『軍師官兵衛』の音楽を書き終えた頃から、菅野祐悟はシンフォニストになるのではないか、という予感がしていた。
そのことを彼に伝えると、「劇伴作曲家をやめるつもりはありません。でも、クラシックの大作曲家と同じ土俵で“強度の強い音楽”が書ければ理想です」という答えが返ってきた。
その言葉通り、菅野は以前と変わらずゴールデンタイムのドラマの音楽を書き続けながら、同時並行的に《交響曲第1番〜The Border〜》を書き上げた。
「劇伴作曲家だから」という言い訳もせず、変則的な楽器編成という飛び道具も使わず、敢えて菅野はベートーヴェンやブラームスと同じ4楽章形式の交響曲で勝負をかけてきた。逃げも隠れもしない、彼の“強度の強い音楽”が、そこにはあった。
菅野らしいメロディアスな主題を、ダイナミックに展開していく第1楽章。
夢見るような美しい音楽を、ある時は陶酔的に、またある時は牧歌的に奏でていく第2楽章。
心に染み入る主題が、繊細な表情の変化を見せていく第3楽章。
苦悩から希望へと向かうドラマティックな旅を経て、歓喜のフィナーレに達する第4楽章。
4つの楽章をすべて有機的に関連させながら、劇伴音楽的な表現の面白さも疎かにされていない。
驚いた。
菅野において、劇伴作曲家であることと、くシンフォニストであることは、矛盾しない。
両者を分け隔てる境界(ボーダー)を、《交響曲第1番〜The Border〜》は易々と乗り越えてしまった。
なんと強度の強い作曲家だろう!
前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)