NakamuraEmiにとって1年5か月ぶりのアルバムが、7月21日にリリースされた。2012年からの8年間、「素敵な日本の女性になれますように」というコンセプトで『NIPPONNO ONNAWO UTAU』と題して、Vol.6までの6枚のオリジナルアルバムと2枚のベストアルバムを完成させてきた。しかしここにきて『NIPPONNO ONNAWO UTAU』シリーズに区切りをつけ、このたびリリースされるアルバムは『Momi』と名付けられた。その言葉には、「過去の作品の種まきから変化し苗になり、新しい作品が籾のように実ったイメージ」と「ハワイ語で真珠の意味もあり、貝内に異物が入ると自身を守ろうとして真珠ができることから、傷付くことから自分を素敵に変えていくNakamuraEmiのテーマ」といった意味が込められているという。これまでもNakamuraEmiの音楽を聴いてきたファンは、このアルバムを聴くと様々な角度からの驚きがあるだろう。その多くの変化の深層を、NakamuraEmiとプロデューサー/ギタリスト・カワムラヒロシに語ってもらった。
ーまず、『NIPPONNO ONNAWO UTAU』シリーズに区切りをつけて新しいタイトルでアルバムを作ることにした、その理由からお話いただけますか?
NakamuraEmi 『NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST2』を昨年2月に出した頃はまだ、次に『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.7』を出すつもりだったんです。
カワムラヒロシ そう、その予定だったんだよね。
NakamuraEmi 『BEST2』をリリースして、すぐコロナになっちゃったから全部がピタッと止まって、休んだことでいろいろリセットされて……タイトルを変える方向にいきましたね。
カワムラヒロシ 『BEST2』を出して、やり尽くした感も実はあってね。リリースしてから「一旦このモードはもういいかも? ちょっと違うことを考えようか?」という匂いはしてたよね。そしたらコロナが来て、決定的になったっていう。
NakamuraEmi 『NIPPONNO ONNAWO UTAU』という言葉を使い始めたときは、ジェンダーの考えが今みたいには浸透してなくて。自分の中では「男女垣根なく」という意識があったけど、社会の中には男女の差があるなって感じていたので、そういう意味で「女だけどがんばろう」という気持ちで作った言葉だったんです。でも“女”という言葉がつくことの意味や見え方が、当時と今とではまたちょっと違ってきているなと感じていたし、一旦それを取っ払って考えると自分たちの枠を広げられるかな、と思ったのが大きかったですね。
─コロナの影響で活動がストップした期間に、Emiさんはどんなことを感じたり考えたりしていたのでしょう?
NakamuraEmi デビューからがむしゃらに走り続けてきたので、初めて心も身体も休めたというか。なんにもない期間というのが、私にとってはちょっとありがたくて。大変な状況の人がいるから「ありがたい」と言うのは気が引けるけど、自分にとってはあの期間がなかったら、音楽を長く続けていく方法を見つけられるのがもうちょっとあとだったのかなと思う。
カワムラヒロシ Emiちゃんは作品作りに向けて本当にストイックに自分を追い込むし、レコーディングのときとか、作品と向き合いすぎてどんどん笑顔が減っていくのね。本来、音楽をやり始めたときって、そういう感じではないじゃないですか。Emiちゃんが言ったように、たまたまコロナがあったから休めたけど、あのまま続けてたら……多分、Emiちゃん、1/2くらいのサイズになってたと思う。
NakamuraEmi あはははは(笑)。
─絞り出しすぎて(笑)。
カワムラヒロシ そうそう、向き合いすぎて(笑)。作ってるときにストイックになるなんて当たり前だし、一番近いところにいるから気持ちもすごくわかるんだけど、でも見てられないっていうかね。しかも、俺たちはタイプが両極端だから。僕はすぐ切り替えちゃうタイプで(笑)、それが羨ましいってEmiちゃんは言うんだけど、僕からしたら、それだけ作品に向き合えることが憧れる。ただ、一生懸命になりすぎて見えなくなることもあるしね。今は切り替えられるようになってるもんね。
NakamuraEmi そうですね。年がら年中忙しいわけじゃないし、ちゃんと休みももらってたんですけど、オンとオフの切り替えができなかったんですよね。いろいろ上手くできるタイプじゃないから、常に何か月か先に起こることを考えて準備しておかないと不安で。それに曲なんて向き合えば向き合うほどたくさんできるし、日々、映画を観てもどこかを歩いててもなにをしてても歌詞になる部分があったらメモっちゃうし。もともとはつらいこと、悲しいこと、楽しいことをノートに書いてそれが曲になってたから、音楽は自分の安定剤だったんです。でもこの仕事をさせてもらうようになって、音楽が特別になっていけばなっていくほど、ずーっとずーっとここにあるもので。安定剤でもあるんだけど、“お仕事”でもあった。だけど、去年の3、4月は本当にすべてがなくなって、みんなが休まざるを得なかったし、「やることなくて大丈夫です!」という状態になって、朝起きてから夜寝るまで音楽から離れる毎日をやったら……「オフにするってこういうことか!」というのがやっとわかったんです。多分、これからずっと大事になっていくことを教わったなという2か月でした。
─そんなことをきっかけに、制作面ではどんなことを変えていかれたのでしょう?
