THE COLLECTORS HISTORY COLUMN

THE COLLECTORS HISTORY COLUMN

HISTORY PART 10 : 2016-2017

 2016年4月16日の日比谷野外音楽堂で、初めての日本武道館公演開催を発表→まさかの阿部耕作脱退という急展開を経て、バンドは歩みを止めることなくニュー・アルバムの制作に突入。急遽ライヴをサポートすることになった古沢“cozi”岳之は限られた時間内で過去の楽曲を体に叩き込みながら、新作でもドラムを担当することになり、かなり過酷な状況でのスタートになったようだ。
 しかしプロデューサーの吉田仁も認めていたが、加藤ひさしのソングライティングが最近はすこぶる好調。実は創作面において、何度目かのピークを迎えつつある時期なのかもしれない。新作『Roll Up The Collectors』を聴けばわかる通り、ここにはベテラン特有の息切れや、変に落ち着いた感じがないのだ。50代のフロントマンが引っ張るバンドとは信じられないほど、ポップで、やかましくて、チャーミング。「コレクターズらしさ」が、ここ数枚のアルバムで一番素直に出ている気がする。『東京虫BUGS』以降、意識的に続けてきた「まだやっていないこと」へのトライ期間を経て、本作で彼らは「コレクターズの魅力とは何ぞや?」を改めて自身に問い直したのではないだろうか。

初期アルバムのリミックスが新作に与えた刺激

『MUCH TOO ROMANTIC!』

 アルバムに変化をもたらした要因のひとつとして、9月に発売した30周年記念ボックス・セット『MUCH TOO ROMANTIC!』用にテイチク時代の音源をリミックスしたことが挙げられる。しばらく距離を置いていた初期の作品とじっくり向き合うことで、改めて自分たちの個性を再認識したのだ。加藤は「あのリミックスを聴かなかったら“Kevin”みたいな曲は作らなかった」と言うし、古市コータローも新作に取り掛かる前に『僕はコレクター』『虹色サーカス団』のリミックス・ヴァージョンを聴いたことで「自分の物作りに対する姿勢が変わった」と言い切っていた。
 もうひとつ大きかったのは、『PICTURESQUE COLLECTORS' LAND』をリミックスした吉田仁が、当時飯尾芳史が録音を担当したリズム・トラックを聴いて感銘を受け、「最初に録音した音」の重要性をバンドに指摘したこと。これがきっかけで、新作の録音に90年代の傑作群を支えたエンジニア、山口州治が久々に起用されることになった。加藤も「州治さんの録り音は本当に原音に忠実なんだよね」と太鼓判を押す。旧作のリミックスが単なるアーカイヴ作業ではなく、現在の作品に影響を及ぼす…こんなことが起きるのも、30年もの歴史を持つコレクターズならではだ。
 妥協を許さなかったのはサウンド面だけではない。参加して間もないcoziがタイプ的にハマらない楽曲も出てきて、レコーディングは決して順風満帆には進まなかった。そういう壁に直面したとき、ドラム・パターンを古市コータローが提案するなど、メンバー間でアレンジのアイディアを徹底的にぶつけ合うことで道が開けていったという。かなりシビアな場面もあったようだが、そんなレコーディングの様子を振り返って、加藤ひさしは「まるで初期のレコーディングに戻ったみたいな感覚でやれた」と語ってくれた。

現役バンドとしての存在感を見せつけた新作

『Roll Up The Collectors』

 「ネオ・モッズをわかってて、パワー・ポップで、という曲をコレクターズは常にやらなきゃいけないと思ってる」と言う加藤ひさしの信念を反映して、新作はネオ・モッズ的な視点が曲・詞の両面で貫かれた“悪の天使と正義の悪魔”で幕を開ける。前身バンドのザ・バイク~初期コレクターズを思い出させる鋭いギター・リフが、2010年代のブライトなサウンドで鳴らされる強烈なオープニングだ。かつて“NICK! NICK! NICK!”を書いた青年がこの曲の中で間違いなく息づいているし、彼はまだ何もあきらめていない。
 ここ数年レコーディングするところまで行かずに温存していた楽曲“希望の舟”を遂に録ったことにも注目したい。90年代以降のコレクターズが築いてきた「王道」スタイルのバラードだが、意外なリズム展開を挟むなど、アレンジを工夫することで見事にブラッシュアップしてみせた。
 いにしえのブリティッシュ・ロック・テイストをまとった“東京ダンジョン”や“恋はテトリアシトリス”で秀でたポップ・センスを見せる一方、アルバムのラストにヘヴィな“Kevin”を置くところもニクい。今の日本で、これほど厚みと艶のあるサイケデリック・ロックを鳴らせるバンドが他にいるだろうか? J-POP以降の世代には到底真似しようのないこの質感に、コレクターズというバンドの奥深さを感じずにはいられない。
 なお、2月25日に発売される30周年記念本『The Collectors ANTHOLOGY 30th Anniversary Book』で、新作の全曲解説を4人にお願いした。アルバムを聴きながら、各曲のエピソードを隅々まで楽しんで欲しい。
 この充実した新作を引っ提げて、バンドは1月に“On The Million Crossroads Rock”ツアーを敢行。それに先駆けて、coziが新メンバーとして正式に加入することも発表された。この4人で精力的にライヴを続けてきたコレクターズが、3月1日にロックの聖地でどんなドラマを見せつけてくれるのか、期待に胸膨らませながらその日を待ちたい。

荒野政寿(CROSSBEAT)

gototop