PK shampoo

Major 2nd EP
『輝くもの天より堕ち』Interview

PK shampooの最新EP『輝くもの天より堕ち』が完成。破天荒な日常から溢れる想いや感情を文学的かつロマンチックな表現で描いた歌詞とメロディ、それを丁寧に汲み取ったノイジーで荒々しくも繊細なバンドサウンド。バンドの魅力がしっかり詰まった上、新たな表現や制作方法にも果敢に挑んだ、PK shampooの最新型といえる今作について、メンバー4人に話を訊く。それぞれがいま思うことのすべてを語り尽くした、脅威の13,000字インタビューを食らえ!

リアリティをとことん追求した、
最新EP『輝くもの天より堕ち』完成!

[メジャーデビュー以降の進化と変化]

――昨年12月、メジャー1st EP「再定義 E.P」をリリース。約8ヶ月ぶりとなる2nd EP「輝くもの天より堕ち」を完成したPK shampoo。まずはメジャーデビューから現在まで、バンドにとってどんな期間だったでしょうか? というところから話を聞かせてください。
ヤマトパンクス(以下、ヤマト) 変わってないといえば変わってないんですけど、体重の置き方が変わったというか。締め切りをぶっちぎって延期したり、呑みすぎて遅刻したり、そういうのは自主の頃からあって。フザケるとか謝るとかで、なんとか乗り越えてきたんですけど。メジャーと契約してるとか、関わるスタッフが多いとかになった時、前よりフザケに体重が乗ってきて、すごいオモロいっすね。
――わはは。「少しはちゃんとしようと思った」って話かと思いきや、逆だった(笑)。
ヤマト いままでも発売を延期することで、いろんなレーベルにご迷惑をかけ続けてきた実績がある中、リリースもツアーも規模がもうひと回りデカくなってきてるんで。一発延期するだけでも、かなりオモロいです。
――「いい加減にしたまえ!」って、本気で怒られたことはないの? 偉い人に。
ヤマト そこまではないです、俺に怒ってもしょうがないと思うんでしょうね(笑)。怒られてるうちが華やっていいますけど、昔から怒られ慣れがすごすぎて。「こいつに怒ってもどうしようもないから、もう怒らへん」みたいな感じです。「お互いに時間の無駄だな」ってなるだけなんで。
――でも、「輝くもの天より堕ち」を聴いて思ったんだけど。普段どんなにはちゃめちゃでも、結果、こうやって良い作品を作っちゃうから怒れないんだろうなって。
ヤマト 「……そんなすごいかぁ?」
福島カイト(以下、カイト) それ、『列伝ツアー』決まった時の私ね(笑)。

ヤマト ははは。カイトが「俺、列伝ツアーに無所属初で決まったわ」って大学の後輩に自慢して。「すごいッスね!」って言われて、「……そんなすごいかぁ?」って言うたんです。そしたらその後輩が、テーブルの下で俺に「こいつ天狗です!」って伝えてきたっていう(笑)。

カズキ カイトは何もしてないくせに、カッコつけるクセがちょいちょい出るんです。

ヤマト 実力は謎に包まれてて、本気出したら主人公どころか一番強いんちゃうか?と思わせる“謎のマント男”みたいな、計り知れないキャラやからな。

カイト それ登場させてはみたけど、作者の設定が追いついてないキャラやろ(笑)

――わはは。カイトくんはメジャー・デビュー以降の変化、いかがですか?

カイト もともと、「お遊びで組んでみるか」みたいな感じで組んで、それがずっと続いてるバンドなんで。フザケた雰囲気やったり、締切も守らなかったり、スタジオもろくに入らないようなバンドやったんですけど。メジャーデビューしてからは、それまでなぁなぁにしてきたことで足りなかった、体力や地盤を強化する時期になってるのかな? と思って。ライブもすごい本数やって、体力つけて地盤を固める期間になってると思います。

ヤマト ま、それをお前が崩しとるんやけどな。

カイト そう、俺がぜ~んぶ崩してま~す! みんな、もっと俺の扱いを理解してくれないとダメ!! 俺という犬を上手いこと、飼いならして下さ~い!(笑)

