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連載内容

オペラをこよなく愛する吉田光司さんがお送りするオペラ・ニュース月報。国内外の歌劇場の様々な話題、ニュースを活きのいいうちにご紹介。5分で世界のオペラ界が垣間見える、月1回更新の速報型ウェブ連載!
※煩雑になるので伝聞調を採っていませんが、基本的に実際に公演を観た人から得た情報を基に書いています。

プロフィール

吉田光司

早稲田大学法学部、および国立音楽大学声楽科卒。音楽関係の会社に勤務後、現在はフリーで活動中。オペラDVDの日本語字幕翻訳・制作、ノーツ執筆両方を手掛ける職人であり、また稀にNHK-FMのクラシック番組で案内役も務める。大のオペラ好きで、オペラと名のつくものは何でも聴くが、特にお気に入りはヘンデルとロッシーニ。イタリア、ペーザロで開催される「ロッシーニ・オペラ・フェスティバル」には十年来通い詰める常連である。オペラ公演は「自腹で聞くのが当然」の主義。和食の魚、ことに寿司と干物が好物。猫をこよなく愛する。

日本コロムビア

オペラ・コラム道場

オペラ・ニュース月報:マンスリー“オペラ”レポート/吉田光司

第3回 スカラ座シーズン・オープニングの主役は無名の新人 ほか

 プラハの春 その1 《ルサルカ》

5月の音楽祭といえば、チェコの「プラハの春」が有名だ。今年も5月12日にスメタナ〈我が祖国〉で開幕した(ちなみにこの開幕公演は、数日前になって指揮者が病気のネーメ・ヤルヴィからアントニ・ヴィトに変わった)。
オペラのメインはドヴォルザークの《ルサルカ》。5月13日の初日はチケットが完売近い大盛況だった。今やチェコを代表するソプラノといって過言ではないマリア・ハーンが瑞々しい声でルサルカを歌い好評を博した。彼女はDG録音のヤナーチェク《ブロウチェク氏の旅》が高く評価され、今年12月6日、サントリーホールでの同オペラの日本初演(飯森範親指揮、東京交響楽団)にも出演予定。もう一人、水の精役のバス、シュテファン・コツァンも絶賛されていた。昨年の「東京のオペラの森」でのチャイコフスキー《エフゲニー・オネーギン》でも、主役たちを喰って評判となったコツァンだが(声はもちろん、老人役なのにそのイケメンぶりでも話題に)、世界的スター・バスになる日は遠くなさそうだ。イェルジ・ヘジュマンの演出は簡潔ながら幻想的なもの。
今回の《ルサルカ》はトリプルキャストで、この13日の公演がファーストキャストによる「初日」なのだが、おもしろいことに5月10日に、セカンドキャストによる「初日前公演」があった。公開総練習かと思いきや、5月17日のセカンドキャスト初日と、チケット代も含め、何も変わらない上演だったそうだ。

 プラハの春 その2 《リナルド》

ヘンデル・イヤーということもあって、5月16日には、チェコの古楽勢による《リナルド》が上演された。リナルド役が、若手売り出し中のアルゼンチン生まれのメッゾ、マリアーナ・レウェルスキだった以外は、ほとんどチェコの地元の歌手ばかりで、パリやアムステルダムで聞けるような華やかな歌の饗宴とはいかなかった。しかし、熱心な古楽ファンから注目されているチェコのバロック団体、ヴァーツラフ・ルクス率いるコレギウム1704の美感の滴る演奏によって、上演は素晴らしいものになった。この1991年創立の若い団体は、最近ゼレンカの〈ミサ・ヴォティヴァ〉を録音し(Zig-zag Territoires)、その生き生きした演奏が評判になったばかり。珍しい東欧のバロック団体の雄として、今後の飛躍が期待されている。

