ザ・コレクターズ

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  • 『99匹目のサル』加藤ひさしOFFICIAL INTERVIEW

    ●震災以降の加藤さんは、首相官邸前の原発再稼働反対デモに自ら参加したりメッセージを投げかけたりと、脱原発の運動にも積極的ですよね。こうした動きはミュージシャンとして行なっているものなのでしょうか?それとも個人としての行動なのでしょうか?

    加藤ひさし「ビートルズの昔からボブ・ディランもそうだけどミュージシャンはこういう政治活動に熱心だったじゃない? 戦争や飢餓や社会的なトラブルが起きた時にミュージシャンは声を上げないといけない、と思っているんだよね。だから、原発事故後だと斉藤和義くんとかがそうだけど、清志郎さんのように何かあった時にすぐ声をあげることは本当に素晴らしいことだし、尊敬しちゃうよね。批判もあるだろうし、なかなか出来ないよ。」

    ●ただ、加藤さんは加藤さんで、これまでにも自作の曲の中で反戦、反骨を綴ってきましたよね?

    加藤「そう。でもね、そういうやり方って、基本は“NO”でしょ。今回、動画サイトで色々な脱原発を歌った曲を見ていたんだけど、どれも“NO、NO、NO”ばかりなんだよね。その時に思ったの。これじゃみんなに伝わっても、簡単に賛同してもらえないなって。中には気分を悪くする人もいると思うし。それと同じような思いを、官邸前のデモに参加した時も感じたんだよね。デモの中にはすごく熱心な人が大勢いる。でも、その横を何も関心なさそうな人が大勢通りすぎているのも事実なんだ。“自分には関係ないんだ”って感じで歩いている人がたくさんいる。霞ヶ関にプラカードもってデモに参加している人もいれば、仕事を終えて飲みに繰り出すオジさんもお姉さんもいっぱいいるわけ。そこの温度差をすごく感じるんだよね。この温度差はなんなんだと。同じ国に生きて同じように放射能を浴びているのに、この違いは何?って。で、そこで思ったのは、無関心でいる人に“NO”を突きつけるだけじゃダメなんだってことなの。振り向かせるためには“YES”じゃなきゃダメなんだよ。それがデモに参加することでわかったこと。テレビや新聞だけじゃわからなかったことなんだよね。テレビや新聞も本当の事は報じないしね。で、その“YES”をどういうカタチにすればいいんだろう?ってことを考え出したのが今回のアルバムにつながったんだよ」

    ●つまり、現場に身をおいてみて初めて“YESの美学”に気づいたということですか?

    加藤「そう。だって、こっちが一方的に“NO”を突きつけてるだけじゃ耳を塞がれちゃう。このままだと“NO”って言ってる一定の人ばかり濃くなっていって、でも、関心を持ってない人に“NOなんだよ、NOだろ!”って詰め寄っても全く友好的じゃない。“YES”の人数を増やしていかないことには状況が変わらない。じゃあ、どうすれば増えるんだろう?って考えた時に、やっぱりハッピーなところにしか人は集まってこないわけだよ。そこに去年気づいたんだよね。正直言って、今は映画や音楽そのものより世の中のデタラメな動きの方がエキサイティングなんだ。でも、それは本来健全ではない。エキサイティングって言ってもそれはネガティヴなエネルギーだから。やっぱりハッピーな方向に向かってこそだって考えた時に、今回のようなアルバムが生まれたってことなんだよ」

    ●なるほど。だから、今回はいつになくブライトな曲調が多いのですか。前作『地球の歩き方』はややダークな色彩が出たアルバムでしたが、今回はいきなり1曲目「喜びの惑星」からダンス・ビートを大胆に取り入れた躍動的な展開ですよね。

