RISING PLANET
Tomita's Greatest Works of Space Music
2016年に逝去した世界的シンセサイザーアーティスト・作曲家の冨田勲。作曲家としての仕事を、20代に日本コロムビアでスタートした冨田は、様々なキャリアを経て、2001年より再びコロムビアとタッグを組み、特に最後の5年は、70年代に発表した代表作を、当時思い描いていて実現できなかった完全な形でリメイクし、更に新たな創作も加える「DENON:ISAO TOMITA Project」に心血を注ぎました。
今回、その7つのアルバムから厳選したベスト盤を配信限定でリリースします。
冨田が残した最後のメロディである「日の出」は、「DENON:ISAO TOMITA Project」の最初のリリースである「惑星 Ultimate Edition」に収められたトラック「イトカワとはやぶさ」に初出のメロディであり、それはその後のアルバムにも重要な個所で登場する、いわば冨田の晩年を彩るモットーともいえる旋律でした。
これを通奏低音として、80歳代最後の5年間に冨田が尽きることない進取の精神を駆使して音盤に刻印した創作の粋をこのアルバムに集約しました。ここに集められたすべてのトラックに貫かれているのは「宇宙」。命果てるまで「宇宙への憧憬」を抱き、描き続けたシンセサイザーアーティストの巨星による至高のベストトラック集です。
日本コロムビアは、ソニーの360立体音響技術を使った音楽体験360 Reality Audio(サンロクマル・リアリティオーディオ)での初のリリースとして、「日の出~冨田勲DENONベスト作品集」をAmazon Musicでストリーミング配信開始しました。
冨田は、生涯を通じて「立体音響」を志向し、自らの作品は、サラウンドで体験することにより完成すると述べていたことでも知られています。
360度に音が広がる立体的な音場を実現する360 Reality Audioにより、冨田のサラウンドを想定して作られた作品群がヘッドホンで十全に視聴可能となります。
Amazon Music Unlimited:https://music.amazon.co.jp/albums/B099N3XZ29
全方位から音が降り注ぐ新体験。ソニーの360立体音響技術を使った新しい音楽体験。アーティストの生演奏に囲まれているかのような、没入感のある立体的な音場を体感できます。
・もっと多くの360 Reality Audioを体験するなら:https://www.sony.co.jp/360ra_sounddive/
“TOMITA「MARS from PLANETS」×360 Reality Audio : VR Trailer”は、「世界のTOMITA」の名を不動のものにした「PLANETS~Mars」の360 Reality Audio音源と、晩年の冨田とコラボレーションを繰り返した美術家・宇川直宏のディレクションによる、360度VR映像で創出した”火星への旅”の融合です。
探査機の発射から火星に至り、地表面に降り立ち、さらにまた地球へ。
amulapo提供の衛星データを元に制作した実データに基づく火星3DCGデータや、NASAの探査車キュリオシティおよびパーサヴィアランスが撮影した火星着陸地点の高解像度360度パノラマ画像を、宇川のディレクションによりVR立体映像化、そして冨田の立体音響が交錯し、現実とファンタジーの異次元の融和が生み出す新たなXR感覚が体験できます。
TOMITA「MARS from PLANETS」×360 Reality Audio : VR Trailer
インスピレーションを探しているときに初めて彼の音楽に出会った。そしていつしか作品そのものに引き込まれていった。このサウンドが自分の人生に絶対に必要なものだと気づいたんだ。トミタのサウンドは何年もの間、自分の一部になっている。様々な場面で彼の音楽を聴いているよ。特に寝る時にね。トミタの音楽はカラフルな情景と明晰な夢を見せてくれる。自分にとって最も興味深い素晴らしいサウンドによって、クラシックな楽曲が再定義・再構築されている。
トミタは時代の先を生きていたけど、新しい世代のリスナーが彼の魔法に魅せられていることをとても嬉しく思う。
RISING PLANET Tomita's Greatest Works of Space Music ダイジェスト
「惑星 Ultimate Edition」(2011年6月1日発売 / COGQ-51)より
「管弦楽曲の電子音による再創造」をした革新的アルバムの数々で、1970年代に世界中を驚かせた冨田勲。なかでも圧倒的な創造性で群を抜く存在である「惑星」(1977年RELEASE)が、2011年、冨田自身の手により、新しい機材の採用によって作品全体がリメイクされました。冒頭曲「火星」(Track1)は旧盤と同じく宇宙との交信音からはじまりますが、その後は低音を大幅に増強。サラウンド音響面も万全に再創造し、まさに完全版の名にふさわしい進化を遂げています。
