はどこから出てきたんですか?
NakamuraEmi 以前『QUATTRO MIRAGE』でSalyuさんとやったときに、Salyuさんが「私の曲にラップをつけて」と言ってくれて、アンコールで“VALON”という曲を、ILMARIさんのラップの部分を自分の歌詞に変えさせていただいて歌ったんです。あのアンコールがすごく記憶に残っていて、『QUATTRO MIRAGE』はいろんなことができる2マンだという意識があったので、今回も特別なものをさくらちゃんと作りたいなと思って提案したら快く受けてくれて。
藤原さくら 素敵、それ聴きたい!
―そのときの“VALON”、聴いてみたいですね。そこから、なぜ“The Moon”と“星なんて言わず”が合うんじゃないかと思ったんですか?
NakamuraEmi いやもう本当に迷って。身近な言葉や生活の言葉が出てくるさくらちゃんの曲と、私の曲をリンクさせるのがいいかなと想像して、さくらちゃんの曲を全部聴いていたんですけど、この“The Moon”だけ何か違うものを感じて。まず《真っ白な夜に怯えてるの》でハッとなってから、歌に本当にやられて。この曲には他のものと違うパワー感とか、さくらちゃんの違う部分を見る感じがして、「好きだな」と思いながら何回も聴いていたら、「あ、自分にも星の曲があるな」と思って。たまたま三拍子なのも一緒で、「自分の曲で合うものって考えたら、これかもしれない」ってなって。直感だった気がしますね。ちょっとキーが高いんだけど、そんなことどうでもよくなるくらい「これとこれを絶対にくっつけたい」みたいな熱がありました。
藤原さくら “The Moon”を選んでくれたことがすごく意外で。2つの曲を1つにしようとすると絶対に違和感が生まれるはずなんですけど、すごくシンプルにハマっているというか。コード進行がここまで合うこともすごいですよね。普通、コード進行で「あれ?」ってなっちゃうから。
NakamuraEmi すごいよね。びっくりした(笑)。
―この2曲は「偶然のようで必然」と言いたくなるくらい、音楽に導かれるかのように合っているところが多々ありますよね。まずリリースのタイミングが両方とも2018年で。
藤原さくら そうなんです。
NakamuraEmi ね! びっくりしたね。
―そもそも“The Moon”は、『コードギアス 反逆のルルーシュII 叛道』の主題歌として書き下ろされたものですが、当時どういうことを思いながら作った曲でした?
藤原さくら “The Moon”は今まで書いた曲の中でも壮大なテーマというか。誰かを守りたいがために誰かの命を奪ったり、誰かを愛するが故に何かを犠牲にして進んだり。「でもそれって本当の愛なのか?」とか、正義のあり方をテーマにしたものです。自分がそれまで書いてきた日常的な曲や恋愛の曲とはまたちょっと一風変わった曲だったので、それがEmiさん曲と重なることでこんなふうに生まれ変わるんだということが感動的でした。
―“星なんて言わず”はいかがでしょう?
NakamuraEmi だんだんと歳を重ねていって、人はどうしたって死んでしまうことを目の前にしたり、お別れしなくてはならないことを経験したり、でも自分は生きていかなきゃいけないし、という中でブワーッと言葉になった曲で。お別れというものはこれからもきっとあることで、人間に絶対にある「生」と「死」について、自分を支えるために書いた曲でした。すごく大事な曲なので、こうやってまた違う形で生まれ変わったのは私も本当に嬉しい。
―「世界」や「宇宙」に視点を向けている“The Moon”と、目の前の生活を見ている“星なんて言わず”が重なることで、より大きな包容力を持って心の穴を包み込んでくれると思いました。マッシュアップされることで、一つひとつの言葉が持つ意味も広がるなあと。
NakamuraEmi 結局は、すごく大事な人のことを歌っているという共通点があって、大きな核が一緒だったから、細かいことが違っても同じ世界観になる力があるなと思って。
藤原さくら スケールとかは違うものがあるかもしれないけど、お互い、生死を表している曲ですよね。うまく言葉で表せないけど、曲を聴いたときに「もともとこうだったんだ」という感じがありました。私、“星なんて言わず”で終わるのがすごく好きなんですよね。Emiさんの部分で気持ちよく曲が締まってる感じがして。
NakamuraEmi 最初はね、さくらちゃんの曲で締めていて。
藤原さくら あ、そうなんだ!
NakamuraEmi 《あなたもそうでしょ?》で終わらせてたんだけど、カワムラ(ヒロシ)さんがアレンジを作ってくれているときに、「ねえ、これ入れたら?」みたいに言ってくれて。たしかに入れるとなんか救われる気がするなあって。
藤原さくら そう! 救われるんですよね、ここの歌詞って。
―“星なんて言わず”の歌詞って、冒頭も最後も「花鳥風月」をモチーフにしているのに「月」というワードだけ使ってないですよね。
NakamuraEmi ね、すごいよね。私もそれ思った(笑)。
藤原さくら たしかに! 花鳥風月を書いてるのにピースとして「月」を……。
NakamuraEmi そう、でもね、自分でも全然気づいてなくて。そもそも花鳥風月を考えてなくて、本当に、純粋に歌詞を書いたらこの順番だったの。自分の家の周りの映像なんですけど、田んぼとかがある場所なので、花、鳥、風って書いていって……そこに月がなくて。不思議だよね。これは「星」で表していたから。
藤原さくら 面白い!
NakamuraEmi やばいよね(笑)。ここでやっと完成する。
藤原さくら すごい。今、感動した。花鳥風月の完成。
―さくらさんが言うように「もともとこうだったんじゃないか」と思わされますよね。実際、この曲をライブで披露したときは特別な感覚がありました?