――わはは。でも「再定義 E.P」以降、全国リリースツアーがあって、戦友や憧れの先輩たちとの対バンも多くあって。客観的に見た時、PK shampooがものすごい求心力で周りを巻き込んでるように見えるし、同時に自分たちも力付けていってるように見えてますよ。

ニシオカケンタロウ(以下、にしけん) そうやったらいいんですけどね。僕的に意識が変わったのは、デビュー以降は「やらなアカンな」って気持ちが強くなったことで。ライブやるにしても日程があって、ただ曲を演奏して終わりみたいな感じも多かったけど。ライブやる前に「どんなライブにするか?」って考えたり、終わった後に「次はどうしよう?」って考えることが増えて。まだ自信はないけど、ライブに対する意識がかなり変わってきているのは感じます。レコーディングにしても、1stと比べて今回は準備にかかる時間が増えた分、かかる時間は減っていたり。僕らのバンドのやり方や、準備すべきことも前より分かってきたと思います。

カズキ 僕は与えられたことをやるだけですね、いままでもこれからも(笑)。みんながピリッとしてきたのは感じるんですけど、できるだけフザケてやっていきたいっていうのは変わらなくて。そのバランス感覚を大事にして、怒られない程度にやっていきたいと思ってます。幸い、ヤマトさんは怒られるのも平気なんで(笑)。これからもそういうバンドでいられると思ってるし、それを許してくれるレーベルや体制にも感謝してます。

――いま、ヤマトくんだけが東京に住んでいて、スタジオに入るのもひと苦労だと思うけど。東京と関西で別々に住んでのバンド活動ってどうなんですか?

カズキ もともと、そんなにスタジオ入るバンドじゃなかったし。ヤマトさんはどっか行ってたり、勝手に呑んでたり、スタジオ来ないことも多かったんで。変わらないといえば、変わらないですね(笑)。

カイト むしろ、最近の方が絶対に来なアカン時は来てくれるようになったよな(笑)。「ここで会えないと、次は1ヶ月後やから!」とか言うたら、さすがに来るからな。

ヤマト 僕みたいなもんは、サボらせた方がいいんですけどね。

カズキ ま、本当の締め切りは間に合わせるし、そこで良い作品出してくれれば結果オーライですけどね(笑)。

ヤマト ……いま思い出したんやけど、にしけんと前のバンドをやってた時。パンクやハードコアばっかり出てるライブハウスに出とって、めっちゃイジメられてたんですよ。で、最近、久々に俺をイジメてた人に会って、「あの頃、怖かったッスわ」って言ったら、「当たり前や!」って言われて。「お前、最後の曲だけ来て、Bメロから最後のサビまで歌って、マイク叩きつけて帰っとったやんか!?」って(笑)。「お前の代わりににしけんがずっと歌っとったんやぞ? そんなんばっかやってたら、こっちも怒るわ」って言われて。

――「ライブ、ナメんなよ!」と。そりゃイジメられても仕方ない(笑)。
ヤマト 遅刻したとか、物壊したとか、金払わんとか、ほかにもそんな話がいっぱいあって。別のライブハウスでも、俺がバーン!とやって、打ち上げも出んと帰ったんですよ。で、先輩が「あんなヤツがメンバーにおって大変やな」ってにしけんに言うたら、にしけんが換気扇の裏見ながら「……でもアイツ、才能あるんでね」って言うたって(笑)。
――わははは! いい話だなぁ(笑)。
ヤマト 俺、その頃のことって全然覚えてないし。「今日は行かなアカンな」ってどんだけ思っても遅刻する時はするし、どうしようもないんですよ。ただ、曲も締め切りを破ることはあるかも知れないけど、本当に書けなかったら俺は社会にいられないんで。「やるって! 最後の最後は!!」と思ってるし、やらざるを得ないし、俺みたいな人間はそこでやらなかったらお終いだとは思ってます。
――超えてはいけない最後の一線は分かってると。そこに気づけたのは、少し大人になったのかも知れないですね。
ヤマト せめて、曲くらいは書かないと。それもちゃんとした、それなりのクオリティの曲を書かないと、俺みたいな人種は成立しないですからね。自分でいうのも変ですけど、「アイツ、才能あるんでね」ってところで、みんなを一旦納得させなきゃいけないってところには、少し自覚的になったかも知れない。
――ヤマトくんの才能を信じ続けてきた、にしけんくんはいかがですか?
にしけん どうっすかね? レコーディングの直前まで曲が出来てなくて、メロディもないのに音録りをして。僕らはボーカル録りが上がってくるまで、どんな曲かも分からないんですけど。結果、良いメロディが上がってくるんで、「やっぱ才能あるな」って毎回、思わされますね。前のバンドの時はもっとめちゃくちゃで、当時のメンバーは残ってないですけど。僕がやめなかったのは「やっぱりいい曲作るし、才能あるから一緒にやりたい」って気持ちがあったからだし。その気持ちはいまも変わってないです。