    加藤「そうそう。でもね、そのことを提案してくれたのは実はプロデューサーの(吉田)仁さんなの。去年夏、仁さんが渋谷クアトロのライヴを見に来てくれた時に、ちょうど「がんばれG・I・Joe!」がものすごくもりあがったの。あの曲って16ビートのダンスビートだから踊りたくなるじゃない? でも、コレクターズの曲にあのタイプの曲って「がんばれG・I・Joe!」くらいなんだよね。それを見た仁さんからリクエストされたの。“加藤くん、今こそああいう感じの曲がいいよと。16ダンス・ビートだけどロック調の曲を書いて”って。“今、コレクターズのファンが一番聴きたいのはああいう曲かもしれないよ”って。そう仁さんに言われて書いたのが「喜びの惑星」だったの。仁さんに言われなかったらあの曲は作ってなかっただろうし、ダンスビートのアレンジにもなってなかったと思う。仁さんって本当に素晴らしいプロデューサーだし、いい監督だなって思ったよ」

    ●それまで新作用に書いていた曲はどういう感じだったのですか?

    加藤「いや、全然書いてなかった(笑)」

    ●(笑)では、新作に対して、具体的にイメージしていた方向性というのは?

    加藤「それもまだ絞り切れてなかったよ」

    ●去年夏の段階でまだ?!

    加藤「そう(笑)。もちろん、“NO”じゃなく“YES”というイメージはあったんだけど、曲を書くにはまだ至ってなくてね。ただ、『青春ミラー』『地球の歩き方』と続く3部作…ホップ、ステップ、ジャンプの“ジャンプ”だ、みたいなリリースタイミングは心に決めていたの。それぞれ1年半くらいの間をあけて1、2、3枚と出していければいいな、ライヴの動員も伸びてきているし、テンポよく出していければいいかもしれないってね。でも、『青春ミラー』の後で震災が起こって、自分の価値観も変わったし、底力も試されるようになった。『地球の歩き方』はまだ震災以前に書いた曲も入っていたけど、今回のこの3部作の3枚目はデモをやるようになったり、毎日の生活をより真剣に考えるようになったりするようになってからの作品だったから、本当にどういう方向にしよう、というのがわからなかったんだよね。でも、“YES”という手応えは解ってきていたし、仁さんにも16ビートのダンス・チューンを書いてって言われて、何となく見えてきて……って感じで、去年夏あたりから一気に曲を書いたんだよ」

    ●でも、そうやって方向性をフォーカスさせたからか、全体的にすごく引き締まったアルバムにもなっていますよね。と同時に、シンガロングできるようなリフレインを多用したわかりやすい構成の曲が多い。一緒に“YES”を唱えていこうとする意志が強く反映されているようにも感じました。


    加藤「まさにそう! それはね、今回のその“YES”という方向性にも合っていたってことなんだけど、それと同時に、ライヴをたくさんやるようになって、一緒にみんなで歌える曲が必要だってますます思えるようになったからなんだよね。難しい曲を作ることは簡単なんだろうけど、それではせっかくのライヴで一緒に楽しめない。今、コレクターズはライヴをたくさんやることによってバンドとしてファンに接することが多いから、余計にそれを実感するんだよ。それからもう一つ重要なのは、僕自身、ここ最近はそういうシンプルでわかりやすい、みんなで歌えるようなリフを持った曲を好むようになったっていうこともある。例えばビートルズでも今は初期の歌が好き。「シー・ラヴズ・ユー」のあの感じ、今こそ絶対必要だと思うし、僕自身、あの感じにすごくシビれるの。あんなに大好きだったXTCとかデュークス(・オブ・ストラトスフィア)とかさ、もちろん嫌いじゃないけど、今はもっとシンプルで力強いものに惹かれるんだよね。そういうのが聴きたい。恥ずかしいことを言うけど、AIの「ハピネス」って曲あるでしょ?コカコーラのCMの “君が笑えば〜”って曲、あれがすっごいいい曲だなあって思えるのね(笑)。全部が全部好みじゃないんだけど、あれにはヤラれたな!って思ったりもしたんだよね。KANの「愛は勝つ」はやっぱりいいな、というのと同じでね。“愛は勝つんだよ!”っていうシンプルなメッセージにみんなすがりたいんだろうね。僕自身、そういうのに引っ張られているし、実際、AIのあの曲のプロモ・ビデオを見ても“なんて素晴らしいんだ!”って感動するわけ!」

    ●衝撃的な告白ですね!