JAXA(宇宙航空研究開発機構)の小惑星探査機はやぶさによる小惑星イトカワへの探査と、2010年6月13日の地球への帰還のニュースは国内外で大きな話題となりました。小惑星イトカワの名付け親である日本の宇宙工学の父、糸川英夫博士と個人的な交流のあった冨田も、このニュースに大きな感銘を受け、糸川博士を偲ぶレクイエム「イトカワとはやぶさ」(Track2)を「惑星」内に新曲として追加。広大な宇宙空間を孤独に曳航する探査機はやぶさを想起する電子音とともに、シンセサイザーで奏される追悼のメロディは冨田の晩年を彩るモットーともいえる旋律としてその後もしばしば登場していきます。
「月の光 Ultimate Edition」(2012年6月20日発売 / COGQ-59)より
ワルター・カーロスの『スイッチト・オン・バッハ』に衝撃を受けた冨田は、1971年、Moogシンセサイザーを個人輸入し自宅に電子音楽スタジオを作って、シンセサイザー音楽作家としての活動を開始しました。その処女作「月の光」は、ドビュッシーのピアノ曲をシンセ作品としたもので、米RCAレコードから1974年リリース。ビルボード・クラシック・チャート2位、日本人として初めてのグラミー賞にノミネートされました。無機質な音響という従来の電子音楽のイメージを根底から覆し、シンセ音楽の可能性を世界に知らしめた斬新かつ衝撃的な作品。その「完全版」の最新機器によるリメイクは、オリジナルのイメージそのままに、劇的にクリアな音質を得ました。
「口笛と鐘」(Track3)は、トミタサウンドの制作の秘密を公開した異色のトラック。「ピンクノイズがフィルターによって口笛になる様子」、「4度間隔で重なった純音が、時間エンベロープの処理によって鐘の音に変化する様子」が垣間見え、やがてその音素材が「アラベスク第1番」につながっていきます。
冨田シンセサイザー作品の最高傑作の呼び声も高い表題曲「月の光」(Track4)は、ドビュッシーによる原曲を凌駕するほどの圧倒的な詩的世界を繊細で色鮮やかな電子音響で描き切ります。
「完全版」用に新たに制作された「雲」(ドビュッシー:夜想曲第1曲/Track6)は、冨田が昭和20年の三河地震で目撃した妖しくも美しい「地震雲」の印象を、浄土のイメージに重ね合わせて制作されました。
「PLANET ZERO FREEDOMMUNE<zero> session with Dawn Chorus」(2011年11月23日発売 / COGQ-57)より
2011年の夏、ジェフ・ミルズをはじめとする豪華な出演者で大きな話題をさらった野外イベント、FREEDOMMUNE0。1万人を超える入場券が瞬時に無くなるという異常な盛り上がりを見せたにも拘わらず、当日、予想を超える風雨という悪天候に見舞われ、中止を余儀なくされた幻のイベント、その大トリとして計画されていたのが、冨田勲の「惑星」を再構成したスペシャルエディションでした。太陽の黒点から発せられる電波を受け、夜明けにのみ受信できる「ドーンコーラス(暁の合唱)」を予兆として、日の出とともに、新たに書き加えたトランペットの輝かしい音が響き渡るスペシャルエディション。その比類ない作品を、このまま眠らせるのはあまりにももったいない、何とか多くの人に届けたいということで、急遽リリースされたのが、アルバム「PLANET ZERO」です。当日上演予定だったトラックを完全に音盤化。「惑星 ultimate edition」をベースとして、新たにレクイエムとして一部を書き直し、「ドーンコーラス」とトランペットを加えて再構成した作品です。「Rising Sun」(Track7)は、まさに夜明けの時間帯にタイミングを合わせて演奏されることを想定していたトラックで、夜明けにのみ発生する「ドーンコーラス」をライヴで受信し曲と重ねることで、宇宙とのコラボを冨田は志向していました。冨田が晩年、全幅の信頼を寄せていたトランぺッター本間千也による雄々しいトランペットのサウンドとともに、「イトカワとはやぶさ」のメロディ、さらに「惑星~木星」の名旋律が登場します。なお、このプロジェクトは、2013年に無事開催となったFREEDOMMUNE<ZERO>@幕張メッセで、当初の構想通り夜明けのヘッドライナーとして上演を行い、大きな反響を呼びました。
「展覧会の絵 Ultimate Edirion」(2014年3月19日発売 / COGQ-67)より
1974年に米RCAからリリースされた冨田勲「展覧会の絵」の完全版では、他の「完全版」同様、音質ならびに音場表現の大幅強化が果たされているのに加え、ボーナストラックにおいて、70年代にNHK-FMでのみオンエアされた幻の「シェエラザード」の一部分が収録・初音盤化されたことで話題となりました。冨田自身「難曲だった」と振り返ったこの幻の音源は、途中で制作断念となっており、そこで冨田自身のアイディアで、『宇宙幻想』~「ソラリスの海」をつなぎ、アラビア海から宇宙の大海原へと聴く者をいざなう構成としました。「ソラリスの海」(Track8)は、タルコフスキー監督の「惑星ソラリス」にインスパイアされた作品で、バッハによる旋律が組み合わされ展開されます。
「SPACE FANTASY」(2015年3月4日発売 / COZQ-1023-4)より