[宗教観を描いた歌詞とクソガキ感を出したサウンド]

――今回のEPに「翼もください」が入ってて、この曲はもともとヤマトくんのソロで発表して、PK shampoo初期にバンドアレンジでリリースした曲ですよね?
ヤマト 結成直後くらいやと思いますよ。初ライブしたかくらいの時に作った曲ですね。
――セルフカバーってことで、歌や演奏は進化してるけど。「天使になるかもしれない」とかと比べた時に、曲の作り方も確実に変化してて。
ヤマト そうですね。才能が研ぎ澄まされていってる(笑)。
――どうせ新曲が間に合わなかったから、セルフカバーを入れたのかな?と思ったけど、この曲を収録した意味みたいなのも感じました。
ヤマト それもあります。「4曲入れよう」ってなった時、「間に合わへん」って(笑)。あとは前作の「再定義 E.P」に「第三種接近遭遇」を入れて、あれも言ったら再録なんですけど。いままで宇宙とか星とか、ぼんやりした表現で書いてたものを……もっと言ったら、その前の「Pencil Rocket Opera E.P」の「S区宗教音楽公論」もそうなんですけど、ちょっとずつ表現が変化していってて。以前は「神崎川」みたいな地名や宇宙や星みたいなのと、君と僕みたいな。“空間と僕と君”って2次元だったところに、最近は宗教というか自我というか、口幅ったいけど祈りみたいな別軸が加わって3次元になってきて。いままでは、それをなんとなくしか意識してなかったんですけど。「もっと掘りしろがあるな」って考えた時、それの端緒になったのが「翼もください」だったなと思って。
――すごく面白い話だし、「翼もください」が収録されてる意味もすごく良く分かります。
ヤマト それって、前のバンドのトラッシュノイズの時にはなかった感覚やったから、PK shampooって宗教的なものなのかな? と思うんですけど。それは俺たちが宗教的ってことじゃなくて、PK shampooが歌えることのひとつに祈りとか願いとか、そういうものがあるのかな?って。
――「天使になるかもしれない」では、その新たな軸を加えた3次元的な表現を意識的に出来てますけど。「翼もください」の時は、無意識的にやってますよね?
ヤマト そう、自然に出てきたものです。その後、それを主軸に置いてみようと思って書いたのが「S区宗教音楽公論」であり、「第三種接近遭遇」で。まだやれるなと思ったし、もっと抽象化出来るし、具現化と思って書いたのが「天使になるかもしれない」でした。「天使になるかもしれない」はもう、<天使になるかもしれない>って、叫べるだけ連呼してやろうと思って。賛美歌でもそうやし、お教もそうなんですけど、同じ内容を何回も反復するじゃないですか? 例えば、「ハレルヤ」なんてずっと♪ハレルヤって歌ってて。そういう賛美歌チックなものを作りたいなと思ってたけど、そのままバンドに落とし込んでも面白くないなと思って。
――ロックバンドがやる必然性がないとやる意味がないですよね。
ヤマト そう。だからもっとオルタナとか、パンクとか日本語ロックみたいなところに落とし込むやり方があると思ったし、そこは発明していかなきゃいけないところだと思ったし。なにか参考にしたとすれば、自分の中にある宗教観というか……。あえて喩えるなら、仏教でもキリスト教でもイスラム教でもない、俺の中にある神や仏のような神聖と厳粛ポップな形でバンドサウンドに落とし込んだ感じで。長々やってもキリがないから、3分以内くらいのファストチューンにした方が分かりやすいなと思って、こういう曲になったんです。「S区宗教音楽公論」で一個、失敗したなと思ったのは、賛美歌に寄せすぎたところで。好きな曲なんですけど、自己評価した時に「これバンドでやる意味あるか?」って思ったんです。ま、カニカマにも存在意義があって、なんならカニより人気や需要があるから、それはそれで良いんですけど。どうせカニで勝負するなら、生ハム作るでも、チャーシュー作るでもいいですけど、カニで新しい発明をする方が本質なんじゃないか?と思って。
――そういう意味では今回は自分の店の秘伝ソースを使って、発明が出来てると思います。
ヤマト そうですね。オルタナティブチックで、パンクチックで、それでいて歌謡曲チックでもあって。AメロBメロサビみたいな分かりやすい構成じゃなくて、攻めた転調でPK shampooにしか出せない音みたいなことをやって、わりと成功したと自分でも思ってます。
――単純にめちゃくちゃカッコいいし、しっかり心に残る曲だし。今後もすごく重要な曲に育っていくと思うし。話を聞いて、それが計算ずくだったってところもスゲェなと思ったけど。曲を作る時、そんな説明をメンバーにすることってまず無いでしょう?
カイト そんな話はしたことないですね(笑)。
――それなのにちゃんとヤマトくんの意図を組んで、こういう曲に仕上がるっていうのもすげぇバンドだなぁ!と思います。