    加藤「いや、だって本当にそうなんだもん。で、その後、ポップ・リーヴァイのビデオを見たら…あんなに好きだったのに頼りなく感じたっていうか、“何やってんだよ〜LEVI!”って感じたよ(笑)。もっとコマーシャルにポップにわかりやすくやってくれよ!って。それ「くらい、自分の感覚もシフトしたんだよ」

    ●ヒットしている曲にはヒットするだけの理由が絶対ありますよ。

    加藤「そうなんだよね!!! それは本当にその通り。わかりやすく伝わることがいかに大事かってことだよ」

    ●実は私、去年、ブラーのライヴDVDを見て改めて感動したんですよ。ロンドン五輪閉会式と同時刻に行なわれたハイド・パークでのコンサート。8万人ものオーディエンスが大合唱する120分、あれはすごい光景でした。

    加藤「僕も見たよ! あれ、すごかったねえ。素晴らしかったよ!涙が出た!」

    ●あれを見て、コレクターズを思い出したんですよ。

    加藤「僕も自分たちと目指すところが同じだなって思った。ライブの規模は違うけどさ。しかも、あれ、デーモン・アルバーンはイヤー・モニターしていないんだよね。あんなに大きな会場でイヤモニをつけずにずっと歌い続けるってどういうことかわかる?俺もライヴでイヤモニをほとんどつけないんだけど、デーモンはわかってるなって思ったよ。ロックンロールの醍醐味って、歌の音程とかそういうものじゃなくて、みんなが集まってギュッと詰まったエネルギーみたいなものでしょ? それをデーモンはちゃんとわかってるんだよね。100人だろうと何十万人だろうと、それは同じでさ。ブラーって本当にいいバンドだなって改めて思ったよ。もちろん、彼らの方が僕らより若いけど、ある意味で、俺の目指すロック・バンドのカタチがあそこにあるなって思うの。少なくとも、今の俺の思うコレクターズが目指しているところはあれだから。自分たちが日比谷野音でやっていることの延長線上があれだ。もちろんザ・フーもそうだよ。ロンドンっぽいユーモアも華やかさも渋さもヘナチョコさもあそこにある。あのDVDでさ、デーモンはしかもフレッドペリーのよれよれのポロシャツを着て出てくるでしょ? もうやられた!って。普段着でハイドパークのステージだよ。でもあれがモッズとしては最高のフォーマルウェアなわけだよ。コイツ、わかってるなあ!って」

    ●しかも、曲はみんなが親しめるポップなもの。

    加藤「そう! ブレがないんだよね」

    ●あのDVDの1曲目はディスコ調の「ガールズ&ボーイズ」で、コレクターズの今回のアルバムも1曲目が16ビートの「喜びの惑星」で。そのあたりにも何か共通するものがあります。

    加藤「同じところを見ているってことなのかもね。だからさ、ホンモノのモッズって世界中どこへ行っても一緒ってことなんだよ! ただね、ブラーは一時的に活動休止したりしていたけど、コレクターズは今まで一度も休むことなく続けてきているんだよ。逆に自分たちがブラーに教えてあげたいね。“続けていかなきゃダメだ”ってことをね」

    ●コレクターズをリスペクトする若いバンドもどんどん登場してきていますしね。

    加藤「そうそう。結構言われるのよ、影響受けましたとかね。嬉しいよね。でもさあ、申し訳ないんだけどあまり周囲を気にしている時間がないんだよね。僕はもう今年の終わりで53歳になるんだけど、もっともっと先のことを見て行かないといけない状態で。この先何年歌っていけるのかな?とか、このアルバムが売れたらもうすぐ次のアルバムを作らないとな〜、じゃあ、今度はどんな内容にしようか?とか、そういうことで頭がいっぱいでね。年上も年下も関係なく、誰かに影響を受ける/受けない関係なく、とにかく前に進みたいってだけなんだよ。ブラーのライブはそういう中で、前に進もうとしている僕らにとっていい刺激になったってことなんだ」

    ●例えば、去年、ローリング・ストーンズが新曲を発表したのは聴きましたか?

