ゆるく激しくドロリと流れるグルーヴ・ロック

文:岡村詩野

 このCHAINSというバンドに最初に出会った時の、なんとも不思議な異物感は今も忘れない。異物感、と言ってしまうと誤解を招きそうだが、咽の奥に何かがひっかかっていつまでもそれがとれないまま、でも、いつの間にか麻痺してトリップしてしまったかのような。違和感がいつしか快感にすり変わってしまうような。そんな奇妙かつドラッギーな心地よさがこのバンドにはある、そう思った。
 例えば、ヴォーカル・新村敦史の歌は限りなく黒っぽい。特に高音の伸ばし方は驚くほどソウルフルで、影響を受けたアーティストを訊ねて迷わずオーティス・ラッシュとジョン・レノンと答えるのもむべなるかな、といった具合だ。だが、ギター、キーボード、ベース、ドラムによるバンド・アンサンブルと交わると、ブルー・アイド・ソウルといった範囲を軽く超えてしまう。強力な破壊力を持つギター・バンドになったり、ねちっこいリズムを醸し出すファンク・バンドになったり。ハード・ロック顔負けのアグレッシヴなビートを叩きつけてくるかと思ったら、そこにホーン・セクションなどいないのに、まるでサックスやトランペットが聞こえてくるような錯覚を与えてきたりもする。そう、目に見えない熱気、実際には鳴っていない音がと波動と振動で伝わってきて、その瞬間、瞬間で時にカラフルに、時にモノクロームに姿を変えていくバンド。それがこのCHAINSなのだろうと思う。だから、彼らの音楽を一言で説明するのはとても難しい。
 だが、その一方で彼らの音楽には一本の明確な筋道のようなものがある。それは、グルーヴをともなった歌、そしてメロディ、響き。そこに対する絶対的なこだわりを持っているということだ。どんなにスピード感のあるナンバーでも、どんなにヘヴィ・ウェットなナンバーでも、そこにドロリドロリと脈打って流れていくようなうねりがある。このうねり、グルーヴこそが

PREV
NEXT
5
6

CHAINSを語る際に私たちから言葉を奪い去る曲者であり、また彼らの大切な中枢部分であることは明白だ。彼らのステージはこれまでに何度も見てきているが、3月中旬に大阪で見た最も新しいライヴでも、ほとんどが新曲だったというのに、太くずっしりとした、でもとても繊細なうねりがとぐろを巻いていた。

「みんな音楽の趣味はちょっとづつ違うんですよ。たぶん、全員ブラック・ミュージックが好きってくらいで。でも、CHAINSになった時に、みんな自然とCHAINSらしさを考えていると思うんですよ」(新村)

 CHAINSらしいドロリとしたグルーヴ・ロック。それは、例えば、つげ義春の漫画からたちのぼる妖気と紙一重の色気だったり、オーティス・レディングの歌から匂いたってくる湿ったビターネスだったり。あるいはジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンがステージで放つ挑発的な男気だったり、梶井基次郎の小説の中に見え隠れするストイックなロマンティシズムだったり。それらがゆるやかに絡まり合ったものがCHAINSというバンドのグルーヴとなって抽出されるのだろう。
 CHAINSが京都を拠点に活動するバンドで、そもそもは立命館大学の音楽サークル“ロックコミューン”の仲間によって結成されていることはプロフィールでも確認してもらえるだろう。“ロックコミューン”といえば、くるり、キセル、ママスタジヲらを輩出したサークルで、先ごろジョン・ゾーンのレーベル、Tzadikから新作がリリースされたばかりのリミテッド・エクスプレスなんかもこのここ出身だったりする。
 CHAINSはこうした連中の先輩にあたる存在で、くるりやキセルらがメジャー・デビューし成功を収めていくのを彼の地で静かに見守ってきた。この3月半ば、京都で彼らに取材したその場所は、ベースのラリー藤本が経営する自宅スタジオ“マザー・シップ”でのことだったし、キーボードの丸山桂以外の4人は今も京都暮らし。今回のメジャー・デビュー・アルバム『日


Copyright 2003 Rock-Kissa All rights reserved.