カイト 曲を聴いた時、「これはなんや!?」って思いながらも意図を汲んで、ゴールラインまで走り抜けてみたら良い曲が出来てたって経験を積んできてますからね。最初の頃は「どういうイメージなんですか?」って聞いてたこともあったけど、絶対に答えない(笑)。でも、「こういう感じ」って雑なイメージだけ与えられる中で作っていくと、良いものが出来るっていうのは分かってるんで。「天使になるかもしれない」やったら、「ギターはクソガキ感を出して」って言われて。半ダサじゃないけど、荒っぽい感じやけど真っ直ぐな、それこそ泥臭い感じを投げてきたんですけど。いまの話を聞いて、「あぁ、そのままカニカマやっちゃダメってことやったんやな」っていうので、なんとなく納得がいったというか。「そのバランスを取ってたんやな」というくらいは分かるようになりました。

ヤマト 結局、無いものを作りたいんで、リファレンスを聞かれても無いですよ! 「クソガキ感」っていうのは言った覚えがあるんですけど、それは「天使になるかもしれない」に限らず、今回のEP通してのイメージで。アメリカのガキが適当なストラトをお父さんの部屋から持ってきて、♪ジャーン!って風船ガムを噛みながら弾いてるんやけど、めっちゃ天才みたいなイメージ(笑)。練習とか全然しないけど、ただ素質だかがあって、そいつが弾いてるだけで様になってるみたいな感じが絶対、このEPに合うと思ったんです。

――その弾いてる姿がなぜか神々しく見えたり、その音に心洗われたりするようなね。
ヤマト そうそう。カイトはともすればメタルチックになってしまったり、ちょっと速弾き入れたり、スウィープしちゃうみたいな分野で。オルタナの文脈にはそれが無いから、個性にもなるし、やってもらって良いんですけど。テクニックに走るんじゃなくて、全体としてクソガキでいて欲しいって言ってるだけで。基本、アレンジは解釈ゲームやと思ってて、みんなの解釈でやって、違うところはその都度変えていけばいいことで。常識の範疇からはみ出してる物が見たいわけで、やっちゃいけないことは何もないんです。
――だそうですが、にしけんくんは「天使になるかもしれない」に関していかがです?

