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連載内容

オペラをこよなく愛する吉田光司さんがお送りするオペラ・ニュース月報。国内外の歌劇場の様々な話題、ニュースを活きのいいうちにご紹介。5分で世界のオペラ界が垣間見える、月1回更新の速報型ウェブ連載!
※煩雑になるので伝聞調を採っていませんが、基本的に実際に公演を観た人から得た情報を基に書いています。

プロフィール

吉田光司

早稲田大学法学部、および国立音楽大学声楽科卒。音楽関係の会社に勤務後、現在はフリーで活動中。オペラDVDの日本語字幕翻訳・制作、ノーツ執筆両方を手掛ける職人であり、また稀にNHK-FMのクラシック番組で案内役も務める。大のオペラ好きで、オペラと名のつくものは何でも聴くが、特にお気に入りはヘンデルとロッシーニ。イタリア、ペーザロで開催される「ロッシーニ・オペラ・フェスティバル」には十年来通い詰める常連である。オペラ公演は「自腹で聞くのが当然」の主義。和食の魚、ことに寿司と干物が好物。猫をこよなく愛する。

日本コロムビア

オペラ・コラム道場

オペラ・ニュース月報:マンスリー“オペラ”レポート/吉田光司

第1回 中村恵理、ネトレプコの代役で大成功 ほか

 68歳のドミンゴ、METでマウリツィオを歌う

2月6日、プラシド・ドミンゴがメトロポリタン歌劇場でのチレア《アドリアーナ・ルクヴルール》のマウリツィオを歌った。実はドミンゴは、この公演には指揮者として出演する予定だった。本来マウリツィオに予定されていたのは、マルセロ・アルバレス。しかし、同時期に新演出上演されるヴェルディ《イル・トロヴァトーレ》のマンリーコ役に予定されていたサルヴァトーレ・リチートラが、前年8月に降りてしまい、アルバレスはそちらに回ることになってしまった。その代役として、ドミンゴが指揮者からマウリツィオへと変更になったのである。

マウリツィオ役は、ドミンゴが1968年9月28日にメトロポリタン歌劇場にデビューした縁の深い役で、その時もフランコ・コレッリの代役による出演だった。それから40年5ヶ月後の舞台は、デビュー時と基本的に変わらないものだったそうだ。68歳のドミンゴの歌唱は、「老いてなお」などという前置きが不要な、実に立派なものだった。

 カリフォルニアならではのヴィヴァルディ《モテズマ》

日本ではほとんど注目されることのない南カリフォルニアのロングビーチ・オペラで、3月28日、ヴィヴァルディ《モテズマ》が米国初演された。このオペラは台本だけが伝わっていたが、2002年になって音楽の大半が発見され(第二次世界大戦でドイツから旧ソ連に接収された膨大な楽譜の中から発見された)、上演が可能になった。

物語はメキシコを征服したエルナン・コルテス(オペラではフェルナンド)とアステカ王モクテスマ2世(=モテズマ)を題材にしたもの。演出のデイヴィッド・シュワイツァーは、舞台を博物館でのアステカ文明展に置き換えている。

この舞台では、フェルナンドの弟ラミーロ(女性歌手の男装役)とモテズマの娘テウティーレの扱いが面白い。オペラでは二人が恋仲になり、強く反対されるのだが、この演出ではラミーロは女性で、つまり愛し合う二人はレズビアンなのだ。ラミーロの胸には「NO on 8(同性婚禁止を定める住民投票提案8号に反対)」の意思表示が見られる。「ズボン役」を逆手に取って、カリフォルニア州ならではの問題提起を図ったわけである。もちろん、オペラでは最後に二人の仲は許されるのだ。
ロングビーチ・オペラ

 ミンコフスキとパリ

パリ・オペラ座の2009/10年シーズンの演目が発表された。注目は、2009年9月にガルニエ宮でのグノー《ミレイユ》の指揮を担当するマルク・ミンコフスキ。オペラ座との関係強化が噂されているだけに、これは重要な公演となるはず。12月にはロラン・ペリ演出のラモー《プラテー》が久々に再演される。

そのミンコフスキは、今ちょうどパリのシャトレ座で、手兵ルーブル宮音楽隊を指揮してワーグナー《妖精》を上演中。 しかし新聞評ではエミリオ・サヒの演出が「ムーランルージュ風で安っぽい」と酷評されている。
パリ・オペラ座

 迷走するロッシーニ・オペラ・フェスティバル

今年で30回を数えるペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティバル(ROF)が迷走している。2008年8月の発表時には、フローレスが出演する目玉公演《ゼルミーラ》、2003年の再演となる《オリー伯爵》、そして極めて珍しい《シジスモンド》がバルチェッローナのタイトルロールで予定されていた。ところが11月になって《シジスモンド》が外れ、軽い《絹のはしご》に替わってしまった。その後サイトで主要キャストが発表されるものの、1月には《オリー伯爵》でアデーレ役となっていたアニク・マシスがデジレ・ランカトーレに替わり、その名前も3月に無くなった。しかも3月末には、《オリー伯爵》の指揮者レナート・パルンボの名前まで消えてしまった。《ゼルミーラ》からは、第2テノールのフランチェスコ・メーリの名前が消えた。また、優先販売が始まっても、4公演あるリサイタルの歌手は発表になっていない。かつて無かった事態だ。

原因は、イタリア政府の補助金削減と世界経済危機のダブルパンチだろう。マチェラータのスフェリステーリオ・オペラ・フェスティバルでも、大規模な野外劇場公演の演目は3つから2つに減らされるなど、いずこも財政事情は苦しい様子だ。
ロッシーニ・オペラ・フェスティバル

 中村恵理、ネトレプコの代役で大成功

ロンドンのコヴェント・ガーデン王立歌劇場でのベッリーニ《カプレーティとモンテッキ》で、ジュリエッタ役のアンナ・ネトレプコが3月7日の公演を直前にキャンセル、アンダーについていた中村恵理が急遽代役でジュリエッタを歌い、大成功を収めた。健闘を讃え、カーテンコールでは中村に盛大なブラーヴァが飛んだそうだ。中村は1978年、兵庫県生まれ。大阪音楽大学、同大学院で学んだ後、新国立劇場のオペラ研修所の研修生となり、同劇場のオペラにも出演している。6月にはBBCカーディフ国際声楽コンクールに参加する予定。彼女の今後の活動は要注目である。なお、2008年12月から2009年1月に同劇場で上演されたフンパーディンク《ヘンゼルとグレーテル》に中村が眠りの精で出演しており、これはDVDとして発売される予定。

第1回・了

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