藤原さくら はい、ありましたね。
NakamuraEmi やった瞬間のお客さんの顔。マスク越しだけど目の表情とかが伝わってきて。そのときのお客さんの反応とか拍手の大きさで、これはやってよかったなって感じました。記憶に残るライブだったな。
藤原さくら ライブでこの曲をやっているときに違和感を感じたことがなくて。それぞれの歌が完全に重なり合うところもすごく自然だったから。違う声質で違う人生を歩んできた2人がこんなにも、お互いを邪魔せずに、そっと隣にいるような曲になったことが、ライブ中も「すごい!」と思ってました。それがライブだけで完結せずに、もっと多くの人に聴いてもらえるのはすごく嬉しいことですよね。
NakamuraEmi 追加公演の東京のアンコールでやったときもお客さんがいっぱい声をくれて、「これ、音源になったら嬉しいね」みたいな話を冗談混じりでしていたら、その次の日から動き出したので。
藤原さくら そう、アンコールを歌い終わったあとに、スタッフの人たちが「本当にこれリリースしたらいいんじゃない?」って言ってくれて、「え、やりたいですけど……」みたいな。そこからガッと話が進んでいきましたね。アー写撮るまでいくって、結構なことですよね。姉妹のようなかわいいアー写とジャケ写ができて本当に嬉しいです。うちのお母さんがこれを見て「なんか2人すごく似てる」って。お母さんがそれを言うってもう、絶対似てるということですよね(笑)。
NakamuraEmi お母さんに言われるの嬉しい(笑)。アー写でも、今回の曲みたいに混じりあえたのはすごくいいなと思って。熱がなかったらアー写までガッツリ撮ってもらえる流れにはならないと思うので、いろんな意味でギュッとなれたチームだったなあって。ここまでさくらちゃんとあまり関わりがなかったことが逆に不思議だし、ここでやるべきだったんだなという感じがしますね。
─実際にレコーディングしてみたときの、曲やお互いに対する印象はいかがでしたか? なんといっても二人のハモリが絶品ですよね。
NakamuraEmi さくらちゃんが歌い出した瞬間、ゾワってきて、「うわ、やっぱりこの人かっこいいなあ」って思いましたね。いつもはハモリも自分で歌うから、今回はさくらちゃんの声で自分の曲がハモられて、風のように終わっていくのがもう、私はすごく好きで。お互いのよさが消えちゃうのは嫌だったから、さくらちゃんの声に寄り添って空気の要素を出して歌っていたけど、最後のさくらちゃんの歌詞の《君を愛してただけなの/あなたもそうでしょ?》は2人の個性ががっちゃんこしていいんじゃないかと思って、そこは自分らしく歌ったりして。すごく勉強になったなあ。これは他の人と一緒にやらないと味わえない音楽の形なんだなということをすごく感じました。
藤原さくら Emiさんがハモりを入れてくれるとすっごく気持ちいいんですよね。ライブしてるときも、自分が歌ってるところにEmiさんがフワッと声を重ねてくれるとすごく気持ちよくて。一緒にライブをやったメンバー4人でレコーディングできたし、すごく楽しかったです。
NakamuraEmi ピアノの大嵜慶子さん、ギターのカワムラヒロシさんと、3公演踏まえてのレコーディングで。「いっせーのせ」で(歌と楽器を同時に演奏して録音する)、それぞれ違うブースに入っていたんですけど、窓があって全員の顔を見ながらできるスタイルだったから、本当にライブみたいに録れたことがすごくよかったなと思って。
─音源化するときに、たとえばウッドベースやパーカッションなどを入れる選択肢もあったと思うんですけど、ライブでやった4人で録ることがこの曲の肝だったんですね。
藤原さくら まさに。
NakamuraEmi そう。弦とか絶対に合うじゃないですか。そう思いながらも、あの日に自然と渦ができてこういう形になれたから、あの日の熱とかを閉じ込めようという想いでやれました。
─今回の特別な音楽的経験は、今後のそれぞれの活動にどういった影響が生まれそうですか?
藤原さくら 私は、マッシュアップが初めてだったので、とっても刺激的な経験になりました。それこそ自分の曲でできることもある気がするし。なかなかこういうふうにハマらないものだと思うので、本当に「よくぞはめてくれました」という感じで。しかもやっぱり、作っている人が違うのに1つになったということが感動ですよね。
NakamuraEmi 私は、デビューから誰かと何かを作ることを断ってきたというか、自分の芯を確立するために、人のお名前や音楽に頼ることをやめてたから。「なんで断っちゃったんだろう」みたいなものも今思えばあるんですけど(笑)、「この世界に染まらない!」みたいな感じでデビューして、自分の軸がわからないのに先輩方と一緒にやったらその人のおかげでしかなくなっちゃうから、その自分が怖くて全然できなくて。コロナでいろんなことがストップして自分を客観的に見つめ直す中で、「そろそろいいかも」ってなったんだけど、なかなか一歩踏み込むことができなくて。今回、ライブ前に偶然一瞬だけさくらちゃんに会えて、そのときに「素敵な人だな」という感覚があったから、一歩踏み出せたのもあると思う。本当にいろんな偶然が重なってできたことだったなあって思いますね。「さくらちゃんとやってみたいです」と言うことが私にとってはまず大きな一歩だったから、誰かとやることの素晴らしさを教えてくれた一歩だったなという感覚です。しかもさくらちゃんは本当に音楽に詳しいし、人としてもすごくフラットで、肩の力を下ろしたまんまライブができる人だから。音楽を続けていく上で「力を抜く」というのが今の自分のテーマなんだけど、それを本当に素で持ってる人だから、ここから進むにあたってさくらちゃんと仕事ができたのは本当に大きなことだったなと思います。