NakamuraEmi 一番は歌詞かな。今まではつらい部分を書いて、それをどうプラスにしていくか、ということで一曲ができていたんですけど、言葉をすごく選ぶようになりました。今までは日記に書いたことをそのまま歌で見せてきたのを、「この日記のことを、たとえば飲みながら誰かに伝えるとしたら、言葉を変えるよな」って思いながら、誰かに伝えるということを改めてちゃんと考えて書きましたね。
─これまではEmiさんが自分を鼓舞するために書いた歌詞が聴き手を鼓舞することに繋がっていた面が強くありますけど、今作は、聴き手に対してそっと願う部分や温もりを与えるところがたくさんあるなと感じました。あと、ハッキリとした言葉で歌ってるのにもかかわらず、リスナーにとってはそれぞれの日常を思い浮かべて聴くことができるなと。
NakamuraEmi 嬉しいです、“温もり”っていい言葉ですね。今までは「“自分100%”で出すからNakamuraEmiの作品なんだ」と思ってたんだけど、こうやって世界共通で不安なことや苦しいことがあると、みんなが同じ状況だから人のことをすごく考えるようになりました。自分は今休んでるけど休めてない人、医療現場で戦ってくれてる人がいると思うと、どうしたって“つらい”の状況は違う。私にその人のことは歌えないけど、そこをちょっとでも繋げられる言葉があるのであれば見つけたいなと思って歌詞を考えていきました。何度も歌詞を書き換えたのが今回の作品で、それが私にとって一番デカかったですね。
カワムラヒロシ そうだよね。迷うきっかけになったのは、「この状況でこの言葉を出していいのか?」とかだよね。誰も正解がわからないしさ。「1の次は」の歌詞が特に……。
NakamuraEmi 一番難しかったですね。あと、いつもは歌詞優先だったから、どれだけメロディやリズムにはまってなくても入れたい言葉を入れていたんですけど、それよりも心地よさの中で歌詞が入ってくることを大事にしました。カワムラさんに聴いてもらって「やっぱりここは聴いてて気持ちが悪い」って言われると、メロディは絶対に変えずに、このメロディに当てはまるけど絶対に濃度は薄めない、むしろより強くなるような言葉を、何か月もかけて探す、ということをやった曲が多くて。それはめちゃくちゃ苦しかったですね。
カワムラヒロシ あともう一息のところってめっちゃつらいし、大変なのはすごくわかってるから、(あがってきた歌詞に対して)「いいね!」って言いたいんやけど……でも、それだけ一生懸命やったものに対してちゃんとハッキリ向き合ったほうがいいなと思って。……しんどかった?