 スカラ座 来シーズン・オープニングの主役は無名の新人

このコラムでは、音楽雑誌やオペラファン向けのサイトで扱うようなメジャーなニュースは取り上げないつもりだが、これは例外。
スカラ座の2009/10年のシーズンの演目が発表された。注目の開幕公演は、エンマ・ダンテ新演出のビゼー《カルメン》。そのタイトルロールに起用されたのが、ほとんど無名に近いグルジア出身のメッゾソプラノ、アニタ・ラチヴェリシュヴィリ(Anita Rachvelishvili)なので驚きの声が上がっている。ラチヴェリシュヴィリは、1984年、グルジアの首都トビリシ生まれ。奨学金を得て 2007年にスカラ座に留学したということで、それから僅か2年での抜擢は異例中の異例。困ったことに、実力を計ろうにも脇役の録音すらまだない。かろうじて見つかったのは YouTube の映像(「Carmen Rachvelishvili Habanera」で検索すると見つかる)。何かのパーティの余興でハバネラを歌っているのを、ハンディカメラで撮影したようである。しかしこれを見ただけでも、彼女が卓越した才能の持ち主であることが窺える。とはいえ、舞台はあのスカラ座。12月7日、果たして無事にスター誕生となるだろうか。
スカラ座のサイト
ラチヴェリシュヴィリのバイオグラフィー(英語)

 フィラデルフィア管弦楽団NY公演:ラトルの《ファウストの劫罰》

オペラではないし、演奏会形式上演なのだが、これはぜひとも取り上げなくてはならない情報だろう。日本が大型連休中の4月29日と5月1、2日、サイモン・ラトルがフィラデルフィア管弦楽団を指揮してベルリオーズ《ファウストの劫罰》を演奏した。特に5月1日はニューヨークのカーネギーホールに出張演奏だったので、なおのこと話題になった。近年のラトルの個性が、ベルリオーズの作品の中でも著しく特異なこの作品の音楽とピタリと合致し、素晴らしい名演になった。歌手では、近年絶好調のグレゴリー・クンデが「渾身のファウストを聞かせ」たという。クヴァストホフのメフィストフェレも上々。マルゲリートのコジェナーが風邪だったのが惜しまれる。
《ファウストの劫罰》は、METで昨年11月にレヴァインの指揮で舞台上演されたばかり。上演の多くない《ファウストの劫罰》が、おそらくは正反対のタイプの演奏で、半年に二つも上演されたわけだ。
フィラデルフィア管弦楽団のサイト

 下町の小オペラ団、アマト・オペラ・カンパニーが閉館

ニューヨークのアマト・オペラ・カンパニーが5月31日のモーツァルト《フィガロの結婚》で活動を終了した。といっても、この団体は日本ではあまり知られていないだろう。同団体は、アンソニー(通称トニー)・アマトとサリー・アマトの夫婦によって1948年に立ち上げられ運営されてきた小オペラ団体。イーストヴィレッジに、収容わずか100人ほどとはいえ専用劇場(オーケストラピットもある)を所有している。概ね、年間に5、6演目を上演、各演目は約一ヶ月間に渡って毎土曜日の夜と毎日曜日の昼に上演されるのが原則なので、一年で50から60の公演がある。100席規模の小オペラ団体は世界各地にあるが、これだけ活発に、かつ60年の歴史を刻み続けた例は他にない。いかに地元の観客から愛されてきたかが分かる。2000年8月にサリーが亡くなり、今年で89歳になるアンソニーが限界を感じて閉館を決めたという。
アマト夫妻によるオペラ運営の苦労と喜びは、日本でも『トニーとサリーの小さな小さなオペラハウス』(佐山 透/講談社)という本で紹介された(現在は品切れ)。写真で見ると、本当に小さい劇場なのに驚かされるが、それだけに舞台と客席が一体となっての盛り上がりは楽しかったことたろう。
「addio amato opera」で検索すると、ニューヨークタイムズのサイトで、舞台写真とトニー自身のコメントのビデオクリップが見られる。
アマト・オペラ・カンパニーのサイト

第3回・了

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