実に33年前。1974年にリリースされたセカンド・アルバム『黒船』収録曲から演奏が始まる。そんな幕開けからして、まずは意表をつかれまくりだった。
3月8日、渋谷NHKホールでおこなわれたサディスティック・ミカ・バンド、一夜限りの再々結成コンサート。加藤和彦以下、オリジナル・メンバー4人が、大ヴェテランながらご隠居さんモードとは無縁。「やる時ゃやる」人たちぞろいなのは、昨秋発表された17年ぶりのニュー・アルバム『ナルキッソス』を耳にした時点で、実感してはいた。リズムとアンサンブルに関しては、さすがは手練れのミュージシャンたち。一朝一夕では生み出せない“コク”を感じさせながら、一方では遊び心満載。バンドで演奏することの喜びが、けれんなく伝わってもくる。
汗臭さは一切ないのにグルーヴ感は満点。ミカ・バンドならではのそうした持ち味を、21世紀の今、あらためて伝える上で、うってつけの『黒船』メドレーだったとも言えそうだ。ブンブンとスウィングする小原礼のベースと高橋幸宏が叩くタイトなビートに乗って、高中正義のギターが、書の名人の流麗な筆遣いを思わせるフレーズを、途切れることなく描き出していく。オリエンタルなようでいてファンキー。ロックであると同時にフュージョン的でもあるという、考えてみれば世にも不思議な曲調が続くのだが、4人プラス、サポート・メンバーによる演奏に自然な安定感があるせいだろう。“不思議さ”さえも楽しんで聞いていられるのは何より。
加藤和彦のMCによれば、1975年の英国ツアーでさえ、今回のように『黒船』をフルで演奏する機会はなかったのだそう。文字通り30数年前と現在(いま)とをつなぐ、歴史的なライヴ・パフォーマンスだった、ということになる。
特筆すべきは演奏する4人の姿が、ロック・アーティストに欠かせない“華”を思いきり発揮していたことで、そんな輝きは“三代目ミカ”こと木村カエラが、空中から下りてきた巨大なハスの花のオブジェから登場して歌った「Big-Bang,Bang!(愛的相対性理論)」以降も変わらない。派手なアクションがあるわけではないのに、ステージに躍動感が満ちている。音楽そのものが放つ、グルーヴ感のたまものだろう。
タイツに包まれた脚が「細〜い! カワイイ!」としか言いようがないカエラも、いざ歌い出すと、キュートな中にも適度にドスを利かせた気のききよう。音楽にかけてもおしゃれさにかけても、百戦錬磨の「ロックなおじさま」たち4人が相手なんだもの。これくらいおきゃんじゃなかったら、“三代目”はつとまらない。
カエラがコーラスに回った幸宏主導のナンバー「Last Season」を指して、「虫(の声)みたいな曲」。加藤和彦がそう形容してみせるのも、気心の知れた間柄だからこそ。幸宏の別ユニット、スケッチ・ショーにも通じるアンビエントなこの曲に、トノヴァンが弾くマンドリンがオーガニックなアクセントを加える塩梅が、また素晴らしい。お互い遠慮がないようでいて、リスペクトすべきところはリスペクトする。バンド内のそうした空気がうかがえもする。続く小原礼のMCに至っては、「インテリじゃないとロックはできないから」。そんな注目すべき一言も。
全ステージを通じて終始無言。演奏に専念していた高中のギターが、「雄弁」なのも面白い。トノヴァンに「彼はギターで喋りますから」と紹介されていたのも納得で、愛用のギター1本で多彩な音色とフレーズを繰り出すさまには、無口な分、よけい説得力がある。舞台を去る時、かならずギターを持っていくあたりにも、着流しの剣名人みたいなかっこよさが。
「サイクリング・ブギ」「ピクニック・ブギ」「ダンス・ハ・スンダ」と続いたブギ・メドレーの後、いよいよ終盤、「Sadistic Twist」では、この夜唯一のサプライズ・ゲストとして、奥田民生が登場。小原とは民生名義のトリオで全国をツアーして回った間柄だけに、並んで演奏する姿にも違和感がない。加藤和彦のMCによれば、民生自身、ミカ・バンドの曲をコピーしていた時代があったのだそうで、道理でカエラと詞を共作している「Sadistic Twist」にも、往年のミカ・バンドにひっかけた言葉遊びが沢山入っている。最後の曲となった「塀までひとっとび」では、そんな民生が笑顔の高中と並んで、ギター・バトルを繰り広げるという名場面も。
70年代以来のミカ・バンド・ファンと、カエラの参加をきっかけに彼らの名を知った聞き手、どちらをも納得させたに違いないこのステージ。アンコールでは、トノヴァンが歌うちょっぴりグラムな「Low Life and High Heels」に次いで、「タイムマシンにおねがい」が登場。4人のメンバーとカエラ、そして民生が並んで演奏する姿が歌詞とあいまって、当夜のテーマ・ソングのようにも聞こえた。
ということで、このコンサートを見逃した人を含め朗報が。当夜の模様が2枚組ライヴCDにフル収録されて、5月23日にリリースされる。しかも75年9月21日、共立講堂でのライヴ音源が“オフィシャル・ヒストリカル・ブートレッグ”として、CD1枚分がつけ加えられるとあって、文字通り、「タイムマシン」なリリースなのだ。
文:真保みゆき
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