「SPACE FANTASY」は、1978年発表の「宇宙幻想」(英題:COSMOS)を基調に、76年発表の「火の鳥」(英題:FIREBIRD)、そして78年発表の「バミューダ・トライアングル」(英題:Bermuda Triangle)から曲を抜粋し、冨田勲自身によって新たに構成され、さらに4.0chサラウンド化を施されたアルバムです。「答えのない質問」(Track9)は、冨田が晩年に至るまで重要視していた作品で、前出の「PLANET ZERO」でも、2013年のFREEDOMMUNE開催時のLIVEでは、新たにこの曲が組み込まれ演奏され、さらに後出の「ドクター・コッペリウス」でも、元々はこの「答えのない質問」を上演時に使用することも構想されていました。アイヴズによる原曲の妖しい空気感はそのままに、そこに冨田のスペイシーな電子音響の色彩が加わります。
「イーハトーヴ交響曲」(2013年1月23日発売 / COGQ-62)より
晩年の冨田の仕事で最も大きな話題になったのが、世界的なバーチャルシンガー初音ミクとのコラボレーションです。
80歳を迎えてなお精力的な制作活動を行っていた冨田が手がけた大作が、この「イーハトーヴ交響曲」です。
戦時中、小学校五年生の富田が初めて手に取った、宮沢賢治の作品たち。モノクロームの現実世界のただなかで出会った、その色彩感あふれる作品世界に少年冨田はたちまち魅了されたといいます。その後も賢治への憧憬は続き、その色彩感あふれる世界を、いつか自身の作品で表現したい、という積年の思いが結実したのが、この「イーハトーヴ交響曲」です。
総勢約300人におよぶ大オーケストラと合唱団が描き出す、賢治の異次元な作品世界と、それを育んだ東北の力強い大地。ヒロイックで豪放なメロディと、色彩あふれる音の重なりが交錯するカオスな空間に、突如として現れるのがヴァーチャル・シンガー初音ミク。日本の電子音楽の始祖である冨田が長年夢見てきた「機械が歌う」。世界中で人気を博すミクが、冨田が託した夢を具現化し、オーケストラサウンドの上に唯一無二の歌声を降臨させました。「銀河鉄道の夜」(Track10)は本曲のクライマックスと言える楽章で、ミクによる印象的なメロディ歌唱ののち、ラフマニノフの交響曲第2番の名旋律の引用ともに、冨田の色彩的なオーケストラアレンジで、宇宙への飛翔ともいうべき展開がなされます。
「ドクター・コッペリウス」(2017年3月22日発売 / COCQ-85337)より
2016年5月5日、冨田勲氏が他界されました。享年84。氏が亡くなるその瞬間まで、上演を夢見続け創作を続けていた作品がありました。その名は「ドクター・コッペリウス」。
冨田氏はストーリー原案と音楽の構想のほとんどを遺していました。氏が長年追い求めてきた「宇宙への夢と希望」に満ち溢れたスケールの大きなストーリーが、オーケストラとシンセサイザー、そしてバレエを伴いながら展開されます。「イトカワとはやぶさ」の発展形として構成されていたこのバレエ付のシンフォニーは、元々80年代から冨田自身でストーリーが構想されていました。作品は、生前の氏と制作を進めていたプロジェクト・メンバーに引き継がれ、2016年11月11日、12日に初演が行われました。終演後は大きな歓声と鳴り止まない拍手で幕を閉じました。冨田の遺した電子音とオーケストラサウンド、そして初音ミクの歌が三位一体となったこの曲のクライマックスが「日の出」(Track11)です。氏が作曲した最後のメロディと言える「イトカワとはやぶさ」のメロディがオーケストラによって展開され、ラストは初音ミクの歌唱が感動的な掉尾を飾ります。
世界的アーティスト冨田勲の最終形態にして未来への遺言ともいえる「ドクター・コッペリウス」。いまなお、憧れの宇宙空間で魂が生き続けているかもしれない、冨田勲自身の姿がこの「日の出」の音楽全体に刻印されているかのようです。
1932-2016。慶応義塾大学在学中から作曲家として多彩な分野で活躍をはじめ、74年にはシンセサイザーによる「月の光」を発表してビルボード誌の第1位を獲得し、さらに日本人として初めてグラミー賞にノミネート。以後発表するアルバムは次々に全世界で空前のヒットとなる。その後、多数のNHK大河ドラマや山田洋次監督作品で音楽を担当。2011年からは「ISAO TOMITA PROJECT」が始動。「惑星」や「月の光」など、過去の名作をリメイク&サラウンド化した完全版が日本コロムビアより継続的にリリース。2011年1月に朝日賞受賞。11月には宮沢賢治の作品世界を題材にし“初音ミク”をソリストに起用した「イーハトーヴ交響曲」の世界初演が行われ大きな話題となる。14年には、REDBULLMUSIC ACADEMY東京2014に招かれ、世界の若きミュージック・クリエイターたちの前で講演を行い世界中で話題となった。15年5月には「イーハトーヴ交響曲」が中国・北京で上演された。平成28年5月5日、慢性心不全のため逝去。享年84歳。
逝去の1時間まで創作に取り組んでいたスペースバレエシンフォニー「ドクター・コッペリウス」は、追悼公演として東京で上演され、大きな話題となった。