テイ・トウワの4年ぶり10枚目のアルバムは、その名も『LP』だ。『LUCKY』(2013)『CUTE』(2015)『EMO』(2017)ときて、次のアルバムのタイトルは2文字になることは早くから本人が公言していた。本作は、30年以上前に、ニューヨークで音楽家としてのキャリアをDJで始めたテイにとって、常にもっとも身近で大切な音楽メディアであり続けたLP=アナログ盤への、いわばオマージュとも言える作品だ。
「『Future Listening!』(1994)という最初のソロ・アルバムを出してから、ここまで全部、自分と音楽との関わりを示すタイトルにしてきたんですよね。“自分の音楽”というか。そういう意味では今回で一段落したな、と。ここまでの全部がロングプレイ(Long Play=LP)だったんですよ」
昨年3月以降DJとしての活動は止まったまま。「30年以上やっていて、こんなにDJしてないのは初めて」というテイだが、その反動か、昨年は「プロになってから一番レコードを買った」という。アナログへのこだわりは、初めて自分のお金で買ったYMOの『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』以来、テイの音楽活動の原点として常に底流に流れている。
「だから今回は今までで一番、アナログ盤のことを最終アウトプットとして考えて作ったアルバムですね。A面B面っていうことはいつも考えてるけど、今作について最初に決めたのは"40分以内のアルバムにしよう"っていうこと。アナログ盤の溝の関係で、音が良いまま聴けるのがそのあたり。あと、聴く方の体力的にもそのくらいがちょうどいいでしょ。20分ないくらいで片面が終わって、そこで休憩がはさめるような。2枚組になるとABCD面になって長いし流れが切れちゃうから」
アルバムの制作はMETAFIVEやSweet Robots Against The Machineの活動が一段落した2019年から始めた。当初はインスト・アルバムにする構想もあったが、結局歌モノもまじえた内容に。翌2020年はディー・ライトでデビューして30周年という節目の年だったが早々にDJを含めさまざまな対外的活動が止まり、時間の余裕ができた。本作のほかに2021年公開される予定の映像作品のサントラも手がけたことで、「今までで一番曲を作った年になった」という。
アートワークは『CUTE』以降のすべてのテイ作品を手がける五木田智央、ミックスのGOH HOTODA、マスタリングの砂原良徳も前作から引き続きの参加で、仕事ぶりはさすがの安定感。尊敬する先輩である細野晴臣や高橋幸宏を始め、ゲストも多士済々だが、やはり注目は先行シングルにもなった「MAGIC」「BIRTHDAY」で歌う弱冠14歳の女性ヴォーカリストHANAだ。そしてMETAFIVEの同僚であるゴンドウトモヒコがフリューゲル・ホーンで、森俊二がギターで参加するサイケデリックでアンビエントなラスト・ナンバー「NOMADOLOGIE」がとりわけ印象的だ。アルバムの最終段階になってできた曲だという。
「非常事態宣言が出てるときに作った曲。どうしても用事があって、久しぶりに東京に出てきたときに東京駅からタクシーに乗ったら街に人がいないんです。着いたらテイクアウトの張り紙だらけで。そのインパクトと、見たことない景色。人気のない東京を歩きながら、SF映画の様だなと思った感じ。そういう意味では去年の春から続くこの状況にインスピレーションを受けて作った曲ですね。」
この曲の有無でアルバムの印象は大きく変わりそうだ。
「『FLASH』のときぐらいから、自分のやってることは今の時代のフォーク・ミュージックだって思うようになっていて。大きなコンセプトは別にいらなくて、その時々の、2004年のテイ・トウワのアルバム、2006年のアルバム、という具合に、これは<2020年にテイ・トウワのアルバム>だと思う。多分このアルバムを20年後とかに聴いて、最後の曲を聴いて"ああ、あの時の曲だ"って思い出すんじゃないですかね」
テイらしくセンスがよく完成度の高いサウンドが聴ける、彼の個人的な感覚と経験に裏打ちされた作品でありながら、2020年という時代の刻印をも映しだしている。デビュー30年、56歳になったテイ・トウワの『LP』は、そんな作品である。
小野島 大 Dai Onojima