NakamuraEmi うーん……。
カワムラヒロシ いつでもしんどいよね、そこは。
NakamuraEmi ミュージシャンはみんなこれをやってるんだなって。私はこれまでやってこなかったことだから。
カワムラヒロシ そういうのって、アレンジで避けられるからね。
NakamuraEmi そこに甘えてたし、「私はこうだから」って型にはめてたとも思う。それを取っ払っていかないとっていう思いがちゃんと生まれたから、みんなが当たり前にやってることを初めてやった感じです。これをやったことでこれから曲作りが変わっていくと思うし、大事な一歩でした。
カワムラヒロシ あと制作過程で大きく意識したのは、これまではすごく向き合って作ってきたから、音にしても歌詞の広げ方にしても理路整然と、ロジカルにやる部分があったんだけど、それを一回やめました。結果ロジカルではあるんだけど、『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.1』を作ったときくらいの感覚に全部戻した気がする。音楽って、やっぱり感覚だから。歌詞に関しても「どう聴こえる?」「どう捉える?」って、みんなの感覚を聞いてたし。
NakamuraEmi そうだね。
カワムラヒロシ 結局、感覚って合ってるからね。直感って、不思議なもんでさ。
NakamuraEmi もともとは直感で思うがままにやってたけど、この世界に入らせてもらってありがたいことに選択肢もたくさんいただけるからこそ、自分の型を作らないといろんなことに手を出してどんどんふわふわしちゃうと思って、ちゃんと型を決めてそこからブレないようにしていたんですよね。いい意味で、「うちらはここです」という型を作れたことが私たちにとっては大きかった。
カワムラヒロシ まずはそれがないと外れることもできないからね。
NakamuraEmi そう、だから論理的に音を作ってきた部分もあって。でもみんな歳を重ねて肩の力も抜けてきたし、型にはめてここまでちゃんとできたから「もういいか!」って。投げやりな意味ではなくて、これまでを踏まえて自分たちの感覚を大事にしようってなれました。だから……今回のレコーディングはすっごく楽しかった!
カワムラヒロシ 今回、Emiちゃんの笑顔が全然違ったよね。楽しかったんだろうなって。
NakamuraEmi 楽しかった! 感覚っていいものだなと思いました。
─時代的にも、コロナになってこれまで正しいとされてきた論理や社会構造がたくさん崩れたから、一人ひとりの感覚やアンテナこそ大事にしたいという空気感があるような気もします。
カワムラヒロシ ありますよね。そりゃ高度経済成長期の歌謡曲と全然違うのと一緒で、あのときはそういうもののほうが響いただろうけど、今はそうじゃないから。今は心の豊かさとかがすごく意識されてるけど、そんな考え方、今まで日本になかったやんね。
─サウンド面でも様々な変化がありますよね。クレジットを見るとカワムラさんのギター以外の役割がめちゃくちゃ増えているという。
カワムラヒロシ そうなの! めっちゃ増えたの!(笑) 今までマンパワーにすごく執着していて、人力で作るグルーヴとか、汗を感じる楽器とか、手垢を感じるものとか、“土っぽさ”“木の感じ”といったキーワードを大事にしていたんだけど、そもそもそういうのをEmiちゃんも僕もプライベートで聴かなくなっていて。今サブスクで自分たちがふと聴く音楽って、わりとリラックスしたグルーヴだったり、無機質なものだったりして。いつもはデモを打ち込んでそれをメンバーと共有してスタジオで録るんだけど、今回はデモをEmiちゃんに聴いてもらった時点で「質感、これでよくない?」ってなって、そこが僕の役割が増えていくスタートでした。最初は別にそういうつもりじゃなくて、今まで通りのプロセスで作っていくのかなと思ってたけど。
─今回、生ドラムはひとつもないですよね?