    加藤「聴いた聴いた。結構カッコよかったよね。ただ、いかにも「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」みたいな曲で、あれは個人的には僕のお手本にはならないんだよ。もっと挑戦していないと。ストーンズはもちろん頑張ってる。70歳のバンドに“挑戦してくれ”と言うのも申し訳ないけど(笑)。もちろん、彼らは彼らで挑戦しているんだろうけど、コレクターズはもっと俺たちらしく前に進んでいきたいんだ。これまでやってこなかったことを提示して、もう52歳になった俺でもこんな曲が歌えるんだ、ということを示していきたいんだよね。例えば、今回のアルバムだと「プロポーズ・ソング」。あんな顔から火が出るような歌詞のラヴ・ソングを今まで絶対書けなかったよね。しかも、俺は結婚もしているし50代だよ(笑)。でも、これは俺の中ではただのラヴ・ソングじゃなくて、「たよれる男」や「TOUGH」に通じる曲なの。大切な女性に向けて、男ならこれくらいのことを言ってやれよ、歌ってやれよ!ってハッパをかけている曲。親父の遺言のような曲なんだよ。俺を見ろ!と(笑)」

    ●「しあわせにするぜ。世界中の誰よりも」と、俺は今でも女房に言ってるぞ、歌ってるぞと。

    加藤「そうそうそう(笑)、まあ、そのくらいの気持ちでいるぞと」

    ●作り手自ら実践しないと。

    加藤「いやいやいやいや(笑)。でもね、男子ならそれくらいの男気を見せろと。50代でも盛んだぞ、何が草食系だと(笑)。そういうことを伝えたかったの。それを、ああいうラヴ・ソング仕様になっているところが自分にはすごく大きな挑戦なんだよ」

    ●確かにコレクターズ史上、新しい。

    加藤「まあ、一般的には全く新しくはないけどね〜(笑)。でも、俺の中では挑戦だよ。「魔法のランプ」とか「2065」とか歌ってた男が“しあわせにするぜ〜!”だよ? 最初は照れたよね。でも、コータローくんが“加藤くん、すっげえいいじゃんこの歌詞”って言ってくれて。バンドはそういうところがいいよね。自信がない時もそうやってメンバーに意見聞けるから(笑)。ほら、ビートルズが「ヘイ・ジュード」を作ってメンバーみんなに聴かせた時、ポールが“歌詞の中の「shoulder〜」のところはあとで替えるから…”と言ったら、ジョンが“それでいいじゃん”って言って、あのままになったって話があるでしょ? あれと同じなんだよね(笑)」

    ●ウィットに富んだ比喩が多かった加藤さんの歌詞が、ここにきてよりストレートになってきたというのは確かに大きな挑戦ですね。

    加藤「だよね。「電気を作ろう!」なんて、これ以上わかりやすくストレートな歌詞なんてないよ。これでわからないなんて言われたら、もうわからなくていいです…としか言えなくなっちゃうよ!」

    ●ただ、ある種のリスクもあると思うんですよ。50歳過ぎて、より難解になるわけでもなく、むしろ「しあわせにするぜ」とストレートに歌う姿勢。そこを揶揄する人もいるかもしれない。そのリスクに対して抵抗はありませんでした?

    加藤「全然! だって、みんな歌ってくれないと意味がないから。俺の歌いたかったことはコレ!という強くてわかりやすい意志を伝えないといけないんだって思ってるからね。それが脱原発のデモなどから学んだ“YES”の意志なんだよ。“YES”なら“YES”とハッキリ言わないといけない。よく考えないとどっちかわからないんじゃダメなんだよ。ストレートなわかりやすさ、伝わりやすさが今回のアルバムの曲調や歌詞に現れているんじゃないかな」

    ●では、最後に、アルバムの曲を1曲づつ簡単に紹介してください。まず、「喜びの惑星」から。

    加藤「これはさっきも話したように、仁さんからのリクエストで生まれた曲。だから、仮タイトルも「G・I・ビート」(笑)。「がんばれG・I・Joe!」を作った頃って、まだ80年代でブロンディが「ハート・オブ・グラス」を作ったりした時代で、ロック・バンドがディスコ調の曲を作ることがカッコよかった頃なんだよね。それが今でも自分の中で新鮮だし過激なことなんだよ。だから、全然違和感なく今回も書けた実感はあるな」

