TOWA TEIならではの「タッチ」を追求した新作が完成!
――この2〜3年はコロナのこともあって世の中が何かと騒がしかったですが、TEIさんはどんな毎日を送っていたのでしょうか。
「2020年から『LP』の曲を作り始めたんですけど、流行病がひどくなってきて東京に全然行かなくなりました。2月にやったパーティを最後に暫くDJもやめて、人が多いところには一切出なくなった。近所の温泉とサウナに通っていたくらいですね。『TOUCH』を作り始めたのは2022年からですが、この2〜3年は毎日レコードをオーダーして毎日レコードが届いていました。宅急便が1日に4〜5回来てたかな。ずっとレコードに〈タッチ〉していたので、こういうタイトルになったんです」
――自宅でレコードを聴きまくっていたんですね。その一方で、2022年は人生で一番曲を書いたとか?
「僕の場合、レコードを聴くことが創作に繋がるんです。〈これ、サンプリングしたいな〉とか〈こういう響きって面白いな〉とか、レコードを聴いて閃いたことが重要だったりする。いまだに譜面で曲を書いていませんからね。今回もいろんなレコードを聴いていました。アフリカものばかり聴いている時期もあるし、オルガンものを聴いていたり、全然文字が読めない国のレコードもいろいろ聴きました。聴いているうちにどんどん広がっていくんです」
――文字が読めない国のエキゾティックなサウンドは、アルバムのところどころから聞こえてきます。例えば細野晴臣さんが参加した「HOLD ON!」で、清水靖晃さんが吹いているサックス。ざらついたサックスの音色や細野さんの低音の声が、曲に独特のテイストを生み出していますね。
「この曲を作っていた時はエチオピアものばかり聴いていたんです。そのことは靖晃さんにも伝えて〈思い切り吹きまくってください〉ってお願いしたら、靖晃さんから届いた音にあんな風にコンプレッションとディストーションがかかっていました。細野さんには歌ってもらったこともあるんですけど、今回は〈HOLD ON! WAIT A MINNUTE〉とひとこと入れてもらいました。細野さんの『コインシデンタル・ミュージック』(1985年)をよく聴いていた時期があったんですけど、アルバムのなかで細野さんがイタリア語でボソボソ言うんです。その感じが欲しかったんですよね。この曲はアルバムでいちばんポリティカルな曲。ここ最近、〈ちょっと待ってよ〉ということが多かったので、神様に〈HOLD ON!〉って言って欲しかったんです」
――細野さんが神様役!(笑)。細野さんをはじめ、本作はゲストが多彩です。先行シングルとしてリリースされた「EAR CANDY」では高木完さんがラップを披露していますが、TEIさんがラッパーをフィーチャーするのは久しぶりですね。
「この曲は流行病の騒ぎがひと段落し始めた去年の年末くらいに書いた曲で、当時は〈音楽なんて楽しけりゃいい〉っていう気持ちになり始めていた。それで、ラップが入っているトラックを作りたいと思ったんですよね。その頃、アフリカ(ジャングル・ブラザーズ)と完ちゃんと3人でカレーを食べに行くことがあって、そういえば完ちゃんと一緒に曲をやったことがないな、と思ってお願いすることにしたんです。後日、完ちゃんと飲みながら僕が曲で言いたいことを話して、それをラップにしてもらいました」
――「BEAUTIFUL」「AKASAKA」ではTUCKERさんの鍵盤を弾いていますが、TUCKERさんがTEIさんの作品に参加したのは初めてですね。
「オルガン奏者をフィーチャーしたこと自体初めてじゃないかな。オルガンとかハモンドのレコードにはまっていた時からTUCKERのことが頭の中にあったんです。オルガンを弾きまくってライヴで燃やしたりするし(笑)。それでまず、「AKASAKA」で自由に弾いてもらったら思った以上に良くて、「BEAUTIFUL」にも参加してもらいました。「BEAUTIFUL」の演奏は僕の方でディレクションして、弾いてもらったものを細かくエディットしています」
――「O.P.A.」にはMETAFIVEの同僚、小山田圭吾さんがギターで参加しています。
「曲に合うと思ったんです。小山田くんのギターは独特ですからね。METAFIVEではギタリストとして生き生きしてた。「O.P.A.」というタイトルは「Old Public Artist」の略なんです。自分がこれまでインスパイアされたアーティストは圧倒的に歳上が多い。〈僕が思いつくことはみんなあなたたちがやっている。じゃあ、自分は何ができるんだろう?〉っていう自問自答の曲なんですよね。曲が出来上がった後、奇しくも幸宏さんと教授が亡くなったのでトリビュートみたいになってしまいました」
――アルバムには、TEIさんの『LUCKY』(2013年)に収録されていた幸宏さんのヴォーカル曲「RADIO」の新ヴァージョンが収録されていますが、これはトリビュートとして収録したのでしょうか。
「そうです。幸宏さんが亡くなった後、もう、幸宏さんの新しい曲は聴けないんだな、と思って。それで幸宏さんの声が聞きたくなって、ドラムを変えてテンポをあげたヴァージョンを作ったんです。できた曲を幸宏さんの奥さんやお兄さんに聞いてもらったら気に入って頂いて。〈アルバムに入れていいですか?〉って聞いたら〈きっと喜ぶと思うよ〉って言ってくれました。気がついたら、この曲を『LUCKY』(2013年)に入れてから今年で10年目なんですよね」
――「RADIO」は幸宏さんのヴォーカルの魅力を引き出す音域で作られていて、歌詞も幸宏さんのイメージに合っていますね。METAFIVEでも「RADIO」をMETAFIVEヴァージョンで収録していましたが、TEIさんにとって特別な曲なのでしょうか?