NakamuraEmi そう。初めてですね。
カワムラヒロシ でも打ち込みのグルーヴを生っぽく、人っぽくするというのはすごくこだわりました。ただループさせるということはしてなくて。そうすると、Emiちゃんの言葉の届き方もまた変わるかなって思ったんだよね。“汗”とかそういうものが全開に出てるものに彼女の歌詞が乗るよりも、ある種無機質な、さらっとしたものに彼女の歌詞が乗ると、よりリアルに届くかもって。ある意味、実験よね。
NakamuraEmi 今まで生のよさを追求してきて、それもすごくよかったけど、今は生の匂いとか臭さみたいなものはいいかなって。自然とそうなりました。私がデモを作る段階は弾き語りだから、それは手垢だらけなんですけど、そこからカワムラさんが上げてくれるアレンジが今までと全然違ったし、デモの打ち込みの段階で音も素晴らしかったし。今までは嫌だったんですよ、打ち込みの音が。
カワムラヒロシ 生ドラムを意識した打ち込みって、絶対に生には勝てないからね。
NakamuraEmi 「なんか違う」「ベースも嫌だ、やっぱり生がいい」とかいつも言って、とにかく生に変えてたんですけど。カワムラさんの聴く音楽も広がっていたし、コロナの中でカワムラさんがいろいろ研究されて、とにかく音の質感も、音の選び方も、すごく自分の好みになってアレンジが返ってくるから、「もうこれでいいんじゃないですか」って感じになったんです。
─コロナになって時間ができたことで、カワムラさんの打ち込み力がレベルアップしたんですね。
カワムラヒロシ チーッス!(笑)
NakamuraEmi (笑)。本当にすごかったです。
カワムラヒロシ 歌詞から曲に入る人とサウンドから入る人とでわかれる中で、歌詞から入る人には、Emiちゃんの歌詞ってどんな音でも絶対に響くから。NakamuraEmiという人は、下手したら足踏みとクラップだけでも全然成立する。だからそれをいいことに、今回は本当に好きな音しか入ってないですね。
NakamuraEmi だから今回はカワムラさんが“アレンジャー”の枠ではないなと思って。これまでもアレンジャーの枠を超えてるんですけど(笑)。なので今回は作曲者に名前を入れようってなりました。
カワムラヒロシ 共同作業者、共作者みたいな。ゼロから一緒に作ったものもあるけど。
NakamuraEmi 「いただきます」は作詞作曲から一緒にやりましたね。それ以外は私が曲とメロディを作って、カワムラさんにお渡ししてます。不思議なんだけど、ゼロからイチを一緒に作るのは、意外とぶつかっちゃうし時間もかかっちゃって。ゼロから一緒に作るときは、いい意味で、自分の軸をズラそうって決意したとき。「いただきます」は、自分の意見は10の内3ぐらいでいいやって腹を括ってる。それは、自分の意見が反映しすぎるとちょっと違うものになっちゃうなと思って、カワムラさんと一緒に作ったほうがいいと思ったから。そうやって決めたときは、カワムラさんの意見重視で曲を作っていきますね。
カワムラヒロシ そうだよね。クレジットだけ見るとわからないけど、そこの線引きは自分たちの中にあるかな。自分が入ったほうが絶対に言葉が届くなって思うものは共作という意識で作る。今回だったら「いただきます」で、これまでだと「ボブ・ディラン」とか「ばけもの」がそうですね
─今回のアルバムは、Emiさんのパワフルな歌い方だけでなく、美しい声質がすごく光っているなとも思いました。
カワムラヒロシ (手を叩いて)それはいいところを聞いてくれました! 実は歌い方をめちゃくちゃトライしていて、Emiちゃんの声の響き方が変わったというのはまさにそうで。『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.6』のあと喉をやっちゃって、彼女なりにいろいろ思うことがあって、歌唱表現をすっごい勉強したんだよね。ボイストレーナーの方についてもらって、ちゃんとケアもするようになったら、声の出し方とか表現がもう一気に変わって。一緒にライブやってても毎回すごく思う。Emiちゃんは、すっごくいい声だし、強いだけじゃないぞっていう、今回はそれを存分に出せたらなという意図はすごくありました。
NakamuraEmi こうやって気付いてもらえるのは、「なにか違うんだ」って思えて嬉しいですね。
カワムラヒロシ あんまりいないけどね、変わっていく人って。本当に一握り。だからあなたは変わっていける人。
NakamuraEmi いい先生に出会えましたね。もともと喉が強い人ではあるんだけど、これから何十年も長く歌っていくためのことを先生が丁寧に教えてくれて。それで自分も気持ちが変わっていけてるし、ここからもっと勉強していきたいなと思います。
─今回はレコーディングやライブのメンバーも、レコーディングエンジニアさんも、ガラリと変わっていますが、このあたりはどういった想いがあったんですか?