    ●次はシングルでもある「未来地図」。

    加藤「実はこの曲と「喜びの惑星」がシングル候補曲だったの。その段階ではまだ「喜びの惑星」は歌詞がまとまってなかったんだけど、この2曲を並べた時に歌詞もタイトルも「未来地図」が面白いね!ということになってシングルになった。「僕の時間機械」と同じ感覚の面白い歌詞が書けたなって思ってて。あと、曲調がちょっと変わってるから、このシングルが出た頃に知り合いから“最近、どんな音楽聴いてるの?”ってよく聞かれたね。まあ、AIとポップ・リーヴァイを行ったり来たりだったんだけど(笑)」

    ●「プロポーズ・ソング」。

    加藤「これ、さっきも話したように、最初出来た時に自信があまりなくて、歌入れの前にこっそりコータローくんを呼んで“こんな歌詞ができちゃったんだけど…”って伝えたの。“じゃあ、聴いてるから、目をつむって歌ってみてよ”って言うから、その場で歌ってコータローくんに聴いてもらったの。“しあわせにするぜ〜♪”ってギター弾きながら。で、そのあと“何度でも言うぜ〜♪”って歌ったら、コータローくんがさ、“加藤くん、そこは何度でも言う「よ」だよ”って(笑)」

    ●コータローくんに語尾を直された…。

    加藤「うん。こっちは強気で攻めていこうって感じで作った歌詞なんだけど、あ、強く押すだけじゃダメなんだなって。コータローくんに教えられたよ(笑)」

    ●「99匹目のサル」。

    加藤「大学生の頃から「100匹目のサル」の話を知っていたの。単純に、流行って知らない間にテレパシーで風潮を共有していて、ある一定の人数になったところで爆発するって現象だと思うんだけど、この歌はその爆発する寸前の99匹目の立場を歌ったものなんだよね。まだみんなの一つの大きな力となって爆発はしていないけど、もうちょっと頑張れ、もう少しで時代が変わるから!ってことを伝えている曲。デモなどを通じて得た“YES”をカタチにしたアルバムのテーマの重要部分を歌った曲だね」

    ●第一弾シングルでもある「誰にも負けない愛の歌」。

    加藤「これはもう明らかにライヴを意識して作った曲で、みんなで歌えることを想定してメロディもリフも書いたの。シングルってやっぱり「オブラディ・オブラダ」じゃないといけないところがあって。でも、この頃の僕は「ハピネス・イズ・ア・ウォーム・ガン」みたいな曲しかなかなか書けなかった。そういう意味ではシングル曲の難しさを痛感した曲だったね。結果としてシンガロングなすごくいい曲になったなって自負しているけどね」

    ●「オスカーは誰だ!」。これは加藤さんらしい曲ですね。

    加藤「俺らしいよね! 今までも「青と黄色のピエロ」とか「プリテンディング・マン」みたいな曲を書いてきたけど、自分が何かを演じて生きて行くことを歌った曲。実際、俺が脱原発の話を家の中でしても大学生の娘とかは興味を持たないし、今度はコレクターズのリーダーとしてスタジオに入っても、もうそういう活動は持ち込まないようにしているんだけど、そうやって演じて生きて行くんだな、それが人生だ! だったらみんな主演男優、女優を目指そうよっていう、そういう感覚。偽りと知ってて演じてる部分もあるかもしれない。騙して騙して演じきって死んでいく人生もいいんじゃない? そういう男の身勝手さみたいなのがこの曲に現れているかもしれないね。だから、実はすごく淋しい歌なんだよね」

    ●「ドーナツソング」。

    加藤「これはもうティーンエイジ・ラヴな曲。“熱いコーヒーと甘いドーナツふたつずつ”の“ふたつずつ”というのがいいでしょ!(笑)。ひとつずつだと「一杯のかけそば」みたいになるけどさ(笑)。こういうティーンエイジャーのカップルを見たら、俺、泣いちゃうもん(笑)。ああ、お前ら可愛いねえって。青春だよねって。もう俺もトシなんだよ(笑)」

    ●そして、古市コータローが歌う「ごめんよリサ」。

    加藤「実はコータローくんがさ、俺はいつもロックンロールばかり歌わされてる、飛び道具にされているって言い出したのよ(笑)。ツイッターだのノークレーム、ノーリターンだの、いい加減にしてくれ、と。じゃあ、どんなのがいいの?って聞いたら、キッスの「ベス」みたいな曲を歌いたいって言うのよ(笑)」

    ●(笑)ベタベタなバラード!

