テイ・トウワが映像作品のサウンドトラックを制作するのは、この「スーパー・クルックス」が2作目。前回手掛けたのは2007年に公開された松本人志の第1回監督作品「大日本人」なので、実に14年ぶりである。
「もう二度とやらないかなって思ってたんです。あのときは「Emotional Driver (大日本人テーマ)」という、映画の中で一番大事なシーンに合わせる曲から作って、それを聴いた松っちゃんも“おー!”ってすごく喜んでくれたんだけど……。松っちゃん以外のスタッフ数名が普通のありがちな劇伴を求めてきたんですよ。僕はありきたりじゃないものが好きなんで、だったら僕じゃなく、他に得意としてる人がやった方がいいんじゃない?って。なのでそれ以来、映画や劇伴の仕事は封印していたんです」
封印していたサウンドトラックを今回受ける気になったのは、原作が「キングスメン」や「キック・アス」で知られるコミック界のレジェンド、マーク・ミラーだったからだという。
「キャラクターを作り出すのが上手い人で、昔から好きだった。「スーパー・クルックス」のプロットと大まかな流れを渡されて読んでみたら、超能力だったりミュータントっていう要素にも興味を持てたので、こういうオファーにはなかなか恵まれないから、受けとかなきゃなと」
そしてまた、堀元宣監督の熱い思いにも心を動かされたとのこと。
「堀さんは僕より僕の音楽に詳しくて(笑)。最初のミーティングの後に、僕がこれまでリリースしたいろいろな曲について、それぞれがどういうシーンに合うかっていうコメントをリストにして送ってくれた。例えば『BIG FUN』収録の「Y.O.R.」だったら、“二話冒頭の刑務所の内部描写で使いたい”とか、「Taste Of You」だったら“調子良く悪事を働いていそうな曲”とか……そういう発想で作ってないんですけどね(笑)、自分以外の人による客観っていうか、そのハマり具合が面白いなと思いました」
堀監督が作成したリストがあまりに綿密であったため、テイは「だったらそのまま使ったらどうですか?」と提案をしたそうだ。
「僕は『FLASH』以降のソロアルバムについては原盤を持っているから、自由に使ってもらうことができるんです。“えーっ!使えるんですか!?”と監督もNetflixの人も驚いていました。もちろん、それだけでは全部まかなえないから、新たに何曲作ったらいいかを堀さんに洗い出してもらい、最終的に新曲を10曲作りました」
新曲を制作しているときはまだ映像が完成しておらず、脚本など文字情報を頼りに作曲を進めて行ったという。
「絵は見ないで短いプロットを見て作っていきました。一話で初めて超能力に目覚めるシーン用の「AWAKENING」みたいな曲はいくらでも作れますが、ただ着地は難しいので、ニューヨークの小日向歩君に少し手伝ってもらったり。あと「SEXY KASEY」ではグラドルの奈月セナちゃんにボイスをお願いしました。InstagramにDJをやっている写真が流れてきたので頼んでみようかなと。実際、すごく勘が良かったですね。古いソウルやR&Bが好きで、ディー・ライトも聴いていたみたい」
ミキシングについては砂原良徳とゴウ・ホトダが担当。
「まりん(砂原良徳)にはミックスだけでなく、何か足りない要素があったら足してねというお願いの仕方。ゴウさんには映像本編用の5.1chミックスをやってもらってます。しかも、今回新しく作った曲だけでなく、既存曲についても新たに5.1chミックスを作ってもらいました」
やや専門的な話になるが、堀監督には5.1chミックスとして完成されたProToolsのファイルが渡され、それをもとに好きな形で音を付けられるようにしておいたという。
「ボーカル曲だけど歌を抜いてインストにするとか、リズムだけ使うとか、そういうことを自由にしてもらえるようにしたんです」
今回発売されるサントラ盤には、基本的には新曲として作られたものが収録されている。
「新たに作ったのは10曲なんですけど、サントラ盤には1曲外して9曲を収録しました。外したのは「KASEY」という曲のパーティーバージョンなんですが、ありがちなものを作ってくれということだったので、アルバムに収録するのは不本意かなと。その9曲に、テーマ曲的に使われている「ALPHA」、そして「SUGAR」を加えたのがアナログ盤です。その2曲はオリジナルのステレオ・ミックスが使われていますが、マスタリングがまりんなので音は変わっていますね。基本、アナログ盤メインで考えているので、その2曲の歌ものがいい音になるようA面、B面の頭にして、「AWAKENING」みたいなストーリー的には最初に持って来なきゃいけないけど、印象控えめな曲を最後にしています。」
封印を解き久々にサウンドトラックを手掛けたテイ・トウワ。これを機会に映像作品への参加は増えていくのだろうか?
「毎回こんなにスムーズに作れるとは思えないですけど、機会があったらまたやりたいですね。本当は自分で作るだけでなく、選曲も含めてやりたいんですよ。車に乗っているときに流れる曲が1950年代のラテンだったりとか……タランティーノが得意だと思うけど僕もできると思う。でもまあ、やっぱり僕は一般的な劇伴には向かないと思う。「大日本人」は怪獣モノだったし、今回の「スーパー・クルックス」は超能力もの。ミュータント、サイボーグ、ロボット、宇宙人……みたいな、結局子供のときに自分が好きだったものに向いているんだろうなと。恋愛ものとか戦争ものとかは得意分野では無いと思っているので、そういうのはほかの人にお願いしてください(笑)。
劇盤音楽では、音が最小限しか充ててなくて、かつ作品のムードつくり効果が最大な、細野晴臣さんの手掛けた「万引き家族」が僕の理想です。」