南乃梨子待ち遠しい未来へ

DISCOGRAPHY ディスコグラフィ

南乃梨子

待ち遠しい未来へ

[ALBUM] 2005/11/30発売

待ち遠しい未来へ

COCP-33416 ¥1,980 (税抜価格 ¥1,800)

  • 1.醒めない夢

  • 2.RUN THE RUN

  • 3.待ち遠しい未来へ

  • 4.枯れた肌

  • 5.すり傷

  • 6.陽炎

  • 7.君

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資料として渡された音源の1曲目「醒めない夢」から聞こえてきたのは、「努力してダメでもいいとは思えないよ」という歌声だった。
なぜかひどく惹かれた。普通なら“努力してダメならそれでいいじゃない”と、やけに前向きな言葉で聴き手におもねてしまうところ。でも、南乃梨子はけっしてそこに逃げてなかった。ああ、人生に屈託がある人の歌だなぁと、興味がそそられた。
フォーク・シンガーだった母親の影響で音楽に囲まれて育った南は、小さい頃からピアノを習い、当然のように音大への夢を膨らませていたという。ところが、産声の第一声で母親も驚いたほどの天然ハスキー・ボイス。小学校でのあだ名もガラガラヘビだった。 そして運命の日。いわゆる声楽的な歌声が南には到底出せないと判断したピアノの先生は、「音大進学は無理です」と母親に告げる。その日から乃梨子はいっさいピアノに触らなくなった。音楽というものを完全に頭から消し去ろうとしたのだという。それは思春期の彼女にとって残酷すぎる一つの挫折だった。
再び音楽をやり始めたのは、高校生になって女の子バンドに誘われてから。キーボードではなくギターでの参加だった。やっていたのはプリプリなどの王道Jポップ路線。そして、再び運命の日。
脱退したボーカルの穴埋めを引き受けて歌い出した瞬間、南の心の中で何もかもがポーンとハジけたという。
自分の声に対するコンプレックスも、音楽に対するわだかまりも。
そこからは矢が放たれたように音楽に邁進した。バイトをしながらオリジナルを書き、バンドで、時には一人路上で歌い続けた。そんなある日、練習スタジオに入った彼女の足下に一枚のチラシが偶然舞い込む。
それが、ジョン・レノン音楽祭Dream Powerミュージック・アワードの応募要項だった。みたび来た運命の日。
そのチャンスに南は賭けた。
そして'03年、オリジナル部門で見事女性ボーカル賞を獲得する。「信じてもらえないかもしれないけど、チラシの話、本当なんです」と、照れつつ話す笑顔が晴れやかだ。何度もの挫折を味わい、どういう距離感を保つべきなのか常に迷ってきた大好きな音楽。その力をやっぱり信じずにはいられなかった強い気持ちこそが、偶然を必然に変え、南乃梨子をここまで導いてきたのだろう。
アイリッシュ・フォークのような憂いや、アメリカ南部を旅するような渇いたブルース感など、多彩な要素を合わせ持つソングライターとしての魅力も見逃せない。1stアルバムの収録曲はすべてギターで作られたものだが、最近キーボードでの曲作りも始めているという。一時期まったく弾かなくなったピアノでの弾き語りも、いつかは見てみたい。自ら呪縛を設けて遠ざけていたピアノに素直に戻れたとき、さらに彼女の音楽は深まると予感できるからだ。
『待ち遠しい未来へ』と、南乃梨子は今、心地いいテンポを刻み始めている。

Interview&Text:藤井美保