1.New Day / ニュー・デイ
2.Just The Way You Love Me /
ジャスト・ザ・ウェイ・ユー・ラヴ・ミー
3.When All Is Said And Done /ホウェン・オール・イズ・セッド・アンド・ダン
4.Something / サムシング
5.Finally Found Forever /
ファイナリー・ファウンド・フォエヴァー
6.Night After Night / ナイト・アフター・ナイト
7.I Want You To Love Me /
アイ・ウォント・ユー・ラヴ・ミー
8.My Baby Doesn’t Like Mondays /マイ・ベイビー・ダズント・ライク・マンデイズ
9.Everytime / エヴリタイム
10.Misty Kind Of Day
/ ミスティー・カインド・オブ・デイ
11.Still Around
/ スティル・アラウンド
12.Fields Of Green
/ フィールズ・オブ・グリーン
13.Just Like Sugar
/ ジャスト・ライク・シュガー
14.Automatic (No Limit)
/ オートマティック(ノー・リミット)
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2004年初夏。頬を撫でるさわやかな風とともに届けられた一枚のアルバムをご紹介しましょう。
タニア・モーランのデビュー作『ニュー・デイ』です。冒頭を飾るのは、このCDを手にしている多くの方が彼女を知るきっかけとなったであろうアルバム・タイトル曲「ニュー・デイ」。軽快なリズムが導く明るくポップな曲調がタニアのキャラクターを伝えるナンバーになっています。これは絶望からの再生を、そして希望を捨てないことの大切さを表現した新たな出発の歌。誰にも当てはまるメッセージを携えた作品です。ひたむきな愛と信頼を素直に託した「ジャスト・ザ・ウェイ・ユー・ラヴ・ミー」もアップ・テンポのさわやかな楽曲に仕上がっています。
愛の持つ不思議で底知れぬ力を伝えようとしている「ホウェン・オール・イズ・セッド・アンド・ダン」と「サムシング」ではタニアの無垢で飾らないヴォーカル・スタイルが瑞々しく響きます。隔絶の恐れと克服の尊さが揺れる気持ちと至福の想いを描く「ファイナリー・ファウンド・フォエヴァー」ではやや陰影を持つ、めりはりの効いた歌声を披露。続く「ナイト・アフター・ナイト」では再びオーソドックスな歌唱で清々しく、愛する人の何にも代え難い存在の意味を歌います。アルバム前半は互いを想い合う心がいかなるものをも乗り越える強さを生むという摂理にも似た説得力を持つ「アイ・ウォント・ユー・ラヴ・ミー」で締め括られます。
ラジオの音楽番組を通じて様々なヒット曲やシンガーあるいはグループの魅力を届けることを職業にしてきた立場から感じるのは、日本の洋楽ポピュラー・ミュージック(洋楽ポップス)・シーンには常に幅広い人気を誇りひとつの時代を築き上げる女性シンガーが存在してきた点です。私が本格的に洋楽ポップスに関心を抱いた70年代半ば以降では、例えばオリビア・ニュートン・ジョンやシーナ・イーストン、マドンナ、シンディ・ローパー、ホイットニー・ヒューストン、ジャネット・ジャクソンが、90年代からはさらにマライア・キャリー、セリーヌ・ディオン、ジェニファー・ロペスといった麗しく華やかな女性スーパー・スターがヒット・チャートを彩り、圧倒的な支持を得てきました。彼女たちに共通点を見出すと、いずれも独創的な個性を持ちながら極端に特定のスタイルにだけ固執することなく、幅広い魅力を打ち出し莫大な数のファンを獲得しているところでしょう。ファンの傾向としては、あまりジャンルにこだわらず、自由度の高いエンターテイメントの楽しみ方を知っている女性層の支持と共鳴が得られるほどそのアーティストのステイ^スも高まったように思います。
『ニュー・デイ』で颯爽と登場したタニア・モーランには、そういった偉大なる先達に通じる普遍的な表現者としての可能性が感じられます。
タニアは1978年10月17日、オーストラリアのクイーンズランドで生まれました。好きな色はターコイス・ブルー。好きな食べ物はシーフードとチョコレート。好きなアーティスト/ミュージシャンに、ロビー・ウェリアムスやジョージ・マイケル、ジャスティン・ティンバーレイク、そしてジェット、エヴァネッセンス、ダークネスら新進バンドに、クリード、トラヴィス、コールド・プレイからU2までを挙げ、限定されたジャンルよりも独自の世界を持つかどうかが好みのポイントのようです。また、”絶頂期も最悪の低迷期も乗り越えて、音楽業界という難しい世界で長い期間尊敬され、良い曲を歌い続けている”のを理由に、もっとも敬愛するアーティストにカイリー・ミノーグとジョージ・マイケルの名を掲げています。