カワムラヒロシ コロナになって、ある意味全部の積み重ねがなくなって、本当にみんながスタートラインに立つことになったわけじゃないですか。だから、彼女の歌を今まで届いていない層に届けるチャンスだなと思ったんですよね。同じチームで作り続けるよさはあるんだけど、いろんなことをやって、失敗したら修正して、ということができるチャンスかなとも思ったんです。だからいろんなメンバーとセッションしたりね。一旦次の作品は『NIPPONNO ONNAWO UTAU』という言葉から離れるとしたら、海外の人ともやったりすることもできるだろうし、という話はずっとしてて。
NakamuraEmi そうでしたね。『NIPPONNO ONNAWO UTAU』だからって、日本の人とやるという型があったけど、それも取っ払うことができました。
カワムラヒロシ 「日本」にこだわりすぎ、みたいなね(笑)。
NakamuraEmi そうそう。それはそれでよかったんだけど。
カワムラヒロシ 今まではレコーディングからミックス、マスタリングまで兼重(哲哉)くんにやってもらっていたんだけど、自分が聴いてきたのはずっと海外の音楽だし、マスタリングエンジニアという最後の部分を一度海外の人にお願いしてみたいという気持ちはあって。今回『NIPPONNO ONNAWO UTAU』という言葉から離れるとしたら海外の人ともやれるねって話して、コロナでリセットするタイミングだったのもあったから試させてもらって……めっちゃよかったよな?
NakamuraEmi そうですね。言葉で説明してないのに全部音で返ってきたから……そういうことなんだなって。今まで言葉で説明してレコーディングもしてきたけど、今回はそういうことをほとんどしなかったから、やっぱり感覚で繋がる部分でいいんだなって思いました。兼重くんにはデビュー前からずっとお世話になってたので、全部頼れちゃうし、甘えてきた部分がすごくあって。コロナ禍でたくさんのミュージシャンととにかくセッションして、レコーディングもとにかく新しい方とやってみて、自分たちはなにができてないのか、そして今までやってくれていた人たちが本当はなにに長けていたのか、見えてくる部分や気付く部分がたくさんありました。
カワムラヒロシ 録りとミックスは曲の雰囲気にあった方でやらせてもらったんですけど、結果的に、それぞれのエンジニアさんの個性がちゃんと曲に反映されていて。奥田(泰次)さんはすごくムードのある音をちゃんと作ってくださるし(「drop by drop」「私の仕事」「一服」「ご飯はかために炊く」)、土岐(彩香)さんはすごくみずみずしい感じになるし(「畑」「いただきます」「1の次は」)、(井上)うにさんはやっぱりパンチのある音になるし(「投げキッス」)。それをマスタリング(John Davis/Mandy Parnellが担当)でよりスケールのデカい感じにしてもらう、という作業でした。
NakamuraEmi 本当に素晴らしいエンジニアの方とたくさんセッションできたことで、新しい『Momi』に行けました。
─そうやって新しい人たちとやることも、NakamuraEmiとしての型ができて自信もついたから、ですよね。
NakamuraEmi それは本当にそう!
カワムラヒロシ 今回の作品を作ったあとに過去作品をライブでやると、今までと全然違うよね。余裕も生まれるし別の解釈で表現できるというか、曲がちゃんと成長してる感じがしました。不思議な感覚でしたね。
NakamuraEmi たしかに! だから今一番楽しいですね。ライブをやるのもレコーディングをやるのも全部が楽しい。これまで関わってくれた人がいなかったら今回の作品はできてないから、今回は関わってない人も含めて、「ここに全員います」という感じがします。それが『Momi』になりました。
─ちなみに、前作からの約1年半に、コロナ以外で大きな出来事ってなにかありましたか?
NakamuraEmi 猫が死んじゃったことかな……猫が死んだときは、ピヒャー! って子どもみたいに泣いた。猫とはしゃべれないんだけど、ふさふさを抱いたり顔を舐めてくれたりすることで、大人になって言えない部分を全部出せていたんだなってすごく感じて。大人って、いろんなことを勝手に我慢したり、お互いのことを考えて言えないことがたくさんあったりするんだなって。自分の子どもみたいな気持ちを全部出させてくれていた存在だったんだなって、今はすごく思う。それで、スタッフの息子さんが「Emiちゃん、猫が死んじゃって寂しいから」って、猫のぬいぐるみをプレゼントしてくれたんですよ。最近はそのぬいぐるみが自分の支えになっていて、肌身離さず持っています。自分がホッとできるものというのは、いろんなものを抱えてる大人だからこそ大切なんだなって。だから、自分の曲がそういうものになれたらなとも思いますね。
INTERVIEW & TEXT:矢島由佳子
PHOTO:YURIE PEPE