    加藤「でしょ? あんなの書けないよ〜。で、せめてミディアム・テンポのラヴ・ソングにしようって言ったら、今度はベイ・シティ・ローラーズのギタリストのエリック・フォークナーが歌った「バック・オン・ザ・ストリート」みたいな曲でもいいって言い出して。で、聴いてみたら、これならいいね、ってことで書いてみたのがこれ。50年代、60年代の曲みたいに実名を出して、“帰ってきてほしいんだ”って気持ちがリアルに伝わるようにしたんだけど、まあ、コータローくん、気に入ってたよ〜(笑)。仁さん、凍ってたけどね。“70年代の俳優が歌ってるみたいだ”って(笑)」

    ●「残像恋人」。

    加藤「これは最初「伝言ゲーム」って仮タイトルだったの。フェイスブックでもツイッターでも、ああいうSNSってどんどん伝わっていくけど、その都度意味が変わってきちゃったりするじゃない? 最初そのことを皮肉っぽく歌詞にしていたんだけど、実際、自分もそこに関わっていたりするから、自分で歌っていてイヤになってきたの。その歌詞でレコーディングするのもイヤになって。それで、書き換えたの。全部。で、結局恋の歌にしよう、捨てられる男の歌にしようって思ったの。男ってさ、昔の恋をアイコンみたいにデスクトップに並べちゃうじゃない? でも、女性はOSを入れ替えるみたいにパッパッと切り替えちゃうでしょ?(笑) そういう感覚を歌にしてみたんだよね」

    ●「雨と虹」。このあたりの後半の流れがいいですね。

    加藤「最初アカペラで始まるんだけど、Aメロみたいなのが2つもあるちょっと変わった曲。構成も今までにはない感じで自分でも面白いなって。あと、サビの“雨が降らなきゃ虹も出ない”ってところ、仁さんのアイデアでドラムの連打にしてる。エレクトリック・シタールを買ったからちょっとその音を入れてみたりもしたんだけど、殆ど聴こえない(泣)。たぶん、仁さんとしても、そういういかにもビートルズっぽいアレンジを入れたくなかったんじゃないかな。もっとストレートでシンプルな曲でいきたかったんだろうね。でも、結果としてこれで良かったと思ってるよ」

    ●「電気を作ろう!」。ダイレクトなメッセージがこのアルバムの本質を突いてますね。

    加藤「これ、歌詞作ったのも歌入れも早かったよ〜! この歌詞を歌いたくて仕方なかった曲なんだよ(笑)。だからあっと言う間に完成したよ。

    ●最後の「COME ON LET'S GO!」。これは映画のエンドロールで流れるような曲ですね。ロックンロールだけど、全体の流れを踏まえていてすごくスムーズに耳に入ってきます。

    加藤「そうそう。8ビートのロック・チューンって理屈抜きにワクワクするじゃない? そんなイメージで作った曲。だから、当初は1曲目に入れようと思っていたんだけど、次に「喜びの惑星」をもってくるとインパクトが薄れるんだよね。それじゃ勿体ないし、「喜びの惑星」の面白さでこのアルバムを始めたかったから、そうなると最後が相応しいかなって思ってラストにしたの。実際、歌詞の内容もラストにすごく合ってるというか、奇しくもアルバムの流れを改めて振り返っているような感じなんだよね。そういう意味では、確かに映画のエンドロールでクレジットとかと一緒に流れる曲って感じかもしれないね」



  • 2013/01/23 Release
    99匹目のサル【初回盤】
    COZP-733-4 / ¥3,675(税込) 

    2013/01/23 Release
    99匹目のサル【通常盤】
    COCP-37694 / ¥2,625(税込)

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