にしけん どうですかね? ギターは一番耳に付くし、ボーカルの意向も表れるパートで。ドラムはサウンドの基礎になるから、結構大事なんですけど。ベースって一番楽なんで。

ヤマト そんなことないやろ! 全国のベーシストが怒ってくるぞ!?(笑)

にしけん (無視して)僕は自分の解釈でやって、ヤマトさんが「ここをこうして」って言った部分だけを反映させるみたいなやり方でやってるだけで。別にどういう意図で臨んだとかは、特にないですね。

カイト マジか? こいつメンバーか!?(笑)

にしけん (無視して)でもどうだろう? まぁ、カッコいいフレーズが出来ましたけど。ベースに関してはやりたいことをやりながら、歌の邪魔せんかったらいいかな? と思ってやってるんですけど。まだ出来てない曲をレコーディングしているので、曲の構成が変わったり、転調が入ったりすると、考えたフレーズがおじゃんになるんで。いつもあんまり考えずにレコーディングに行くんですけど、今回はその場で自然発生的に出てきたフレーズが良かったなってだけで。

――わはは。正直すぎるんですよ、答えが(笑)。でも、レコーディングの段階で直感的に生まれたフレーズも、ライブで演奏するごとに気持ちが入っていったりするでしょう?
にしけん めっちゃそうですね。レコーディングの時のフレーズと、ライブで演ってるフレーズが全然違うってこともありますからね。ライブで演ってみて納得いかなかったら、どんどん変わっていくし、良かったらそのまま弾いてるし。
――「翼もください」はライブでも演奏している曲ですが、再録はどうでした?

にしけん 最初に録った時と比べたら、フレーズもだいぶ変わってますし、思い入れもありますけど……どうなんですかね? 再録でも一緒といえば、一緒やし。人さまに伝えるようなことはなにもしてないです。

ヤマト ……お前は今日、何しに来てん?(笑)もう、このまま書いてください。

――わはは、そうします(笑)。

ヤマト でも、俺が歌詞や曲を書いてるから、俺はバカにされつつ「大将」とか呼ばれたり。その実力は計り知れないカイトもおるし、ムードメーカー的なカズキもおるけど、実はにしけんに集まってるんやと思ってて。

にしけん 半笑いやんか、バカにしてるやろ?

ヤマト いやいや。ええ話しますと、にしけんがいなかったらトラッシュノイズも無かったかも知れないし。「バンドを続けよう」って言ってくれたのもにしけんやし、カズキを誘ったのもにしけんやし。無私の心というか、MOROHA的に言うと“居場所”なんですよ。

にしけん ……そうか。じゃ、そういうことにしときます(笑)。 

――あはは。カズキくんは「天使になるかもしれない」はいかがですか?
カズキ 僕は基本的に自分がカッコいいと思うドラムしか叩きたくないって気持ちがあって、これまであまり指摘も無かったので好き勝手やらせてもらってましたけど。ここ最近はヤマトさんがよく言えばディレクション、悪く言えば口出しをしてくるようになって(笑)。なかなか技術的に難しいことや、得意じゃないプレイを言われることもあるんですけど。ヤマトさんを信頼してるというか、言われた通りにやった方が良いものが出来るという確証があるので、頑張って叩くようにしていて。「天使になるかもしれない」に関しては、ギターにも通ずるところで「ドタバタ感を出してくれ」っていうことで、プレイ的にスキルがある方ではないんですが、自分が持ってる部分とマッチして、叩き終わって達成感もありましたし。求められたことが出来たというのも感じています。

