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連載内容

オペラをこよなく愛する吉田光司さんがお送りするオペラ・ニュース月報。国内外の歌劇場の様々な話題、ニュースを活きのいいうちにご紹介。5分で世界のオペラ界が垣間見える、月1回更新の速報型ウェブ連載!
※煩雑になるので伝聞調を採っていませんが、基本的に実際に公演を観た人から得た情報を基に書いています。

プロフィール

吉田光司

早稲田大学法学部、および国立音楽大学声楽科卒。音楽関係の会社に勤務後、現在はフリーで活動中。オペラDVDの日本語字幕翻訳・制作、ノーツ執筆両方を手掛ける職人であり、また稀にNHK-FMのクラシック番組で案内役も務める。大のオペラ好きで、オペラと名のつくものは何でも聴くが、特にお気に入りはヘンデルとロッシーニ。イタリア、ペーザロで開催される「ロッシーニ・オペラ・フェスティバル」には十年来通い詰める常連である。オペラ公演は「自腹で聞くのが当然」の主義。和食の魚、ことに寿司と干物が好物。猫をこよなく愛する。

日本コロムビア

オペラ・コラム道場

オペラ・ニュース月報:マンスリー“オペラ”レポート/吉田光司

第2回 チェドリンス、《マリア・ストゥアルダ》に挑戦 ほか

 チェドリンス、《マリア・ストゥアルダ》に挑戦

4月24日、ヴェネツィアのフェニーチェ歌劇場で、新制作のドニゼッティ《マリア・ストゥアルダ》が上演された。タイトルロールは日本でもお馴染みのフィオレンツァ・チェドリンス。彼女がこの役を歌うのは初めてのこと。
これまで、チェドリンスのレパートリーは圧倒的にヴェルディで占められており、ドニゼッティは《ポリウート》と《ルクレツィア・ボルジャ》、ベッリーニは日本でも歌った《ノルマ》のみと、意外にレパートリーは限られている。しかしチェドリンス本人が語ったところによると、彼女はルクレツィア・ボルジャ役がお気に入りだそうで、今後はベッリーニの《海賊》のイモージェネにも挑戦したいとのこと、ベッリーニ、ドニゼッティ路線を拡大していくつもりなのだろう。課題は装飾歌唱の技術で、今回の《マリア・ストゥアルダ》でも、コロラトゥーラやアジリタでのもたつきが指摘されている。とはいえ、持ち前の美声と豊かな表現力で悲運のスコットランド女王を歌い切った。最終日は映像収録が入ったこともあって、割れんばかりの大喝采を送られた。
演出はデニス・クリーフ。舞台に迷路を張り巡らすことで、マリアとエリザベッタの複雑な関係を表していたが、照明の具合によっては、植え込みの中で歌っているようにも見えてしまうのは誤算だったか。

 ジョルダン指揮、チューリヒ歌劇場の《神々の黄昏》

3月20日から4月8日まで、チューリヒ歌劇場でワーグナー《ニーベルングの指環》が2チクルス上演された。この公演の話題は、指揮者のフィリップ・ジョルダン。彼は2009年からパリ・オペラ座の音楽監督に就任することが決まっており、その目玉が《指環》ということもあり、パリでの就任前に新音楽監督の力量を計る打ってつけの機会として、注目が集まった。結果は上々、ジョルダンは見事に成功を収めた。4月8日の《神々の黄昏》では、ジョルダンは持ち前の明るく伸びやかな感性を生かしつつ、大きな弧を描くようなスケール感のある音楽を作り上げた。チューリヒの限られた編成のオーケストラと、あまり強力ではないキャストにもかかわらず、上演は大いに盛り上がり、カーテンコールでは、チューリヒには珍しいくらいの盛大なブラボーがジョルダンに与えられた。
チューリヒ歌劇場 《神々の黄昏》