「これは幸宏さんに歌ってもらいたくて作った曲で、歌詞も一生懸命考えたんです。幸宏さんに歌いにくいところがあったら変えてくださいって伝えたら、「良い曲だよ。ひとつも直すところがないからこのまま歌おう」と褒めてくださって嬉しかったですね。『LUCKY』は初めて全曲を自分で作詞作曲したんですけど、曲を作る、という点で、ようやくスタートラインに立てた気がしたんです」
――今回のアルバムは、そんなTEIさんの作家性がとてもよく出ている作品に思えました。『LP』よりインスト曲が増えたこともあってか、サンプリングと生音の組み合わせ方、TEIさん独特の音のコラージュ・センスがじっくり味わえる。まるで1曲1曲がテイさんのアート作品で、それが並んだギャラリーのようなアルバムです。
「あ、僕が言いたいことを言ってくれましたね。最初に言ったレコードの話はウソ(笑)。『TOUCH』というのは絵のタッチ、筆致のことなんです。TOWA TEIのタッチを追求したアルバムというか。いろんなアルバムを聴いて刺激を受けながら、そにはない音の組み合わせを考えていくのが曲作りの醍醐味なんですよね。打ち込みにエチオピア風のサックスが乗って、さらに元はっぴいえんどの人が「HOLD ON!」って言ってる曲なんて他にないじゃないですか。そういう他にないものを自分は聴きたい。それで、どうやったら自分らしさが出るのか、と考えたらインストになっていくんです。五木田くん(TOWA TEIやMETAFIVEのアートワークを手掛けた画家の五木田智央)が言ってましたが、抽象画を描いても、そこに点を2つ入れたら人の顔に見えてくる。曲もヴォーカルを入れたら歌の印象が強くなるんですよね」
――なるほど。インストが増えたのはそういう理由なんですね。
「まあ、これもウソかもしれないけど(笑)」
――あらら(笑)。絵といえば、今回のジャケットのアートワークは五木田さんではなく、ニューヨークを拠点に活動する画家の上條晋さんですね。
「五木田くんの友人画家の紹介で会ったんです。面白い画家がいるからって。「タッチ」なのでプードルを描いてもらいました。上条くんはプードルを題材にして絵を描いているんですよ」
――なるほど、よく見れば手を上げてタッチしてますね(笑)。
「僕は猫アレルギーなんで猫にはタッチできないんですよね。クロネコヤマトならタッチできるけど(笑)」
――レコードを運んでくれる猫(笑)。アルバムに話を戻すと、今作は曲のテクスチャーのユニークさを味わうアルバムのように感じました。インスト曲でいえば、インドネシアの楽器、リンリックを使った「HAND HABBIT」からアブストラクトな「SEA CHANGE」へと繋がるアルバム中盤の流れも面白いですね。
「「HAND HABBIT」のリンリックはユーホニウムを頼んだMETAFIVEのゴンドウトモヒコちゃんが加えてくれました。METAFIVEの時はデータのやり取りで曲を作っていたんですけど、今回、顔を合わせて作ってみたら自分が予想していた斜め上のものができた。それで僕がスタジオから帰ったあとに、ゴンちゃんがリンリックを入れてくれたんです」
――不思議なエキゾ感がありますね。「SEA CHANGE」は『コインシデンタル・ミュージック』を思わせるムードを感じました。
「今回、同時に『ZOUNDTRACKS』というインストだけのアルバムをリリースするんですけど、「SEA CHANGE」はそっちに入れようかと悩んだんです。「SNOW SLOW」や「AKASAKA」もどっちに入れるか悩んだんですよね。「AKASAKA」はアルバムで一番好きな曲で、曲のイメージはサラリーマンが酔っ払って吐いている赤坂の夜(笑)。曲の中で〈アチョー!〉って叫んでいるのは、昔、録音した、五木田くんの声です」
――酒臭い曲ですね(笑)。TEIさんにとって初のインスト・アルバム『ZOUNDTRACKS』は何かコンセプト的なものがあるのでしょうか?
「このアルバムには作曲からミックスまで全部一人でやった曲をまとめていて、現代版ライブラリー・ミュージックみたいな感じにしたかったんです。僕の曲はテレビで意外な使われ方をすることが多いんですよ。例えばクイズ番組のシンキングタイムに使われたり。だったら、自分でお題を出して曲を作ってみようと思ったんです。例えば〈観光リゾート〉とか。そういうやり方なら、いくらでも曲が作れることがわかりました」
――自分で自分に発注するわけですね。
「全部一人で完結しているところはデモテープ集っぽくもあるんですよね。もし、自分がテクノ・ポップ好きの多重録音少年のままニューヨークに行かず、ディーライトに加入せずに美大を出て、コロムビアの再発のジャケットのデザインとかをしていたとしたら趣味でこういう音楽を作っていたかもしれないですね。コロナで在宅作業しているフリをして(笑)」
――別世界のTEIさんのアルバム(笑)。でも、どちらの作品からもTEIさんの音楽に対する熱量が伝わってきました。
「家で音楽を作ったり、聴くってことはこれまでずっとやってきたんですけど、それしかやることがなかった3年間でした。だから、すごく思い出に残るアルバムになりましたね。やっぱり、音楽を作る事より面白いコトなんてないなって最近つくづく思うんですよ。アルバムが完成して教授も幸宏さんもいない世の中になった今、これから作るものが変わっていくような気がしています」
2023/9/6発売
TOUCH
CD:COCB-54360 ¥3,520 (税抜価格 ¥3,200)
LP:COJA-9480 ¥4,400 (税抜価格 ¥4,000)