最新EPで挑んだ、新たな挑戦のすべて

――そして、2曲目には「夏に思い出すことのすべて」が収録。持ち前のロマンチックぶりを発揮した、夕焼け感のあるエモーショナルなサマーソングです。
ヤマト いままで歌詞から書いた曲が無かったんですけど、今回は1曲目「天使になるかもしれない」と4曲目「ひとつの曲ができるまで」が歌詞先行なんです。締切をすごい破るんで、周りからも「そんなに破るってことは、きっと曲の作り方間違ってんねん」って言われて(笑)。自分もそんな気がしてきたし、ありがたいことに「歌詞が好きや」って言われることが多くて、「歌詞から書いた曲も聴いてみたい」って言われてたんで。初めて歌詞から書いてみたらツルンと出てきて、それはそれで良かったんですけど。この曲は従来通りにメロディとコードから書いた曲で。いままでは上がっていく転調ばかりだったのが、下がっていく転調をしてみたり。いままでの正統進化版みたいにやってる曲ですね。
――夏をテーマとした歌詞に関してはいかがですか?
ヤマト 夏の曲を書こうとした時っていうか、季節を書こうと思うと「レッツサマー!」みたいに希望に満ちてしまうんですが。「夏に行くぜ!」って夏の前の話で、夏の曲ではない気がするんです。そう考えた時、夏そのものを歌おうと思ったら、夏を振り返るしかないなと思って。思い出すことを並べていった方がええやろうなと思って、夏休みのことを思い出したり、後悔やある種の懺悔めいたものを匂わせるのも夏の特徴かなと思ってみたり。あとは夏にあって、他の季節にないものって、名残惜しさみたいなものかな? と思って。あんだけ暑いのイヤやったのに、終わってしまうと寂しいみたいな。8月31日のあの気持ちみたいなリバーブ感が、夏の思い出に余計にハマると思って。僕ら世代に流行った「君の知らない物語」みたいな、ひとつの夏を歌うストーリーを書いてみようか?とも思ったんですけど、そんな曲は腐るほどあるんで。じゃなくて、いままで生きてきた29年分の夏を多次元で見て、ギュッと絞って落ちてきた果汁みたいなものを一旦、夏と定義して。僕にとっての“夏のすべて”と言いきって、逆算的に書いてみてもいいんじゃないか? と思って書きました。
――<もしも世界が君を変えて ⽣きることすらあきらめても 無かったことになりはしない 夏に思い出すことのすべて>と終わるラストは少し前向きに終わっています。
ヤマト 忘れても忘れなくても、事実としてそこにあったっていう。忘れてるから無いも同じなんですけど、そこの淡さがあってもいいかなって。あったのか無かったのか分からない、微妙な夏の記憶ってあるじゃないですか? 俺、すごいデカい蛾を見た気がすんねんけど、誇張されて覚えてる気もして(笑)。そんな微妙な記憶も含めて、夏と言い切ってしまうみたいな、そんな魔力を持った季節やと思います。
――夏の夕景を想像させるようなギターは、カイトくんの頭にある夏の風景ですか?
カイト そうですね。海がテーマになってるって考えた時、ゆったりした波のイメージがあって。僕は音数をすごい増やしちゃったり、目立つプレイをしちゃう癖があるんですけど。今回はそのイメージの再現に徹しようと思って、ソロとかも音数を減らしてゆったり流れるように聴かせるってところは意識しました。あと、アレンジメントは珍しくコードを任せてもらったんですけど、いままでのPK shampooよりは曇った感じというか。晴れた海のイメージというより、夕方くらいのドヨッとした海をイメージさせたいと思ったから、不協和音とかも入れたコードで作ったという意図があって。結果、上手くひとつの曲としてまとめられたかな?っていうのが、ギターからの感想としてあります。
――そうだったんですね。ヤマトくんも歌詞先行で作ったり、今作の曲作りに新たな挑戦があったけど。カイトくんも新たな挑戦に挑めたんですね。
カイト ヤマトさんが忙しすぎるっていうのもあると思うんですけど、コードの形を任せてもらえたのは満足だったし、今回のEP制作ですごい楽しかったところでした。思い描いてるヴィジョンに行けないみたいな苦労もあったんですけど、ある程度、再現性高く出来たかなと思っています。
――ほかに今作収録曲で印象に残ってる曲やエピソードはありますか?