そんなタニアは世界でも有数のリゾートとして知られるオーストリアのゴールド・コーストを拠点として、主にライヴを中心に音楽活動を続けてきました。ホテルのラウンジやビッグ・イヴェントへのヘッドライナー/メイン・パフォーマーとしての出演で実際の聴衆を前に歌うことが職業でした。
現時点で詳しい経緯は不明ですが、そうした時期を経て、彼女はチャンスを掴み、本作『ニュー・デイ』によってレコーディング・アーティストとしてのスタートを切った訳です。“オーガニック(有機的)で美しく、エネルギッシュでポジティヴ、そして正直” -タニアとこのアルバムのことを説明するのに並べられた言葉にはもうひとつ、”水晶のように透明感あふれる声”があります。オーストラリアから世界に旅立ち大きな業績を残した女性アーティストにはヘレン・レディからカイリー・ミノーグ、近年のナタリー・インブルーリア、ホリー・ヴァランスといった魅力的なスターたちがいますが、中でも私がタニアに通じる部分を感じるのはオリビア・ニュートン・ジョンです。イギリス生まれながらオーストラリア育ちのオリビアは下積みを経てボブ・ディランの「イフ・ノット・フォー・ユー」をカヴァーし注目を集め、当初はカントリー・ミュージックをベースにしたポップなスタイルと清楚で麗しいキャラクターとで大変な人気を博しました。主演映画『グリース』で大きくイメージを変えるまでアダルト・コンテンポラリーの礎を築ュ存在として、「愛の告白」、「そよ風の誘惑」、「秋風のバラード」などのヒットを放っています。タニアの歌声によって蘇るのはまさにその時期のオリビアのイメージ。クリスタル・ヴォイスと形容された澄んだ声と、美しいメロディー、シンプルなサウンド、解りやすく共鳴出来る詞作りとは、まさにオリビアの再来とさえ言えると思います。
また『ニュー・デイ』において顕著なのは、主にスウェーデンのスタッフが関わったとされる楽曲選択やサウンド・プロダクション、アレンジなどの面です。アバやロクセット、カーディガンズからエイス・オブ・ベイスまで、スエーデンは数々のアーティストを輩出してきましたB中でも同じ女性ソロ・アーティストといった部分も含めて、メイヤのスタイルに共通する要素を『ニュー・デイ』に多々感じるのは私だけでしょうか。ペット・ショップ・ボーイズやトーリ・エイモスなどの作品で知られるヴィニー・ヴェロや、嵐(日本のアイドルの、です)、ドミノやパラダイスのヒット・メーカー=マイケル・クラウス&クラス・リグセルらが名を連ね、非常に純度の高いポップ・ヴォーカル作品へと結びつけています。
さて、後半。カーペンターズの「雨の日と月曜日は」やブームタウン・ラッツの「哀愁のマンデイ」などで築かれてきた名ポップ・ソングの”月曜日”伝説に加わった「マイ・ベイビー・ダズント・ライク・マンデイズ」は、また、もうひとつのすてきな”カレンダー・ソング”にネりました。ときめく気持ちがさり気なく織り込まれた、かわいい作品です。「エヴリタイム」と「ミスティー・カインド・オブ・デイ」とは抑えめながらしっかりと歌われたナンバー。
恋に落ちたとき誰もが抱く不安と歓びが込められた前者に、別れの辛さを軽やかに、故にリアルに伝えた後者。いずれも歌が成し得る情景描写としては極めて自然で意味あるものになっています。愛の確信を題材にした、これも解釈によっては戸惑いと決意の逡巡が感じられるのが「スティル・アラウンド」。そして前向きのメッセージを美しい比喩で展開する「フィールズ・オブ・グリーン」。離れることによって相手の占める位置の大きさを実感し、その意味合いの重さを言葉にしようとしている「ジャスト・ライク・シュガー」。これらのバランスのとれたポップ・ソングはどれも聞くほどに馴染み親しめる作品でしょう。アルバムを締め括る「オートマティック(ノー・リミット)」は本作中でもややアグレッシヴな音作りを施した抽象的なタッチ。タニアの別の資質を伺わせる仕上がりになっています。
最後に、『ニュー・デイ』を耳にしてタニア・モーランのヴォーカルに魅せられる理由として、もうひとつ、彼女がライヴ・パフォーマーとしてその歌唱を育んできた点を挙げます。本物の聴衆に向き合ってきたことで、タニアはすばらしい歌が、真実の音楽が、いかに人の心を動かし、勇気づけ、前に向かって歩み出す後押しになるかを深く理解したはずです。彼女の目標は生涯ずっと一番好きなもの、すなわち音楽を作り続ッること、そして心安らかにハッピーでいること、だそうです。タニア・モーランは音楽を通じて誰かをハッピーにできる、そんなすばらしい才能を持った女性。彼女の夢が形になった、その第1歩を見届けられた幸運に感謝しています。
2004年4月2日 記 矢口清治