THE COLLECTORS HISTORY COLUMN

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HISTORY PART 9 : 2008-2015

 新たなマネージメント・オフィス(その名も「ワンダーガール」!)が発足して以降、ザ・コレクターズはこれまでの彼らでは考えられないようなチャレンジを続けていく。中でも大きかったのが、ポッドキャスト「池袋交差点24時」。音楽業界内ではよく知られていた、加藤ひさし&古市コータローが繰り広げる自由奔放なトークの魅力が、口コミでジワジワと浸透。コレクターズを知らない層まで巻き込んで中毒者を増やし、新たなファンを獲得する起爆剤のひとつとなったことは言うまでもないだろう。

『青春ミラー(キミを想う長い午後)』

 予期せぬ形で視野が広がり始めたタイミングで、2010年には久々のオリジナル・アルバム『青春ミラー(キミを想う長い午後)』を発表。前作『東京虫BUGS』で針を振り切った加藤ひさしのモチベーションを保ちつつ、「コレクターズはこれを歌ったらダメ」というスタイル上の制約から解き放たれ、興味の赴くままに歌詞を綴るスタイルが本作からいよいよ本格化する。ドラマティックなタイトル曲や、冷凍睡眠について歌ったSF的な内容の“Cold Sleeper”、この年他界したサリンジャーに捧げた“ライ麦畑の迷路の中で”など、従来のコレクターズらしい楽曲が並ぶ一方で、本作ではtwitterであれ素数であれ、心に引っかかったテーマを躊躇することなく取り上げた。本作のレコーディングが始まる頃に加藤ひさしと会った際、「こんな気のきいた曲が書けたよ!」と、興奮気味に語っていた曲が、言葉の響きにこだわった“エコロジー”だったことを、今も鮮明に覚えている。

『地球の歩き方』

 もうひとつ、コレクターズの方向性に大きく影響したのが、2011年3月の東日本大震災。それまでも“1991”や“真実はかくせない”で時事的なテーマを扱ってきた加藤ひさしは、原発問題の現実を目にして触発され、すぐさま“英雄と怪物”を書き上げた。むしろこうした話題に触れない雰囲気があった、当時の自粛ムード漂う音楽シーンの中で、ここまではっきりと自らのスタンスを楽曲という形で表明したアーティストが、いったい何人いただろうか? ポール・マッカートニーに憧れてミュージシャンを志した加藤ひさしが、このタイミングで彼の中のジョン・レノン的側面をあらわにしたことは、初期からのファンとしては嬉しい驚きでもあった。
 その曲を含む2011年のアルバム『地球の歩き方』は、今聴き返すと震災の前・後に作られた楽曲が陽・陰のコントラストを自然と表しており、時代の記憶と共に長く残りそうな1枚と言える。

『99匹目のサル』

 続く2013年の『99匹目のサル』は、前作の余韻を残しつつも、比較的ポップな楽曲が詰め込まれたアルバムだ。示唆に富んだ詞世界のタイトル曲を筆頭に、珍しくポジティヴなラヴ・ソングに挑んだ“プロポーズソング”や、ライヴで合唱が自然と起こる人気曲となった“誰にも負けない愛の歌”、古市コータローのキャラクターにぴったり合った“ごめんよリサ”など名曲揃い。初期からの「加藤ひさし節」を愛する向きは、“オスカーは誰だ!”のきらびやかなメロディに思わず唸ったことだろう。
  『青春ミラー』『地球の歩き方』と本作を、プロデューサーの吉田仁と加藤ひさしは「三部作」と位置づけている。大衆にコネクトしやすい表現方法に挑みながら、しかし深みのあるロック・アルバムの連作…チャレンジ作のシリーズ、という印象があるのは確か。そうした流れの総まとめ的アルバムと呼ぶにふさわしい風格が、『99匹目のサル』には確かにあった。

『鳴り止まないラブソング』

 続いて、次は「三部作」とは異なるアルバムを、という発想で心機一転して次作の準備がスタート。しかしこの段階で長年在籍した小里誠が脱退し、ベーシストが山森“JEFF”正之に交替した。16ビート的なグルーヴ追究の時期を経て、ふたたび8ビートのネオ・モッズ的疾走感を見直しつつあったバンドの流れが、これを機に一気に加速したように思う。それは「原点回帰」という単純なことではなく、時代に合ったビート感やサウンドも踏まえてのこと。ゆえに、通算20作目のアルバム『鳴り止まないラブソング』は、老け込んだところなど微塵もない、溌剌としたポップ・アルバムに着地した。冒頭を飾る“Da!Da!!Da!!!”はもちろん、さり気なくも耳に残る隠れた名曲“スルー”、映像的な歌詞を語彙豊富な演奏が支える“飛び込む男”など、バンドの底力を感じさせる曲が揃った、懐の深い作品だ。

『言いたいこと 言えないこと 言いそびれたこと』

 続けて制作された2015年の『言いたいこと 言えないこと 言いそびれたこと』は、“Tシャツレボリューション”を筆頭にライヴ映えする佳曲が並んでいた。 “エコロジー”以降の言葉遊び感覚を反映した“ガリレオ・ガリレイ”、ベテランならではの深みを感じさせる“深海魚”、加藤ひさしが亡き父に捧げた“SONG FOR FATHER”など、新しいラインナップの歯車が完全に噛み合ったのを感じさせる、みずみずしいアルバム。しかし何という運命の悪戯か、これが結果的に阿部耕作在籍時最後の作品となり、バンドは更なる変身を遂げることになる。

荒野政寿(CROSSBEAT)

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