カイト 僕が個人的に一番聴き返してるのが、「ひとつの曲ができるまで」で。語りがあって、ばたばたと急な展開があって、すごく新しいことが出来た曲なんですけど。歌詞や明確なメロディラインは後から出来たので、最初はコードやアレンジメントや展開をバンドで詰めるって過程から生まれた曲なんです。ヤマトさんの弾き語りがあってという過程を踏まずに、こんなにゼロイチで作った曲は初めてだったんですけど。時間もない中、ああでもないこうでもないって色々試して。好き勝手にオケを作って、結構ぐちゃぐちゃにした感じやったんですけど。ヤマトさんがすごい的確に空気を読んだのもあって、楽曲とアレンジメントがすごいぴったりマッチしたなというのを感じてて大好きです。

カズキ いままではワンコーラスだけでも弾き語りで持ってきて、みんなでアレンジしてたから。ここまでゼロイチで作るのは、PK史上初めてだったよね?

にしけん そう。「喋るから」とは言われてたけど、テーマも聞いてなかったからね。

カズキ 危機感もあったよな? 締切があって「ここまでに曲が出来てないと出せない」って危機感が結果として、演奏やフレーズに乗って、ヤマトさんの歌詞にも合ったという。

カイト そう。そこで「時間もなくて、とっちらかってるぜ!」っていうのを表現しつつ、ヤマトさんの歌いたい抽象性のある深い歌詞から、サビというかBメロの流れをすごく綺麗に出せたなと思って。その美しさがPK shampooでありつつ、いままでのPK shampooではないというか。新たな挑戦をした上で、「ウチのバンドはこういうバンドだぜ!」って自信を持って言える曲になったというのが、お気に入りの理由です。

――いいですね、頼れるメンバーじゃないですか!
ヤマト こいつらの言うてること、全部ウソですけどね(笑)。僕の中では「曲を書くこと自体をテーマにしよう」ってところまでは考えてて。「俺は売れるぞ!」っていうのをテーマにした、売れるための曲ってよくあるじゃないですか? それを腐してるわけじゃないんですけど、そうじゃなくてもっと根幹的な曲にしたかったというか。曲を作る人にとっては、音楽を書くことって当たり前になってて。書きたくて書いてるし、歌いたくて歌ってる人が多いんですけど、僕は別にそういう人じゃないんで。ちょっと距離を持って音楽を見てるところがあって、「締切ダルいて! 書きたくないって言うてるやん!」っていう精神的なところが俯瞰で書けると思ったんです。だから、ちょっと嫌味に聴こえるかも知れないですけど、「俺はロックスターになるんだ!」みたいな人とは違った視点を持ってるというのは、俺の武器やと思ってる部分があるし。音楽なんて時間もかかるし、お金もかかるし、よっぽど好きな人しかやらないから、それをやってるってかなり特殊性があると思うんで、そこをテーマにして書きました。あとはシンプルに締切も迫ってて、前作でも「曲出来てないんであきらめましょう」っていうコンセプチュアルなアートみたいな、「あきらめのすべて」って曲を書いたんで。今回はそのブラッシュアップ版みたいな感じで書きました。
――で、時間も無いことだし、今回は3人に曲を任せて。
ヤマト そう。そしたら最初、すごい分かりやすいバンドっぽい曲が上がってきたんで、「これはバンドやりたいやつがやってるサウンドやから、これじゃない!」って言って。もちろん、その良さも分かるし。もしパラレルワールドがあって、そっちの曲で出したら、そっちの方が売れたかも知れないけど、そういうことじゃないんで。「「ヤバい! 曲が出来ない、どうしよう!?」って叫んでる曲になってない」って指摘して。そのためにも締切ギリギリまで延ばさないとリアルじゃないと思ったし、そういうことを言ってれば締切延ばせるなとも思って(笑)。それがPK shampooっぽくなったのが面白いですね。

今後に控えたアルバムは……正直、どうしよう!?