 ベルリン国立歌劇場の新演出-人形仕立て(?)の《ローエングリン》

4月4日、ベルリン国立歌劇場で新制作のワーグナー《ローエングリン》が上演された。演出は、昨年のバイロイトでの《パルジファル》も話題になったステファン・ヘルハイム(ドイツ語読みで“シュテファン”とされることも多いが、彼はノルウェー出身)。これがかなり奇抜なもので話題になった。全編で操り人形(パペット)が重要な役割を担っている。人形そのものも多用されるし、登場人物の多くもタイツに木の模様が描かれていて人形であることが示されている。合唱にいたっては、上着を脱ぐと木の模様の入った全身タイツに葉っぱ姿(これじゃ“はっぱ隊”だ)。そのほか、軍令は熊の着ぐるみ姿(ベルリンの象徴)だし、バイキングの格好や、普通のスーツ姿の登場人物も。どうやら、本来の設定である10世紀初頭、ワーグナーの時代、そして現代のベルリン(ベルリンの歌劇場統合整理の話題にも触れている)と、時代を超越させた舞台のようだ。その上でヘルハイムは、《ローエングリン》の物語そのものを強く茶化しており、賛否両論を巻き起こしたようだ。最も印象的なのは幕切れ。ロープに吊られて舞台上部に上昇したローエングリンは、その直後、ドカンと音を立てて墜落(もちろん人形のローエングリンだが)。現代ではストレートに受け止め辛くなったローエングリン像を、文字通り「破壊」しているわけだ。
バレンボイムは明らかにこの演出を嫌っており、ヘルハイムとの確執が噂された。また、今回の彼の指揮は異常なほどテンポが速く、第3幕の場面転換の音楽など無謀なテンポと言ってもよいほど。当然音楽にアラが目立ってしまった。歌手では、ハインリヒ王のクワンチュル・ユンがほぼ絶賛一色。

 園田隆一郎、ロッシーニで大活躍

 ボローニャ歌劇場でリハーサル中の園田 隆一郎

6月に藤原歌劇団で《愛の妙薬》を指揮する、日本人オペラ指揮者のホープ、園田隆一郎が、ボローニャ歌劇場(3月31日&4月2日)、さらにそのツアーとしてレッジョ・エミーリアのヴァッリ劇場(4月19日)でロッシーニの《泥棒かささぎ》を指揮した。ことにレッジョ・エミーリアの公演には、ペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティヴァル(ROF)で活躍している歌手も多く参加して盛況だった。
園田はローマ在住で、ジャンルイジ・ジェルメッティのもとで修行中。2007年8月、ROFでの若者公演の《ランスへの旅》を指揮して成功を収め、これが縁で2008年7月にはドイツ、バート・ヴィルトバートのロッシーニ音楽祭で《アルジェのイタリア女》を指揮し、さらに今年の7月も再びバート・ヴィルトバートで《泥棒かささぎ》を3回指揮する予定。半年で6回の《泥棒かささぎ》を指揮するというのは珍しいことである。
この舞台の演出はダミアーノ・ミキエレット。これは園田が《ランスへの旅》を指揮した2007年にROFで上演され話題となった舞台。当人曰く「一昨年にペーザロで見て感激した舞台をボローニャのオーケストラ、合唱と一緒に演奏させてもらってとても嬉しかった」。この演出では、第2幕で床一面に水が張られるが、ボローニャでもレッジョ・エミーリアでもそのまま再現されていたそうだ。舞台関係者の意地か。

 ナポリの《後宮からの逃走》はヨットの上

これは日本のオペラファンも関心を寄せるべき情報。
4月18日、ナポリでモーツァルトの《後宮からの逃走》が新制作上演された。典型的な現代化の演出で、舞台はアラブの後宮ではなく、豪華なヨット“パラスト号”の上。ここで石油王のセリムが、水着姿の女性たちをはべらせている、というのが基本設定。こうなるとトップレスのお嬢さんが登場したって不思議ではない。とはいえ、設定を変えた以外は強引な捻じ曲げなどはなかったので、ドイツ語圏からイタリア北部のエリアの人々にとっては、どうってことない程度。しかしナポリとなるとまだまだ抵抗が強いようで、ブーがだいぶ出ていた。
演出を担当したのは、前記事の《泥棒かささぎ》の演出をしたダミアーノ・ミキエレット。実は、彼は2011年に新国立劇場で《コジ・ファン・トゥッテ(女は皆そうしたもの)》を新演出する、という情報がある。2008年にはイタリアの権威あるアッビアーティ賞を受賞したミキエレット、もしこの情報が本当なら、東京でいったいどういう《女は皆そうしたもの》を作り上げるか、楽しみだ。

第2回・了

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