――俺は「ひとつの曲が出来るまで」を聴いて思い出したのは、ザ・ハイロウズが「14歳」で歌ってた<リアル よりリアリティ>って歌詞で。街のケンカが強いやつがプロレスやるみたいな話で、リアルが充実するとリアリティって増していくから。言葉とサウンドがすごいリアリティを持って胸に迫ったきたし、「どこまで本当なの?」って面白さもあるし。日常のリアルをロックに転換してリアリティを磨いていくっていう、この曲の仕組みで曲がスルスル生まれるようになったら無敵だなって。
ヤマト 仕組み作るのは得意なんですよ(笑)。僕もいろんなコンテンツというか、いろんな人を見てくる中で、「この人はどこまで本気でこれ言うてんねやろ?」ってところが面白いなと思って。それこそ立川談志とか「こんな悪口、本気で言うてんのか?」って思ったり。落語理論みたいなことをこねくりまわして「これやっちゃダメなんだよ、これがいいんだよ」って言い切るパワーもすごいなと思うし、「この人の言うてることは、どこまで正解でどこまで間違ってるのか?」とか思うのが面白くて。
――「天使になるかもしれない」もそうですよね。虚実入り混じったところの「どこまで本当で、どこまで本気なの?」って面白さがある。
ヤマト <進化論にならうなら みんなで高い所から飛び降りれば いつか子孫の背中に羽が生えるかも>なんて意味分からないし、理屈っぽさもありながら「ウソつけ!」って思うし。「羽が生えるとしても子孫の話なんやから、お前関係ないやろ」みたいな軸のズラしとか、屁理屈みたいなもんも楽しむみたいな知的営みやと思ってるんですけど。
――うん、すごく面白い。だから、今作では最新型のPK shampooを惜しみなく出せているし、今作を聴いてこの先に作られるであろうアルバムがどんな作品になるだろう?って楽しみになりました。今作以降ってところで、いま見えてるヴィジョンを聞かせて下さい。

カズキ 僕は今回、「夏に思い出すことのすべて」では、夏のジトッとした暑さのようなドラムを入れたり。「天使になるかもしれない」や「ひとつの曲ができるまで」ではこれまでないテンポやフレーズに挑戦出来たり。これまでやってきたことと革新的なことも貪欲に取り入れつつ、芯の部分は変わらずにってことがバランス良く出来たと思うので。今作以降もこれを推し進めたような作品を作っていきたいなと思ってます。オールディーズなロックをやり続けて、変わらないことを美学とするバンドもカッコいいと思うんですけど。PK shampooはそうではなく、芯の部分はそのままに前へ進んでいきたいです。

ヤマト そうですね。いままでのものを踏まえながら、新しいことをやるっていうのは僕も前提としてあって。文脈のない新しさって、新しさではないと思うんです。子供の頃があるから大人がいるのであり、17歳の頃の自分があるからいまの自分がいるわけで。新しいことをどう作るのか? それをどう提示するのか? それはどういう文脈に則ったものであるのか? もっと下世話な話をすると予算の話もあるし、考えなきゃいけないことはいっぱいあって。そのバランスやペース配分は、僕もかなり意識してる部分ではあるんで。今後、1stフルアルバムって話にもなって、ここまでの集大成みたいな話に当然なっていくと思うんですけど。PK shampoo自体が「こんなん聴いたことないわ!」で出てきたバンドなんで、聴いたことない音楽をやるのがPK shampooだと思うと……正直、どうしよう!? って感じです。

――わはは。でも今作の話を聞いても、まだやるべきことや出来ることってあるでしょ?
ヤマト それを考えるのがシンドいんです(笑)。新しいものを見つけるところから始めて、急かされながらも「ちょっと待っとけ。待つことで出来る作品や」とかいうのも含めて、シンドいしメンドくさい。小馬鹿にしてるわけじゃなくてメロコアやるとか、すでにある大きいステージを目指す方がさっと出来ると思うんですけど、無いシーンを作っていかなきゃいけないし、無い音楽を作っていかなきゃいけない。そこで変すぎて無かったとか、誰もいらないものを作るのは発明じゃないから。ありそうで無かったものを発明しなきゃいけないし、どっかに軸足置いた文脈の上に成り立ってる新しいものをやり続けることのシンドさが常にあるんで。アルバム出すってなったら、また発売日を延期すると思うんですけど、そういうことをやって行きたいです。延期することをやりたい。発売日に間に合うなんて古いでしょ? 「なに間に合っとんねん!」って話ですよ。だから俺は「間に合わんかったら、どんなすごいもんが出てくんねん!? これでしょうもないもん出てきよったら、承知せんぞ!」って言わせて、それを超えるモノを作ったりますわ(笑)。